はじめての休日 4
朝食を食べに来た多くの生徒で混雑するフードコートに入ったマオ達は、個々に好みの料理を選ぶ為、自由に歩き回っていた。
「マオ、朝は何にするの? 」
マオの右隣を歩く晋二は、視界に入った様々なジャンルの店を見回しながら話す。
「昨日の夜ラーメンだったし、バランス考えて定食にしようかな」
昨晩、大好きな物を食べたマオは、それを考慮し吟味するように目の前に並ぶ10を超す店を見比べながら答える。
少し歩いた所でマオは立ち止まった。
「晋二。俺、ここにするよ」
こんがりと焼ける魚の匂いに食欲を刺激されたマオは、黒い瓦と仮漆の塗られた奥深い艶を出す木目が特徴的な、和食屋から伸びる列に向かって歩き出した。
「あっいいね! 俺も魚にしよう」
昨日、夕食の時に和食が好きだと話していた晋二は、鼻腔を誘惑する香ばしい匂いに勝てるはずもなく、マオに続いて歩き出す。
マオが列の最後尾に並ぶと、目の前に見覚えのある緑色のジャージを着た人物が立っていた。
「おはよ、 正輝」
マオは、パジャマ姿でフードコートに来ていた正輝に声を掛ける。
「おす、マオ。五木も一緒か」
後方から声を掛けられた正輝は、マオの立っている方へ振り向くと、いつものイタズラ小僧のような笑顔で返事をした。
「おっおはよう、工藤君」
昨日の夕方、学生寮1階ロビーで正輝に向けられた、敵意のこもった目を心のどこかで引きずっていた、晋二は彼に苦手意識をもっていた。
しかし、正輝と友達になりたい、その一心で勇気を出し彼に話し掛けた。
「おす」
マオに続いて列に並んだ晋二に、正輝は表情1つ変えず挨拶を返す。
「!! 」
正輝が挨拶を返してくれた、ただそれだけの事が嬉しかった晋二は、胸のつかえが取れスッキリとした気持ちになった。
「体は大丈夫? 」
昨夜と同様に普段通りの正輝を見たマオは、心から安堵したが、彼が無理をしている可能性を拭い切れない為、あえて質問をした。
「ああ、一晩寝たら元気になった。心配ありがとな」
(それ、聞くの何回目だよ)
正輝は、照れ臭そうに頭を掻きながら返事をする。
しかし、昨日から再三に渡って自分の体調を心配するマオを面倒だと思ってしまった。
「てか、マオ達はなんでそんな格好してんだ? 」
この学校の校則では、寮に帰ってからの服装は任意となっている為、寮内で制服などの校内で着用を義務付けられた物を好んで着る者はいない。
その為、マオと晋二が揃って学校指定ジャージを着ていた事に疑問を持った正輝は、それとなく理由を聞いた。
「ああ、これ? 今日は、晋二の荷解きと、部屋作りを手伝ったから。ちなみに、遥はユウキの部屋を手伝ったよ」
正輝が探りを入れているなんて知る由も無いマオは、何気なく答えた。
「ふーん。そっか」
(そんな事、遥のメールには書いてなかったぞ。どうして? )
首を上下に小刻みに振り正輝は、素っ気なく答えた。
マオの返事から、自分には部屋作りの事を知らされていなかった事実が分かると、仲間外れにされているのではないかと思ってしまい、正輝の心に不安が残る。
「今から、遥たちと朝飯食べるけど正輝も一緒にどう? 」
ここからは、正輝を含めた5人で楽しい学校生活を送る事が出来る。
そう思ったマオは、彼を誘わずにはいられなかった。
「そうなの? じゃあ、行くわ」
正輝は、マイナスな思考に陥りそうな自分をなんとか踏み止まらせ、平静を保ちながら答える。
マオは焼き鯖定食、晋二は焼き鮭定食、正輝はハンバーグ定食の乗ったプレートを持ち、予め集合場所にしていたフードコート右端にある6人掛けのテーブルへ向かった。
「おかえり。あっ正輝、おはよう」
マオ達がテーブルに到着すると、既に椅子に座っていた遥は、3人に右手を振って合図をする。
そして、正輝の顔を見つけて声を掛けると、ホッと一安心したように微笑んだ。
「…… おす、遥。てか、お前なんかあったのか? 」
昨晩、あからさまに不機嫌な態度を出し、逃げるようにして自室に帰った正輝は、遥を見た瞬間、気まずそうな顔をして挨拶を返した。
だが、いつもよりも元気の無い彼女の声に違和感を感じ質問をする。
「あぁこれ? ちょっとね」
遥は、ユウキに服を貸した時の事を立て続けに話すのは心がもたないと思い、曖昧な返事をする。
「そっか」
(昨日メールで、困った事があったら話せって言ってたのに、自分は話さないのかよ)
軽い口調で言葉を返した正輝は、遥が複雑な表情を浮かべ返事を誤魔化した事で、深くは追求しない事にした。
しかし、事情を知らない正輝は、遥が矛盾した事をメールで送ったと思ってしまい、疑問を抱く。
「…… 」
遥の右隣に座っていたユウキは、不意に正輝と目が合うと、困ったように視線をずらした。
「…… 」
(なんだ? そんなに、俺が気にいらないのか? )
昨日、無意識のうちにユウキを睨んでしまい、その事を1日経った今も気にしているなど、思ってもみない正輝は、彼女に目を逸らされた事に苛立ちを覚えてしまい、眉をひそめる。
「ほら、正輝。立ったままじゃあれだから、座って飯でも食いながら話そう」
料理の乗ったプレートを持ったまま話していた正輝に、早くみんなと楽しい会話をしながら、朝食を摂りたいと思っていたマオは、彼に座るように提案した。
「あっああ。そうだな」
マオの一言で我に返った正輝は、テーブルの上にプレートを置いた。