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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
33/54

マオの才能 2

「えええーーーぇ!? 」

 現役の司書である2人と戦ってもらう。

 実戦授業初日から飛び出した、岸田のとんでもない発言に、生徒達は驚愕きょうがくし絶叫する。


「先生、いきなり司書となんて無茶です!! 」

「そうですよ! 僕らは、まともな戦闘訓練を受けてないんですよ」

「この前の基礎能力測定でも分かりましたが、実力差が…… 」

 生徒達は、岸田に考え直してもらおうと、口々にマイナスな事を言った。


「そうだなぁ。もし、勝てたら司書への飛び級を認めてやろう。これは、破格の条件だぞ! こいつらは、お前らと同い年だ。可能性はあると思うがなぁ」

 この学校の生徒なら、誰でも飛びつく条件を提示した岸田はニヤリと笑った。


 司書への飛び級、そのたった一言が生徒達の口を止めた。

「飛び級…… 」

「そうだよ。俺達、あの倍率の入学試験に合格して。厳しい進級の条件をクリアして、2年になったんだ!! 」

「やってやる! 今日、俺は司書になるぞ!! 」

 少しの間、格技場は静寂せいじゃくに包まれたが岸田の条件について、よく考えた生徒達は、次々とやる気になっていった。


「じゃあ、男は五木、女は相川が相手だ。武器は、打撲以上のダメージを負わせないもの。勝利の条件は、相手に負けを認めさせるか、武器を破壊するかだ。順番は特に決めないから、やりたい奴は前に出ろ」

 自分の思惑通りに、目の色を変えた生徒達を見た岸田は、意味深に笑うと両腕を組み直す。


「よろしく、五木君」

「おっお願いします」

 坊主頭の男子生徒と、ロングヘアの女子生徒が晋二達の前に出た。


「おっと、相川はこれを使え」

 岸田は、細長い棍棒こんぼうを創造するとユウキに投げ渡す。

「…… はい」

 ユウキは、岸田の投げた棍棒こんぼうを空中で掴むと、リーチを確認する為に両手で棒回しをした。

「お前は結晶タイプだったな。もし、圧縮率90オーバーの武器が体に当たったら、骨折じゃ済まねぇからな。ははは! 」

 今、気がついてよかったと岸田は、大笑いをした。


「これ、刃は付けてないから安心してね」

 晋二は、刀身の黒い30cm 程のダガーナイフを創造し、左手で刃の部分を握り切れない事を証明した。

「…… いつでもいい」

 ユウキも両手で棍棒こんぼうを構える。


「…… 」

(重田しげた はじめ圧縮率41% 創造スピードが10秒。道下みちした

 小雪こゆき圧縮率43% 創造スピード12秒か、この時期の2年では平均レベルだな)

 岸田は、向かい合った4人を冷静に見つめる。


「じゃあ始めるよ、五木君」

 自分の身長とほぼ同じ大きさのハンマーを創造した重田が前に出る。

「相川さん、行きます」

 薙刀を創造した道下は、突きの構えで走り出した。


 ガラスの割れるような音と共に、重田のハンマーと道下の薙刀が粉々になる。


「マジかよ? たった数回、武器同士が接触しただけで」

「あの2人、この前の基礎能力測定で、俺らとあまり変わらない成績だったよな? 」

 数秒で呆気なく敗北した2人を見て、生徒達の表情が曇る。


「どうした? 次、行けよ」

 岸田が低い声で話すと、次の生徒が晋二達に立ち向かう。


 その後も2年Aクラスの生徒達が、続々と晋二とユウキに挑むが4・5回、武器同士が接触しただけで、粉々に破壊されてしまう。


「やっぱり、無理だったんだ」

「そうだよ、いくら同い年って言っても相手は、実戦経験のある司書だぞ」

 最初は、飛び級という言葉を聞いて、希望に満ち溢れた顔をしていた生徒達だったが、無様に敗北をしていくクラスメイトを見ていった結果、次第に表情が暗くなっていく。


「たく、オメェら本当にダラシねぇな。今度は、俺が相手だ五木ぃ!! 」

 刀身が70cm の太刀を創造した吉村が前へ出る。

「君には、言いたい事が沢山あるけど。今は、まあいいよ。かかっておいで」

 自分の友人であるマオをけなし続けていた吉村が、目の前に立った事で、彼の事を良しとしていない晋二は、自然と眉間に力が入る。

 そして晋二は、ダガーナイフを低い姿勢で構えた。

ようは、お前に負けを認めさせればいいんだろぉぉぉ!! 」

 吉村は、晋二の頭部を狙い乱暴に太刀を振り下ろす。

「君に、それが出来るならね」

 晋二は、ダガーナイフを使い簡単に吉村の太刀を受け止めた。

 鍔迫つばぜり合いのような体制になった、両者の動きが完全に止まる。


「さすが、吉村」

「あの刀も壊れる気配がしない。さすが、去年の学年主席ナンバーワン!! 」

 生徒達は、一見すると優勢に見える吉村に、まだ学生にも希望があると思い、表情が明るくなる。


「!? 」

(うっ動かない? この体格差で、しかもこっちは両手だぞ!? )

