はじめての休日 11
マオ達がボウリング場へ入ると、場内にはボールがピンを倒す乾いた音が絶え間なく響き渡っていた。
「…… これがボウリング」
連なった13本のレーンを目の前にして、自分のボウリングに対する認識が間違っていた事を確認したユウキは、興味深そうに呟いた。
「そうだよ、あそこに10本ピンが立ってるでしょ、それに向かってボールを転がして倒したピンの数で勝負するの! 」
遥は、他人が投じたボールと、それに当たり爽快な音を立てて倒れるピンを、指差しながら簡単にルールを説明をする。
「…… うん」
説明を理解したユウキは、無表情のままコクリと頷く。
「じゃあ、受付しようか」
ユウキがボウリングについて一通り理解をしたところで、マオはすぐ隣にある受付カウンターを指差しながら話す。
4人は、受付を済ませシューズとボールを店からレンタルし、丁度空いていた6番レーンに集まった。
「せっかくだから、2チームに別れて合計点で勝負しようよ!! 」
ピンク色の重量が9ポンドのボールを持った遥が、元気よく話す。
「それは、いいね! チーム分けはどうするの? 」
青色の重量が14ポンドのボールを、ボールリターンの上に置いた晋二が、遥の提案に楽しそうな笑顔を浮かべながら答える。
「じゃあ、私とユウキちゃんの女の子チームと、マオくんと晋二君の男の子チームで!! 」
遥は、白色の重量が11ポンドのボールを抱えているユウキの両肩を、自分の両手で掴みながら答えた。
「了解」
マオは、そう答えると4人全員の名前をベンチ内にある機会に入力する。
「…… 」
全員の名前が、正面モニターに表示されゲームの準備が整ったところで、1投目を投げる為に、ボールを抱えたユウキが前へ出る。
「ここの穴に指をこう入れて、後ろに腕を引いて投げるの! 」
遥は、丁寧にボールの持ち方と投げた方をユウキに優しい口調でレクチャーした。
「…… 分かった」
ボールの穴に入った指をまじまじと見つめたユウキが、小さく頷く。
「それで、1回でピンを全部倒せたらストライクだからね! 」
遥は、ユウキを応援するように両手を胸の前で握る、頑張ってポーズで彼女を送り出す。
「…… スフィーちゃんのストラップ!」
この投球でストライクを出さなければ、限定ストラップをもらう事は出来ない、最初で最後のチャンスに、ただならぬ緊張感を発しながらレーンに立ったユウキは、ゆっくりと右腕を後方に引き1投目を投じた。
「えっ? 」
ユウキの投擲したボールはレーンの真ん中を正確に捉えると一直線に転がり、正三角形に並ぶ10本のピンを全て倒した。
ボールの起動を目で追っていたマオが、驚いたように口を開く。
「おめでとうございます!! 見事、1投目でストライクを出されましたので、景品のスフィーちゃんストラップです!! 」
小走りで近付いて来た女性店員が、ユウキにストラップの入った箱を手渡し拍手をした。
「かわいい」
ピンク色の箱から取り出したストラップを両手で大切そうに持ったユウキは、思わず笑顔になる。
「あっ! 」
(ユウキが笑った)
ユウキの笑顔をはじめて見たマオは、瞬きする事を忘れ、彼女に見惚れてしまった。
「ストラップかわいい!! 私も欲しいなぁ! 」
ボウリングのピンに抱き着くティディベアのストラップを見た遥は、そう言ってボールを右手に持ちレーンに立った。
「よぉ〜し! 私もストラップ!! 」
遥は、ライフルのスコープを覗き込むスナイパーのように前方のピンを凝視すると、綺麗なモーションからボールを投げた。
「えっ嘘でしょ!? 」
遥の投げたボールも全てのピンをなぎ倒し、晋二は信じられないといった様子で、開いた口が塞がらない。
「やったぁ!! 」
遥は、まさか自分も1投目でストライクを出せるとは思ってもみなかったようで、ピンが倒れてから状況を把握するまでに数秒間を要した。
そして、脳が現実を完全に理解すると遥は、その場で何度も飛び跳ねて喜びを爆発させる。
「おっおめでとうございます! お客様も1投目でストライクを達成されましたので、景品のスフィーちゃんストラップです!! 」
再び小走りでやって来た女性店員は、立て続けのキャンペーンの条件達成に驚愕の表情を浮かべ、遥に景品を手渡す。
「かわいい!! これで、ユウキちゃんとお揃いだね! 」
ピンク色の箱を開けた遥は、そう言ってユウキの持っているストラップの横に、自分のストラップを近付けて笑顔で話す。
