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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
39/54

ユウキの目 2

その後もマオは創造を続け、30本ものロングソードを創り出していた。


「ふーぅ これで、おしまいですか? 」

足元に散らばる銀色の剣の束を見ながら、疲労困憊ひろうこんぱいといった様子のマオが、前方で1人掛けのソファーに座っている岸田に話し掛ける。


「ああ、そうだな。それで相川、瑠垣の創造はどうだった? 」

空になったマグカップを白い大理石のテーブルの上に置いた岸田が、右隣の2人掛けソファーに座るユウキに問い掛けた。

「…… どんなに時間を変えて創造しても、集合が起こっていません…… 急に物質が現れます…… マオ、最後に瞬間創造ソニックを見せて」

無表情のままユウキは、顳顬こめかみに右手を当てながら訓練結果を述べると、最後に瞬間創造ソニックのリクエストをした。


「わかった。瞬間創造ソニック

そうつぶやきながらマオは、空中にあった剣を掴むように左手を前に伸ばすと、一瞬にしてロングソードを創造した。


「…… うん」

ユウキは、何かを確信したように小さく頷いた。

「なにか、分かったのか? 」

岸田は、ユウキの顔を見ると興味深そうに問い掛けた。

「…… はい…… マオは、常に瞬間創造ソニックを使っています」

岸田の方を向いたユウキは、自分が感じたありのままの事をはっきりと口にした。

「どういう事だ? 」

岸田は、ユウキが何を言っているのか、全く理解が出来ず反射的に聞き返した。

「…… さっきも話ましたが……マオの創造は何も無い空間から急に物質が出現します…… それは、どの秒数でも共通していました…… 最後に瞬間創造ソニックを見たいと言ったのは、さっきまでの創造と比較する為…… 」

ユウキは、丁寧に言葉を選び、マオの創造について説明をしていく。

「それで、瞬間創造ソニックと比べてどうだったんだ? 」

岸田は、結果を聞き出そうとターゲットを絞った質問をした。

「…… 全く同じです…… マオが時間を掛けているだけで、実際に創造してる時間は、瞬間創造ソニックと同じだと思います…… 通常の創造よりも圧縮率が低いのは多分、瞬間創造ソニックは、圧縮率が低くなるとマオが思い込んでいるから」

ユウキは、自分の持てる語彙ごいの全てを駆使するかのように、脳をフル回転させて言葉をつむいだ。


「俺の思い込み…… 」

自分の欠点がもっと技術的な事だと思っていたマオは、自分の左手を呆然と見つめていた。

「なるほどな。たしかに、創造をするにあたり固定概念は、大きな影響及ぼす事がある」

岸田は、ユウキの立てた仮説を聞いて納得する点が多かったのか、小刻みに頷いていた。


「瑠垣、圧縮率を測定するぞ」

岸田は、テーブルの上に置いてあったノートパソコンを起動させる。

「はい、分かりました」

(俺は出来る。俺を信じろ)

マオは、生徒手帳を起動させ静脈認証を完了させると、まるで居合の達人が抜刀をする時のように、右手でさやを持ち左手で刀を持つような仕草で構える。

「いいか、相川の仮説が正しければ、瞬間創造ソニックでも圧縮率は17% 近くになるはずだ、余計な事は考えず創造しろ」

キーボードを叩く岸田は、少し緊張しているのか厳しい口調になっていた。

「はい」

(瞬間創造ソニック!! )

