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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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第17章

昔はエリートと呼ばれた。地位があった。

それだけじゃなくても幸せだった、優しい妻と可愛い子供が2人も出来て幸せだった。

その幸せを大黒柱として守らないといけないと思っていた。

なのに、どこから違ったのだろう、いまじゃ全てが鬱陶しい。

可愛い子供の顔も姿も愛しい妻の姿もいまじゃ全てが煩わしい。

消してしまいたいー。


「ケホッゲホゲホッ」

「優真!もうやめてあなた!お願いっ……」

「……二度と父さんの仕事の邪魔をするな口を出すな分かったな」

「……」

「次はないからな」


血だらけの息子を見ても心が痛まない麻痺してしまった脳内ではノイズだけが響く。

自分によく似た目で睨み付けてくることが1番煩わしかった、そんな目でそんな顔で見るな と叫びたい衝動を抑え込み家を出ていく。

優真は血の滲む口端を手で拭う。隣で泣きそうな顔をしている母の手を除けて立ち上がる。

もう学校に行かないといけない時間だった、幸い弟の一希は2階で眠っている。

鞄を持って母の制止の声も聞かずに家を出る。

空は鬱陶しいくらいに晴れている。


「……眩しい……」


もう夏も終わる、残暑が厳しいとテレビで行っていたのを思い出したがどうでもいいと首を振りバス停へと急ぐ、丁度バスが来ていて急いで乗り込むと学校にギリギリ間に合うかどうかの時間帯なのでバス内はガラガラだったが見覚えのあるような人だった。

