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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
30/54

砂田の授業 1

 4月6日 月曜日 午前4時00分


 ♬〜 ♬〜


 突然、起こった地震の約10秒後にマオの生徒手帳が鳴り響く。

「…… 今、何時だ?」

 自室のベッドルームの床にかれた布団で寝ていたマオは、寝惚ねぼけまなこのまま、枕の左横に置いてある生徒手帳を手に取る。

「地震か…… うぅーん、起きるか」

 生徒手帳には静岡県御殿場市を震源とした、震度2の地震が数秒前に発生した事を伝えるメールが入っていた。

 普段、起床する時間よりも1時間も早いモーニングコールになってしまったが、ここから2度寝をすれば、確実に寝坊をすると考えたマオは、渋々起き上がる事にした。


「…… 」

 黒色のジャージを身にまとい、先日モールシティーで購入したばかりの、青色のランニングシューズを履いたマオは、日課である朝のランニングに出掛けた。



「いってきます」

 トレーニングを終え自室に戻り、朝食を済ませ学生服に着替えたマオは、お気に入りのカーキ色のリュックを背負い、学生寮の出入り口へと向かった。


「おはよう。マオ」

「…… おはよう」

 マオが出入り口に到着すると、2人の友人である晋二とユウキが、散りゆく桜の花弁はなびらの中、彼に挨拶をした。

「おはよう、2人とも早いね」

 いつも登校する際に、集合場所で待つ事が多かったマオが、逆に待たせる立場になってしまった事で、少し驚いたように挨拶を返す。

「…… 司書は朝が早いから…… 勝手に目が覚めてしまう…… くせ? 」

 マオの反応を見て、少し考えるように間を取ったユウキは、無表情のまま首を傾げながら口を開く。

「あはは。それ、俺に聞かれても」

 自分の事なのに疑問形になってしまったユウキを見たマオは、いつも通りの彼女に、少しホッとした様子でクスリと笑う。

「その、工藤君は? 遥は、新聞部の4月号の担当で、朝早いって言ってたけど…… 」

 先日、正輝を自分の迂闊うかつな言動が原因で、不機嫌にさせてしまった晋二は、その事をずっと気にしており、彼と仲直りするきっかけを求めマオに質問をする。

「多分、先に行ったと思う。部屋にいなかったから」

 マオは、晋二の心に負担を掛けないように平然と答える。

「そうなんだね…… じゃあ、俺達も学校に行こうか」

 ひょっとして正輝に避けられてしまったのではないかと、その思考が一瞬脳裏をぎった晋二だったが、すぐに気を取り直し学校へ向かって一歩前に出た。



「そういえば、今日から実戦授業が始まるな」

 しばらく歩き進め、前方に横一列で連なった3本の塔が見えて来た所で、マオは何気なくつぶやく。

「うん。マオをしっかり見させてもらうよ」

 マオの左隣を歩いていた晋二は、正面にそびえ立つ校舎を見ながら真剣な口調で返事をした。

「そんな、改まって見る程でもないと思うけど」

 晋二が真面目な表情で話した事でマオは、苦笑いをして答えた。

「…… 私も…… よく見る」

 晋二達の後方で歩いていたユウキは、マオの右横に回ると興味深そうに彼の顔を覗き込んだ。

「緊張するな」

 ユウキの整った造形の顔が、すぐ近くまで迫った事で思わず顔を背けたマオは、耳を真っ赤にさせてつぶやいた。


 学校に到着した3人は教室に入り、それぞれの席へ着く。


 いつもよりも15分遅れで、巨大なダンボールを両手に抱えた担任の岸田が、教室へ入って来る。

「ふぁ〜あ、おはよう。今日は、午前中に創造学科の授業やって、午後はお待ちかねの実戦授業だ」

 やけに顔が浮腫むくみ、非常に眠そうな岸田はダンボールを床に置き、あくびをしながら予定を伝える。

「っでだ。今日は、夢図書館からお前らにプレゼントがある。感謝しろ」

 そう言って岸田は、床に置いたダンボールに貼ってあるガムテープをがした。


「やっと、キタァー!! 」

「これを貰うために、夢図書館高等専門学校ここに入学したんだ」

 岸田の言葉を聞いてダンボールの中身に見当のついた生徒達が、一斉に騒ぎ出す。


「よし! 五木と相川 以外は、出席番号順に俺のとこまで取りに来い」

 岸田は、1列に並んだ生徒達に20cm 四方の黒いビニール袋を順番に手渡していった。


「まずは、遅くなったが進級おめでとう。そして、これは司書課の生徒にしか配布されない訓練服だ。これを着るからには、夢高専の名前に恥じないような行動を必要とされる。分かったか? 」

 司書の制服を持つ晋二とユウキ以外の全員に、訓練服が行き渡ったところで、岸田は両腕を組んで覚悟を問うように話した。

「はい!!」

 進級する事すら非常に難しい夢図書館高等専門学校、その中でも特に才能があると判断された生徒しか入れない司書課のAクラス。

 訓練服はそのAクラスの生徒であるあかしであり、この学校に入学した全ての者が憧れる非常に価値のある物。

 その訓練服が今まさに手元にある事で、目を輝かせた生徒達は元気よく返事をする。

「じゃあ、解散! 」

 そう告げて岸田は、右手で頭を掻きながら教室を後にする。


「おはようございます」

 岸田が退室してから間も無くして教室のドアが開き、感情がない棒読みの男性の声と共に、肩甲骨付近まで伸びた黒髪、銀縁のスクエア型メガネをかけた30代中盤の男が、室内に入って来る。


「きゃーぁ! 砂田先生!! 」

 端整なルックスの男性に、女子生徒は思わず叫んだ。

「黄色い声援をありがとう。私が、2年Aクラスの創造学科を担当する。砂田すなだ貢士こうしです。1年間よろしくお願いします」

 ユウキに輪をかけて表情の変化が乏しい砂田は、綺麗な棒読みで自己紹介を終えると、一礼をした。

「ホームルームが伸びたようですが、休憩はせず授業に入ります。午前中の授業は90分の2時限です」

 砂田は、静かにテキストをめくり授業を開始しようとした。

「えーぇ」

 休憩時間を挟まず授業を始めた砂田に、生徒達は不満そうな声を上げる。

「申し訳ありませんが、授業時間も限られているのです。ご了承下さい。全ては二日酔いで遅刻をした岸田先生の責任です」

 砂田は、棒読みのまま岸田が遅刻をした理由を淡々と述べた。

「!! 」

(あの適当教師)

 今日の岸田の妙に浮腫むくんだ顔と、いつも以上に眠そうなあくび、全てに合点がいった生徒達の心の声がシンクロした。

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