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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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第18章

燃え盛る炎の中優真は弟の一希を抱き抱えリビングがある場所へと向かう。

一希は熱さと怖さで泣き喚いている、それを必死に優しく宥めながら煙の中を歩く。


「母さん!!父さん!!どこ?!返事してよ!」


早く崩れる前に探してここを出なければ全員死んでしまうことに焦りを覚える。

何故こうなっているのか分からない、でも昨日から母親の様子は変だった、ずっと目に焼き付けるように息子達のことを見詰めたり部屋を見回したりしていた。まるで思い出に浸るように。

それが今ならば分かる…そんな気がした。

だから優真は焦る、守らなければと。


「宮里くん!!」

「え?!どうして……高原くんがここに?」

「そんなことは後だ!ここを出よう!」


後ろから肩を掴まれ振り向くとそこには慌てた様子の晴翔と神威が居た。


「駄目だ!まだ母さんと父さんが中にいる、連れ戻さないと僕は2人を見捨てられない」

「危険すぎる」

「大丈夫僕の能力ならこのまま進める、高原くん弟を任せてもいい?」

「それはいいけど、宮里くんも一緒にここを出ないと!危険だよ!いくら能力があろうとこの状態じゃ……」

「大丈夫、すぐ出るから」

「もう火の手は回ってるいつ崩れるか分からないんだぞ?!」

「ごめん、それでも行かないといけないんだ、一希このお兄さんと外で待ってて」

「宮里くん!!!」


優真は一希を晴翔に押し付け1番強い火の中に走っていった。

晴翔は舌打ちをして、少し考えたあと一希を神威に渡す。


「ハル?」

「ごめん神威、この子と外で待っててくれる?俺は宮里くんを連れ戻してくるから」

「……分かった……」

「ありがとう、任せたよ」


神威は頷くと一希を抱え元来た道を戻って行く。

炎は勢いを増して家を焼きつくそうとしている。

晴翔は優真が走っていった場所を見詰め意を決して炎の中へと向かっていく。



「こりゃ助からねーかね……ま俺たちには好都合だが……」

「無駄口を叩いてる場合か!!」

「おっと 危ないな〜……ん?まずいな」

「サイレンの音……人が来るわ真紅!」

「いまここに人間が来たら巻き込んでしまう!どうにか…でもどうしようも」

「斬術、黒霧(こくむ)


