転入生 3
「入ってこい」
教室内にいる生徒達から見て右側にあるスライドドアに向かって岸田は話し掛ける。
「はい」
「……はい」
男女の返事が聞こえたのと同時にドアが開き、学生服とセーラー服姿の男女2人組が教室に入り、岸田のいる教卓付近まで歩いてくる。
「えっ………… ええーーーーーぇ!?」
転入生が教室に入った瞬間、室内は一瞬時間が止まったとも思える程の沈黙をした後、すぐに生徒達が放つ驚愕の叫び声に包まれた。
「岸田先生、転入生ってまさか…… 現役の司書ですか?」
衝撃のあまり開いた口が塞がらない生徒が多い中、驚きで目を丸くした正輝は、岸田に恐る恐る質問をした。
「そうだ、最年少司書コンビの五木 晋二と 相川 ユウキ。こいつらはお前らと同い年だ。去年の推薦入学試験の結果で学生を通り越して司書になっているが、学校生活をしたいと2人から要望があった。それに有能な司書が同じ教室にいれば良い刺激になって、お前らでも少しはマシになるだろうと夢図書館が判断した結果。今回の転入が実現した。まあ、2人は任務優先だから授業に出られない事も多いと思うがな。五木、相川まずは自己紹介しろ」
正輝をはじめ完全に動揺しきっている生徒達を見た岸田は、狙い通りの反応なのかニヤリと笑みを浮かべて両腕を組む。
男子生徒の方の転入生が一歩前へ出た。
「初めまして五木 晋二です。学校には不慣れですが、よろしくお願いします」
肩にかかる長さの綺麗な青い髪を後ろ一本で結び、清潔感のある整った顔立ちで長身の晋二は、爽やかな笑顔で一礼し自己紹介をした。
「カッコいい! 」
「背高い! 」
「テレビで見るよりもイイ!! 」
多くの女子生徒は、晋二の一挙手一投足に見惚れていた。
晋二と入れ替わるようにして、今度は女子生徒の方の転入生が一歩前へ出る。
「……相川ユウキです。…… よろしくお願いします」
相川 ユウキと名乗った無表情の少女は、冷たさを帯びた無感情な声で自己紹介をし一礼をした。
輝く様なプラチナブロンドのショートヘア、純白と言う言葉の意味をこの上なく体現している白く透き通る様な肌、すぐに折れてしまいそうな程に華奢な体に長い手足、鼻筋の通った小さな顔、大きな銀色の瞳、その幻想的とも言える現実離れした美しさを持つ少女は、どこか儚い雰囲気をまとっていた。
「!! 」
(世界にはこんなに綺麗な人がいるんだ)
ユウキのそのあまりの美しさにマオは一瞬の間、目を奪われてしまった。
「ユウキちゃんマジ天使な件」
ニヤけた男子生徒が思わず心の声を口にする。
「よくテレビにも出てて、しかもモデルもやってる相川ユウキだよな。本物!? 超かわいい! やばっ!!! 」
テンションの上がった女子生徒は我を忘れ大声を出す。
「うるせぇぞ騒ぐな!! んじゃ、お前らも自己紹介しろ」
騒々しい生徒達を一括し騒ぎを鎮めた岸田は、両腕を組み右端に座る生徒から順に自己紹介をさせていった。
「ふぁ〜ぁ。五木と相川は、そこの席に座れ」
出席番号最後の生徒が自己紹介を終えると、眠そうにあくびをした岸田が晋二とユウキに指示を出した。
「はい」
「……はい」
晋二とユウキの2人は返事をして、教室の真ん中の最後列の空席へ着席した。
2人の着席を確認した岸田は、手帳を見ながら今日の予定の詳細を話し始める。
「じゃあ、始業式は体育館の1階だからな間違えるなよ。始業式が終わったら、昼飯食って格技場の測定室に13時20分までに来い、遅れたら退学にするからな。以上だ。解散!!」
話すべき事を言い終わった岸田は、右手で頭を掻きながら教室から出て行った。
岸田が教室のスライドドアを閉めると、教室内の生徒達は体育館への移動を始めた。
体育館への移動途中、廊下を歩いているマオに1人の男子生徒が話し掛けた。
「君、瑠垣君だよね? 噂は、岸田司書長じゃなかった。岸田先生から聞いているよ! 」
フレンドリーな雰囲気の晋二は、自己紹介と同様に爽やかな笑顔で話す。
「そうなんですか」
突然、話し掛けられ気後れしたマオは、当たり障りの無い対応で返事をした。
「うん! 面白い生徒がいるって言ってたよ。俺にもいい刺激になるから、早く転入させて一緒に授業を受けさせたいともね」
マオの業務的な反応にも晋二は、笑みを崩さないまま話を続ける。
「? 五木さんと相川さんが学校生活をしたいと希望を出したのでは? 」
ホームルームで岸田が話した内容と違う内容の事を話す晋二に疑問を持ったマオは、少し驚いた様子で質問をした。
「そうだよ。実は前々から学校に行きたいと希望は出していたんだけど、なかなか夢図書館の偉い人たちが許可を出してくれなくて。緊急の任務はどうするのか? とか言ってさ。だけど岸田先生が、どうにか偉い人たちを説得してくれて、2年生になるタイミングでようやく夢図書館からの派遣って形で転入させてもらう事になったんだ! まあ任務優先だけどね。その時に岸田先生から学校の様子とか瑠垣君の事とか色々教えてもらったんだ。それを聞いたら学校がもっと楽しみになったし、やっぱり今しかできない青春をしたくてね! 」
晋二は、先程のまでの爽やかな笑顔から少し真剣な表情になって話したが最後の一言は満面の笑みを見せた。
「そうなんですね」
(岸田先生は口こそ悪いけど、ちゃんと生徒一人一人を見てくれている面倒見の良い先生なんだよな…… もし、岸田先生がいなければ、俺は進級するどころではなかった)
昨年1年生の時も岸田が担任するクラスだったマオは、彼が面倒臭がりながらもしっかりと生徒と向き合う優しい性格なのを知っており納得した様子で頷いた。
始業式でも校長から晋二とユウキの紹介が行われ当然の如く体育館は混乱状態となった。
始業式が終わり昼休み。
マオが教室に戻ると、お腹に手を当て空腹のアピールをしている正輝が近付いて来る。
「マオ〜 購買行こうぜ」
「うん」
珍しい物を見る様に、教室の後ろに顔を向けたままマオは返事をする。
「ん? どうした?」
マオの心ここに有らずといった様子で返事をした事に、疑問を持った正輝は問い掛ける。
「ほらあれ、すごい人」
正輝の問いに対しマオは、左手の人差し指を自分の視線の先へと差し、落ち着いた様子で答える。
「あ〜〜ぁ。転入生の2人かぁ」
正輝がマオの指差した方向を見ると、そこには20人ほどの人集りが出来ており、その中心にいる人物が視界に入ると納得したように頷いた。
「さっき、五木と話してたみたいだけど、何を話してたんだ?」
体育館への移動中に晋二と話すマオの姿を見ていた正輝は、興味津々といった様子で疑問を投げかける。
「別に変わった事は話してないよ。挨拶ぐらい」
マオは、何かを隠す様に晋二との会話の内容を簡略化して答えた。
「へ〜ぇ」
会話の内容を聞き出す事を諦めた正輝はやる気の無い返事をする。