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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
26/54

はじめての休日 9

 漫太郎まんたろうで食事を終えた5人は、しばらくの間他愛の無い会話をしており、店内は明るい雰囲気に包まれていた。


「あっもうこんな時間。そろそろバス停に行こう!! 」

 生徒手帳で現在時刻を確認した遥は、モールシティーに向かうバスの発車時刻が迫っている事をマオ達に伝える。

「本当だ。もう、1時間以上もってる」

 右手首の腕時計を見たマオは、楽しいという気持ちが体感時間を、著しく早めていた事に驚いていた。

 5人は、席を立ち出入り口である扉の前に移動する。


「年寄りの店じゃが、また来とくれ」

 カウンターからわざわざ出てきた正亀しょうかめは、マオ達に向かって一礼をすると、歯を見せるように笑った。

「今日もご馳走さまでした! 店長、また来ますね! なので、お体には気をつけてください!! 」

 遥は、くるりと振り返り、正亀しょうかめに弾けるような笑顔で答えた。



「俺、これで帰るわ」

 漫太郎まんたろうを出て5歩ほど歩いた所で、正輝は唐突に立ち止まり、かったるそうに口を開いた。

「えぇ なんで? 」

 突然の正輝の言葉に遥は聞き返してしまう。

 そして、正輝の顔が昨日のように、冷たくどこか影の入ったようなモノに変わっている事に、恐れを感じた。

「言ってなかったけど。この後、用事あるんだ。もう帰らないと」

 無理矢理、笑顔を作った正輝は、そう言い残すと逆方向へ歩いて行ってしまった。

「…… 」

 遥は、遠ざかる正輝の背中を止めようと右手を伸ばしたが、掴む事も声を掛ける事も、出来なかった。


「俺が、さっき無神経な事を言ったからだよね。ごめん」

 うつむいたまま右手を前に伸ばす遥に、晋二は申し訳なさそうに謝罪をする。

「大丈夫! 大丈夫! 正輝は単純だから明日になれば、いつも通りだから!! それに用事があるって言ってたし。もう、困るなぁ! そういう事は早く言ってくれないと!! 」

 明日になれば大丈夫、遥はそう言い聞かせるように、落ち込む自分を無理に明るく振る舞った。

「…… 」

 遥が頑張って笑っている事が分かってしまった晋二は、彼女に何も言う事が出来なかった。

「ああ、正輝の事だ。明日には忘れてるんじゃないか」

 マオは、遥を安心させようと普段言わないような軽口を叩き、彼女に同意する。

「うん、そうかもね! じゃあ、バス停まで行くよ! 」

 マオの言葉で気を取り直した遥は、弾むような元気な口調で4人の先頭を歩き出す。


 遥たちがバス停に到着すると、間も無くしてバスがやって来た。

 マオ達は、バスに乗り込み7分ほど南に進んだ停留所で下車した。


「…… 大きい」

 首を上下左右に動かさなければ建物の全貌ぜんぼうを見る事が出来ない程、巨大な建造物を目の前にしたユウキは、圧倒されたようにつぶやく。

「たしかに、夢図書館本部と同じぐらいの大きさかもね」

 100m 以上は離れているにもかかわらず、視界のほとんどを占領する、壁の大半がガラス窓で出来た角張った建物に晋二もユウキ同様、モールシティーのその大きさに圧倒されていた。


「ここで別行動をします! 私は、ユウキちゃんと洋服を見てくるから、マオくんと晋二君は申し訳ないけど、どこかで時間潰してて」

 モールシティーの入り口付近まで移動した所で口を開いた遥は、右手を挙げユウキの隣に立つと、申し訳なさそうにマオと晋二に両手を合わせる。

「そうだね、それで、どこ集合にする? 」

 異性の服売り場に行く勇気の無かったマオは、遥の提案に快く賛成した。

「うぅーん。16時半に、ボウリング場の前に集合で! 」

 数秒間考えた遥は、服選びに掛かる時間を逆算し、バス停に1番近い出口付近にあるボウリング場を集合場所に指定した。

「了解」

 マオは、左手でOKサインを作る。


 会話が終わるとマオと晋二、遥とユウキが別々にモールシティーの中へと入って行った。



 遥とユウキは、一般的なショッピングモールと同じ造りになってる店内のエスカレーターを使い、2階の可愛いデザインの女性服を多く取り扱う店に入る。

「ユウキちゃんはスタイルがいいから、なんでも似合うと思うけど。まずは、これ着てみて! 」

 店の棚とユウキを見比べた遥は、彼女にフリルの付いたノースリーブの白いワンピースを手渡し試着室へと案内した。


 数分後

「…… 着てみた」

 無表情のユウキが試着室のカーテンを開ける。

「えっ ちょっと待って…… 本当にキレイ。モデルみたい」

 着替えたユウキを見て同性の遥ですら、思わず見惚れてしまう。

 キメの細い肌に輝くようなプラチナブロンド、細く真っ白な手足のユウキが、純白のワンピースを着た事で、どこか近寄りがたい圧倒的な美しさをかもし出していた。

「ちょっと、ユウキちゃんこれも着てみて! 」

 立て続けに遥は、グレーのセーターに青いミディアム丈スカートを手渡す。


 数分後

「…… 」

 無表情のユウキがカーテンを開ける。

「かわいい!! あとは、これも それから、これも!! 」

 何を着ても絵になるユウキに、遥はまるでファッションコーディネーターにでも、なったかのように両手に持った服を次々と彼女の前で広げる。

「???」

(…… 遥がコワイ)

 鼻息の荒い遥に、ユウキは状況を理解できず頭にはてなマークを浮かべていた。

 だが、今の遥には逆らわない方がいいと、本能が訴えておりユウキはそれに従った。

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