男は大きく鎌を振るう、すると黒い風の刃が地面を叩くと黒い薄い結界のような壁が燃え盛る家の周り一帯を取り囲む。


「結界を貼った、これで誰も来れないさ思う存分暴れられるだろう?」

「…………」

「驚いた顔をしている暇はないぞお嬢さん方!」

「っ!!」


男は地面を蹴ると一瞬で真紅と間合いを詰めてくる。

その立ち回りに真紅は少しだけ違和感を覚える、まるでどこかで見たことがある戦術に思えた。


「(なんだ……この違和感は……この立ち回り誰かに似ている)」

「余計なこと考えてると死んじまうぜ?」


一瞬の隙をつかれ男の蹴り技をまともに受け真紅は飛ばされる、骨が嫌な音を立て顔が痛みに歪む。

間を置くことなく次の打撃を打ってくる男に真紅は防御に徹するしかなく攻撃出来ずにいた。


「余所見」

「うっ!」

「やるじゃない」

「舐めないで」


着物少女は殆どその場から動かないが地面から生えてくる植物が邪魔をして琥珀は一向に少女との間合いを詰められずにいた。


真紅と琥珀は背中合わせになる。

お互い息が上がっていて、傷だらけだ。

相手はまだ余裕そうにこちらを見つめてくる。

今までの敵とは圧倒的に力の差があり、押されてしまっていた。


「なんて強さ……」

「イレギュラーなのに何故……」

「ああ、言い忘れたが俺たちはイレギュラーじゃない」

「?!」

「まぁ教えてはやれないが……そっちにもいるだろ?同じのがな」

「まさか……」

「そのまさかだろーな!!」


男は鎌を振るい確実に2人の首を狙いに来た、下からは少女の能力で植物の枝が足に絡み付いて動けない。

その時ー。


「止まれ!!」

「何?」


止まれ、その一言で男の動きが止まる男がどれだけ腕に力を込めようと鎌はビクともしない。

その言葉を放ったのは炎の中から出てきた神威だ。神威は一希を抱えたまま真紅と琥珀の傍に走ってくる。

真紅と琥珀は男の動きが止まっている間に枝を斬り取り抜け出し男に蹴りを入れる。

男は大きくグラつくが空中で体制を整え少女の隣に立ち鎌を構え直す。

真紅は神威を背後に庇うように立ち、2人を睨みつける。


「チッ……邪魔が入ったか……」

「……時間が無いわ」

「あぁ、先に片付けないといけねーのを片しちまうか」


男の目は真紅たちから離れ燃え盛る炎の家に移る。

そして一瞬にしてその場から消える。

真紅が追おうとしたが少女が邪魔をする。


「神威ちゃん晴翔くんは?」

「まだあの中」

「あの中って……」


家は徐々に崩れつつある。

最早入口は完全に崩れてしまっていて誰も入れない。

真紅も肋骨が折れてしまっているのか動きが少しぎこちない、琥珀はまだ動けるが3人を庇うには荷が重い。

ましてや結界のせいで助けも呼べない。


「こんな時に……」

「琥珀、悪いけどキミに任せっきりなる……」

「構わないわ、貴女に死なれたくないもの私は貴女を優先する」

「ありがとう援護する、あの子と距離を出来る限りつめて気を逸らして」

「えぇ」


真紅は神威の方を振り向く。

神威は一希をギュッと決して離さないように抱き締めている。


「神威ちゃん、少しだけ力を貸してくれる?」

「……」

「もう自分でも気づいているのならその力、貸してほしい…いまここで負ける訳には行かない……(キミを生きて返すまでは)」


神威は少し表情を曇らせたがすぐに強い瞳で真紅を見つめ返してくる。

その意思を受け取った真紅は神威に背を向けると琥珀に目配せする。

琥珀は刀を握り直し地面を思い切り蹴り一気に少女との距離を詰める。

同時に真紅は腕から流れ出る力を空中に放つとそれを指で弾くすると血の塊が結晶のようになり少女に襲い掛かる。


「砕けろ!!」


遅い来る植物の根や葉は神威の言葉で遮られる。

防御を神威に任せ、琥珀と真紅は戦いにだけ専念することが出来た。

それでもやはり少女は怯む様子も無い

強さが明らかに違うことに真紅と琥珀は少しだけ心が揺れる。



晴翔が炎の中を抜けるとそこには、ガソリンタンクを持ち怯える父親ともう何も感じていないのか無表情で父親との距離を詰めていく母親をただ見詰める優真の姿があった。


「宮里くん」

「……母さん、父さん」

「優真、お母さんお父さんと一緒に逝くから、ごめんね許してね」

「なんで……いかないで!!まだやり直せるよ!」

「もう……駄目なの!!……お母さんもやり直せると思ったでもやっぱり駄目だった…でもね優真お母さん、どうしてもお父さんのことを嫌いになれなかったの……」


母親の瞳からは涙が零れる。

光が母親の周りを包むそれは粒子となって周りをグルグルと回る。

父親はなにを焦ったのかガソリンタンクを母親に投げつける、だがそれは粒子によって破壊され爆発する。

咄嗟に身を守る体制を取ったが気付くといまの爆発で家は完全に崩れてしまっていてだが怪我もしてないことに晴翔は気付くそして目の前には腕をのばし透明な壁を作り出し膜を作っていた優真が居た。


