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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
3/54

転入生 2

「てか本当、学校ここって無駄に広いよなぁ」

 30分ほど歩き進め、他にも登校する生徒がちらほら見えてきた所で、正輝は痺れを切らせた様に口を開く。

「だね。今は慣れちゃったけど、初めて来た時は、この広さと設備に驚いたな」

 マオは、1年前の思い出を懐かしむ様にして周りを見渡した。


 夢図書館高等専門学校の敷地は広い。

 校門を抜けると陸上400mトラックが4面取れるグランドを正面に、生徒や職員の研究施設のある南館と、1年生から3年生の全てのクラスがある本館、そして各部活の部室がある北館の順番で3つの塔がそびえ立ち、それぞれが渡り廊下で繋げられている。

 校舎の後方には、サッカースタジアムほどの大きさを持つ、5階建ての多目的体育館があり、校舎から南に1200m離れた場所には、1年生から3年生までの全生徒が利用している学生寮が建っている。


 マオと正輝は、校舎の本館に到着すると、他の生徒で混雑する昇降口の下駄箱で白いスニーカーから上履きに履き替え、6階建になっている本館の3階にある2年Aクラスへ向かった。


 既に教室にいた十数人の生徒達は、教室に入ったマオを見るや否や、冷ややかな視線をマオに向けた。

「…… 」

 教室内の生徒達と目を合わせない様に顔を伏せたマオは、前方の黒板に貼り付けてある座席表で自分の出席番号がどの席に振り分けられているかを確認し、教室の真ん中、最前列の席に向かった。


「うそ? なんでいるの?」

「進級できたって話、本当だったんだ」

 マオを見ていた生徒達は、わざとマオに聞こえる様に心無い会話をする。


「…… 」

 マオは、自分の席に荷物を置くと、左から3列目の前から4番目にある正輝の席へ逃げる様にして移動した。

 マオが自分の左隣に立つや否や正輝は、口を開く。

「よかったなぁマオ、特等席じゃん! 」

 椅子に座っている正輝は、教卓の真正面の席になったマオに向かって、冗談めかす様に笑った。

「じゃあ、変わってくれる?」

 正輝が冗談で言っている事を分かっているマオも冗談で返した。

「そりゃ勘弁」

「だよね」

 マオと正輝が他愛のない事を言い合って笑っていると、前方から非常に小柄な女子生徒が近付いてくる。


 白い一本のラインが入った黒いセーラー服、膝が見えるくらいの高さのセーラー服と同色の黒いスカートからは、適度に筋肉の付いた健康的で綺麗な足と、白のハイソックスが見えていた。

「正輝、マオくん。おはよう♪ 」

 巨大なリスの尻尾の様な茶色いポニーテールが特徴の女子生徒は、弾むような元気な口調で2人に話し掛けた。

「おはよう。はるか、今日も無駄に元気だな」

 真正面に立った女子生徒を遥と呼んだ正輝は、笑顔を浮かべて遥の弾むような口調を真似し毒を吐いた。

「おはよう、遥」

 マオは、左手を小さく挙げて少し微笑みながら返事をした。

「正輝は、2年生になっても相変わらずだね!! 」

 大きな瞳で小動物の様な雰囲気を持つ、可愛らしい顔つきの遥はにっこり笑顔で、正輝の毒舌をいつもの事だという様子で受け流す。

「マオくんはテンション低いよ!! 朝ごはん、しっかり食べた?」

 遥は、正輝の机右横に移動して机上に両手を乗せ前屈みになって、マオに太陽の様な笑顔を向けた。

「ばっちり、食べたよ! 」

 遥の笑顔に釣られ笑顔になったマオは、左手でグッドサインを作り先程よりも元気な声で返事をした。

「合格ぅ!! 」

 巨大なポニーテールを上下に揺らし、遥も右手でグッドサインを作りマオに見せる。


「ねぇねぇ聞いた? 担任の先生、またツヨちゃんらしいよ」

 遥は、再び正輝の机に手を付き意気揚揚と身を乗り出した。

「今年も岸田先生か…… また、厳しい1年間になりそうだ」

 遥の話を聞いたマオは、苦笑いをした後に遠い目をした。

「てか遥、いつも思うんだけど、よくそんな情報を仕入れてくるよな〜 」

 右手で頬杖を付く正輝は、感心した様子で疑問を口にした。

「ふふふ、私に調べられない事はなぁーい!! 」

 遥は、腰に両手を当て非常に小さい身長の割に大きな胸を張ってドヤ顔をした。

「さすが新聞部のエース! いっその事、サポーター志望のBクラスにでも行けば良かったじゃねぇか?」

 調子に乗る遥を正輝は、笑いながら茶化した。

「もーぉ!! からかわないでよ。マオくん、また正輝がイジメるよぉ」

 遥は、リスのように頬を膨らませると、マオに助けを求めた。

「あはは、大丈夫だよ。遥は、俺より絶対才能あるから」

 マオは、乾いた笑いをしながら自虐的に遥を励ます。

「マオくん…… どんまい! 」

「ありがとう」

 遥は、逆にマオを励まそうと右手でグッドサインを作ると、マオも左手で弱々くグッドサインを作り返す。


「なんだよ瑠垣あいつ、進級早々キモくない?」

「ああ、2年生になれたからって調子乗ってんだよ」

「てか瑠垣あいつ、去年のあの成績でどうやって2年に?」

「知らねぇよ。お前聞いてこいよ」

「嫌だよ」

「てか、工藤も浦和うらわもよく瑠垣あんなやつと話すよな」

 マオが楽しそうに話をしていると、教室の所々から小声でマオを馬鹿にする内容の会話が聞こえ始める。


「あはは…… 」

 周囲の会話が聞こえたマオは、苦笑いをした。

「……マオ」

(たくっ!! こいつら2年になっても)

