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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
23/54

はじめての休日 6 〜夢のエンジン〜

 朝はまだ肌寒いものの、日中は心地よい日差しが地面を照らし、非常に過ごしやすい陽気となっていた。


 10時30分 まるで凱旋門がいせんもんのような、石造りの学校正門前に5人の若い男女が立っていた。


「みんな集まったね!! 」

 集合場所とした正門前に全員が集まった事を確認した遥は、デニム生地のジャケットの中に白いTシャツを着込み、茶色と赤色のチェックのミディアム丈スカートにヒールの低い黒色のソックスブーツを履き、いつもポニーテールにしている髪は下されており、弾むような元気な口調で右手を天に突き上げた。

「…… うん」

 遥の隣で無表情で頷いたユウキは、襟元えりもとに紺色の大きなリボンの付いた純白の長袖のブラウスと、リボンと同色のミモレ丈スカートに黒色のタイツと深茶色のブーツを履いている。

「おお! 似合ってるよ、ユウキ」

 グレーのテーラードジャケットに白のVネックシャツ、茶色のスラックスと白いローカットのスニーカーを履いた、晋二がユウキを褒める。

 普段、全くおしゃれをしないユウキが清楚な服を着飾った事で、晋二は目を丸くしていた。


「!! うん、すごく似合ってる。だけど、遥こんな服持ってたっけ? 」

 黒のマウンテンパーカーに色の濃いジーンズとカジュアルな運動靴を履いたマオは、神秘的な雰囲気をもつユウキの魅力を最大限に活かしたコーディネートを見て、心臓が大きく飛び跳ねたのと同時に、彼女に服を貸した遥が、1度もこの服装をしているところを見た事がない事に疑問をもった。

「うん、一応ね…… 」

(実はこの服、お母さんがサイズ間違えて買ってきたのなんだよね…… )

 遥は、マオの質問にバツが悪そうに苦笑いで答えた。


「よぉーし!! それじゃ出発しよ! 駅はあそこだよ!! 」

 気を取り直した遥は、うさぎのように小さく跳ねながら、マオ達の前に出ると、正面を指差した。

「駅って、こんなに近かったの!? 」

 学校の正門から片側2車線の道路を挟んですぐ向かいに駅があった。

 これから、しばらく歩くのだろうと思っていた晋二は、驚いた顔で思わず口を開く。

「あれ? 晋二達は、電車で来たんじゃないの? 」

 目の前にそびえ立つ銀色の駅と晋二の表情を見比べながら、マオは疑問を口にする。

「前にも言ったけど直前の任務が長引いて。翌日の新幹線の始発を待っていたら、始業式に間に合わないから、深夜に車で移動して来たんだ」

 目の前にある、横断歩道の向こうで赤色に光っている歩行者用信号機を見ながら、晋二は答える。


「駅がこんな近いなら、わざわざ寮に住まなくても通えるんだけどな」

 信号機が青色に変わり横断歩道を歩いている最中さいちゅう、今まで口を閉ざしていた正輝が退屈そうに話した。

 正輝は、白色のパーカーと緑色のボトムスを穿き、赤色のスニーカーのかかとを擦るように歩いていた。

「うん、私と正輝の家からなら電車通学も出来るけど。全寮制って校則だからね! 」

 後ろを歩く正輝の独り言のような言葉に、遥は優しく反応した。

「えっ? 遥と工藤君って、実家が近いのかい? 」

 2人の何気ない会話に、興味をもった晋二は質問をした。

「うん、そうだよ! 幼稚園の頃からの幼馴染で、すっごく仲良しなの! ねっ正輝♡! 」

 遥は、歩きながら後ろを向いて正輝にウインクをする。

「ただの腐れ縁だ。昔のお前は、俺にずっと付きまとって、ウザかった」

 横断歩道を渡り終えたタイミングで、正輝が意地悪そうな表情を浮かべ嫌々と話した。


「幼馴染! 俺には、いないから羨ましいよ」

 自分の境遇きょうぐうから、幼馴染に憧れをいだいていた晋二は、興味津々だった。

「ちょっと、正輝ぃ? 昔の話はそこまでだよ!! 」

 遥は、何故なぜか急に慌てだし、正輝がこれ以上この話題を続けないように釘を刺す。

「分かった。あの事は絶対に言わねぇよ」

 慌てた遥の反応が面白いと思った正輝は、いつもの調子で更に彼女を揶揄からかった。

「あの事って何かな? ワタシワカラナイ」

 遥は、先程とは打って変わり満面の笑みで話す。

 しかし、顳顬こめかみ には怒りマークが浮き出し、目は全く笑っていなかった。

「…… おっおう」

 遥の笑顔の威圧に、恐怖を感じた正輝は目を逸らす。

「…… 」

(遥に昔の事を聞くのは、やめておこう…… )