「高原くん大丈夫?!」

「う、うん……ありがとう」

「だから先に行ってていいって言ったのに…」

「そんなこと出来るか!友達見捨てて逃げる奴なんていない!」

「……!」


煙が消えると光と炎が姿を現す。

倒れ込んで動けないのか父親はなんとか立ち上がろうともがいていた。

その父親に歩み寄るのは光の粒子を構える母親だ。


「母さん!!」

「……お父さんは、してはいけないことをした。その罪は償わないといけない…でもでもね知ってて止められなかった私も悪いの……」

「そんな……」

「本当は見捨てれば良かった、離れていればこんな辛い思いしなくて良かったのに息子たちを苦しめる事も辛い思いもさせなかったのに……でもね一度は愛した人だもの、嫌いになれないの、好きだからこの人が好きだからこの人の優しさを温もりを知っているから、忘れられないの、大好きなのいまでも愛してるから……」

「……美琴……」

「ねぇ貴士さん、私は幸せだったいまでも幸せ……でもねこれ以上あの子達の幸せを奪わないで…壊さないであの子達にはまだ沢山の未来があるのこれからの未来を父親である貴方が奪わないで」


美琴は貴士の顔を両手で包み笑顔を向ける。

貴士の表情は恐怖で怯えている、愛した相手はもう自分を殺しに来ている事に気づいてしまったもう戻れない死の恐怖に怯えるしかなかった。


「だからね、一緒に逝きましょう」

「みこっ」

「さようなら貴士さん」

「母さん!!父さん!!!」

「宮里くん!」


走り出した優真の腕を掴もうとした晴翔の手は空を切る。

光の粒子は貴士を狙い襲いかかっている、いま優真が行けば巻き込まれて死んでしまう、その事に美琴は気付いていない。

まずい、そう思った晴翔の手は優真には届かない。


「優真ーー!!」


その瞬間貴士と美琴は光に包まれる。

優真の前には黒いローブを翻す男が現れる。

晴翔は驚いたがそれは一瞬にして光で見えなくなった。


目を開け気付いた時には神威が晴翔を不安そうな表情で見詰めていた。

雨が頬に当たって冷たい、サイレンの音が近付いている。

起き上がると辺りは煙と焼け焦げた家の残骸だらけで雨はより一層強くなる。空は晴れているのに雨なんてと思い後ろを見ると、真紅と琥珀の近くに緋色と透が居た。

緋色の能力で家の炎を消し去っていたようだ。


「……ハル、宮里くんが……」

「うん」


リビングがあったであろう場所に優真は座り込んでいる。

その後ろ姿は震えている、そっと近付く。


「……宮里くん」

「……」


返事はない。

ただ何かを腕の中に抱き締めていた、横から覗き込むように見るとその腕の中には写真立てがあった。少し焼けてしまっているがまだ原型は留めていたのだろう抱き締めて離さない。


「おい」

「……」

「顔を上げろ、いつまで下を向いているつもりだお前にはまだ守るもんがあるんだろうが」

「……」

「俺たちはお前の父親を処分するように言われてきたがやることも無くなったから一つだけいいことを教えてやるよ」


男の突然の登場に晴翔は構えるが男は構わずに話し出す、優真は虚ろな目で男を見る。

男は優真の頭を掴むとぐしゃりとなでる。


「お前の父さんは闇商売に加担していたそれは事実だだがな、誰一人として殺しちゃいないし傷付けたりもしなかった、ましてや何人か逃がしたりしていた、だから処分されることになった。お前の父さんは優しかったさ優しすぎた汚い仕事にゃ向いてねぇくらいにな」

「……!」

「それでも抜け出せなかった、生活が掛かってるもんな、ウチのボスがお前の父さんに言った次失敗すれば家族を売ると、惚れた女とその子供2人守れないなんざ男じゃねぇ、みっともないしな。だから足掻いてたさ、家族の見えないところでみっともなく頭下げて、あんな腐りきったとこで」


