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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
42/54

ゴールデンウィークはハワイ旅行 2

 5月3日 日曜日 午後10時00分


 マオと晋二とユウキと遥と猛の5人は、空港のロビー中央にある時計の付いたオブジェの前に立っていた。

 空港内部は、夜遅い時間であるにもかかわらず、多くの人がスーツケースを引きずりながら、忙しなく行き交っていた。


「マオォォ! 俺を誘ってくれるなんて、本当に、本当に恩に着るぜぇぇ!! 」

 派手なピンク色のアロハシャツに黒いハーフパンツとサンダルを履いた猛は、マオの両手をがっしりと掴み、これからハワイに旅立つという興奮のあまり涙を流していた。

「吉村君、大きな声出さないで、みんなこっち見てるよ」

 水色のワンピースと、大きな向日葵ひまわりの飾りが付いたサンダルを履いている遥が、猛に注意をする。

 しかし、彼女の口元はだらしなく緩んでおり、浮き足立っている事が手に取るように分かる。


「遥と猛の格好が、既に注目のまとなんだけど」

 濃い緑色のマウンテンパーカーに、黒いジーンズと白い運動靴を履いたマオが、派手な服装の2人を横目に見ると、冷静にツッコミを入れる。

「…… こっちの方がすごい」

 純白のワンピースに、同色のパンプスを履いたユウキが、左隣に立っているマオの上着を右手でそっとつまんで引っ張った。

 そして、珍しい物を見るように自分から見て右方向に視線を固定する。

「まぁ…… そうだね…… うん」

 ユウキの目線の先を追ったマオは、見たくないものを見てしまったのか、思わず目を細める。


「同級生とハワイ旅行なんて、青春やねぇ〜 漫画みたいやぁ!! 」

 ユウキとマオの視線の先には、浮かれすぎてキャラが完全に崩壊しきっている晋二が、猛よりも派手な黄色と水色のアロハシャツに、デニムのハーフパンツと、黒色のレンズのウェリントンサングラスを掛け、極め付けはピンク色のレイを首からぶら下げていた。


「晋二君、楽しそうだね! 」

 遥は、様々な人間がいる空港の中でも場違い感が半端ではない晋二を笑顔で見ながら、マオのそばまで歩み寄った。

「そうだな、正輝も来れればよかったのに」

 マオは、遥の話に同意すると、何気なく自分の気持ちを口にした。

「うん……でも、正輝の分まで楽しんで、お土産買ってってあげるんだ!! 」

 遥は、正輝の名前を聞いた瞬間、一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに元の明るい笑顔を取り戻すと、弾むような元気な口調で返した。



 4月25日 土曜日 午後4時30分


 強化訓練を終えたマオは、正輝の部屋へ向かっていた。

 そして、正輝の部屋の前に立ったマオは、最近疎遠になっている彼に対し、若干の気まずさを感じていたが、勇気を出して扉をノックする。


 マオがノックをしてから、数秒後に扉が開きグレーのスエットを着た正輝が出迎えた。

「久しぶり、正輝」

 表情の変化がなく無愛想な正輝に、マオはかすかに言葉を詰まらせながら話した。

 ここ数日、彼との会話がなかったマオは緊張していた。

「どうした、なんの用? 」

 正輝は、マオに対し無表情で素っ気ない対応をする。

「ゴールデンウィークって予定ある? 夢図書館の研修施設がハワイに出来たんだって。それで、岸田先生が俺と晋二とユウキを招待してくれたんだけど枠が余ってて、もし予定が無かったら正輝も」

「わりぃ俺もう予定入ってるわ、他当たって」

(俺は、余り物って事かよ)

