とある日の暇に
前話とは続きません。
こんな日もあってもいいのかなって感覚です。
とある休日、吸血鬼の2人は里帰りの為外出をしており晴翔と透は専攻テストの補習のため学校に行っていた。
家には、いつものようにソファで本を読みながら寛ぐ緋色とキッズスペースでテレビを付けながら宿題に取り組む神威のみがいた。
すると紗綾と出雲がバタバタと階段を降り玄関に走る。
「どうした?」
「ごめんね!緋色ちゃん私達少し呼び出されたから政府機関に行かないといけなくて……この前の報告書を提出したらすぐ戻ってくるからしばらくの間お店お願いね!行ってきます!」
「慌ただしいな……」
「行ってらっしゃい」
軽い鈴の音と共に玄関の扉が閉まる。
緋色はすぐに本へと意識を戻す、生憎今日は酷い雨の為店には2人以外誰も居ないお客は1人も朝から来ていないのだ。
ただ静かな空間にテレビの音だけが響いている。
昼が過ぎ時計はいつの間にか15時近くを指していた。
気付いた時には微睡んでいたらしく緋色は少し暗くなっていた部屋の電気をつけるために立ち上がる。
「神威、テレビに近づき過ぎだそれに暗いと目に悪いだろう電気を……え……何……」
「緋色さん!」
「はい」
電気をつけ振り返ると至近距離に神威が居り身動きが取れなくなってしまった。
動揺から思わず敬語で対応をする緋色にお構いなく神威は目を輝かせて攻め寄ってくる。
「近いんだけど」
「あれ!作りたい!美味しそう!」
「あれ……?」
神威が指さした先には先程まで食い気味で見ていた番組がありその番組ではフワフワのホットケーキが映っていた。
嫌な予感がしたが神威の期待を込めた眼差しに緋色の背中を嫌な汗が伝う。
「あれ食べたいの?」
「そう!作れる?」
「まぁ作れなくはないけど……」
「じゃあ作ろう!」
最近の神威は言葉を思い出し思う様に喋れるようになった為か好奇心旺盛だ。
それに合わせて紗綾や真紅はなんでも手伝ってやらせてやる事が大事だと言っていたことを思いだし緋色は溜息を吐きながらもキッチンへと向かう。
「材料は……あるのか」
「出来る?」
「丁度いい時間だしな、作るか」
「!」
「神威、ちゃんと手を洗えあとその髪結ってやるからこっち来い」
エプロンを付け長くなった髪を後ろで1つで纏めてやる、手を洗い終わると必要な物を冷蔵庫から取り出す。
牛乳、卵、ホットケーキミックスを取り出し用意したボールに入れ混ぜ合わせる。
「おお……!」
「まだだぞ、よし一旦熱したフライパンを濡らした布巾の上に置いて……」
「火傷しないでね」
「しないよ」
再び戻したフライパンに弱めの火でホットケーキの素を焼いていく。
「表面がブツブツしてきたらひっくり返す、神威もやってみろ」
「うん!」
神威は嬉しそうにホットケーキを作る。
いい匂いと共にホットケーキが出来上がる、神威は出来上がる度にとても嬉しそうに笑う。
それにつられ緋色も頬が緩む。
いつの間にか雨は止み、太陽が顔を出す。
「はー……疲れた、透さん容赦なさすぎ……」
「バカヤロ、テストだって言ってんだろ手加減してどうする」
「そりゃそうですけど……なんかいい匂いする」
「確かに」
疲れた様子の透と晴翔は玄関のドアノブに手を掛けた時甘いいい匂いに気づき、窓の隙間から中を見る。
中では神威と緋色がキッチンに立って仲良く料理を作っていた。
「何してるの?2人とも……」
「紗綾さん!出雲さん!」
「不審者みたいだよ2人とも、やめなよ?それより入らないの?」
「入りますけど……なんか楽しそうなので入りずらいっていうか」
「どういうこと?」
晴翔の言葉に2人は首を傾げる。
窓の隙間から見て2人は納得した様子で顔を見合わせる。
「珍しいこともあるのね〜」
「あの緋色が笑ってる」
「まぁ、ここにいる訳にもいかないし入ろうか」
出雲の言葉に4人は揃って家の中へと入っていく、入った瞬間に甘くていい匂いに包まれる。
「あ、おかえり」
「おかえりなさい!」
「「「「ただいま」」」」
その後、神威の気合いが入ったホットケーキは様々な盛り付けがされ全員で食べることとなった。
「神威美味しいか?」
「うん!とっても!ハルどう?美味しい?」
「ああ、すごく美味しい!」
「えへへ……ハルにそう言って貰えると嬉しい!」
「また作ってくれよ?」
「うん!」
仲睦まじい様子の神威と晴翔を見ていた紗綾達は穏やかな気持ちになる。
神威にとっては生まれて初めての手作り料理で、フワフワのホットケーキは大成功に終わると残ったホットケーキをラップに包み、紗綾に貰ったメッセージカードに神威は何やら書き込み始めていた。
紗綾がそれを覗き込むように見詰め微笑む。
「真紅ちゃんと琥珀ちゃんの分?」
「うん!」
「夜には帰ってくるからきっと、2人も喜ぶわね」
紗綾は嬉しそうに笑う神威の頭を優しく撫でてやる。愛おしそうに撫でるその姿はまるで母親のようだった。
「あ!神威!虹だぞ!」
「え?!見たい!」
外を眺めていた晴翔が神威を大声で呼ぶその声に誘われ神威も外を見る。
空には綺麗な七色の橋が架かっていた。
「綺麗……」
「ああ綺麗だな」
「ねぇ、ハル。いま幸せ?」
「なんだよ急に」
「幸せ?」
「ああ、幸せだ」
「そっか……良かった」
神威は晴翔の綻ぶ笑顔に魅力されるように、ただじっと見つめていた。
騒がしい室内に透は呆れているようだったがその顔は少し笑っている。
一方で皿の後始末をしている緋色はわちゃわちゃと騒ぎ始めた神威、晴翔、透の後ろを姿を見ながら微笑む。
「……騒がしいな全く」
ゆっくりと穏やかなな空気に包まれる。
その夜、軽い音を立て扉が開き真紅と琥珀が帰ってきた。
「あれ?神威ちゃん起きてたの?」
「2人に渡すものがあるのよね?」
「これ……」
「これって……」
「神威ちゃんが作ったの?」
「うん、緋色ちゃんに手伝ってもらって食べて欲しいなって……思って」
「ありがとう、頂くわ」
真紅と琥珀は神威からホットケーキを貰うとカウンター席に座り温かい紅茶と共にホットケーキを味わう。
優しい甘い味が口いっぱいに広がり心が暖かくなるのを感じた。
「ありがとう姫、とても美味しいよ」
「えぇ、初めてにしては上出来ね」
「良かった……!」
2人の言葉を聞いた神威は照れたようにトレーで顔を隠してしまったがとても嬉しそうにしている。
それから神威は料理を楽しむようになった。
しばらくはホットケーキがおやつに出るようになってしまったことに緋色は後悔をしているがそれも経験だと真紅と紗綾は笑っていた。