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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
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転入生 6

 部室の扉の方を向くようにしてマオと正輝が、扉に背を向けるようにして晋二とユウキが向かい合う形で、会議机に備え付けられた椅子に座った。

 既に昼食を食べ終えていた遥は、マオ達に背を向けデスクトップパソコンで作業を再開した。


「瑠垣君と工藤君は新聞部なのかい?」

 その場の雰囲気に流されてここまでやって来た晋二だったが、何のためらいも無く自分達を部室に案内したマオと正輝に率直な質問をした。

「違いますよ。新聞部の遥とは友達で、よく正輝とここに来てダベっているんです」

「人の部室でねぇ。こっちは真面目に活動中なのに」

 マオが当たり前の様に平然と答えると、それを聞いていた遥はデスクトップパソコンの画面を見たまま、冗談っぽく少し嫌味を含んだ口調で話した。

「あっそ、悪かったな。今度から差し入れのお菓子も無しだからな」

 正輝は、少し意地悪そうに笑うと、遥への差し入れの為に購買で買ったチョコチップクッキーの袋を、自分の顔の高さまでゆっくりと持ち上げた。

「すみません正輝サマ!! 本当ぉぉに、ごめんなさい!! 私はいつでも皆様のお越しをお待ちしております!! 」

 大好物のお菓子の袋を見た遥は、椅子を回転させ後方にいる正輝の方を向くと、先程までと打って変わり、拝むように両手を合わせた。

「ふははは、調子のいい奴」

 遥のあまりにも早い心変わりに正輝は思わず笑い出す。


「ふふっあははは!! 3人はすごく仲が良いんだね!! たしか、浦和さんだったっけ? 急押しかけてごめんね。迷惑をかける代わりと言ってはなんだけど、俺にできる事があれば協力するから言ってね! 」

 晋二は、3人のコントのようなやり取りを見て思いっきり吹き出すと、爽やかな笑顔で遥に話し掛ける。

「えっ本当に!? じゃあ、じゃあ取材させて!! 」

 晋二のサービス精神溢れる一言に目をキラキラと輝かせた遥は、電光石火の速さで彼の右隣まで移動した。

「行動早いな」

 遥の板についた記者魂きしゃだましいに正輝は、関心するのと同時にやれやれといった様子でため息をついた。

「そうだよ正輝!! 私が新聞部員で、ここは部室!! 電撃転入の最年少司書コンビがここにいる。それならもう、やる事は一つ!! それは取材or取材!! 」

 遥は、晋二とユウキを興味深そうに交互に見ると、えいえいおーと言わんばかりに右手を天へ突き挙げる。

「いつもよりテンション高いね」

(ちゃっかり相川さんも取材するつもりなんだね)

 遥の熱く燃えたぎる記者魂きしゃだましいを感じたマオは、その熱意に圧倒されユウキに取材の許可を取っていないと言うのをめた。

「これでテンション上がらなかったら図書専新聞部(としょせんしんぶんぶ)の部員じゃない!! 」

 腰に両手を当てエッヘン、という感じで遥は胸を張った。

「でもなぁ、教室で質問攻めになってた2人をせっかく連れて来たのに、ここでも質問攻めにする気か? 」

 正輝は、ヒートアップする遥をクールダウンさせようと現実的な問題を突き付ける。

「違うよ♪ 今日は、お昼を食べるだけだよ!! 新聞部は、ローテーションで記事書くし、私は4月号の担当で5月頭に4月号を発行するスケジュールだから、取材は再来週ぐらいで大丈夫なのです!! それに、この後すぐ基礎能力測定があるし。しかも来週からは実戦授業が始まるから、その後に取材した方が絶対良い記事になると思うんだぁ♪ って言う事で来週の予定を教えて!! 」

「授業をネタにする気かよ!! 」

「てへ♫ 」

 意外にも冷静に考えていた遥は、自信満々に取材スケジュールを話すと、焼きそばパンを頬張っていた正輝が漫才師の様にツッコミを入れる。

 すると遥は、舌を出して可愛く笑った。


「来週の予定は確認して明日また教えるよ。それにしても、本当に仲が良いね!! 羨ましいよ。俺は小さい時から親に司書になるように育てられたから、同年代の友達っていないんだ。だから、こういうのにすごく憧れるんだ」

