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イレギュラー -悲劇の子-  作者: 獅子島 虎汰
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第12章

「兄上、兄上」

「ん……」

「ここで寝ては風邪を引きますよ、寝るのであればちゃんと布団で…うわぁっ」

「……昼寝」

「相変わらず寝起き悪いですね兄上……さっさと起きる!!」

「いってぇええ!!」


縁側で眠りこけていた煌夜に引っ張られ腕の中にいた緋色は煌夜の腹に思いっきり拳を入れる。

腹を抑えて縮こまる煌夜を緋色は見下ろしにっこりと笑みを浮かべる。


「おはようございます煌夜兄上」

「お、おう……お前ほんと強くなったな……」

「そりゃそうでしょう学校にまで通ってますからね」

「勉強熱心なのはいい事だな」


緋色はそっぽを向きそのまま立ち去ろうとした。それを煌夜は引き止める。


「待て緋色」

「何です」

「雨竜になんと言われた」

「……特に何も」

「嘘をつくな」

「嘘では!」

「翡翠が昨日雨竜の部屋から出てきたお前の顔色が悪かったと言っていた何を言われた?答えなさい」


腕を掴む煌夜は真剣な顔をしていて緋色は思わず目を逸らす。

悟られるのが怖くてたまらないという緋色思いが煌夜の目に映る。


「言えぬか?」

「いまはまだ、雨竜様にも答えを返せませんでしたので……」

「承知した、雨竜には俺からも言っておこう。緋色、翡翠に会ってやれよ」

「はい」


緋色はしばらく顔を上げなかった。その様子を見た煌夜は手を離し踵を返し立ち去って行った。

掴まれていた腕を撫で庭を見ると綺麗な着物を着た"少女"が桜の木の下に立ち緋色を見ていた。


「ねぇ緋色どうしたの、どうしてそんな顔をしているの?」

「……それは……」

「緋色はぼくの前では弱くなっちゃうね」

「うるさいな」

「…夢で見たよ、この先何があるのかそれは凄く辛いこと、緋色にとってもぼくにとってもそれと皆にとってもそれは……」

「言うな……頼む言わないでくれ」

「ねぇ……本当にどうしちゃったの?痛い?」


緋色は桜の木に立つ少女に抱き着く。

少女は緋色を受け入れるように背中に手を回し肩に顔を埋める。


「痛くない……違うんだ」

「うん」

「違うんだっ……」

「うん」


いつもの様な強気な緋色はそこには居らず、代わりに弱々しい姿の緋色が居る、少女は幼子をあやす様に優しく落ち着いた声で相槌を打つ。

何も言わなくても伝わる伝わってくる思いがある、それはその少女にしか出来ないけれど口に出すことを恐れる緋色にとっては好都合だった。


「……この先キミに何があっても神の加護がありますように……」


そういい膝の上で寝息を立てて眠る緋色の髪を撫でる少女。

しばらくすると透が緋色を探しに訪れる。


「……」

「久しぶりだね、透」

「はい」

「探してたんでしょ?連れてっていいよ」

「ありがとうございます」


透は緋色を起こさないように抱き抱える。

その様子を見て少女は少し微笑むとすぐに桜の木の方に目を向ける。

狂ったように一年中咲き乱れ散っては咲きを繰り返す桜。


「では失礼します」

「透」


呼び止められ、振り返るとそこに居た少女は光のない瞳でこちらを見つめている。


「最後まで緋色をよろしくね、これは気休め程度だけれども持っていてきっと守ってくれるから」

「……ありがとうございます」

「過去は変えられないしこの世に生を受けたが最後運命は必ずキミを殺しにくる。それでも未来は変えられるから、最後は鬼として儚く散れ」


少女は透に1つの鉱石の付いたブレスレットを腕に着けて、謎の言葉を残し去っていった。

透は腕の中で身じろぐ緋色を見て、我に返り少女が去った方向とは別の方へと歩き出した。


少女が廊下を歩いていると柱に背を預けている黒服の男が現れる。

男は黒髪に底光りする紫の瞳をしていて怪しい笑みを浮かべていた。


「お優しいのですね」

「……何?」

「いえ、珍しいなと思いましてねー他人に自分の守護を渡すなんて」

「夢で見たから」

「持たないか」

「契約で元々抑えてただけで、でもこれからまた彼の手が血で汚れれば効かなくなる、それは契約者を喰らいながら力を蓄えていく、本当は出会った頃から危なかったのを引き伸ばしたぼくらのせいだから」