 遥に幼少時代の思い出を聞こうとしていた晋二は、彼女が浮かべる無敵の笑顔の前に思いとどまった。


 マオ達は、多くの人が行き交う入り口を通り、広い駅の中へ入った。

 休日という事もあり、駅は混雑していた。


 5人は切符を買い、改札を抜け駅のホームへ到着する。


「そういえば、晋二。お父さんが夢図書館の研究者って話してたけど、何の研究をしてるんだ? 」

 黄色のホームドアの前に立ったマオは、かねてから疑問に思っていた事を、晋二に聞いてみる。

「たしか今は、夢粉ゆめの分子構造解明の研究をしていて。昔は夢粉ゆめエネルギー実用化プロジェクトの研究チームにいたよ」

 マオの右隣に立つ晋二は、あごに右手をあて少しの間、考えた後に若干照れた様子で答えた。


「えぇぇ!? 」

 周りに大勢の人間がいるにもかかわらず、晋二の話に驚愕したマオと遥は絶叫した。


夢粉ゆめエネルギー実用化プロジェクトって、世界のエネルギー問題を解決させたっていう、あの? 」

 珍しく取り乱した様子のマオは、数秒間の沈黙の後に恐る恐る口を開いた。

「うん。500年ぐらい前に、地球上の資源は枯渇寸前まで追い込まれたけど、当時の研究者 高宮たかみや 真斗まさとが開発した夢粉ゆめのおかげで、鉱物などの資源不足は補われた。でも、化石燃料はそうはいかなかったんだ。燃料として機能させる為には、分子構造を完璧に把握していなければいけないから、本当に限られたごくわずかな人間にしか、創造する事が出来なかった。しかも、圧縮率には個人差があるから、世界で必要な量を創造だけで安定供給する事は不可能だったんだ。そこで、存在そのものがエネルギーである夢粉ゆめを、創造以外の方法で、他のエネルギーと置き換える事が出来ないか? その研究の為に、世界中を巻き込んだプロジェクトが発足し、親父はその一員だったんだ」

 いつも父親からこの話を聞かされていたのか、晋二は砂利の上に置かれた線路を見ながら、誇らしげに話した。


「すごい! すごい! すごい! それって、世界を救った内の1人って事だよね! 私達が生まれる前の事だけど、すごいニュースになったんだよね!! 」

 晋二の父親が歴史に名を残すプロジェクトの一員だった事に、遥は興奮を抑えきれず、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「本当にすごいよ。中学の教科書にも乗ってるプロジェクトだから。でも、実際どうやって、エネルギーを生み出してるんだ? 」

 マオは、自分の心を落ち着かせるように、ゆっくりと話した。


「………… ええっと。夢粉ゆめがエネルギーだって事は、明確な事実だったんだけど、燃やす事が出来ないんだ。それに、創造する以外に何が出来るのか、全く分からなかった。そこでプロジェクトは、まず夢粉ゆめそのものについての、研究をするところからスタートしたんだけど。一体、夢粉ゆめが何で出来ているのか? どうして、イメージしただけで物質化が出来るのか? それすらも解明できないまま、何年も時間を費やした。そして、ようやくかすかな手がかりとなる瞬間を見つけたんだ」

 しばらく間を取って、頭の中で言葉をまとめた晋二は、マオ達に伝わりやすいように強弱をつけて話した。


「その瞬間って? 」

 食い入るように聞いていたマオは、早く続きが聞きたいと口を動かした。


「研究が行き詰まってた時に、偶然見つけた事みたいなんだけど、夢粉ゆめは創造をした瞬間に、熱を吸収する事が分かったんだ。この発見から研究は大幅に躍進やくしんし、創造した物質を元の夢粉ゆめに分解する事が出来れば、エネルギーを生み出せる事が出来るという仮設にたどり着いた。そこからは、物質を分解する研究を続け、5年という歳月を掛けようやく分解に成功して仮説を立証させた。そして、物質を効率良く分解し、より多くのエネルギーを生み出す工程こうていを自動化させた装置〝夢のエンジン〟の開発に成功したんだ。エンジンの燃料は創造に失敗した物質や廃材で、空気中に排出するのは、分解された夢粉ゆめだけだから、環境に負担を掛けない無限のエネルギーサイクルを作り出した。これで、大丈夫かな? 」

 自分の持てる全ての知識を使い、専門用語を使わず、分かりやすい言葉で解説をした晋二だったが、きちんと伝える事が出来たのか不安な様子でマオ達の顔を見る。

「うん、大丈夫だよ! すごく分かりやすかった」

 マオは、まるでベテラン教師のように詳細でいて理解が容易い晋二の説明に満足し大きく頷く。

「うん うん! 」

 マオの左隣に立っている遥は、晋二の説明を完璧に理解出来た様子で言葉と同時に2回頷いた。

「よかった! 」

 マオと遥の反応を見た晋二は、胸を撫で下ろす。


「随分、詳しいんだな」

 話を横目で聞いていた正輝は、素っ気なく話した。

「あはは。親父がいつも自慢してくるから、覚えちゃってね」

 照れ臭そうに笑った晋二は、嬉しそうに答えた。


「…… あっ電車」

 車輪がレールの上を通過する音と共に、近付いてくる銀色のボディに、1本の青色のラインが入った車体を見つけたユウキは、右手人差し指を差しながら、無表情のままつぶやいた。

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