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Resistance of Roar  作者: 月輪しるら
3/3

レジスタンス

『クーーール!!カノン!!!!!』


野太い大声が辺りに響き渡ると、二人の前に巨大な氷の壁が現れ、スティールの拳はフライヤーの目の前で氷漬けになった。恐る恐る辺りを見回すと、向かってきていた軍人達の足下は凍り付き武器すらも氷の彫刻のようになっている。二人以外の行く手を阻むように。


「ぐっ………!」


スティールをちらりと見ると、氷に捕らわれた状態で此方を睨み付けていた。

フライヤーはイグニスを背負い直し、フラフラしながらスティールから逃げ出そうとする。いつ、あの氷を突破するか分からない。逃げなきゃ…。すると、遠くから、さっきの野太い声が響く。


「お前ら~!早くこっちに来~い!」


声の聞こえる方へ目線をやると、手を振る大男と背の高い優男、車いすの美しい女性が見える。知り合いではない。誰だか分からない。敵か味方か、さえも…。でも、自分たちを助けてくれた事実だけを信じて縋るしかない。


「た、助けて下さ~~~いぃ~…!!!」


情けない声しか出なかった。親友を抱え恐ろしい大人から逃げる。16歳の少年にとっては、もう、それで、いっぱい、いっぱいだった。誰でも良いから助けて欲しい。自分だけではどうしようもなかった。満身創痍で草原にへたり込む。すると、向こう側から急いで草原を走ってくる音がする。音が目の前で止まると、頭をぽんぽんっと撫でられる。


「おうおう!坊主~!一人で、よく頑張ったな~!って、二人ともボロボロじゃねぇか!?」

「お、おじさんは誰…?」


当たり前の疑問を投げかけると、赤みがかった茶髪に灰色の眼をした大男は此方を安心させるように微笑み


「おじさんの名前は、ロックって言うんだ。俺が来からには、も~う大丈夫だぞ~!」

「信じて、良いの…?俺達を…本当に、助けてくれるの??」

「あぁ!もちろん!おじさん達は君たちを助けに来たヒーローだからな!!」


そう言うと大男は白い歯を見せてニカッと笑い、フライヤーとイグニスを抱えて優男と女性の元へと走って行く。不安感はまだ残るものの、ガッシリとした太い腕に抱えられながら、親父のことを思い出して少し安心する。二人の元に着くと、ロックは優しく二人を草原に下ろし女性に話しかける。


