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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
8/54

転入生 7

「わたし、遥! 相川さんの事、ユウキちゃんって呼んでもいい? 」

 笑いすぎで目尻に涙を浮かべている遥は笑顔でユウキに問い掛ける。

「…… 別に構わない。遥」

 ユウキは、無表情のまま遥の提案を了承すると、彼女の顔から若干視線を右にずらし、恥ずかしさからほおを淡いピンク色にさせて彼女の名前を小さく呼んだ。

「ユウキちゃんかわいい〜! クロワッサン好きなの?」

 些細ささいな変化ではあるものの、この学校に来て初めて表情を変えたユウキに、遥は釘付けになった。

 そして、いつのまにか手の中のクリームパンがクロワッサンに変わっているユウキ。

「甘いものは好き。クロワッサンはサクっとした食感と、甘すぎない上品な味わいが絶妙で、クリームパンは表面が柔らかくて、クリームが濃厚なのが大好き」

 甘いものが相当好きなのかユウキは、それまでの無口な印象を打ち消すほど饒舌じょうぜつに話した。

(めちゃくちゃ喋った?! )

 生き生きと菓子パンの話をするユウキを見て、マオと遥の心の声がシンクロする。


 ふと、マオの視界に隣で座っている正輝が入った。

 正輝は会話に合わせて相槌あいづちを打っているものの、心ここに有らずといった様子だった。

「? 」

(どうしたんだろ? そういえばさっきから何も話してないな)

 一見、正輝に変わった様子は無いが、普段から一緒にいるマオは彼の表情から暗く冷たい印象を受けた。


「正輝、大丈夫? もしかして体調悪いとか? 」

 心配したマオは、さらりと正輝に話し掛ける。

「あ〜 悪りぃ。朝も言ったけど昨日は遅くまで漫画読んでて。昼飯食ったらすげぇ眠くなっちまって」

 マオの問い掛けに正輝は、すぐに笑顔を作り返事をした。

「…… そうだったね。朝歩いてる時も、ずっと眠そうにしてたよね」

 正輝の笑顔にマオは若干の違和感を覚えたが、彼に合わせるように笑って話した。


「工藤君って漫画好きなの!? 俺も漫画好きで夜に読んじゃうと続きが気になって、いつのまにか朝って事、結構あるよ」

 正輝が同じ趣味を持っている事が分かった晋二は、友達を増やすチャンスと目をキラキラさせて会話に入った。

「そうなんだ。たしかに、あの時って時間が飛んだって思うぐらい早いよな」

(お前に話したんじゃねぇよ)

 晋二が会話に入ると正輝の表情は笑顔を保っているが、その顔には少し影があるようにマオは感じた。

「確かに! 」

 正輝から返事が返ってくると、更にテンションの上がった晋二は少し大きめの声で同意した。

「晋二って漫画読むの? 意外だね」

 晋二の意外な趣味にマオは目を丸くした。

「いやいや漫画は大好きだよ! 今まで身近に話せる人がいなかったから、本当に嬉しいよ!!」

 テンションの上がり続ける晋二は右腕でガッツポーズをした。


「へぇ、そうなんだ。そんなに漫画が好きなら、学校から電車で2駅離れた街に、漫太郎まんたろうって室内の壁が一面漫画の棚になってる喫茶店があるよ。よく正輝とマオくんと一緒に行くんだけどね。そこのチョコバナナクレープがすごく美味しんんだよ! 今度の休日にみんなで行こうよ! 」

 漫画好きの晋二とスイーツ好きのユウキに興味を持ってもらい、確実に誘いに乗ってもらう為に、遥は2人にとって魅力的な場所を提案する。

「……それは興味深い」

 遥の狙いに勢いよく食いついたユウキは、もうチョコバナナクレープの事で頭がいっぱいという様子だった。


「休日に同級生と遊びに行くのって、空想の世界の出来事だけだと思っていたよ! 」

「大げさだなぁ〜」

 学校に来たらこれをしたかったんだと感動し今にも泣き出しそうな晋二を見て、遥は嬉しそうにスケジュール帳をチェックする。


「…… 」

(五木こいつ、自分がマオにした事をもう忘れたのか? 今こうやって善人面ぜんにんずらしてるけど、どうせ、その内こいつらもマオの事をバカにするようになるんだ。それに、マオと遥もなんだ!! 俺達はこの学校に入ってからずっと一緒にいる仲なのに、なんで俺の扱いと奴らの扱いが同じなんだよ。しかも、漫太郎は俺達の思い出の場所だろ!? )

 転入生2人と急速に距離が縮まっていくマオと遥を見て、再び怒りが沸々と込み上げてきた正輝は、小刻みに右手を震わす。


「そうだね漫太郎なら漫画の量もすごいし! ご飯も美味しいし。丁度いいよね正輝? 」

 遥の完璧な提案にマオも納得し正輝に同意を求めた。

「……」

 正輝は、真顔のまま反応が無い。

「正輝? 」

 正輝の表情に恐怖すら感じたマオは不安そうな声で話す。

「あっああ。漫太郎なら漫画読まない人も楽しめるし、良いんじゃないか」

 我に返った正輝は、取り繕うように笑顔を作る。

「やっぱり、どこか調子が」

 正輝とは1年からの親友で、この学校で最も多く時間を共に過ごしたマオには、やはりそれが作り笑いと分かってしまい心配する。



 昼休みの終わりを告げる時計の鐘が学校中に響き渡る。


「悪いな心配かけて。本当に寝不足なだけだから」

 鐘が鳴り昼休みが終わるのを待っていたかの様に、ゴミを片付け始める正輝はまた笑顔を作る。

「だったらいいけど」

(少し落ち着いたら、もう一回話してみよう)

 普段とは違う雰囲気の正輝にマオは、これ以上追求するべきではないと判断した。


 マオ達は、午後の基礎能力測定を行う為、5階建体育館3階の測定室へ向かう。




今思い返すと

この時、もう少し もう少しだけ正輝に踏み混んで話していたらと思わない日はない。

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