「マオくん…… 」

 正輝と遥は、苦笑いをするマオの顔を心配そうに見た。


「じゃあ、俺が聞いてきてやるよ」

 マオの悪口を言っていた生徒の1人が椅子から立ち上がった。

「おっ! さすがたける! 」

 立ち上がった男子生徒の前の席で座っていた軽い口調の男子生徒は、彼の事を猛と呼んだ。


 長身で体格の良い赤髪の吉村よしむら 猛がマオのすぐ後ろまで近付いて来た。

「おはようございます瑠垣先生。てか、なんで2年になってんだ? しかも、毎年競争倍率の最も高いAクラスに? 俺達まで落ちこぼれと思われるから正直言って迷惑なんだけど」

 短髪のツーブロックで敵意剥き出しの鋭い目をした吉村は、マオの背後で仁王立ちした。

「吉村くん!! 言い過ぎだよ。マオくんだって頑張ってるんだから!」

 馬鹿にした口調で一方的にマオを攻撃する吉村に、遥は少し不機嫌になった。

「…… 」

(遥さん、それってあまりフォローになってないような気が…… )

 マオは、吉村に言い返す遥に感謝しつつ、心の中でツッコミを入れる。

「浦和、工藤。お前も付き合う友達ぐらいは考えろよ。こんな教師のご機嫌を取るしか取り柄の無いイカサマ野郎と一緒にいたら、お前らの評価まで下がっちまうぜ」

 吉村は、自分よりも身長が低いマオを見下し、バカにする様に笑いを含んだ口調で話す。


「てめぇ、本当に相変わらずだな」

 先程からマオの悪口を言い続け、勝手に話しに割り込み友人を馬鹿にされた事で正輝は、蓄積された怒りによって、眉間にシワを寄せ怒りをあらわにし吉村に反発した。

「ちっ! うるせぇ、チビが」

 正輝の口調が気に入らない様子の吉村は、舌打ちをすると声を低くし威嚇いかくした。

「やんのか? 」

 凄ませた声で正輝はそう言い放ち、音を立てて椅子から立ち上がると、体格的に明らかに不利な相手である吉村を睨む。

「いいぜ。雑魚が!!」

 好戦的な性格の吉村は、犬歯を剥き出しながら凶悪な笑みを浮かべた。


「正輝やめろ!! いつもの事じゃないか」

 今にも吉村に飛びかかりそうな正輝をマオは、少し強めの口調で止めた。

「マオ!! 俺はもう我慢できねぇ!!」

 吉村を睨んだままの正輝は、怒りが収まらないといった様子で動きを止めると、教室内に非常に低い男の声が響き渡る。

「お前ら何やってる? 予鈴は、とっくに鳴ってるぞ。さっさと席に付け。早くしないと退学にするぞ」

 マオ達が前方の教卓を見るとそこには、シワの目立つ白いYシャツに藍色のスラックスとサンダル姿で、無精髭を生やし寝癖なのかクセ毛なのか所々はねている黒髪の頭を右手でいている1人の男が面倒臭そうな顔で立っていた。


「うわっ岸田きしだ!! 」

 岸田の突然の出現に驚いた正輝は、思わず大きな声を出してしまった。

「先生を付けろ工藤、退学にすっぞ」

 呼び捨てにされた事で少し不機嫌になった岸田は、目を細める。

「すみません」

 岸田に睨まれた正輝は、先ほどの威勢など微塵(みにじん)も感じさせないほど小さい声で謝る。

「たく。お前ら、もう2年なんだから少しは落ち着け。特に工藤と吉村」

 呆れた様子の岸田は、ため息混じりに話す。

「………」

「………」

 名指しで怒られた正輝と吉村は、にらみあったまま離れた。


 吉村を含め席に座っていなかった生徒達は、それぞれ自分の席へと戻り、全員が着席した事を確認した岸田は、教卓の後方に立ち黒い手帳を開く。

「欠席はゼロ。お前らの担任になった岸田 つよしだ。今日の日程を話すから、よく聞いとけ。午前中に体育館で始業式やって、午後は1年3学期最後のホームルームで配られたプリントに書いてあった通り、基礎能力測定を行う。今日の測定結果は1学期の成績に響くから気合入れろよ。最後に転入生を紹介する」

「ええーーっ!? 」

「ありえない!? 」

 岸田の何気なく放った一言で教室中はざわめく、夢図書館高等専門学校への転入は、以前通っていた学校、学年や年齢に関係なく1年生からのスタートとなり、転入生に対し飛び級制度が適用されるは、1年3学期終了時となる。

 その為、原則として2年生以上の学年に転入生が来る事はありえない。

 そのありえない事が、岸田の口から話され、教室は一種の混乱状態となった。


「黙れ、うるさい。お前らの言いたい事は分かるが、今回は例外中の例外だ」

 教室内が騒々しくなると岸田は面倒臭そうに話した。

「………………」

 岸田が声を低くし目を細くすると、先程まで騒がしかった教室は静まり返る。

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