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paradox 受け継がれる可能性  作者: ナカヤ ダイト
進級と転入生 編
10/54

基礎能力測定 2

「やっぱ、現役の司書ってすげぇな」

「ああ、でも俺達と同い年だぜ」

「いや待て待て!! 相川さんと俺らを一緒にするのは流石さすがに失礼だぞ。生まれ持ったモンが違う」

 結晶タイプであるユウキの創造を初めて目の当たりにした生徒達は、まるで好きなアーティストのパフォーマンスを目の前で見たかのように、興奮冷めやらぬと言った様子で口々に感想を述べていた。


「でっお前ら。俺は一列で並んでろと言ったはずだよな」

 綺麗に縦一列で並んでいたはずの生徒達が、ユウキの創造見たさに列を崩し火事現場の野次馬の様になっていた。

 言った事を守れない生徒達に、呆れた様子の岸田は元々低い声を更に低くし、ジト目になって注意をした。

「すっすみません」

 岸田に注意された事で我に返った生徒達は、萎縮いしゅくし引きつった顔で口々に謝罪の言葉を述べる。

「ああ待て。時間がもったいねぇ。お前ら、もうそのままでいい。順番が回ってきた奴は前に出ろ」

 元の縦一列に戻ろうとした生徒達を岸田は、面倒臭そうに頭をきながら止めた。


「次2番って…… そうか、五木かぁ!? 続くな転入生」

 あいうえお順の出席番号で相川の次が五木、転入したばかりの司書が連続した。

 この事は完全に盲点だったらしく、クリップ付きファイルにじられたクラス名簿を岸田は目を丸くして見直していた。

「出席番号、あいうえお順ですからね。測定お願いします」

 爽やかにそう言った晋二は、岸田に会釈えしゃくをして右手を前方にかざす。

 そして、3秒ほど時間を掛けて刀身の黒い刃渡り30cm 程のダガーナイフを創造した。

「任務で、よく使ってるのだな69% か、まだまだ修行が足りねぇな」

「これが一番、創造慣そうぞうなれしてますから。うぅ〜ん、もう少し伸びていると思っていました」

 司書平均の圧縮率が70% それを1% 下回った事で難しそうに眉を寄せた晋二に、岸田は元気付けるように言葉を掛ける。


「69% でダメなのか!? これが司書同士の会話…… 」

「私、この前43% 出して喜んでたのに。修行不足って」

「あのレベルを目指さないといけないのか」

 岸田と晋二の何気ない会話によって、思わぬところで学生と司書のレベルの違いを見せつけられ、生徒達は表情を暗くした。


「3番、浦和」

「はい! 」

 多くの生徒が気を落とす中、岸田に呼ばれた遥は横断歩道を渡る時の子供の様に右手をビシッと挙げると、元気よく返事をして小走りで前に出た。

 そして、右手を前に突き出し約12秒の間で赤色の虫眼鏡を創造する。

「おお! 55% 3学期の学年末試験よりも8% も伸ばしたか。春休みもしっかりトレーニングしてたんだな」

 短期間で記録を大幅に更新した遥に岸田は、普段は滅多に見せない嬉しそうな表情で彼女の努力を褒めた。

「どーだぁ! ツヨちゃん!! 私、頑張ったよ!!」

 人目に付かないように影で勉強をするタイプの遥は、岸田にその努力が認められ、弾けるような笑顔を浮かべてドヤ顔でピースサインをする。

「お前なぁ、たったの55% じゃ司書どころかオペレーターにもなれないぞ。あと、去年からずっと言っているが、俺の事は岸田先生と呼べ」

 根本が真面目で人の気持ちを最優先し物事をよく考えて行動する遥、彼女はその事を周囲に悟らせないように普段から明るく振舞っている。

 一見、今の言動は調子に乗っているように見えるが、遥はみんなの暗くなった表情をなんとか明るくしようと、自分に出来る事を精一杯した結果だった。

 その事を分かっている岸田は、冗談ぽく注意する。

「ひどいツヨちゃん。私は褒めて伸びるタイプなのに」

 注意を受けた遥は、それを全く気にもせず再び岸田をあだ名で呼ぶと、笑っている顔を隠すように右手で涙を拭う仕草をし嘘泣きをした。

「はいはい、分かった分かった。じゃあ次」

 遥にノリすぎた事を心の中で少し後悔した岸田は、面倒臭そうにため息をつき、ボケ続ける彼女を円滑な測定の進行の為に、適当にあしらうと次の生徒を呼んだ。


 その後も続々と生徒達が圧縮率の測定を行なっていき、次に岸田に呼ばれたのは。

「18番、工藤」

「はい」

 正輝は、歯切れの良い返事をして前に出ると、右手を前方に突き出し約12秒の間で緑色の鉛筆を創造した。

「鉛筆か懐かしいな。46% 平均点だな」

「ふーぅ」

 正輝の創造した鉛筆を懐かしむようにして眺めた岸田は、可も無く不可も無くといった様子で結果を告げた。

 去年から記録の伸びが穏やかな正輝だったが、ひとまず平均点だった事に安心した。


 そして、再び次々と生徒達が測定を済ませマオの順番になった。


「次43番、瑠垣」

 マオが呼ばれると周囲からクスクスと人を馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。

「はい」

 周囲の冷たい反応を断ち切るかのようにマオは平然と返事をすると、左手を正面に突き出し刃渡り90cm の銀色に輝くロングソードを創造した。

「17% まあ去年よりは伸びてるな」

 全50人の2年Aクラスの内42人が圧縮率の測定を終え平均は44% 、ユウキと晋二を除いての最高数値が53% 、最も低い数値が36% 、それよりも20% 近く低い結果を出したにもかかわらず、岸田の様子に変化は無かった。