優真は傷がバレないように顔を伏せながら席に着く。


「その傷どうしたの?」

「え」

「神威ちゃん急に席を立ったら危ないよー?」

「ねぇその気痛くないの?血が……」

「触るな!!」


後ろの席に座っていたはずの神威がいつの間にか傍まで来て口端の傷に手を伸ばしてくるのを優真は思わず払い除けてしまった。

神威は驚いた顔で固まってしまっている、その隣に居た真紅も驚いてしまっていた。


「ごめん……」

「……」

「神威ちゃん、戻ろう?」

「これ使って」

「……ありがとう」


神威はポケットから絆創膏を取り出し優真に渡すとニコッと笑い真紅と共に後ろの席へと戻る。


「何してる」

「神威ちゃんの知り合いみたいだよ?」

「そうか、血の匂いがしたが?」

「怪我してるみたいだね、しかもしっかりとした治療が出来てないからダダ漏れ、困るよねー……」

「目付き」

「はは、ごめんごめん」


後ろの席には真紅と神威以外にも遅刻組の緋色も居た。緋色はただ黙って前方の席に座る優真を見つめる。

緋色と真紅にしか分からないが血の匂いが酷いだけでなく気配が禍々しいものが薄らとだが感じ取れた。


「彼の事を知っているんじゃないのか?」

「なんのこと?」

「……いい」

「嘘だよ、知ってるよ〜僕らが目を付けてたのは父親なんだけどね……これは非常事態だよね」

「……透が今日彼の家に向かうと言っていた着いて行ったらどうだ?」

「ふーん……それは好都合だね…」


真紅は口角を上げ優真を見つめる。

楽しげな真紅を横に緋色は窓の外に目をやる、太陽が海を照らし眩い光を放っている。


教室に入ると晴翔と蛍が楽しそうに話していた、その隣を通り席に着く。

すると、蛍が心配そうな顔をして声をかけてきた。


「宮里くん大丈夫?顔色も悪いし……口端に血が……」

「ああ……大丈夫だよ」

「宮里くん、八坂先生のとこでちゃんと治療してもらった方がいいんじゃないかな?……ほら、血に敏感な種族も居るし……」

「……そうだね、そうするよ」


蛍の忠告に笑顔で返し席を離れる。

晴翔は黙ったまま教室を出ていく優真を見つめていた。



「あ??宮里の家について行きたい?」

「そう、大丈夫家の中までは入らないからあんしんしてよ。外から気配だけ追うからさ」

「そりゃ構わないが……」

「大丈夫だよ邪魔はしない」

「……分かった」

「ありがとう」

「へいへい」

「あ、それと、彼の傷どうにかしてほしいな血の匂いが鬱陶しい」

「あー……そうだな言っておく」

「頼んだよ獅子島先生」


真紅はヒラヒラと手を振りその場を去っていく。

透は廊下ですれ違った真紅に引き止められていた、溜息をつき教室へと入る。

微かな血の匂いに眉をしかめる。

その原因が誰なのかは分かったがその場に居ないことに気づき不思議に思うが鞄があるので安心した。

窓際の生徒に窓を開けるように言う、冷房を付けているため余計に教室内に匂いが籠ってしまっていたのだ。


「ほら席つけー出席取るぞー」


その後滞りなく授業は終わり放課後になった。

透は優真を呼び付け教室を足早に出て行ってしまった。

晴翔が廊下に出た途端目の前に人影が現れ腕を掴まれる。


「え、え何?何事?!」

「少し付き合ってくれる?」

「……え、嫌な予感しかしないんですが……」

「大丈夫、神威ちゃんも一緒だから」


晴翔に拒否権はないかのように言い放ち腕を引っ張って歩く真紅はどこか楽しそうだった。

晴翔は半ば引き摺られるように連れ出される。


「はいこれ、着替えて制服だと目立つから」

「これって紗綾さんがくれた戦闘服?」

「そ、まぁ特訓の応用編みたいなものだよ」

「はあ……」

「もう神威ちゃんと琥珀は準備が出来てるから早くね〜」


更衣室へと押し込まれた晴翔は渋々大分前に渡されたまだ袖の通していない戦闘服へと身を包む。

通気性がよく動きやすい素材を使っているのでとても着心地が良い。

外に出るとそこには同じような戦闘服に身を包んだ3人がいた。


「じゃ、行こっか」

「あの何処に行くんですか?」

「キミのお友達の家」

「俺の?」

「行けばわかるよ」


そう言う真紅の顔はどこか楽しそうで嫌な予感しかしない晴翔は嫌な顔をする。


暫くして見えてきたのは赤い屋根の家だった。

静かな場所にひっそりと建っている家で本当に人が住んでいるのか不思議になるくらい静かだった。


「着いたね」

「よ……酔う……」

「あらあらそれくらいで酔ってどうするのかしら?」

「いや……普通の移動手段ください……」


ここまで来るまで、晴翔は真紅に抱えられ様々な屋根を飛び越えて来たのだ。

慣れない移動手段にすっかり気持ちが悪くなってしまった晴翔はいまにも吐きそうだった。それを必死に堪えつつ神威を見ると神威は楽しかったのか琥珀に目をキラキラさせている。


「(……それよりあれ誰の家だ?)……え透さん?」

「あれは宮里優真の家」

「宮里くんの?」

「そ、今日は透が宮里くんのお家に家庭訪問するって言うから密かに同行させてもらった訳……話が終わったみたいだね多分暫くしたら連絡が来るはず」


すると真紅が手元に持っている携帯が鳴り真紅が携帯を耳に当てる。


「どう?当たり?」

«ああ»

「それで中にターゲットは?」

«居ない、もう少しで帰ってくるそうだが危ないから帰ってくれって言われてな»

「ふーん」

«部屋も酷い有様だったし臭いが酷い、それと母親の方が能力者だな»

「じゃあ出雲が言ってたのは本当か……OK」

«後は任せたぞ»

「任せてよ」


その言葉を最後に真紅は携帯を仕舞う。

琥珀にアイコンタクトを取る。琥珀は不敵な笑みを浮かべて頷いた。


「あの……」

「鬼の里で闇商売の連中に会ったって言ってたよね?その1人が彼の父親。名前は宮里貴士 元はエリート会社の社員でもいまじゃ落ちぶれ闇商売人、僕らがここに来たのは彼を捕まえることそれと同時に宮里優真の保護…もしくは能力者の抹殺」

