はじめての休日 9
漫太郎で食事を終えた5人は、しばらくの間他愛の無い会話をしており、店内は明るい雰囲気に包まれていた。
「あっもうこんな時間。そろそろバス停に行こう!! 」
生徒手帳で現在時刻を確認した遥は、モールシティーに向かうバスの発車時刻が迫っている事をマオ達に伝える。
「本当だ。もう、1時間以上も経ってる」
右手首の腕時計を見たマオは、楽しいという気持ちが体感時間を、著しく早めていた事に驚いていた。
5人は、席を立ち出入り口である扉の前に移動する。
「年寄りの店じゃが、また来とくれ」
カウンターからわざわざ出てきた正亀は、マオ達に向かって一礼をすると、歯を見せるように笑った。
「今日もご馳走さまでした! 店長、また来ますね! なので、お体には気をつけてください!! 」
遥は、くるりと振り返り、正亀に弾けるような笑顔で答えた。
「俺、これで帰るわ」
漫太郎を出て5歩ほど歩いた所で、正輝は唐突に立ち止まり、かったるそうに口を開いた。
「えぇ なんで? 」
突然の正輝の言葉に遥は聞き返してしまう。
そして、正輝の顔が昨日のように、冷たくどこか影の入ったようなモノに変わっている事に、恐れを感じた。
「言ってなかったけど。この後、用事あるんだ。もう帰らないと」
無理矢理、笑顔を作った正輝は、そう言い残すと逆方向へ歩いて行ってしまった。
「…… 」
遥は、遠ざかる正輝の背中を止めようと右手を伸ばしたが、掴む事も声を掛ける事も、出来なかった。
「俺が、さっき無神経な事を言ったからだよね。ごめん」
俯いたまま右手を前に伸ばす遥に、晋二は申し訳なさそうに謝罪をする。
「大丈夫! 大丈夫! 正輝は単純だから明日になれば、いつも通りだから!! それに用事があるって言ってたし。もう、困るなぁ! そういう事は早く言ってくれないと!! 」
明日になれば大丈夫、遥はそう言い聞かせるように、落ち込む自分を無理に明るく振る舞った。
「…… 」
遥が頑張って笑っている事が分かってしまった晋二は、彼女に何も言う事が出来なかった。
「ああ、正輝の事だ。明日には忘れてるんじゃないか」
マオは、遥を安心させようと普段言わないような軽口を叩き、彼女に同意する。
「うん、そうかもね! じゃあ、バス停まで行くよ! 」
マオの言葉で気を取り直した遥は、弾むような元気な口調で4人の先頭を歩き出す。
遥たちがバス停に到着すると、間も無くしてバスがやって来た。
マオ達は、バスに乗り込み7分ほど南に進んだ停留所で下車した。
「…… 大きい」
首を上下左右に動かさなければ建物の全貌を見る事が出来ない程、巨大な建造物を目の前にしたユウキは、圧倒されたように呟く。
「たしかに、夢図書館本部と同じぐらいの大きさかもね」
100m 以上は離れているにもかかわらず、視界の殆どを占領する、壁の大半がガラス窓で出来た角張った建物に晋二もユウキ同様、モールシティーのその大きさに圧倒されていた。
「ここで別行動をします! 私は、ユウキちゃんと洋服を見てくるから、マオくんと晋二君は申し訳ないけど、どこかで時間潰してて」
モールシティーの入り口付近まで移動した所で口を開いた遥は、右手を挙げユウキの隣に立つと、申し訳なさそうにマオと晋二に両手を合わせる。
「そうだね、それで、どこ集合にする? 」
異性の服売り場に行く勇気の無かったマオは、遥の提案に快く賛成した。
「うぅーん。16時半に、ボウリング場の前に集合で! 」
数秒間考えた遥は、服選びに掛かる時間を逆算し、バス停に1番近い出口付近にあるボウリング場を集合場所に指定した。
「了解」
マオは、左手でOKサインを作る。
会話が終わるとマオと晋二、遥とユウキが別々にモールシティーの中へと入って行った。
遥とユウキは、一般的なショッピングモールと同じ造りになってる店内のエスカレーターを使い、2階の可愛いデザインの女性服を多く取り扱う店に入る。
「ユウキちゃんはスタイルがいいから、なんでも似合うと思うけど。まずは、これ着てみて! 」
店の棚とユウキを見比べた遥は、彼女にフリルの付いたノースリーブの白いワンピースを手渡し試着室へと案内した。
数分後
「…… 着てみた」
無表情のユウキが試着室のカーテンを開ける。
「えっ ちょっと待って…… 本当にキレイ。モデルみたい」
着替えたユウキを見て同性の遥ですら、思わず見惚れてしまう。
キメの細い肌に輝くようなプラチナブロンド、細く真っ白な手足のユウキが、純白のワンピースを着た事で、どこか近寄り難い圧倒的な美しさを醸し出していた。
「ちょっと、ユウキちゃんこれも着てみて! 」
立て続けに遥は、グレーのセーターに青いミディアム丈スカートを手渡す。
数分後
「…… 」
無表情のユウキがカーテンを開ける。
「かわいい!! あとは、これも それから、これも!! 」
何を着ても絵になるユウキに、遥はまるでファッションコーディネーターにでも、なったかのように両手に持った服を次々と彼女の前で広げる。
「???」
(…… 遥がコワイ)
鼻息の荒い遥に、ユウキは状況を理解できず頭にはてなマークを浮かべていた。
だが、今の遥には逆らわない方がいいと、本能が訴えておりユウキはそれに従った。