「…… うん」
全く同じデザインのストラップと、遥のお揃いという言葉にユウキは、嬉しそうに頷いた。
「マオ。どうやら、俺達も負けてられないようだね」
晋二は、百戦錬磨の武人のような大物感を出しながら話した。
「ああ、そうみたいだな」
マオは、左手に持った黒色の重量が16ポンドのボールを、まるでプロボーラーがするように、顔の前まで持ち上げポーズをとった。
女の子チームの連続ストライクに、闘志を燃やすマオと晋二だったが。
「うっぅ」
「あっぁ」
散々格好をつけ、勢いよくボールを投げた男の子チームの2人だったが、晋二はガター、マオは左端のピンを1本倒しただけになってしまい、情けない声を出していた。
「まっマオ! 俺達はここからだ! 」
晋二は、ガッツポーズをすると、ポジティブな一言をマオに掛ける。
「だね、巻き返すぞ晋二!! 」
このままでは終わらないと、マオは更に闘志を燃やす。
ゲームの結果は女の子チームの合計得点が552点、男の子チームは150点、マオと晋二は見るも無残に大敗した。
「ばッバカな。なぜ、ユウキがここまで上手いんだ? 」
想定外の結果に晋二は、両手を膝につき力なくガックリと項垂れる。
「…… 真ん中を狙って転がすだけ…… 五木は、余分な力が入りすぎ」
無表情のユウキは、クールにツッコミを入れる。
「ぐはッ!! 」
トドメを刺された晋二は、その場に倒れ込む。
「前に来た時もそうだったけど、遥ってやっぱりボウリング上手いな」
スコアが表示されたモニターを見ながらマオは、しみじみと話す。
「ありがとう。あの時は、正輝も一緒だったね」
笑顔で答える遥だったが、正輝の名前を口にした瞬間、表情が曇ってしまう。
「…… 」
(本当に、どうしたんだろ? 正輝)
そんな遥の顔を見たマオは、何も言えなくなってしまった。
「よし! みんな写真撮ろ! 」
気持ちを切り替えるように両手を顔の前で叩くと、いつも通りの笑顔に戻った遥がマオ達の前に立つ。
「いいね。青春って感じがするよ! 」
ついさっきまで、落胆していた晋二は、遥の提案を聞き完全復活した様子で彼女の隣に移動する。
「店員さん! こっちに来てもらってもいいですか? 」
遥は、頭上で元気よく右手を振り、近くを歩いていた男性店員を呼び寄せる。
「写真を撮ってもらってもいいですか? 」
遥は、右手に持った生徒手帳を男性店員に差し出しながらお願いする。
「はい、もちろん大丈夫ですよ」
男性店員は、カメラマンを快く引き受けると、遥から生徒手帳を受け取る。
ストラップを顔の前で掲げた遥とユウキが前に立ち、マオと晋二はその後ろでピースサインをした。
「はーい、笑って下さい。はいチーズ! 」
男性店員の掛け声と共にシャッターが押され、フラッシュが焚かれた。
「ありがとうございます!! 」
遥は、そう言って一礼をすると男性店員から生徒手帳を受け取り、撮れた写真を確認する。
「みんなには、後で送るね! 」
(ここに、正輝もいれば…… )
遥は、写真を見た刹那、悲しそうな顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
楽しいひと時を満喫したマオ達がボウリング場から外に出ると、辺りはすっかりと暗くなっていた。
「…… 今日、すごく…… 楽しかった」
バス停に到着した4人がバスを待っている中、ユウキは静かに呟いた。
「ね! 私も楽しかったよぉ!! また来ようね!! 」
ユウキに抱き着いた遥は、優しく笑うと彼女に同意した。
「うん…… また行きたい。ありがとう遥」
少し口角の上がったユウキは、小さい子供のように大きく頷いた。
そして、マオ達は間も無くしてやって来たバスに乗り込み帰路に着く。
自室に戻って来たユウキは入浴を済ませ、今日モールシティーで遥に選んでもらった白色のネグリジェに身を包み、ベッドの上に腰掛けていた。
「…… ? 」
枕の上に置かれていた創造免許証が突然、振動する。
ユウキは、創造免許証を手に取り画面を確認する。
そこには、遥からのメールが受信されていた。
今日も楽しかったね!!
私が また来ようねって言った時に また行きたいって言ってくれて すごく嬉しかったよ!!
ユウキちゃんと友達になれて 本当によかった(^^)
「…… 」
(麗花。私、1人でも友達できたよ)
遥の真っ直ぐな気持ちがこもった文面を見て、微笑んだユウキは両手で創造免許証を持ち、瞳を閉じて胸に押し当てた。