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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
32/54

マオの才能 1

「お疲れ正輝、これから晋二達と購買に行かないか? 」

 午前中の授業が終わり、マオは教室の外に出ようとしていた正輝を呼び止めた。

 土曜日の事もあり、マオは彼に声を掛ける事に若干の抵抗があったが勇気を出し、努めていつも通りに話した。

「…… 俺はいいや」

 正輝は、マオを尻目に冷たい声で答える。

「そっか。また今度な」

 この事は時間が解決してくれる、そう思ったマオは出来る限り明るく振る舞った。

「ああ、んじゃ」

 正輝は、マオに背を向けたまま教室を出て行ってしまった。



 マオは晋二とユウキと一緒に、本館1階の購買でそれぞれに昼食を購入した後、北館4階にある新聞部の部室へと向かった。


「遥いる? 」

 すっかり気持ちの切り替えの出来たマオは、部室の扉をノックする。

ふぃるほぉー(いるよー)

 ノックの返事の代わりに、扉の向こうからは遥のものと思われる声で、意味不明な発言が聞こえてきた。

「? 入るぞ」

 遥の予想外の返事に、不思議そうな顔をしたマオは扉を開いた。

ふぁっふぉー!(ヤッホー!)

 扉が開いたその先には、栗鼠りすのように両方のほおをパンパンに膨らませた遥が、キャスター付きの椅子に座り3人を待ち構えていた。

「何、食べてるの? 」

 遥が何かを食べている事は理解出来た晋二は、目を点にして彼女に問い掛けた。

ふぇもんあふ!(メロンパン!)