 面倒臭そうな顔をした正輝は、マオの話を遮るように言葉を挟んだ。

 既に『like truth』でのバイトを約束していた正輝の言葉に嘘はなかった。


「そっか、急だったしな。ごめん」

 正輝の塩対応にマオは、無理に笑おうとしたが苦しい笑顔になってしまった。

「そんで、話は終わり? 」

 先程よりも更に素っ気なく話した正輝は、マオの顔を見る目を細める。

「あっああ」

 どうしていいのか分からなくなってしまったマオは、力なく返事をする事しか出来なかった。

「じゃ、おやすみ」

 マオから床に視線を落とした正輝は、冷たく扉を閉める。



「だな。せっかくのハワイなんだから楽しまなくっちゃな」

 マオは、正輝の事を思い出し、沈んだ気持ちを切り替えるように、頬を両手でパチンと叩くと、前を向いて遥に返事をする。


「お前ら、悪いな、待たせちまった…… ってお前、五木か!? 」

 時刻は午後10時50分、学校にいる時と同じワイシャツとスラックス姿の岸田が到着するや否や、晋二の派手すぎる身なりに驚いていた。


「まぁいいや。おい、こっちに来てくれ」

 ひとまず、晋二の服装に対し何かを言う事をやめた岸田は、近くを歩いていた空港の職員を呼び止めた。

「はい。どの様なご用件でしょうか? 」

 30代前半ぐらいの制服姿の男性職員は、丁寧な口調で岸田に問い掛ける。

「これだ」

 胸ポケットから創造免許証を取り出した岸田は、それを男性職員へ見せた。

「あっ!? いつもご利用ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

 男性職員は、創造免許証を見た瞬間、目を丸くして驚いたが、すぐに平静を取り戻すとマオ達を案内するように歩き出した。

「じゃあ、行くぞ」

 岸田のその一言を合図に、5人は空港ロビーの中を歩き出した。



「こちらです」

 マオ達は、手荷物検査も出国検査もする事はなく、待機場スポット5番へと案内されると、そこには黒いボディに青いラインの入ったプライベートジェット1機が止まっていた。

「これも司書の特権。すごいよ」

 小型ジェット機を目の前にした遥は、夢図書館の現実離れしたスケールの大きさに唖然とした様子で口を開いた。

「そうだな。普通の旅客機で行くと思ってた」

 マオも遥と同様に完全に圧倒された様子で、その場で立ち尽くしていた。

「今から、これに乗るのか!! 超セレブじゃん!! 」

 猛は、見るからに豪華な造りになっているジェット機を目の前に、両手を力強く握っていた。


「おい、お前ら何やってる? さっさと乗れよ」

 ジェット機の出入り口に続く階段をのぼっていた岸田は、立ち止まって動けずにいた3人に声をかけた。

「はい、すみません」

 そう答えたマオに、続くようにして遥と猛がジェット機に向かって歩き出す。


 そして、6人を乗せた小型プライベートジェット機は23時30分、ホノルルに向けて飛び立った。

 ベージュの厚みのあるカーペットとブラウンの革張りになった座席、個々に用意されたテーブルと液晶モニター、プライベートジェットの内装は非常に贅沢なものになっていた。


「マオ、おいマオ! 起きて! 」

 ジェット機が離陸し、6時間半が経過したところで、何かに興奮した様子の晋二は、隣で寝ているマオの肩を揺さぶった。

「…… なに? 」

 青色のアイマスクを外したマオは、眠気まなこを擦りながら、窓際の席に座る晋二の方を向いた。


 19時間の時差があるホノルルの日時は5月2日 土曜日 午前11時00分。


「海、すごく綺麗だよ」

 晋二は、自分の右側にある窓から見える景色を指差した。

 そこには、宝石のように輝くエメラルドグリーンの海、まるで旅行パンフレットの表紙の世界に入り込んでしまったと錯覚してしまう程、美しい景色が広がっていた。

「こんな景色が本当にあるなんて」

 さっきまでの眠気が完全に吹き飛んでしまったマオは子供のように、その絶景を見つめていた。


 間も無くジェット機は空港に着陸し、マオ達はハワイの地に降り立った。


「う〜〜ん!! ハワイ!!」

 照りつける太陽の中で遥は、元気に両手を快晴の空に向かって突き上げる。

 空港の外に出ると、熱を含んだ乾いた空気と至る所から生えたヤシの木、ここは日本ではないと確信するにあたる風景が広がっていた。

「…… パンケーキ」

 ここのところ、パンケーキの事で頭がいっぱいだったのかユウキは、無表情のまま両手を胸の前で握り締めながらつぶやいた。

「研修施設までは車で行く、そろそろ到着するはずだがな」

 岸田は、何かを探すように辺りを見回しながら話した。

 そして、岸田が話し終わるのとほぼ同時に、1台の銀色のバン型の自動車がマオ達の前に止まる。

「岸田司書長、ようこそいらっしゃいました。では、どうぞ」

 左側の運転席からダークスーツに身を包んだ20代ぐらいの女性が出て来ると、岸田に向かって一礼をした。

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