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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
12/54

瞬間創造(ソニック)

「…… 」

(この学校の地下には、岸田先生専用のトレーニングルームがある。普段は教師をしている岸田先生だが、もう1つ司書長という肩書きを持っていて、任務要請があれば最前線におもむき、司書を導く役目がある。その為、実戦の感覚を失わないよう日々トレーニングをする必要がある。そんな事を学校に言って無理矢理用意させたのがここ)

 学校の物置として用意されていたはずの地下スペース、本館1階にある進路指導室の床下に設置された吊るし階段を下るとすぐ目の前には、まるで高級マンションの玄関に備え付けられているような黒い扉が立ちはだかり、その前にマオは立っていた。

 一般的に教師に呼び出される事に対して、良いイメージを持つ者は少ないが、とある事情で昨年からこの部屋へ頻繁に足を運んでいたマオは、岸田に呼び出された事にマイナスのイメージを持っていなかった。


「失礼します」

 銀のドアノブを左手で回し、マオが部屋に入った。

「やっぱり再測定ですか? 」

 そして、丁寧に扉を閉めると、マオは自分がなぜ岸田に呼び出されたのか薄々見当がついていたが、確認する意味を込めて質問をした。

「まぁ学校の機材だと記録に残っちまうからな。俺ので測定しなおすぞ」

 ご機嫌な様子の岸田は、自分の正面から入って来たマオを白いマグカップに入ったコーヒーを飲みながら、1人掛けの黒革ソファーに座ったまま迎える。


 岸田の部屋は、元が物置として造られていた事もあり、全面がコンクリートで出来ていた。室内は広めのコンビニエンスストア程の広さがあり、部屋の前半部分は圧縮率と創造スピードの測定を行う為のスペースと専用の機材、それから応接室にあるような黒革張りソファーと黒檀コクタンのローテーブル、そして生活に必要な家電製品が備わっており、この部屋で生活する事すらも可能な程の設備が整っていた。

 さらに部屋の後半部分はベンチプレスやボートマシーン、トレッドミルをはじめとした各種筋力トレーニング器具がそろっている。

 ちなみに、これらの設備は全て岸田の私物である。


「はい、お願いします…… その前に、一つ気になる事があるのですが? 」

 再測定と聞いて心なしか表情が引き締まっるマオだったが、左斜め前方向が気になるようで視線をそちらに向けた。

「なんだ瑠垣? 」

 真剣な表情でマオが質問をすると岸田は聞く体制をつくる為、マグカップをローテーブルの上に置いた。

「そこの2人は? 」

 マオは、岸田から見て斜め右手前方向を見たまま恐る恐る話す。

 そこには、晋二とユウキがマオから見て縦向きに置かれた2人掛けのソファーに座っていた。

「お邪魔してます」

 湯気の立つ湯呑ゆのみの中の緑茶をすすっていた晋二は、いつも通り爽やかに挨拶をした。

「…… こんにちは? 」

 なんと話していいのか分からず挨拶を疑問形にしてしまったユウキは、右手にティーカップに入った紅茶を、左手にはバタークッキーを大切そうに持っていた。

 岸田の部屋でくつろぐ、晋二とユウキの2人は完全にリラックスモードだった。


「2人にアレを見せるのですか? 」

 リラックスする2人とは裏腹にマオは、何かを恐れるように声を低くして岸田に問い掛ける。

「ああ。遅かれ早かれ、この2人には言うつもりだったんだ。口で言っても信じねぇだろうから、直接見せようと思ってな。んじゃん測るぞ。創造スピードと同時測定じゃあまり正確ではないが一応、圧縮率も測る」

 岸田は、あらかじめローテーブルの上に用意してあった自前のノートパソコンを起動させる。

「はっはい」

 マオは、慌てて学生服の左胸ポケットから生徒手帳を取り出す。

「五木、相川。よぉく目を開けて見てろよ」

 意味深な事を言った岸田は、マオから生徒手帳を受け取ると、ノートパソコンへ差し込み、創造履歴の読み取りを始める。

「? 」

「? 」

 晋二とユウキは、岸田の言った事の意味は分からなかったが、彼のいつにもなく真剣な表情と声のトーンから緊張感が伝わり固唾を飲んでマオを見る。


「…… 」

 目の前に立体モニターが浮かび上がった事を確認したマオは、無言で岸田から処理の終わった生徒手帳を受け取ると、学生服のそでを七部袖の高さまでたくし上げ、左腕をゆっくりと前に差し出した。

「じゃあいくぞ。1 2 3 」

 岸田の合図と共にジャックナイフ、日本刀、ロングソードが画面に映し出された。


 !!!!!


 マオが創造を始めた瞬間、晋二とユウキは自分の目を疑った。

 理由は、マオの創造スピードが肉眼で追いきれる速さではなかったからである。

 そして、瞬きする暇も無い程の速度で3つの創造を終えたマオは、ゆっくりと左手を下ろす。


「圧縮率が7% 。創造スピードは0.02秒」

 マオの理解不能な創造に晋二とユウキが呆気あっけに取られている中、岸田は特に驚いた様子もなく測定結果を告げる。


「ありえません!! 一体これは、どうなってるんですか!? 通常、夢粉ゆめは圧縮率が10%以上なければその形状を維持する事が出来ず、物質化が出来ないはずです!! それから、どんなに創造慣そうぞうなれしている物質でも人間の脳の構造上、創造スピードが3秒を切る事なんて不可能だと夢図書館の研究者が証明して、ちゃんと論文もあります。なのに、このスピードは? 」

