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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
54/54

また3人で。 4

 繊細な彫刻が施された、明るく柔らかい色合いの大理石で出来た天井と壁、その長い廊下の床には赤い絨毯じゅうたんが永遠とかれている。

 10人以上の大人が横並びで歩いてもなお、ゆとりのある幅と室内にいる事を感じさせない開放感を与える高さをもつ天井、その中を1人の中年男性が歩いていた。

 上質な革靴のかかと絨毯じゅうたんに擦り付けるようにして歩く男は、ふちに金色の装飾が施され、左右に金色こんじきに輝くボタンが4個づつ付いている、漆黒のナポレオンコートと、同色の長ズボンを穿いていた。



「たく、連休明けの朝っぱらから召集なんか掛けやがって。俺は、まだ時差ボケで寝みぃってのによぉ。ふぁ〜ぁ」

 眠そうに夢図書館本部のだだ広い廊下の中央を歩く岸田は、本部の第1会議室を目指していた。

「だいたい、こんな堅苦しい格好は昔から嫌いなんだ」

 眠さで不機嫌になっている岸田は、目に付く物に反抗する子供のような独り言をブツブツと言いながらを進める。

 彼が着用している衣類は、デザインこそ他の司書と同じだが、装飾は今となっては価格すらつける事の出来ない程、貴重な物質である純金が惜しげもなく使用された作りとなっており、司書長にのみ袖を通す事を許された特別な制服だった。


「オオォォ!! 岸田じゃあないか! 久しぶりだなぁ! 相変わらずのダラけ具合で落ち着くぞォォォ。ワハハハッ!! 」

 突然、岸田の左肩に、まるで国語辞典を1m の高さから落とされたかのような衝撃が走ったのと同時に、暑苦しく豪快な男の声が雷のごとく聞こえてくる。

「ッてぇな。コートの上2つは閉めなくてもいいはずだろ」

 ただでさえ虫の居所がよくない岸田は、突然の激痛に内心怒りに満ち溢れていたが、自分の肩を鷲掴みにしている右手を見ると、その怒りは嘘のように消え去り、自分の服装を首から爪先までを見下ろし確認をする。

「違う! その緩んだネクタイと、お前のテンションだ」

 大声で話す身長2m 以上はある大男は、岸田の右隣に移動すると、結び目が緩みきっている黒色のネクタイを指摘した。

「…… うるせぇなぁ。お前は、生活指導担当の教師か? 」

 指摘箇所が完全に盲点だった岸田は、渋々ネクタイを締め直すと、鼻で笑いながらツッコミを入れる。

「いや! 教師は、お前だろ!! ワハハァ!! 」

 大男は、その巨体通りの大声で豪快に笑いながらツッコミを入れる。

「それもそうか。だがな。さすがに、その格好のお前には言われたくない」

 岸田は、右隣で歩いてる大男の服装を冷静に指摘を仕返す。

「そうか? 」

 ボディービルダーのような筋骨隆々とした体つきの大男は、制服のズボンはきちんと着用しているものの、上半身は筋肉が隆起した白色のタンクトップ、右肩に岸田と同じコートが雑に乗せられていた。

「あたりめぇだ。本当に相変わらずだな。レオン・ J(ジョックロック)雹丸ひょうまる

 岸田は、夢図書館高等専門学校のかつての同級生であり、今は同じ司書長の地位に立つ、雹丸ひょうまるとの再会を懐かしむかのように彼のフルネームを口にした。

「ワハハハハ!! 何年経とうが、俺は変わらんぞ! 」

 雹丸ひょうまるは、黄色のスリックバックの頭を小刻みに揺らしながら、楽しそうに笑っていた。


 岸田と雹丸ひょうまるが何気ない会話をしながら廊下を歩み進めると、正面に木製の観音開きの巨大な扉が立ちはだかり、その前には1人の女性が立っていた。

つよしにレオンやないかぁ。えらい久々やなぁ」

 岸田と雹丸ひょうまると同じデザインのジャケットのボタンを閉めずに両肩へかけた、坊主頭の女性が関西弁の明るい口調で2人に話しかける。

 通常、夢図書館では女性はスカートを着用するのだが、男性と同じ長ズボンを穿き、上半身は黒の水着のようなチューブトップのみを身にまとい、割れた腹筋を露出させた筋肉質な女性は、両腕を組み仁王立をしていた。

「たしかに、2年ぶりぐらいか? 崩巌ボンイェン

 岸田は、学生時代の同級生にして、雹丸ひょうまると同じく司書長の仲間である崩巌ボンイェンに右手を顔の高さまで挙げながら挨拶をする。

「オオォォ!! リンじゃあないか! 久しぶりだなッ!! 」

 雹丸ひょうまるは、岸田よりもわずかに身長の低い崩巌ボンイェンの顔を見ると、数年間顔を合わせていなかった親戚を兄弟の結婚式で発見した時のような様子で彼女の挨拶に答えた。