「リセッター。二人とも無事保護したぜ!一人は気絶してるけど、軽傷。もう一人は、かなり怪我はしてるが、意識もちゃんとある。」


それを聞くと黒髪ショートで濃紺の瞳をした女性は、ホッとしたように微笑み、頷き、此方に和やかに話しかける。


「初めまして、私の名前はリセッターと言います。」


女性のような見た目と柔らかな話し方とは裏腹に彼女、いや、【彼】は芯のある落ち着いた低音で名前を言った。


「え!?おっ、男!?」


動揺が隠せず思わず本音がこぼれ落ちると、後ろの優男は堪えきれないという顔で吹き出した。銀髪金眼の優男は驚くフライヤーの顔を見て、からからと笑いながら話す。


「あっはは!やっぱ、間違うよな~?俺も、初め喋るまで気付かなかったんだ。」

「あっ、あなたは?」

「ん?俺の名前はブラッディ。こいつらと同じレジスタンスだ。お前、飛行と風を操る異能力者なんだって?」


髪で隠れていない左目で此方を興味津々に見つめる。


「は、はい…。」

「へぇ…、そいつは美味そうだなぁ?」


そう言うと優男は不敵な笑みを浮かべ、フライヤーの顔を覗き込む。フライヤーは蛇に睨まれた蛙のようになり


「ひぇっ!?」


と小さく悲鳴を上げる。すると、リセッターが呆れたように止めに入ってくれた。


「全く…、彼が怯えているでしょう?大人げないですよ?ブラッディ?」

「おっと!悪い!悪い!じょーだんだって!あんま、ビビんなよ…。まっ、宜しく頼むな!」


さっきの表情が嘘だったかのような笑顔で肩をトントンとする。


「は、はぁ…」

「あ、あんた達は一体何なんだ?ヒーローってのは嘘だろ?ブラッディはレジスタンス?だとか言ってたけど……。」


フライヤーはイグニスを庇うようにしながらリセッターを真っ直ぐに見据え、問いかける。


「ロック…、またヒーローなんて大仰な…。」

「うはは、その方が安心するかと思ってな~。」


やれやれとため息を吐いた後、リセッターもフライヤーを真っ直ぐに見据え、答える。


「私達は、この国を変える為に活動する反逆者【レジスタンス】です。」

「この国を変える…?」

「はい。この国を変える為には、貴方達の力が必要なんです。だから、貴方達を救いに来たのです。」

「フライヤー、イグニス。」


愛おしいと、大切な人を呼ぶようにリセッターは二人の名前を呼ぶ。初めて、リセッターに呼ばれた筈なのにどこか懐かしく、寂しさを感じる。


「ど、どうして?俺達の名前を…?」


二人の会話に割り入るように、ブラッディが低く声を上げる。


「おい、リセッター。ロックの氷から抜け出してる奴がいる。」

「おぉ!?確かに凍らせてるはずだぜ!?破壊された感覚もないぞ!?」

「アレは…。」

「おや、ブラッディ。気付きましたか?あの感じ、恐らく異能力者ですね。」

「フライヤー!詳しい話は後ほど。危ないですから、私の後ろに隠れていなさい。」

「は、はい…。」

「ここからは、大人の仕事です。」

「ロック!ブラッディ!全ての片をつけなさい!」

「おう!」「わーってる。」


ロックは、氷の拘束を維持することに集中し、ブラッディと呼ばれた優男は長いマントを翻しながら草原を駆けていく。


悪夢かと思った。あのマントの優男は………!!スティールは体を鋼鉄で覆い、氷の拘束を死に物狂いで壊し、崖から飛び降り逃走する。アレは!アイツにだけは!喰われてはいけない!!アレは「血をも残さない殺人鬼」だ…!!


「あっ!フライヤーを襲ってた奴が逃げ出したぞ!?追うか?リセッター?」

「いえ、今はブラッディが片をつけるまで二人を守ることが最優先です。氷の拘束を維持し、ブラッディの援護を御願いします。」

「おう!了解したぜ!もし、またアイツが来たら、俺がしっかり守ってやるからな!」


そう言うと、リセッターの後ろにいるフライヤーに笑顔でグッドサインを出す。


「あ!ありがとう!ロックおじさん!」

「おうおう!ロックだけで良いぜ?フライヤー!」

「うん、わかった!ロック!」


一方、ブラッディは小屋の周辺で氷に拘束された軍人達の中央にいる神経質そうな男と対峙していた。神経質そうな施設職員の周囲の溶けて跡形もない氷と草を見る。焦げ臭くはない事を確認しブラッディは問いかける。


「お前、溶解系の異能力者か?」

「だったらどうした?怖くなったか?全てをドロドロに溶かし尽くす、この異能力が!」

「へぇ~、【全て】を溶かす異能力者ねぇ…?」

「逃げるなら今のうちだぞ、優男。残さず、溶かし尽くしてやるからな…。」


脅し文句だった。こう言えば大体の能力者は逃げる。しかし、帰ってきた言葉は予想もしないモノだった。


「ソイツは…美味そうだ。」


優男は、嬉しそうに噛み締めるように口角を釣り上げて笑う。そうして、ソレの名を呼ぶ。


「来い…、イーティングイースター!!」

「アァーーーー!!」


女の金切り声が辺りに響き渡る。イーティングイースターと呼ばれたソレは、純白のドレスを身に纏い、白いつば広帽を目深に被った女の姿をしていた。しかし、それ故に切り裂くことに特化した獣の様な鉤爪、優に4Mを超える背丈がより一層ソレの異質さを際立たせていた。あんな、異能力見たことがない!!まさに、怪物という言葉が適当だ。あんなヤツと戦うなんて馬鹿げてる!!施設職員のメルトは震え上がった。


「喰らえ…イーティングイースター!」

「アアアアーーーーー!!!!」

「うっ…うわああああ!!」


怪物は周囲の軍人達もろとも、メルトを喰らおうとする。怪物の腹を割って現れた口は、人、物問わずに喰らい尽くしていく。しかし、メルトも必死に逃げる。この私が?任務に失敗しただけでなく、敵を前にして逃げるだと!?そんなことは!こんな屈辱は!私のプライドが許さないッ…!!!


「おい、逃げんなよ。上手く喰えねぇだろうが…」


苛立ちながら、タバコに火を付け煙を吐き出す。細めながら此方を見る目は酷く冷たく、侮蔑を滲ませていた。

怒るな、冷静に分析しろ。確かにあの怪物は巨大な鉤爪と、口で此方を追ってくるが、スピードは遅い。拘束されていない私ならば逃げることは容易に可能だ。ただ、喰らい引き裂くだけならば何もそこまで恐れることはない。私の溶解液で溶かしてしまえば良い!!異能力を溶かし、無力化。その後、術者を倒す……!もし、異能力が溶解液で溶けないモノであれば、術者から溶かしてしまえば良い!!ニタリと口を歪ませると、メルトはブラッディに話しかける。隙を作る為だ。


「待て!貴様!」

「あぁ?何のつもりだ?」

「貴様の異能力、イーティングイースターと言ったな?」

「……それが、どうした?」

「見切ったぞ!ソレは喰らい切り裂く異能力だ!」

「とけ落ちろ!!フォールメルト!!」


ビチャッビチャビチャ……


溶解液はイーティングイースターに、確かに当たった。しかし、溶解液はソレをすり抜けるように草原に落ち草をとろかしていった。いや、まだだ!次は術者を狙う。異能力任せの戦闘をする優男ならば戦闘力は弱いはずだ…!しかも、此奴の異能力は盾にならない…!

