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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
41/54

ゴールデンウィークはハワイ旅行 1

 4月24日 金曜日 午前8時5分


 登校したマオと晋二とユウキは、本館3階にある教室に向かう為、1階の階段付近に設置された掲示板の前を歩いていた。


「あれって、校内新聞だよね? 」

 ふと、掲示板に貼り付けられたA3サイズの用紙が晋二の視界に入り、その場で立ち止まった。

「…… 遥が毎日、書いてたの? 」

 晋二の右肩辺りからひょっこりと顔を出したユウキが、無表情のまま口を開く。

「そうだよ。遥の新聞って、しっかり書かれてるから結構人気あるんだ」

 マオは、晋二の左横に立つと、文字がびっしりと書き込まれた新聞を食い入るように見つめた。


『衝撃!! 最年少司書コンビ電撃転入!!』


「おっ晋二の事が書いてあるぞ。高速創造クイックの異名をもつ五木 晋二くんは、転入初日の基礎能力測定で、圧倒的な創造スピードを披露し、実戦授業では司書レベルの戦闘を繰り広げ、同級生達を完膚かんぷなきまでに叩きのめした! 『この学校への転入を楽しみにしていました。皆さん気軽に声を掛けて下さい』おお、晋二のコメントも載ってるな」

 新聞の記事を見ると、まず最初に目に飛び込んでくる大見出しは、やはり晋二とユウキの事だった。

 マオは、友人をたたえる文章を嬉しそうに読み上げた。


「改めて新聞で見ると照れるね。あっユウキの記事もあるよ」

 晋二は、自分がベタめになっている記事をマオが声に出して読むと、恥ずかしそうに右手を頭の上に乗せる。

 そして、次の見出しを指差した。


『ミステリアスな 結晶の白雪姫クリスタル・プリンセス!! 』


「世界でも希少な結晶タイプの使い手である相川 ユウキさん。創造して出来る結晶は、まるでダイヤモンドのように美しく、その結晶に囲まれた彼女は、まさに宝石の国のお姫様のようだった」

 ユウキの特徴と魅力を、短い文章の中でしっかりと、まとめ上げた記事に感心した様子の晋二は、左手をあごに当てながら記事を読み上げた。

「…… マオの記事もある」

 顔を少し赤らめたユウキは、照れ隠しをするように新聞の中央に書かれた見出しを指差す。


「え? 」

 まさか自分の事が書いてあるとは思っても見なかったマオは、ユウキの右手人差し指が示した方向を凝視した。


『クールなダークホース 瑠垣 マオ』


「1年生の時には目立った成績が無かった瑠垣 マオくんだったが、2年生に進級すると、いきなり創造スピード3秒台という驚異的な記録を打ち立てる。そして、初の実戦授業では、現役司書の五木 晋二くんを後一歩のところまで追い詰める奮闘を見せた。今後も瑠垣 マオくんの成長から目が離せない」

 無表情のままのユウキが、棒読みでマオの記事を読み上げた。


「はははは」

(遥、俺に許可なく記事を…… )

 遥の思いもよらぬ心遣いにマオは、少し困ったように乾いた笑いをしていた。

 だが、心の中ではどこかくすぐったいような、それでいて嬉しいような不思議な気持ちになっていた。



 そして、授業を終え放課後になるとマオと晋二とユウキの3人は、岸田の部屋の中にいた。


「うぅ〜〜〜ん!! ユウキどう? 」

 左手を前方に突き出し、念を込めるようにして唸っていたマオが、右隣に立っているユウキに話し掛けた。

「…… ぼんやり集まっている…… ぐらい」

 空気中の夢粉ゆめが、ある一定の濃度を超えると視覚する事が出来るユウキは、密度が少ない細氷ダイヤモンドダストのように、キラキラとまばらに光る夢粉ゆめがマオの左手の周りに浮かんでいる事を確認すると、難色を示したように答えた。

 理由は通常、人間が創造する際に、このまばらな輝きが一点に集中し、物質の形へと変化していくように見えるからである。


「難しいな」

 ユウキの表情から結果を察したマオは、がっくりと肩を落とし膝に両手をついた。

「何でだろう? 夢粉ゆめは、人の心や思いに過敏かびんに反応するはずなのに」

 マオとユウキから少し離れた場所に立っていた晋二は、何度チャレンジしても結果が変わらない事に首を傾げていた。

「晋二が言っていた。空気中の夢粉ゆめ全体に命令を出すイメージは、出来ているんだけど。う〜ん」

 晋二のアドバイスを思い出し、自分の何が悪かったのか探す為にマオは、両手を組んで長考していた。


「おぉ、やってんなぁ」

 職員会議で到着の遅れた岸田は、頭をきむしりながら入室すると、1枚の紙を左手に持ったままマオ達の前に立った。

「なんだ、お前ら。そろいもそろって難しい顔しやがって」

 岸田は、自分への挨拶も忘れ、何かを考え込んでいる3人の顔を面白そうに覗き込んだ。

「マオの思いに夢粉ゆめほとんど反応しないんです」

 万策尽きた晋二は、助けを求めるように岸田に話した。

「五木、こう言う時は根詰めてもダメだ! お前ら、来週から始まるゴールデンウィークに、何か予定はあるか? 」

 何故なぜか妙にテンションの高い岸田は、不意に3人のゴールデンウィークの予定をたずねた。


「特には、ないです。練習しようかと」

 本当に何の予定もなかったのかマオは、考えるまでもなく平然と即答をした。

「溜まった漫画の新刊を読もうと思います」

 晋二は、創造免許証でスケジュールを確認すると冷静に答える。

「…… ないです」

 ユウキは、無表情で答えた。

「なんだ、お前ら若いのに。まぁ、そんなところだろうと思ったから聞いたんだがな。これを見ろ」

 そう言った岸田は、3人にずっと左手に持っていた1枚の書類を見せる。


「これは、前の班会議で学子さとこさんが、言っていたのですよね? 」

 晋二は、白い砂浜にエメラルドグリーンとコバルトブルーのグラデーションが美しい海の写真が大きく載せられた書類を、興味深そうに見ていた。

「そうだ、夢図書館の新しい研修施設が先週完成した。その名も、夢図書館ホノルル研修所だ」

 ハイテンションの岸田は、書類を晋二に手渡すと両腕を組んだ。

「その事と、ゴールデンウィークに何の関係があるんですか? 」

 マオは、どうして岸田がこのタイミングで、この話題を出したのかが分からず質問をする。


「いい質問だ、瑠垣。この研修施設は、今年の7月までテスト運用をする。そこでだ、お前らをテストモニターでここに招待しようと思う。勿論もちろん、俺も引率で一緒に行くがな」

 ハワイでバカンスをする自分を想像したのか岸田は、口角を上げて話す。

「おおお!! 」

 突然のハワイ旅行の提案にマオと晋二は、目をキラキラと輝かせ驚きの声を出す。

「でだ、お前らの他にあと2人分のテストモニターの枠を貰った。急な話だが、誰か誘ってもいいぞ。飛行機は5月3日、日曜日の23時30分発で、日程は2泊3日だ」

 岸田は、ズボンのポケットから日程の詳細の書かれた書類を出すとマオ達に手渡した。

「はい、ありがとうございます」

(遥と正輝を誘ってみよう)

 人生初の海外旅行にテンションが上がったマオは、嬉しそうに返事をする。

「…… パンケーキ! 」

 マオの右隣に立っていたユウキは、もうスイーツの事で頭がいっぱいという様子だった。

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