「鬼として生まれたなら鬼として美しく儚く散れと爺婆が言ってますからねー」

「散らすの?」

「何を馬鹿な……俺はアンタを壊すまで死ねませんよ」


男は少女の眉間にデコピンをして笑いながら闇の中に消えていった。

少女は眉間を抑えため息をつく、いつの間にか辺りは暗くなっていた、いつもよりも今日は雲が厚く綺麗な月を隠してしまっている。

少女はただ立ち尽くすだけで光の入らない瞳はまた狂い咲きの桜を写すばかりだ。


「美しく…儚く散れ…か」


それはまるで呪いのように鬼の心に染み付いている、鬼として生き鬼として死ぬそれが鬼の誇りであるようにー。

桜の花びらが少女の元にひらひらと舞って、蝶の耳飾りを撫でていく。

いくら花弁を散らそうとも終わること無く咲き乱れる桜は美しく儚い、その花弁を掴もうと手を伸ばし掴む。綺麗な薄桃色の花びらが手の中に収まる。


「くだらない……でもこれ以上邪魔するなら許さない」


少女は感情のない顔で手の中の花びらを握り締め地面に落とす。

すると狂気を感じる笑みを見せ、隣に現れた雨竜を見る雨竜も同じ笑みをしている。


「我が愛しき人よ、今宵は満月だというのに雲が隠してしまっているねまるで大切な物を見せないようにするようだね……」

「戯言を……」

「フッ…相変わらずつれないね、私は本当の事を彼に伝えたんだよ、いつまでも野放しにしては置けないだろう?」

「どうしていま殺せと言わなかったのですか」

「知っているんじゃないか、そうだね私も掛けてみたくなったんだ、それに彼を殺す為に君たちは生まれた、違うかい?」

「悪趣味ですね」

「なんとでも、楽しみだね。どっちが先に壊れるかな?」


そう言う雨竜の目には光はなくそれでも楽しそうに歪む笑顔は気味が悪い。

何を企んでいるのか分からない雨竜に少女は苛立ちを覚えるが顔には出さない。


「ぼくは雨竜様のそういう所が嫌いです」

「私はキミのそういう所が好きだよ」

「……形だけのぼくらには何もありませんよ」

「そうだねそれでも私はいまが心地良いんだよ」

「そうですか」

「大丈夫だよ、この関係はもうすぐ終わるキミもここを離れていくそれでいいんだそれで…」


少女は何も言わない、肯定も否定もしない。

分からない未来の事などに興味はないのかはたまた話す気になれないのかは定かではないが、その瞳が何もうつさないように真意は分からない。

するとー。


「……でも緋色を傷付けるのならぼくは許しません」


珍しく怒気を含んだ瞳が雨竜を睨み付ける。

雨竜は思わずニヤける。


「ああ、気を付けるよ」


雨竜は鬼の頭ではないが本家筋の1人息子として生まれた、その為鬼の一族は彼に逆らうことをしない鬼頭の支えとしている雨竜は本家からは出られない逃げることも出来ない、すべてを与えられ生きている雨竜の今の目の前にいる少女も形だけの存在なのにその者は雨竜を心から敬うこともなくそのままの心でぶつかってくる、それが楽しくて堪らない。

少女を部屋まで見届け廊下を歩く雨竜はニヤついた顔を手で抑える。

すると進む方から緋色と透が歩いてくる。


「本当にキミたち兄弟は私を楽しませてくれるね」

「……」

「これからも楽しませてね」

「俺は約束したのでそれは誰かに命ぜられることではないこれは俺とコイツの問題です」

「変わったね緋色、構わないよ結末がどうであれそうなるのであれば私は鬼の世界を守らなければならないからね」

「分かっています」


歩き出した緋色と透が横を通り過ぎていく。


「ああ、そうだ。伝え忘れていたけどね明日客を呼んだんだキミたちが迎えに行ってあげてほしい、明日は忙しくてね他に動ける者がいないんだよ」

「分かりました」


2人はそのまま振り返ることも無く去っていった。


「雨竜」

「おや、煌夜どうしたんだい?」

「あまり弟達をいじめてくれるなよ」

「すまないね、いじめているつもりはないんだけど」

「お前の悪い癖だ、あまりに度が過ぎるようだと考えねばならぬな。それと明日の会合私はあまり気が進まぬが?」

「大丈夫だよ、ただ確かめたいだけだよ……イレギュラーという存在をね」


雨竜と煌夜の2人の間にはただならぬ気配が漂うお互い譲らない雰囲気で立ち、真っ直ぐ相手を見る。

空はそれを察したかのように雲行きが怪しくなり雨が降り出したー。


急に降り出した、雨に晴翔は驚いて自主練を止め室内へと入る。

すると出雲が手招きしているのに気づき、近くまで駆け寄る。


「なんです?これ」

「んー……招待状かな?」

「え?誰からですか?」

「鬼の本家から」

「…………え?」


出雲が困った様子で晴翔に封筒を渡す。

受け取った封筒は真っ白でその中には1枚のカードが入っていて、綺麗な文字でご招待と書かれている。


「なんで俺に?」

「それが分からないんだよ、明日は元々会合があったんだが……まぁよく分からないけど一緒に行こう準備して、あと神威も」


突然名を呼ばれ神威はキョトンとしている。

室内で真紅と共に文字と言葉の練習をしていた神威は一旦中断して晴翔と共に2階へと上がっていく。


「珍しいね、あの雨竜様が他種族を本家に招くなんてさ」

「何考えてんだかな」

「大丈夫なの?私たちは行けないから不安だわ」

「警戒はしておく、でもあっちには2人がいるから大丈夫だろう、代わりにここを頼んだよ」

「えぇ、分かってるわ」


出雲は真剣な面持ちで携帯端末を弄り始める、端末の画面には緋色の文字が表示される。

文面を打ち終え送信し端末を閉じる。


「(全く……困ったものだな)」


出雲はため息をつくしかなかった。


緋色は端末を確認すると閉じる。

傍に居た透に声をかける。


「透、明日晴翔も来るそうだ」

「どういうことだ」

「まさか雨竜様がこの里に出雲以外の他種族を招くなんてな」

「何を考えているんだ一体」

「……」


緋色は開いていた本を閉じ、外を見る。

外はバタバタと音を立て雨が地面を叩き付けている。余計に気分が悪くなるのを感じ舌打ちする。

しかし決まってしまったことは変えられないので明日を待つしかなかった。

不穏な空気が漂う中、部屋の光は消える。


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