その言葉を聞いて優真の瞳から涙が零れる。

男はしゃがみ込んで視線を合わせる。


「それに俺によく愚痴ってた、また嫁と喧嘩しちまったって息子に手を挙げちまったって泣いてたさみっともねぇ情けねえってストレスをぶつけるとこ間違えて、気付かないうちに闇に染っちまって抜け出せなくて傷付けてて最後には心中を選んじまったそんな奴だがな、ホント災難だと思う。けどな生きてりゃなんとかなる強くなれ、アンタの父親は強かった母親も強かったさ、こんな結末だったがな守るなら命掛けろ。生きるってそんなもんだろ?」

「ぐっ……うぅああああああああぁぁぁ」

「泣け、今だけは思う存分泣いちまえ、泣くのも逃げるのも悪い事じゃない、そこから這い上がれみっともなくてもいいじゃねぇか、なぁ?そうだろ」


男は優真の背中を少し強く叩いてやる。

空は晴れて星空が眩しいくらいだ。

誰も何も言わなかったし動こうともしなかった、先程まで命の奪い合いをしていたのにも関わらず誰もが忘れてしまったかのような静けさにサイレンの音だけが響く。


男と少女は晴翔達の前に立つ。


「そういや名前聞いてなかったな、そこの鬼は知っているがアンタらの名前教えてくれや」

「真宮真紅、この子は八坂琥珀」

「高原晴翔」

「伊沙羅神威」

「そうかい、俺は緋室昴」

「私は花南なずな」


お互いに名前を言い合う事に晴翔たちは違和感を覚えつつ、本当は悪い人ではないのではないかと思うくらいに穏やかだった。


「そうか、晴翔。少し忠告しておこうか」

「何……」

「その能力はお前の役に立つが、お前の中に眠るもんにとってはただの駒だ、いいな力量を誤るな、見えるもんが見えなくなっちまったら俺はお前を殺さないといけない」

「……!?」

「悪ぃな脅しみたいになっちまったが……まぁ気をつけろよ晴翔」

「……なんなんだ?」


昴となずなは一瞬にして姿を消した。

それと同時に結界が破れ救急車が到着した。

救急隊員が慌てたように現場に現れ、怪我をしている真紅達は救急隊員に強制的に救急車に連れてかれ病院へと向かっていった。

あとから到着した警察車両には政府機関の人間が乗っていたため後始末を緋色と透が行う羽目になった。


あれから数日後、無事退院した面々は各々の家に帰り何事もないような平和な日々を過ごしていた。


偶然会った蛍と共に晴翔は学校へと向かっていた。


「宮里くん今日から戻ってくるって」

「そうなのか、落ち着いたのか?」

「母方のお祖母さんのお家に住んでるって聞いたよ」

「へぇー……あ」


話しながら廊下を歩いていると、噂をすればというやつだろうか目の前を優真が歩いていた。


「宮里くん!」

「あぁ、おはよう。牧島さん高原くん」

「おはよう宮里くん!」

「おはよう、もう大丈夫なのか?」

「うん、すっかり元気さいつまでもクヨクヨしていられないしね弟もいるししっかりしなきゃ」

「そうか」

「うん」


何処かスッキリしたような晴れ晴れとした表情の優真は爽やかで今までとは違う気がした。


「そういえば、あの時僕のこと優真って呼んでたよね」

「ああ……あれは勢いってか……」

「いいよ、別に気にしてない友達だろう?」

「……あぁ!」

「あと……助けに来てくれてありがとう晴翔」

「当たり前だろ、優真」

「2人ともー!チャイム鳴っちゃうよー!」

「今行くー!急ごう!」

「うん!」


優真と晴翔は教室に急ぐ。その姿は外の晴れやかさに似てとても楽しそうだった。



「見つけましたわ、私の陛下……!」


甘やかな色の唇を緩め少女は少し先を走る晴翔を見つめた。


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