7
次話より魔界へのお話に戻ります(^-^)
お読みいただいている皆さま、初めましての皆さま、本当にいつもありがとうございます!
毎話短くてすみません!
運命の力とは、どれくらい強力なのだろう。
いずれはこの国を統べることになるだろうエルメランドの第一王子イルは、国王に頭を下げながらそんなことを考えていた。
幼い頃からの幼馴染みであり、聖女でもあるアシェラはイルにとって一番綺麗で、穢してはならない神聖な存在だった。
そんな彼女の側にずっといるためだけに、イルは国王になるための勉学に勤しんだ。
会えないことは辛かったが、全てはその先の永遠のためだった。
だからこそ、アシェラがイルから逃げたとしても、怒りも恐れもない。
自分の元へ戻ってくることが、彼女の運命だと分かっているから。
もう一人の聖女が現れるなら、それでも構わない。
最後にはアシェラが唯一の聖女として、イルの側にいてくれる。
(……そうだな。その聖女をアシェラだと思って、接してみるのもいい。長い間会えていなかったから、いきなり話したら緊張してしまいそうだ)
いい練習台が手に入ったと、イルは心の中で笑む。
同じく頭を下げていたパルマは、一瞬イルへと視線を向けてやはり何も見なかったことにして、そっと目を逸らした。
言わずもがな、まだ死にたくないからである。
結論からいえば、国王はそこまで聖女失踪という事態を重く見てはいなかった。
それはおそらく新たな聖女が見つかったという報せによるものが大きい。
そして、もう一つの情報がそれに決定打を与えていた。
「聖女は例の森へと向かったと聞く。これは明らかな背信行為だ」
その声だけで辺りの空間を震えさせてしまうほどに威厳のある現国王サマタリ·エルメランドは、厳しい口調でそう言った。
「恐れながら陛下。それは些か早計ではありませんか。聖女様は、これまで人々のために祈り続け、魔物たちから我々をお守りくださっていました。あちらに向かうなどとは到底考えがたいことです」
パルマの言葉にも、サマタリ王は耳を貸そうとはしない。
「だが、現に森に向かう姿を見た者がいる。新しい聖女が現れたとは、逆にそういう意味とはとれないか?」
つまり、アシェラはもう聖女ではないのではと言っているわけだ。
これまでアシェラの一心な祈りを見てきたパルマは、その心ない言葉に悔しさが募るばかりだ。しかし、今立場を悪くしてしまっては彼女を守るにも何かと動きにくくなってしまう。
頭を下げる仕草で、どうにか擁護の言葉を抑え込む。
「落ち着いてください、父上。そもそも森に向かったのがアシェラの意思とは限らないではありませんか」
パルマの代わりに王を窘めたのは隣に立つイル王子だった。
彼は呆れたとばかりに王に向けて溜息をつく。
「イル、お前は黙っていろ」
「森へ向かったというだけでは何の証拠にもなりはしませんよ。どうか民たちに愚かな王の姿は見せませんよう。まして私たちはまだ、新しい聖女に会ってすらいないのですよ。本物かも分からないものに期待はしないことです」
「……」
王は眉間に皺を寄せ、しかし王子の言葉に納得している様子だった。
「アシェラに会って、理由を聞いてからでも遅くはありません。魔王に拐かされようとも、彼女の魂が穢れるわけではないのですから」
パルマは、にこにこと笑っているイル王子ほど末恐ろしい男はいないと震え上がる。
王に対して決めつけるなと言いながら、自分はしっかりと魔界どころか魔王の手中にあると確信している。
「……今は、お前を信じよう」
「ありがとうございます」
と、謁見の間の扉を叩く音が聞こえ、部屋の中にいる誰もがそちらを振り向いた。
「聖女の候補者をお連れいたしました。町娘のセナにございます!」
衛兵の口上と共に、一人の少女が姿を現す。
ピンクゴールドの髪に紫紺の瞳を持つその少女は、このゲームの絶対的な存在。
つまり、このゲームの主人公である。
月は、二つ。
けれど、エルメランドに一つ。
魔界に一つ。
交わらなければ、それでいい。
交わらないで、いられるのならば。