「待ってください!抹殺って……」


真紅の言葉に晴翔は慌てる。

晴翔には真紅の言っている言葉の意味が理解出来なかった。

真紅は宮里優真を殺すと言ったのだ。

しかしそれでは晴翔と神威が連れてこられた理由にはならない。ということは真紅は宮里優真を『殺す』のではなく『殺せ』と言っているのだ。


「イレギュラーの末路は?」

「……」

「キミたちイレギュラーは万能じゃない、キミがよく知っているだろう?……まぁ殺すのが嫌だというのなら抗ってみせてよ"この前"みたいに」

「何故ですか、どうしても殺さないといけないのでしょうか……俺はイレギュラーを守りたい」


あの時守れなかった命があった沢山の命を奪われた。

その悔しさと後悔が未だに消えないそれは晴翔を生かす理由にもなり今ここに居る理由にもなる。

イレギュラーとして生まれイレギュラーは万能ではなくいつか滅ぶのだとしても少しでも希望があるのなら縋ってもいいのでは無いのかと思ってしまう。それで助かる命だってある。

真紅は面倒くさそうに溜息をつき冷たい目で晴翔を見下ろし襟首を掴む。


「ろくに戦えない餓鬼が偉そうによく"守る"なんて言えるよね、笑わせないでくれる?守りたいならそれなりの力を身につけろ、現実を見ろ死から目を逸らすな、犠牲の上に全ては成り立っているんだよ、全てを守るなんてそんなこと出来るわけないだろ?」

「くっ……」


冷たい瞳に冷たい言葉が晴翔に降り注ぐ、確かに真紅の言っていることは正しい、まだ戦いには不慣れで外の世界を知らずに生きてきた。


「言葉じゃなくて行動で示せ、言葉ならなんとでも言える何かを成し遂げろ。守りたいものなら離すな何としてでもだ。失えばもう二度と戻ってこないのだから」



「おっと……仲間割れかい?」

「みっともないわね、やっぱり別種族同士は分かり合えないものなのね」


真紅と琥珀が咄嗟に晴翔と神威の前に立つ。

少し離れた位置にある屋根の上に、黒服の男と着物姿の少女がこちらを見ていたのだ。


「ま、どうでもいいけどな俺たちは俺たちのやるべき事をする」

「何しにきた」

「おっかない顔すんじゃねーよ、別に今日はお前らに用はねーんだあんのはあっちの小僧とその親父だ」

「……何故?」

「何故って、そりゃ使えそうな奴の捕獲と用済みの片付けと言ったところかあんまり気は進まんがな」


男は退屈そうに宮里家を見る。

手には大鎌を携えていつでも動けるように待機しているようだった。隣では少女が手毬を手に遊んでいる2人ともとてもつまらなそうにしているのが気にかかった。

だが、真紅と琥珀は警戒心を解かずに動きを見る。


「まぁそう構えるなよ……俺らもこんな仕事したかねー…もっと楽しく行きたいもんさ……例えばお前の血を浴びるとかな?」


その目は的確に晴翔を射抜く、晴翔は思わず構える。それを見た男は豪快に笑い出す。


「面白いねぇ……追加だなずな」

「なぁに?」

「俺はあの小僧と戦いたい」

「好きにしなさい、私はあの子…気になるわ」


少女の歪んだ笑みの先には神威が居る。


「まぁ少しくらい傷つけても構わんだろう?生きてりゃ使いもんにはなる」

「その考え方悪くないわ……」

「2人とも離れないで」


琥珀は腰から短刀を取り出し構える。

表情はフードに隠れてよく見えないが真紅は琥珀のことを横目で見ると密かに笑みを強めた。


その時宮里家から爆発音と共に煙が上がる。

全員の注意がそちらに向けられる。

男と少女が屋根から飛び降り家に入ろうとするところを真紅と琥珀が止め、晴翔と神威に指示を飛ばす。


「失いたくないなら動け!守れるならな……!」

「はい! 神威行こう!」

「うん!」


晴翔と神威は燃え盛る炎の中臆することなく入っていく。


「全く……邪魔しないでほしいんだがな?お嬢さん方……死にたいのか?」

「それはこっちのセリフだよ……琥珀、存分に暴れるといいよ」

「あら?珍しいわね……」

「少し腹が立ってしまっただけだよ」

「後悔しないようにね」


琥珀がフードを取る、その表情はいつもとは違く血に飢えたまるで獣のようだったがとても美しい姿に真紅は息を飲む。


「ほんと……飲まれそうだよ……」


サイレンの音と激しい金属音が鳴り響く。

夕暮れはすぎ徐々に光は消え去ろうとしていた。

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