マオは、居合抜きをした瞬間、大太刀を創造すると左腕を水平方向に振り抜いた。


「相川、お前を呼んで正解だったようだな。15% だ」

ノートパソコンの画面を見て微笑した岸田は、楽しそうに結果を告げた。

「よし!! 」

珍しく喜びを爆発させたマオは、力強く右手でガッツポーズをした。


「これで改善点も明確に分かった。瑠垣の圧縮率が低い原因は、夢粉ゆめを集合させていないからだ」

ソファーから立ち上がった岸田は、改めて見えてきた問題点を分かりやすく説明する。

「そうですね。という事は、夢粉ゆめを手元に集める事を練習すれば、課題は解決しますね」

岸田の部屋の掃除を終えた晋二は、マオの方に向かって歩きながら会話に入ってきた。

「じゃ早速はじめよう。創造はしなくていい、空気中の夢粉ゆめを手元に集めるイメージを頭の中で作れ」

今のマオなら、何かをやってのけるそんな期待をいだいた岸田は、勢いに任せて指示を出した。

「ん〜〜ん」

マオは、全集中力を前に突き出した左手に込めてうなりだす。

「どうだ? 相川」

期待に胸を膨らませた岸田がユウキの方を向いた。


「…… 全く集まっていません」

ユウキが、きっぱりと結果を告げると。

「あれ?? 」

マオと岸田は、ガックっとバランスを崩す。


「まぁ、そんな一朝一夕には出来ないさ。毎日やって少しずつ出来るようになればいい」

マオの右肩を叩いた岸田が、彼を励ます。

「ありがとうございます」

立て続けに創造を繰り返した事によってマオの顔には、疲労の色がはっきりと見えていた。

「おっと、もうこんな時間じゃねぇか。じゃあ、今日はこれで終わりにすっか」

白金の腕時計で時間を確認した岸田は、強化訓練を終了させた。

「岸田先生。ユウキ、晋二、今日もありがとうございました」

マオは、深々と一礼をする。

「いいよ。マオだったら協力するから」

晋二は、照れたように笑いながら返事をする。

「…… マオには才能がある…… それに、友達だから」

ユウキは、恥ずかしそうに目線を横にずらしながら話した。

「ありがと」

マオは、1年間のトレーニングの末、体術や戦闘面においては飛躍的に向上したが、創造スキルに関しては停滞していた。

今日の強化訓練で自分は、まだまだ成長する事が出来る、その可能性が微かに見えた。

それを実感したマオが満面の笑みで返すと、4人は岸田の部屋を後にした。



光量の控えめな照明がテーブルや壁の濡れたような奥深いつやを演出し、蓄音機から、しっとりとしたクラッシックジャズが流れる喫茶店のカウンター席に、オレンジ色のツンツン頭の学生服を着た、10代の男の子が座っていた。


「今日も、うまいっす!! 」

純白のコーヒーカップを同色のソーサーに置いた正輝が、その洗練された味に、たまらず表情をほころばせる。

「ありがとうございます。ここのところ、毎日ご来店頂いていますね」

年季の入った木製のカウンターを挟んで、正輝の迎えに立つ翡翠ひすい色の瞳をしたブロンドヘアの男性 シンがニコニコしながら立っていた。


春休みまでの放課後は、遥とマオと一緒に過ごす事が多かった正輝だったが、この数日は、居心地の良さから喫茶店『like truth』に足を運んでいた。


「いやぁ〜 コーヒーも料理も美味しいし雰囲気も最高なので、ついつい」

ご機嫌な様子の正輝は、座っていた背の高い椅子の上で、両足をバタバタと動かしながら陽気に話していた。

「それは、光栄です」

シンは、透明なグラスを白い布で拭きながら返事をする。

店内は、緩やかでいて非常に心地よい時間が流れていた。


「来月は、ゴールデンウィークですね」

しばらく時間がつとカウンター内の最深部で、ミルを回していたシンは、おもむろに口を開く。

「そうっすね。今年は予定ないなぁ」

シンの何気ない一言に、正輝は退屈そうに椅子にもたれ掛かる。

「御友人と出掛けたりするのですか? 」

シンは、ミルを回す右手を止め正輝の正面に移動した。

「昨年までは、行ってたんすが…… 」

昨年のゴールデンウィークは、遥たちと一緒に遊びに行っていた正輝だったが、今年は全く予定を立てておらず、どこか寂しそうにつぶやく。

「申し訳ございません。出過ぎた真似を」

シンは、失言をしてしまったと、落ち込んだように謝罪をした。

「シンさん、気にしないで下さいよ。全部あいつらが悪いんっすから」

正輝は、シンの言葉を全く気にする様子もなく、明るく彼を元気付けた。

「ありがとうございます。でしたら」

シンは、何かをひらめいたように右手人差し指を顔の前で立てた。


「ゴールデンウィークの期間限定で、この店でバイトをしませんか? 勿論もちろん、バイト代は弾みますよ」

シンは、優しい笑顔を浮かべ提案をした。

「えっ? でも、校則でバイトは禁止なんすよ」

正輝にとって非常に魅力的な提案だった。

しかし、自分のバイトをしたいという気持ちと、校則との板挟みになってしまい、葛藤していた。

「その点につきましては、大丈夫だと思いますよ。お客様は来ませんから、ここのお店は人気がありませんからね」

シンは、この喫茶店の立地条件、そして客入りの少なさ、この2つが揃えば正輝のバイトは学校にバレる事は無い、その旨を話した。

「あの時は本当にすんません。シンさん、やっぱ根にもってないっすか? 」

正輝は、過去にこの店に客が入らないと取られるような発言をしてしまった。

その事を思い出した正輝は、苦笑いで話す。

「ふふ、冗談です」

シンは、口元に右手を当てがい、左目をつむり上品に笑った。

「そうっすね…… だったら、お願いします」

正輝は、うなりながら長考した末、バイトを請け負う事にした。

「ええ、助かります。では、5月3日の午前9時からスタートでお願い致します」

シンは、胸ポケットから小さなメモ帳とボールペンを取り出し、スケジュールを書き込んだ。

「はいっす! 」

今年も誰かとゴールデンウィークを過ごす事が出来る。

その事が嬉しくてたまらない正輝は、顔全体を使って笑った。

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