 晋二の質問に答える遥だったが口の中がいっぱいで、またもや発言が意味不明なものになってしまう。

「えっと。これ、どうしたら? 」

 遥の返答に晋二は、どうしたらいいか分からず固まってしまう。


「…… はい」

 口の中がいっぱいで上手く話せない遥と、それを見て固まる晋二、2人を見兼ねたユウキは、自分の為に買ったミルクティーの入ったペットボトルの口を開け、彼女に手渡した。

「ぷはぁーーぁ! ありがとう、ユウキちゃん!! 実は、メロンパンを一口で食べてたんだよ晋二君! 」

 ユウキからペットボトルを受け取った遥は、ミルクティーで口の中の物を流し込むと、まるで自分の武勇伝を自慢するかのように胸を張って話した。

「えっ? どう言う事? 」

 遥の言っている事の意味は分かるが、意図が全く見えてこない晋二は、思わず聞き返してしまう。

「記事の編集時間を確保する為に、なるべく無駄を省きたくてね! でも、ちょっと失敗しちゃった! てへぺろ! 」

 遥は、新聞部の活動時間確保の為に、昼食をなるべく早く済ませようとした結果、逆にいつも以上に時間が掛かってしまい舌を出して可愛く笑っていた。

「俺ら、来ても良かったのか? 」

 マオは、見るからに忙しそうな遥を気遣い部室を後にしようとする。

「いいよ! いつも、私の都合なんか御構い無しで来るくせにぃ! 」

 椅子から立ち上がった遥は、マオの左脇腹を自分の右肘でグリグリと、押しながら返事をする。

「ありがと、邪魔するね」

 マオがそう答えると、3人は部室の中へと入った。


「マオくん、こっち こっち」

 遥は、部室中央の会議机に向かっていたマオを手招きした。

「ん? 」

 マオは、遥に目線を合わせる為、腰を曲げ耳を彼女の顔に近づける。

「正輝いないけど、どうしたの? 」

 遥は、先程までの元気な口調とは打って変わり、正輝の事が気がかりな様子でマオに耳打ちをする。

「それが、誘っても来なかったんだ」

 マオは、難しそうな顔で答える。

「うぅん。そっかぁ」

 マオの返答に、遥の声が更に小さくなってしまう。


「…… 遥、マオ、どうかしたの? 」

 椅子にちょこんと座りメロンパンをかじっていたユウキが、マオ達に話し掛ける。

「何でもないよ。ああ! ユウキちゃん、そのメロンパンって! 」

 笑って誤魔化した遥だったが、ユウキが大切そうに両手で抱えていたメロンパンを見た瞬間、テンションが上がり自然な笑顔で話す。

「? 」

 ユウキは、自分のメロンパンに変なところがないかを調べる為に顔の前まで持ち上げ凝視した。

「私とお揃い!! 」

 遥は、デスクトップパソコンが乗っているパソコン机の上に置いてあったビニール袋を手に取ると、満面の笑みでそれをユウキに見せた。

「…… 本当だ。美味しそうだと思って、その衝動で買った…… すごい偶然」

 遥が自分の物と全く同じパッケージのビニール袋を掲げるとユウキは、驚いたように饒舌じょうぜつに話す。

 そして、最後は嬉しそうに口角を上げた。

「…… 」

 遥が無理に元気を出している事が痛い程、分かってしまうマオは、寂しそうに彼女の背中を見ていた。



 昼休みが終わり教室に戻ったマオは、学生服からふち)に白色のラインが入ったシンプルなデザインの、紺色のナポレオンコートに同色の長ズボン、今朝配布されたばかりの訓練服へと着替えた。

 晋二は、ふちに銀色の装飾が施され、左右に銀ボタンが4個づつ付いている、漆黒のナポレオンコートと同色の長ズボン、司書の制服へ着替えた。

 晋二のコートは左側のボタンが1つ開けてあり、そこからは黒いネクタイと、白いYシャツが見えている。


「やっぱり、司書の制服ってオーラあるな」

 着替えた晋二の頭から爪先つまさきまでを見渡したマオは、憧れの眼差しを彼に向けた。

「ありがとう。でも、素材は学生の訓練服と同じなんだよね」

 自分のコートを右手でつまんだ晋二は、照れ臭そうに答える。

「そうなんだ。でも、この軽さには驚いたな」

 晋二の一言でマオは、自身の足元を見るようにして訓練服を確認した。

「軽いだけじゃなくて丈夫だから。この前、任務中にバイクから落ちても、破れなかったしね」

 格技場へ向かう為に歩きはじめた晋二は、自分の失敗を、歯を見せて笑いながら話した。

「へぇ、すごいな。これ」

 廊下に出たマオは、右隣を歩く晋二の話しを聞いて目を丸くする。



 天井、壁、床の全てが淡い水色で統一され、全体的に近未来感溢れる造りとなっている格技場に晋二達が到着すると、マオと同じデザインのナポレオンジャケットに、ショートスカート姿の遥と、司書の制服を着たユウキが近付いて来る。


「お〜ぉ! カッコいいねぇ ご両人! 」

 目をキラキラと輝かせた遥は、マオと晋二を交互に見比べながら口を開く。

「でも、コートかジャケットの違いで上着のデザインは、ほぼ同じなんだな」

 遥の着ているジャケットを見たマオは、興味深そうに頷いた。

「本当だ!! 」

 マオのコートを指差した遥は、まるで子供が間違い探しで間違いを見つけた時のように、いい表情で反応をする。


「…… 」

(ユウキ、制服すごく似合ってる)

 晋二と同じデザインのジャケットに同色のショートスカート、純白の太ももと黒いニーソックス、脹脛ふくらはぎを覆う程の高さがある黒いブーツを履いたユウキが、無表情のまま立っていた。

 いつもテレビ越しに見ていたユウキの姿に、マオの両目は思わず釘付けになってしまう。


「おーぉ。集まってるなぁ、関心関心」

 色が薄くなり、所々毛玉の出来た深緑色のジャージを着た、岸田がいつも持ち歩いているクリップ付きファイルを右手に持ち、格技場へやって来た。


 岸田の姿を確認した生徒達は、速やかに出席番号順の5列横隊で並んだ。


「じゃあ、今から本格的に司書を目指す為のカリキュラムがスタートするわけだが…… 今日は、お前らに現実を知ってもらおうと思う」

 朝の顔の浮腫むくみが完全に取れ、いつもの人相に戻った岸田は、両腕を組み意味深な表情で話した。

「? 」

 多くの生徒達は、岸田の言葉の真意が読み取れずポカンとした様子で立っていた。


「五木、相川、前に出ろ」

 岸田は、そんな生徒達を気にするような事はせず、晋二とユウキを呼び寄せた。

「はい」

「…… はい」

 岸田に呼ばれた晋二とユウキは岸田のそばまで歩き進めると、並んでいる生徒達と向かい合うようにして立った。

「記念すべき第1回目の実戦授業は、この2人と戦ってもらう」

 岸田は、悪戯いたずらな笑みを浮かべながら話した。

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