「はい。頑張ります」

 あまりにも低い圧縮率にマオは苦笑いをして返事をした。


「さすが瑠垣先生!! 17% なんて、普通じゃないッスわぁ!! どうしたらそんな数字が出せるのか教えてくださいよ」

 マオが力の無い返事をすると、後方からバカにしたような口調で吉村が発言する。

 すると、多くの生徒は必死になって笑うのを堪えていた。

「そうだよね、17%なんて。小学生でも、もっとまともな数字出すよね」

 マオは苦笑いをしたまま下がる。


「…… 」

(今はまだだ)

 椅子に座ったままの岸田は、暴言を吐く吉村やマオを馬鹿にする生徒達を教師として注意するわけでも怒るわけでもなく、何かを我慢するように目を細めその光景を見ていた。


「ユウキ、今のマオの創造」

 マオの創造を見て何かに気付いた様子の晋二は、その疑問が間違いでない事を確信する為、すぐ隣にいるユウキに話し掛けた。

「うん…… 今の少し…… 速かったと思う」

 ユウキも晋二と同じ事に気付いていたようで、興味深そうにマオを見る。

「だよね。みんな、圧縮率の方に気を取られているみたいだけど」

 晋二は、周りにいる生徒達がマオの低い圧縮率を笑うのを、可哀想なモノを見るような目で見ていた。

 普段、人には滅多に興味を持たないユウキがマオに興味を示した事で、晋二の疑問は確信に変わりつつあった。


「次50番、吉村」

 その後も測定は続き、そして最後の1人が呼ばれた。

「お願いしまーす」

 吉村は、軽く返事をすると右拳の指関節を左手を使って鳴らしながら前に出る。

 そして、野生の狼が怪我を負ったうさぎを雪山で見つけた時の様に凶暴な笑みを浮かべると、右手を突き出し約9秒の間で刃渡り70cm の刀身から怪しい光を放つ日本刀を創造した。

「62% まぁ去年の学年主席ナンバーワンなら当然だな。この調子で頑張れよ」

 晋二とユウキを除いては断トツの記録を出した吉村に対し、岸田は特に褒めるわけでもなく真顔のまま声を掛けた。

「ふふふ。まぁこんなもんですよ。ですが、まだまだ五木には勝てそうに無いですねぇ。まぁ今はですが」

 吉村は、自分なら今年1年で司書である晋二を超える事が出来ると自信満々に言い放ち、元いた位置に戻る。

「ちっ」

 わざとマオとすれ違ったように歩いた吉村は、すれ違いざまに標的マオを睨みつけ、舌打ちを残して通り過ぎた。

「…… 」

 昼休みの事もありこれ以上、吉村と揉め事は起こしたくないと考えるマオは、彼と目を合わせないように前を向いていた。


 クラス全員の圧縮率の測定が終わると、休む間もなく岸田はノートパソコンを操作した。

 すると、縦200インチ 横250インチの立体モニターがマオ達のいる位置から20m 前に離れた空中に浮かび上がる。

「次は、創造スピードの測定だ。この測定は、お前らの生徒手帳や創造免許証に記録されている、過去に行った創造の履歴を読み取り、その中からランダムに3つの物質が前のモニターに順番で映し出される。その3つを創造するのにかかった時間を平均して創造スピードを求める」

 器用に2つの事を同時に進行する岸田は、忙しそうにキーボードを叩きながら測定方法を説明する。

「じゃあ、はじめるぞ。1番はこっちに来い」

「…… はい」

 ノートパソコンを圧縮率測定モードから、創造スピード測定モードに切り替えた岸田は、ユウキを自分の近くまで呼び寄せた。

「相川、創造免許証を出せ」

「……はい」

 ユウキは、セーラー服のスカートのポケットから創造免許証を取り出すと、それを岸田に手渡した。

 岸田は、ノートパソコンに創造免許証を差し込むと再びキーボードを叩く。

そして創造履歴の読み取り作業が終わると創造免許証をユウキに返した。


「3つ数えたら始めるぞ。1 2 3 」

 岸田が合図を送ると、ユウキの目線の高さで浮かぶ立体モニターに、球体と長細い棒と円柱えんちゅうが順に映し出された。

 眉一つ動かさずにユウキはそれらを順に創造をしていく。

「5.57秒か。結晶タイプの平均が6秒だから、いいんじゃないか」

 岸田は、測定結果が表情されたノートパソコンを見ると頷きながらその結果を告げる。

「…… はい」

 結晶タイプの平均を大きく上回る好タイムではあったが、ユウキは喜びもせず無表情のままだった。

「次、2番」

 次の順番である晋二を呼んだ岸田は、どこか楽しそうに口角を上げていた。

「はい」

 晋二が自信に満ちた顔で返事をすると後方の生徒達は、ユウキが圧縮率を創造した時と同様にさわぎ出した。

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