「おっおい! 司書長3人全員が集まったぞ。レアだぞ! レアッ! 司書長は任務で世界中を飛び回ってるから、3人が顔を揃えるなんて年に1回あるかどうかだ」

「たしか、あの3人って学生時代は同じクラスで友達だったって話だよな」

「そうそう! しかも、あの五島ごとう 麗華れいかさんもそうだったよな。黄金世代もいいところだよな」

「ああ、その話聞いた事ある。てか、3人とも個性が強い」

 本日開催される会議に召集され出席をする予定の司書数十名は、その個性的な身なりの司書長達をまるで、偶然駅で鉢合わせた著名人を見る野次馬のように遠目で眺めていた。


 そして、間も無くして巨大な扉は音も無くゆっくりと開いていく。


「おっ準備が出来たみたいだな」

 岸田は、会議の準備が整った事を知らせる無言の合図を確認すると、扉の中を目指し右足を前に出した。

 その後に雹丸ひょうまる崩巌ボンイェンが続き、彼らを眺めていた45人の司書がゾロゾロと会議室へ入って行った。


 室内は、古風な王宮のような創りの廊下とは打って変わり、天井、壁、床の全てが機械仕掛けになっており窓は無く、奥には映画館のスクリーンのようなディスプレイと、200を超える机と椅子が扇型に並べられていた。

 入り口の右側の最前列に雹丸ひょうまる、岸田、崩巌ボンイェンの順番で座ると、瞬く間に召集されていた45人全員が着席をした。


「皆、早朝からご苦労」

 ダークスーツを身にまとい、紫色の髪を七三分けにした50代の男性が、扇型に並ぶ机の中心、議長席へと立った。


「ッふ」

(いつ見ても、いけ好かない野郎だ)

 岸田は、視線の先にある七三分けの男を快く思っていないのか、敵意に満ち溢れたつまらないモノを見るかのような目を向ける。

相川あいかわ きずく総館長が任務で不在の為、副総館長である私こと竹宮たけみや じんが今回の会議を進行する」

 意図して威圧的な態度と、物々しい口調を貫き通す竹宮と名乗った、痩せ型の男性は、周囲よりも高い位置にある議長席から、司書達を見下し見下ろすようにして司会進行を宣言した。


「何か言いたい事がありそうだな。岸田司書長? 」

 竹宮は、自分の事を鼻で笑い不愉快な視線を向ける岸田を牽制けんせいするかのように、額に血管を浮き上がらせながら質問をする。

「いえ、なにも」

 岸田は、あごわずかに挙上きょじょうさせ、自分よりも高い位置にいる竹宮を見下ろすようにして目を細めながら、笑いを含ませながら適当に返答をした。

「ちッ!! まっいいだろう。では、緊急会議を始める。先月、ダリアス共和国で起こった大規模テロの制圧作戦についてだが」

 反抗的な態度を取る続ける岸田をひと睨みし舌打ちをした竹宮は、気を取り直し議題を読み上げた次の瞬間、会議室の扉が勢いよく開く。


「今は緊急会議中だがね」

 サポーターの証であるダークスーツを着た女性が、血相をかいて室内に入ると、竹宮は自分の時間を邪魔された事を良しとせず、彼女をギロリと睨む。

「たっ大変です。夢図書館高等専門学校に大量の狼型ランクCが出現しました」


 !?!!


 尋常でない様子の女性サポーターの発言で、会議室の中は次第にざわざわと騒々しくなっていく。

「待て岸田司書長、会議中にどこへ行くつもりだ? 」

 女性サポーターの言葉を聞き、出入り口へと駆け出した岸田に竹宮は、厳しい口調で彼を呼び止めた。

「どこだと? 学校に決まってんだろ! あそこには、俺の生徒がいんだぞォッ!! 」

 竹宮の考えなしの発言に岸田も負けじと、荒々しい口調で反撃をする。

「なんだ、その口の利き方は! 私は、副総館長だぞ」

 竹宮は、顔を真っ赤にして怒りをあらわにさせると、岸田を大勢の前で怒鳴りつける。

 しかし、激怒する竹宮を尻目に岸田は、会議室から走り去った。


「すいません。俺も行きます」

「ほなぁウチも」

 雹丸ひょうまる崩巌ボンイェンも岸田を追うようにして席を立ち、会議室を後にした。

「………… あっああッ クッソ! これだから司書は!」

 竹宮は、嵐のように去って行った3人の背中を見ながら唖然あぜんと立ち尽くし、遅れてやってきた爆発的な怒りによって机を蹴りつけた。

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