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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
38/54

ユウキの目 1

 4月7日 火曜日 放課後


 マオと晋二とユウキは、学校の制服のまま岸田の部屋に来ていた。


「進級やら転入やらであわただしかったと思うが、そろそろ落ち着いてきただろう。今日から瑠垣の強化訓練を再開させる。んで、今から瑠垣の創造を徹底的に調べるぞ」

 シワくちゃなワイシャツとグレーのスラックス、いつも通りの服装の岸田が、1人掛けの黒革ソファーに座ったまま口を開く。

「調べると言いますと? 」

 岸田の正面にマオ、晋二、ユウキの順で3人が横1列で並んでおり。

 真ん中に立っていた晋二が、岸田の言葉の意図が分からず質問をする。


「相川の目を使う」

 岸田は、その質問を待っていたかのようにニヤリと笑い両脚を組んだ。

「なるほど、そうですね。機械じゃ見れませんしね」

 簡単な説明だったにもかかわらず要領を得た晋二は、納得したように小刻みに首を縦に振った。

「…… 」

 ユウキも話の内容が理解出来たらしくコクリと頷いていた。

「その、目って何ですか? 」

 3人の会話に置いてけぼりを食らうマオは、恥を忍んで疑問を投げかけた。

「ああ、そうか。瑠垣は知らなくて当然だよな…… そうだなぁ。なぜ、結晶タイプの人間が具現ぐげんタイプの人間に比べ、極端に数が少ないか知っているか? 」

 岸田は、マオの質問を受け、あごに右手を当て少し考えてから、授業の時のように問題を出した。

「…… 分かりません」

 疑問文を疑問文で返されたマオは、岸田の意図を理解する事が出来なかったが、この問題に何かしらの意味があると思い、正直に答える事にした。


「これを説明するには、具現ぐげんタイプと結晶タイプの相違点について、話す必要がある。2つのタイプの相違点。それは、もちろん創造にも現れるが、1番の違いは目だ。結晶タイプの人間は、空気中の夢粉ゆめがある程度の濃度になると視覚する事が出来る。その見え方で、敵の圧縮率をおおよそで割り出したり、何を創造するか予測する事が可能だ。これは残念ながら、現在いまの技術をもってしても映像化が出来ない。だから俺達、具現ぐげんタイプの人間には、夢粉ゆめの創造による集合圧縮を視覚する手段が存在しねぇ。そこで、結晶タイプの相川の目を使えば、お前の創造をより詳しく調べる事が出来るって事だ」

 わざと遠回しに問題形式にする事で、マオの理解度を格段に高めた岸田は、両腕を組みながら懇切丁寧こんせつていねいに説明をした。

「知らなかったです」

 新たな知識を得たマオは、目からうろこといった様子で両目を見開いた。

「結晶タイプってのは、まだまだ解明されてねぇ事が多いし情報も少ない。それに扱える人間は、世界中探しても25人しかいねぇからなぁ。知らなくて当然だ」

 自分の説明に満足したのか岸田は、含みのある笑いをすると、優しくマオをフォローした。


「っで、相川。瑠垣の瞬間創造ソニックは、見えるか? 」

 岸田は、ソファーに座ったままマオからユウキに目線を移した。

「…… 速すぎて見えません」

 岸田の問いにユウキは、いつも通りの無表情で簡潔に答える。

「まぁ、そうだよなぁ。だから瑠垣、今日はスピードを変えて、かなりの数を創造する事になる。覚悟しろよ」

 岸田は、再びマオを見ると悪戯いたずら小僧のようにニヤリと笑う。

「がっ頑張ります」

 岸田の口から具体的な数字が出なかった事に、若干の恐怖を感じたマオの顔が引きつる。


「あのぉ。俺は、何をすればいいですか? 」

 今日の強化訓練で、何の役割も言い渡されなかった晋二が、岸田に恐る恐る質問をする。


「あぁ そうだな。今日のお前やる事ねぇし、この部屋の掃除だ」

 岸田は、晋二のその一言を予測していたかのように、意地悪そうに口角を上げると無慈悲な一言を発した。

「えぇぇぇ!? 」

 岸田が放ったまさかの言葉に晋二は、思わず絶叫してしまう。

「ガンバレヨ」

 岸田は、ソファーから立ち上がり、晋二の正面へ移動すると、彼の右肩に自分の左手を乗せた。

 そして、なんとも言えない威圧感を放つ目を晋二に向ける。

「りょっ了解しましたーーーぁ!! 」

 晋二は、まるで蛇に睨まれたカエルのように冷や汗を顔中に浮かべると、雑巾とバケツを持って、元気よく掃除をはじめた。


「じゃあ、30秒から1秒ずつ時間を減らして創造しろ。正確さを出す為に、創造する物質は統一しろよ」

 白いマグカップにインスタントコーヒーをれた岸田は、再びソファーに座った。

「はい。分かりました」

 静かに返事をしたマオは、学生服のそでを七部袖の高さまでたくし上げると、左手を前へ突き出した。

「相川、しっかり見てろ」

 岸田は、隣のソファーに座り、紅茶とクッキーに夢中になっていたユウキに声を掛ける。

「…… 了解しました」

 ユウキは、青いティーカップと食べかけのクッキーをテーブルの上に置いた。

 そして、斜め左前方向に立っているマオに全神経を集中させる。


 マオは、30秒間ゆっくりと時間を掛け、刃渡り90cm の銀色に輝くロングソードを創造した。


「じぃーーーぃ」

 ユウキは、創造が終わっても尚、マオの事を凝視していた。

「えっと。そんなに見られると」

 無表情とはいえ、非の打ち所がない容姿の同い年の女の子に見詰められ続けた事で、訓練とは別の緊張感に襲われたマオは、赤くなったほおを隠すように横を向いた。


「どうだ、相川? 」

 そんなマオを、岸田は御構い無しといった様子でユウキに結果を聞く。

「…… 授業中から気になっていましたが…… マオの創造は、夢粉ゆめの集合が起こっていません」

 少し困ったような顔をしたユウキは、冷静に口を開いた。

「はぁ?」

 岸田は、ユウキの言葉が予想だにしないモノだったのか、間抜けな返事をする。

「…… 通常は創造すると…… 夢粉ゆめがイメージしたモノの形に集合して、物質化していきます…… マオのは急に物質が出現します」

 普段から口数が極端に少ないユウキは、一生懸命に口を動かし補足説明をする。

「急に物質が出現する? 」

 ユウキの補足情報を聞いて、更に疑問が深まった岸田は眉をひそめる。

「…… そうです」

 自分の目で見たままの事を伝えたユウキは、小さく頷く。

「じゃあ、続けるか。次は29秒」

 理解が追いつかない岸田は、難しそうな表情をする。

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