ならば…!勝ちを確信する。今だッ!


「フォールメルトオオオ!!」

「ッ!?」



完全な不意打ちだった。



「うっ…あああああ!!!」



男の叫び声が響く。


怪物に喰われ死んだ筈の仲間の声が……


「……は?」

「ひぃ、ああぁ…いだい…いだいぃい」


溶解液を浴びた軍人の顔は凄惨な有様だった。その、おぞましい姿に胃が引っ繰り返りふらつく。訳も分からず唖然とするメルトの足に、軍人は縋り付くきながらうわごとのように呻き続ける。


「ざ〜んねん。ハズレだ。」

「なっ…!?何故だ…!?不意を突き、お前に…!確かに、お 前 に 掛けたはずなのに!?」

「惜しかったなぁー?、お前」


イーティングイースターが弱ったメルトに食らいつく。視界が闇に飲み込まれる瞬間、優男の顔が見える。その時メルトはようやく理解した、殺せると思ったあの男も怪物だったのだと。


ハッと気がつくと、怪我もなく優男の前に座り込んでいた。急いで逃げようとするが、怪物も、顔の溶けた仲間も居ない。まるで悪夢を見た後のようだ。先程のことが嘘のように…。あぁ、そうか。此奴の異能力は幻覚だったのだ。乾いた笑いが込み上げる。まだ負けていないじゃないか!此奴は気付いていない。油断した今こそ!!


「企んでいるところ、悪いけどさ~。お前に俺は殺せないぞ?」

「え?」


優男は煙草の煙を燻らせながら此方をちらりと見る。溶解液を掛けようとした手は少しも動いていなかった。逃げようとするも、体が言うことを聞かない。


「な、なんだ!?貴様、一体私に何をした!!!さっきのは幻覚じゃ!?」


ブラッディは意地悪そうに口角を釣り上げ馬鹿にしたように話す。


「馬鹿なお前に、丁寧に説明してやるよ。」

「さっきのは全部現実だ。そんで、イーティングイースターに喰われた奴は死ぬ。」

「いっ、生きているじゃないか!こうして!私は!!」

「っはぁ~~~~。お前、息してるか?」

「は?しているから話しているんだろう?」

「じゃあ、心臓は?」

「あっ……。」

「ノーなら、ビンゴだ。」


血の気が下がる。心臓は止まり鼓動も聞こえず、もちろん脈もない。自分が意思のある死体と言うことを自覚する。


「あっ、あぁ…」

「そんで、お前は喰われて俺の使役物になった。物が、ご主人様に逆らえるわけないだろ?」

「勿論、この事を誰かに言うことも勝手に消えるのも許可しない。この意味、分かるよな?」


メルトのプライドは折れた。自身が死体になり、自分の意思で死ぬことも出来ないことを知り愕然とする。ブラッディは残りの片をつけるために、イーティングイースターに命令する。


「イーティングイースター。周りの軍人達を全て飲み込め。いい壁ぐらいにはなるだろうさ。」

「わ、私の部下は……!」

「あ?」

「溶解液で溶かしてしまった…。あの部下は…!どうしたんだ…?」

「アイツなら、痛い痛いって言って可愛そうだったからな。イーティングイースターで咀嚼して、完全に消滅させた。」

「そうか…。」


死んだ部下を少し羨ましく思いながら、メルトは重いまぶたを閉じた。もう聞こえない、心音に耳を澄ませながら。ブラッディは使役物は最初に死んだとき、暫くは気絶することを言い忘れたが、もうすでに気絶しているので、まぁいいかと思う。


周りの軍人達を全て飲み込ませ終わると辺りを伺う。氷に厳重に拘束された男が一人居ないことに気付くが、リセッターが気付かないはずがない。何か行動を取っているだろう。煙草を捨て靴で入念に踏みつぶす。イーティングイースターが此方を伺うように見ている。分かった分かったと手で合図を送り命令を下す。


「戻れ、イーティングイースター。」


そう言われた瞬間、イーティングイースターは煌めく光の粒になって辺りに消えていった。

ブラッディは土の見える誰も居ない草原を振り返ると「ごちそうさまでした。」と小さく囁く。遠くで自分の帰りを待つメンバーが見えると、いそいそと身なりを整え草原を駆ける。ポーカーフェイスをしようとするが、どうしても嬉しさがにじみ出る。帰りを待つ人が居るというのは未だに慣れない。


「お帰りなさい。ブラッディ。」

「ただいま、リセッター。」

「無事で何よりだな!」

「ロックこそ!」

「皆さん。無事、揃いましたね。」

「おう。」「あぁ。」

「それでは、私達のアジトへご案内いたしましょう。」

「フライヤー、イグニス」

「ようこそ、レジスタンス【ロア】へ」


リセッターがそう言うと二人の少年と反逆者達は、夜の闇に消えていった。


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