 吉村は、晋二を押し潰そうと太刀を握る両腕に全体重をかける。

「うおぉぉぉぉぉ!!! 」

 晋二よりも身長が5cm 以上も高く、体重も10kg 以上重い吉村は、体格では圧倒的に有利なはず。

 しかし、涼しい顔のまま右手1本でダガーナイフを握り続け、どんなに力を掛けてもビクともしない晋二に、吉村は次第に恐怖を感じはじめる。

「…… 」

(やっぱり力任せか、なんて軽い剣なんだ)

 晋二は、焦りが見えてきた吉村の顔を冷静に観察していた。


「…… 」

(この学校は毎年、優秀な創造スキルを持つ生徒が200人も入学し、1年間の厳しい進級競争の末、勝ち残った100人が2年に上がる。更に司書課のAクラスへの配属が許されるのは半分の50人。この50人は間違いなく才能を持った人間だ。だが、この大半の生徒が2年から始まる実戦授業でつまずく。それは、創造の才能と、司書になる為の才能が必ずしも同じではないからだ。たしかに、より性能の良い優れた武器を生み出す為の、創造スキルも必要だが、どんなに強い武器を創造しようが使うのはあくまで人間だ。この時期の2年の生徒の多くが、自分には司書になる才能があると勘違いする。それは、義務教育期間からこの学校の1年までは、創造に必要な才能しか評価されないからだ)

 岸田は、晋二と吉村の戦闘を見ながら目を細める。


「くっそ!! 」

 握力の限界が近づいた吉村は、たまらず晋二から距離を取った。

「どうしたの? 俺に負けを認めさせるんでしょ」

 武器を下ろした晋二は、吉村に冷たい視線を向け、ゆっくりと一歩前に踏み込んだ。

「うるせーーぇ!! ああぁぁぁぁぁぁああ!! 」

 底知れぬ実力をもつ晋二が、近付いて来る恐怖に耐えきれなかった吉村は叫び声を上げ、無茶苦茶に太刀を振り回す。


(左・斜め右・突き・振り下ろして、右斜め上に振り上げる)

 晋二は、吉村の動きや思考すらも完璧に掌握しょうあくし、彼の太刀のことごとくをダガーナイフで受け流して行く。

「うら!! オラァァァァァ!! 」

(どうしてだ!! どうして当たらない!? ふざけんな!! 俺は、去年の学年主席ナンバーワンだぞ! 俺はこの世代最強なんだ!!! )

 晋二に、どうやっても攻撃を当てる事が出来ない。

 そう思ってしまった吉村は、我武者羅がむしゃらに太刀を振り続ける事しか出来なかった。

「はぁー」

(もう、いっぱい いっぱいって様子だね。この辺が潮時かな)

 退屈そうにため息をした晋二は、動きを加速させ急激に吉村との距離を詰めた。

「!! 」

 晋二の動きに体が全く反応しなかった吉村は、すべなく、懐に入られてしまう。

「もういい、終わりだよ」

 晋二は、吉村に向かい冷たさを帯びた声で話す。

「うっ…… 」

 晋二のダガーナイフは、吉村の首元に当てられていた。

「まっ負けた…… 」

(嘘だろ…… 学生と司書にここまでの差があんのかよ…… )

 大量の汗をひたいに浮かべた吉村は、両手から太刀を力なく滑り落とすと、崩れ落ちるように、膝を格技場の床につき負けを認めた。


「すげぇ…… 」

「あの吉村が、まるで子供扱いなんて」

 場内は沈黙をし、生徒達は晋二とユウキとの、果てしなく先の見えない圧倒的

 な実力差に絶望し落胆らくたんした。


「わかったか? これが司書の実力だ。だがな、夢図書館には、こいつらよりも強い司書はまだまだいる。だから進級したからって浮かれていると…… 本当に退学にすっぞ。で、もう誰もいないのか? 」

 落ち込む生徒達を更に追い込むように岸田は、強く厳しい口調で話した。

「…… 」

 岸田の問いに、下を向いたままの生徒達は誰1人、反応しなかった。


「いいえ、まだいます」

 場内の沈黙を破ったマオは、コートのそでを七部袖の高さまでたくし上げながら一歩前へ出る。

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