 結果を聞いてパニックを起こした晋二は、持っていた湯呑ゆのみを乱暴にテーブルへ置くと、勢いよくソファーから立ち上がる。


「気持ちは分かるが、落ち着け五木。俺もアレを初めて見た時は正直、自分の目がおかしくなったと思った。だが、瑠垣の測定を繰り返し行う事で、これが現実だと理解した。そして瑠垣と一緒に1年間この瞬間創造ソニックについて研究をしたが、これがどんな原理なのか、なぜ圧縮率がここまで低いのに創造が出来ているのか、何1つ分からなかった」

 興奮して我を忘れている晋二に、岸田は諭すようにして冷静に答えた。

「ふぅーーぅ。この事は夢図書館に報告したんですか? これだけの創造スピードがあれば即司書になれると思いますが」

(まさか、マオがここまでの能力を持っていたなんて)

 興奮さめやらぬ様子の晋二は、自分を落ち着かせようと深呼吸をすると、岸田に質問をする。

 今まで、自分の世界最速の創造スピードに自信を持っていた晋二だったが、それを軽々と超える存在を目の当たりにし、内心ショックを受けていた。

「まだ、報告していない」

 岸田は、コーヒーを1口飲んでから悪怯わるびれる様子も無く答える。

「規則違反です。この学校において優秀な人材の発見報告は最優先事項のはずですよ」

 岸田のまさかの答えに晋二は、不満そうな顔をして言い返した。

「バーカ! そんな事は分かってる。だが、今の瑠垣を実戦投入してみろ、いくら創造スピードが速いからって圧縮率がアレなら、敵の武装を破壊するのに、何回創造するのか見当もつかねぇだろ。もし、敵が夢獣ピエロだったら、いくつ武器が必要になるか分かったもんじゃねぇ。もし作戦中に瑠垣の集中力が切れて創造が出来なくなったらどうする? お前がかばいながら戦うのか? それとも瑠垣を見殺しにするのか? 」

 目の前の規則ではなく、マオの事を長い目で考えている岸田は、乱暴な言葉ながら懇々(こんこん)と晋二に説明した。


「すみません。取り乱しました。それと、この事は自分達以外に知っている人はいますか? 」

 岸田の優しさが伝わり正義感だけで動いていた自分を反省した晋二は、ソファーに座りなおした。

「知っているのは、俺とお前ら、そして砂田すなだだ」

 岸田は、話しすぎでかわいたのどうるおす為に、コーヒーを一口飲む。

「たしか、研究者の砂田博士ですよね? 」

「そうだ、とても俺だけじゃ瑠垣の瞬間創造ソニックを研究する事は出来ないから声を掛けた。あいつは俺と同期で夢図書館内でも3本の指に入る研究者だ。まぁ今は夢図書館高等専門学校ここの創造学科を担当している教師だがな」

「前にも、砂田博士が最も信頼できる研究者だと言ってましたよね。ですが、博士が手伝っても瞬間創造ソニックの事が分からなかったんですね」

 今まで3人しか知らなかったマオの秘密を教えてもらい、岸田からの信頼を勝ち得た晋二は、嬉しそうに頷く。

「そうだ。砂田なら瑠垣の事を知っても言いふらしたり、研究の為のオモチャにする心配もないしな。お前らもこの事は口外しないでくれ」

 常にマオに危害が加わらないように、考えを巡らせていた岸田は真剣な表情になる。

「はい」

 岸田の熱意を感じた晋二は、彼の目をしっかりと見て返事をした。

「…… 」

 ユウキは、小さくコクリと頷く。


「マオっていつから、その瞬間創造ソニックが出来るの? 」

 晋二は、岸田から視線をマオに移すと率直な質問をした。

「実は分からないんだ。去年の1学期期末試験の前に岸田先生から、ここに呼び出されて、このままじゃ2年生へ進級出来ないからって、実技の訓練を個人的にしてくれたんだ。その時に、瞬間創造ソニックが出来ることが分かって」

 困ったようにあごに左手を当てたマオが、申し訳なさそうに答える。

「っえ、いきなり? 」

 予想外の回答に晋二は、拍子抜けし間抜けな声を出した。

「うん…… いきなり」

 マオは、バツが悪そうに苦笑いをして小さく頷く。


「あまりにもセンスが無かったから、せめて創造スピードだけでもと思って、1回試しに圧縮率を気にせずに創造してみろって言ったら急になぁ。あの時はビックリしすぎて、頭がおかしくなりそうだった。まぁ圧縮率の事もあるが、試験で瞬間創造ソニックなんてやったら夢図書館の上は黙っちゃいない…… だから去年、瑠垣を目立たせないように創造スピードが15秒を下回らないよう指示をした。それからは、俺とマンツーマンでトレーニングして圧縮率17% を維持したまま3秒台の創造がつい最近、可能になったってわけだ」

 困っているマオを見かねた岸田は、コーヒーを飲みながら呟いた。


「…… 岸田司書長。どうすれば…… 司書にしてくれますか? 瑠垣君が任務でいてくれれば戦力になります」

 大好きなクッキーを食べるのをめ、ソーサーの上に置いたユウキは、いつもよりも少し大きな声で岸田に質問をする。

「珍しいな、相川が固執するとは。やっぱり圧縮率だな、最低でも40% は欲しい。そこで、お前らにミッションを与えよう。これまで通り俺も協力をするが、お前らの力で瑠垣の圧縮率を40% 以上にしてみろ! お前らの転入に力を貸したのは、この為でもあるんだからな」

 ニヤリと笑った岸田は、両手を組んだ。

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