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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
47/54

ゴールデンウィークはハワイ旅行 7 再戦A

 夢図書館ホノルル研修所 2日目 午前5時50分


 学校の寮から持参した訓練服へと着替えたマオは、機械仕掛けの分厚いスライドドアをくぐった。

 その先に広がる格技場は、学校と同じ造りとなっており、壁と天井と床の全てが電気回路の通う、青白いパネルで統一されていた。

 すでに、場内には司書の制服を着た晋二とユウキ、昨晩寝巻として使用したであろう、浴衣を着用したままの岸田が集まっていた。


「再戦ですか? 」

 岸田から晋二と試合をしろと言われたマオは、その意図が分からずに聞き返してしまう。

「そうだ、あの実戦授業の後から五木がうるさくてなぁ」

 岸田は、右手小指で耳の穴をほじくりながら面倒臭そうに答えた。

「あの時の勝ち方には納得していません。あれがもし、実戦であれば俺は負けていました」

 再戦の機会を与えられ、高ぶる気持ちを隠しきれない様子の晋二は、少し強めの口調で話した。

「先生、試合をするのはいいんですが、ここは学校敷地外ですので、俺は創造出来ませんよ」

 学校敷地内のみに限り、創造が可能という制限が付いた生徒手帳を所有するマオは、格技場の内部を見渡しながら疑問を口にする。

「その事を心配する必要はねぇよ。事前に夢図書館本部に瑠垣の学外創造の許可を取り、システム設定も終わっているからな」

 システム変更という非常に面倒な手続きを完了した達成感からか、岸田は両腕を組みニヤリと笑った。

「そうなんですね、分かりました」

(もしかして、この為に岸田先生は俺達をここに? )

 何故なぜ岸田が自分をハワイに招いたのか、その本来の理由がなんとなく分かってきたマオは、上着のそでを七部袖の位置までたくし上げた。


「改めて、ありがとうマオ。俺、あの時は本気じゃなかったから」

 マオが臨戦態勢に入った事を確認した晋二は、穏やかな表情から冷たさを帯びた力強い目つきに変わると、両手それぞれに刀身が黒いダガーナイフを創造した。

「両手? なるほど」

(ぶっつけ本番にはなるが、去年からずっと考えてきた、俺にしか出来ない戦闘スタイル。それを試すには、十分すぎる相手だ)

 晋二の「あの時は本気じゃなかったから」という発言が、悔しさを紛らわす為や負け惜しみから発せられた言葉でない事を、直感したマオは左手を強く握り締めた。

 そして、両者はゆっくりと岸田とユウキの待つ、格技場の中央へと歩みよって行った。


「お前、武器の創造はどうした? 」

 相撲の行司ぎょうじのように2人の間に立った岸田は、武器を創造せず丸腰のまま、晋二に挑もうとするマオを見る目を細めた。

「これで、いいです」

 マオは、向かい合った晋二から目を離す事なく、目の前の試合に集中しきっている事が伝わる真剣な表情で答える。

「わっわかった。ルールは相手に負けを認めさせる、もしくは俺が判断する。武器は骨折以上の怪我を負わせないものに限る。いいな? 」

 16歳とは思えないマオの気迫に若干押されてしまった岸田は、ルールを確認すると両者の顔を交互に見た。

「…… 」

「…… 」

 心身ともに準備が整っている2人は、無言のまま頷く。


「じゃあいくぞ、はじめ! 」

 岸田の掛け声と同時にマオと晋二は、互いの距離を急激に詰めて行く。


 マオが瞬間創造ソニックで武器を創造した瞬間それを破壊し、連続攻撃で最速の決着を狙った晋二は、右手のダガーナイフを水平方向に振り出した。

「なッ? 」

(マオが、まだ創造をしない? )

 通常なら武器を創造してから攻撃のモーションに入るマオは、何も持っていない手ぶらの左腕を前に突き出し、晋二は彼の意外とも言える行動に違和感を覚えた。


瞬間創造ソニック

 マオが小声でつぶやくと、突き出した左手に太刀を創造し、晋二のダガーナイフを振り払った。

「!! 」

(くっやっぱりマオの一撃は重いね。あの時は突然の事で対処しきれなかったけど、情報が頭にあればどうにかなる。にしても、少しガッカリだよ)

 晋二は、ガラスが割れるような音を立てながら、粉々に砕けていく太刀を何の感情もない目で見つめると、武器を失い隙だらけとなったマオの胴体を目掛け、左手のダガーナイフを振り下ろす。


「バカッ!! 何考えて? 」

(五木との圧縮率の差を考えてねぇのか? 司書の戦闘において武器を失うつぅ事は、死を意味する。まさか、こんなあっさり終わっちまうとはな…… )

 敗色濃厚のまま立ち尽くすマオに、晋二が攻撃を繰り出した刹那、岸田はあまりにも呆気ない幕切れに目を伏せようとした。


「!!ッ」

(瞬間創造ソニック)

 この場にいる誰もが晋二の勝利を確信した瞬間、マオは体を鋭く反転させながら、再び左手を動かした。

 次の瞬間、マオの左手に握られていたロングソードが砕ける音と共に、晋二の攻撃は跳ね返された。

「なっなに!? 」

 1秒よりも短い一瞬の出来事に晋二は、その現象を理解出来ず脳を冷静に保つ為、マオから距離を取った。


瑠垣あいつは、戦いながら瞬間創造ソニックが使えんのか!? 」

(平常時よりも創造に集中する事が困難な戦闘中は、どうしたって創造スピードが遅くなる。何年も実戦経験を積んでようやく、平常時との誤差が少なくなっていくはずだが、今のは紛れもなく瞬間創造ソニックだった)

 改めてマオの潜在能力ポテンシャルの高さを目の当たりにした岸田は、自分の理解を超える力に目を丸くした。

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