ゴールデンウィークはハワイ旅行 4
「おお、すげぇ美味そう! 」
猛は、炭火でこんがりと良い焼き目がついた牛肉と、大き目に切られた野菜が刺さる鉄串が醸し出す、香ばしい匂いに堪らず声を上げる。
「そろそろ、いいかな」
軍手をはめた右手で串を忙しなく返していた晋二は、焼き加減に満足したのか、口角を上げた。
「おっいいな! 1本もらってくぞ」
何処からとなくやって来た、小さなクーラーバックを肩にかけた岸田が、1番良い感じで育っていた串をグリルから突然奪い去って行った。
「ああ! ツヨちゃん、ずるい!! 」
いきなりの乱入者の非常識な行動に、遥が思わず声を出すが、全く気にする様子のない岸田は、マオ達から10m ほど離れた場所にビーチパラソルとサマーベッドを創造し寝転ぶと、持参したクーラーボックスから缶ビールを取り出しプルタブを開けた。
「んぐっんぐっんぐ、プハ〜〜ァ!! 大人はいいんだよ。俺は、連休明けすぐに本部に行かなきゃいけねぇんだから、今は休憩だ」
完全にだらけ人間モードに入ってしまった岸田は、気の向くままに肉とビールを貪っていた。
「もぉぉ」
岸田の実に身勝手な反論に遥は、栗鼠のように両頬を膨らませ不機嫌そうに唸った。
「本部って言う事は、何かあったのですか? 」
晋二は、鉄串をひっくり返しながら質問をする。
「ああ、班長以上の司書が招集された。おおよそ、この前のダリアス共和国でのテロ絡みの事だろ。たく、ダリィな」
気だるそうに、そう話した岸田は缶ビールをあおった。
「時期的にも、そうかも知れませんね。voiceとの関連調査で何か進展が? 」
晋二は、焼きあがった串を皿に移し替えながなら話を続ける。
「俺が知るか。てか、今は仕事の話は無しだ」
ONとOFFの使い分けをハッキリとさせている岸田は、業務の話を続ける晋二を、あしらうように返事をした。
「そうですね、すみません」
岸田の反応から、この話題を続けるべきではないと判断した晋二は、すぐさま謝罪の言葉を述べる。
「さぁ、みんなコップ持って! 」
遥は、ジュースを注いだ紙コップを御盆に乗せ全員に配り歩く。
「お! サンキュー浦和」
猛は、コーラの入ったコップを右手に取った。
「じゃあ、はじめてのハワイに乾杯!! 」
「乾杯!! 」
遥が元気よく乾杯の音頭を取ると、マオ達もそれに続き昼食がスタートした。
「岸田司書長、また焼けましたよ」
晋二は、皿に盛りつけた肉と野菜をサマーベットで寝そべる岸田の下へと、持って行く。
「ぐぅすぅーーぅぐ〜 」
波の音で目立たなかったが、岸田はイビキをかきながら眠ってしまっていた。
見た目に反して酒に強いわけではない彼は、ビール4本で睡魔に負けてしまったのだ。
「見事に寝てますね」
晋二は、ヨダレを垂らしながら眠る岸田の顔を見ると、皿を持ったまま静かに引き返した。
「…… 遥は、工藤君が好きなの? 」
海外の宝石のようなビーチでの優雅な昼食。
その平穏を壊すかのように突然、無表情のユウキがトンデモナイ事を言い放った。
「!? ごほっゲホッゲホッ」
ユウキの爆弾発言に、オレンジジュースを飲んでいた遥は、思わず咽せ込んでしまう。
「ユウキ、いきなりどうした? 」
マオは、咳き込んで返事が出来ない遥をフォローするかのように、努めて冷静に口を開いた。
「ゆっユウキちゃん? 私が正輝を? ええっ!? 」
気管に液体が入った影響か、図星を突かれたからか、真っ赤な顔をした遥は両目を泳がせながら、しどろもどろになり返事をした。
「マオと遥の言う通りだよ。急にどうしたの? 」
晋二は、ユウキの脈絡のない言動に戸惑いつつも一応、理由を聞く事にした。
「…… 五木は、私に恋を教えてくれた」
そしてまた、ユウキは無表情を崩す事なく意味不明な言葉を口にする。
「はい? 」
数秒間、場の空気が停止させられた後、マオがやっとの思いで放った疑問が均衡を打ち破る。
「お前ら付き合ってんのか!! 晋二ィィ羨ましいじゃねぇかぁ」
マオに続いて口を開いた猛は、両目から血の涙を出しそうな勢いで晋二に詰め寄った。
「……………… 」
遥は、先程から涙目で顔を真っ赤にさせたまま、俯き固まっていた。
「違う違う。付き合ってないよ」
猛の剣幕に押された晋二は、一歩後退すると慌てた表情で両手を振り否定をした。
「…… 私がこの前の夜…… 五木の部屋に行った時に、教えてもらった」
晋二の言葉を聞いたユウキは、自分は嘘を言っていない事を証明すべく、更にこの場を混乱させる一言を無自覚で話してしまった。
「夜に、晋二の部屋って…… 」
ユウキが自分の利益の為に嘘をつく人間でない事を知っているマオは、ジト目になると晋二から数m なんとなく距離を取った。
「事後かぁぁ! 事後なのかァァァァァ!! よくも、ユウキちゃんを!! 」
羨ましいという気持ちがMAXに達した猛は、抑えていた血の涙を流しながら、晋二を哀れな目で睨んだ。
高校生とは思えない大人びた顔立ちの晋二と、同年代の男性にアンケートを取れば彼女にしたい女の子という項目で、間違い無く1位を取るであろうユウキ、美男美女の2人はお似合いのカップルだ。
そう本能的に思ってしまった猛は、やはりイケメンだけがこの世界を制するのかと、負の感情に心を支配られていた。
「ちょっと待ってよ! 誤解だよ話を聞いて! たしか、あれは4月18日の土曜日だったはず」
晋二は、必死になって弁明をはじめた。