 晋二は、購買で買った鮭おにぎりの包装を開けながら笑顔で話す。

「あれ? 相川さんは、特別なカリキュラムで幼少時から学習している事は、テレビを見て知っていましたが、五木さんも? 通常の義務教育を受けてないんですか? 」

 晋二の話に疑問を持ったマオは、食べていたカツサンドを机の上に置き質問をする。

「あぁ、そうだね。俺の親って夢図書館の研究者なんだ。親父が夢粉ゆめエネルギー実用化の研究チームで、母親は夢粉ゆめを医療に使う為の研究をしていたんだけど、母親は俺が3歳の時に研究中の事故で亡くなって。それから、親父が母親の分もしっかり子育てしなくちゃって思ったみたいで。小中学校は家庭教師、空いた時間は親父から夢粉ゆめの知識やら創造スキルやらを叩き込まれて。夢図書館高校専門学校ここに入学できたら、やっと普通の学校生活を送る事が出来ると思ったら、入学試験でまさか司書になっちゃうなんて。しかも、構成員で同い年はユウキたった1人」

 学校や友達への強い憧れを持っていた晋二は、少し真顔になって自分の生い立ちを話した。


「…… 私じゃ不満? 」

 会話に参加せずクリームパンを黙々と食べていたユウキが挨拶の時と同様に、無表情のまま小さい声で話した。

「喋った!? 」

 部室に入ってから一切言葉を発せず、話しを聞いている様子もなかったユウキが急に口を開き、びっくりした遥が思わず心の声を口にしてしまう。

「いやいや、全然不満じゃないよ!! ユウキは、面白いし任務でもすごく頼りになるから、不満なんて事はないよ!! 」

 晋二は、ユウキに対して不満があるように捉えられてしまう内容の話をしてしまった事を慌てて訂正した。

「……? 面白い? 」

 晋二がなぜ自分の事を面白いと言ったのか、その意味が分からずユウキは首を傾げる。

「五木さん、すみません。変な事を聞いてしまって」

 晋二の辛い思い出しを話させてしまったマオは、申し訳なさそうに声を小さくして謝った。

「大丈夫、大丈夫!! それから、ずっと思ってたんだけど、敬語じゃなくてもいいよ! 同い年で同じクラス、しかも一緒にご飯を食ってるし。それって、もう友達だよ! 」

「うん、そうだね。よろしく五木君」

 同い年の友達に憧れ続けていた晋二、クラスで迫害を受け味方の少ないマオ、2人にとって友達と言う言葉は何よりもとおとい物だった。


「…… 」

(ふざけんな!! 何が友達だ。マオ騙されるな。五木あいつは絶対にお前を裏切る)

 2人のやり取りを見ていた正輝は、マオが今日知り合ったばかりの晋二を友達と認めた事に強い怒りを覚えた。


「晋二でいいよ! 」

「それじゃ晋二、俺もマオで」

「ああ! よろしくマオ! 」

「私も遥でいいよぉ♪ 晋二君にユウキちゃん」

 マオと晋二の流れに乗るようにして遥は、右手でVサインを作り太陽の様な笑顔を見せた。

「よろしく遥! 」

 晋二も笑顔でVサインを作った。


「…………」

「あれ? いきなり馴れ馴れしかったかな? ごめんね」

 遥の問い掛けにも無反応で何かを考えている様子のユウキ。

 それを見た遥は、自分が積極的に接した事でユウキの気分を害してしまったと思い、慌てて両手を合わせ謝った。

「…… 五木、私って変? 面白いってなに? 」

 晋二から言われた面白いの一言についてずっと考えていたユウキは、自分の中で結論が出なかったのか疑問を口にする。

「ユウキ…… その話は、もう終わったよ」

 晋二は、ユウキの右肩にそっと左手を乗せ悲しそうな顔をした。


「ぶっははははっっ」

 普段は努めて冷静にしているマオだったが、ユウキの天然発言がツボに入り珍しく声を出して大笑いをした。

 マオは、自分と同い年で司書になり、雲の上の存在であると思っていたユウキの意外な一面に親近感を覚えた。

「あははは、お腹痛い!! 」

 同じくツボに入った遥も笑いこけ、部室はマオと遥の笑い声に包まれた。

「…… ん? だから…… 私の何が面白いの? 」

 マオと遥が爆笑した事でユウキは、更に現状を理解出来なくなった様子で周りをキョロキョロと見渡し、頭上にはてなマークを3つほど浮かべている。

「ユウキ! ユウキはそのままで良いよ! 」

 再び晋二は、ユウキの右肩にそっと左手を乗せて今度は笑顔で話す。

「? ? ? そうなの? 」

 ユウキは、自分の疑問は解決しなかったが目の前3人の笑顔が心地よかったので、それ以上追求するのをめた。

「あはははは」

 ユウキの天然さに、再び部室はマオと遥の笑いに包まれた。

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