ウェルス村人
私は、寛いでいようかなと思った時…とはいっても既に、一時間は経っていて、出口さんは、ウロウロとして、今にも怒りそうに、高そうなパンプスを地面に鳴らして、落ち着きがなかった。
やっとの事でタタオが手を振りながら、
「休息所は、何とか了承を得ることができたよ」とタタオは言って、疲れた顔の奥には、笑みがあった。
それを見ていた出口さんは、
「おそいわよ。何をしておりましたのよ」と我慢にならなかった様だった。
「ごめんよ。村長の話がいやに長くてさ…それで、つい…でも僕の目的のウェルス村の行事の事柄がわかったんだ。…まあそれは、休息所で話そうと思うけど…とりあえず、薫さん…ごめんなさい」とタタオは、申し訳ないように出口さんに、謝り、村の情報を村の中で話すという事となった。
私は、やっぱり気掛りで、誰かに呼ばれている?と思いながら、皆で村の中に入った。
そこは、藁で造られた建物が点々として建っていた。五、六軒家くらいは並んでいた。
地面も藁で敷き詰められて、村人が建物よりも多く何十人と住んでいた。
民族の象徴と呼ばれるウェルストイーグル(ウェルストニアの山奥に生息している神鳥と称えられる程の護られて来ている鷲の事)の木製の彫刻がされて大きくトーテムポールの様に建っていた。
タタオは、一つの建物の中を指して
「ここが休息所だよ」と言った。出口さんは、直ぐに中へ入って直ぐに、どうしてか立ち尽していた。私は、「どうしたの?」って言って近寄って見た時、中には、村人が十二人程、円状に座っていた。タタオは、私を押して中に入れようとしたけど、私は、どうしたらいいのか分らずにいた。タタオは、何語か分らない言葉でその村人達に喋り始めた。
タタオの話が本当に伝わったようで、四人程の人が立って端の方へ向かって、その場で座った。その四人達は、タタオに話しかけて、タタオは、私の顔を見て、「どうやら、皆、優しい人みたいだ。ようこそだってさ。あそこに座っていいみたいだよ」とタタオは、そう言って、円の中の空いた所に座った。出口さんも素直にタタオの隣に座った。
私は、ひょろと里美に事情を話して、中に入って来て、空いた所に座ったが…私だけ、座れなかった。
するとタタオの隣にいた女の子が私の顔を見て、近寄ってきた。
笑顔を見せて、何か言っていた。
「タタオ…」と私は、困って、言った。
「その子は、花村に、座ってもいいよって言っているんだよ」とタタオが教えてくれた。
私は、その子の身長に合わせて座って、「ありがとうね」とその子の頭を撫でた。
その子は、笑顔で、休息所から出ていってしまいました。
直ぐに、譲ってくれた所に私は座りました。
私は、タタオに「何語で話してるの?」と聞いてみた。
「エブラ語だよ。何を言っているのかわからないよな。でも、大丈夫さ。ちゃんと学んで、普通に会話できるようになる位まで、修得したから、聞きたい事があれば、僕に話してくれれば、伝えるよ。」と私達に話して、私は、安心した。
何故なら言葉が伝わらないと困ると第一に考えたからだった。
でも、世界とは大袈裟だけど、心が伝わり、私達の日本とこの国が話で繋がる事を思うと、感極まりそうでならなかった。
「じゃあ…この村の行事、年に一度だけ行われる事を教えてあげよう」と何だか、タタオが、ヒーロー気取りの様で仕方なかった…でも、この村にいる以上は、タタオの言葉に赴くしかなかった為…私は、足を崩して、女座りをしてタタオの声に耳を傾けた。
「ウェルス村は、昔から掟という恒例儀式が行われ、教わり伝えられてきた伝統文化だと言う。しかし、その伝統文化は、人々が心の奥で恐れられてきた。では、何を恐れているのか?どうして代々の文化的儀式を恐れたのかは、通常、他国は…僕達の日本も含み、儀式というと神や仏に奉る行事の、京都の祇園祭や朮祭、滋賀の筑摩祭、ほかに供養などに値するが、他国とは違って、この村を護る神、鷲のエブラ神の加護により、儀式を行っている生贄の加護が意味するという事だと村長が、主張していた」とタタオは、冷汗をかきそうになる位の恐怖心を煽って話した。私には、その話の生贄という言葉に身体を震えさせられた気持ちだった。煽るなんてとは思ったものの、この村で行っている事が事実なのには、かわりがないのだから、タタオに反言する事ができなかった。それでも私は、俄に信じ難かったけど…実際、怖かった。
すると、村人の一人、髭を長く伸している男の人がタタオや私達の顔を見ながら、手でアクションをして言っていた…けど、この言葉は、タタオにしか分らない話だった為。
私は、ふと、他の里美とひょろと出口さんを伺ってみた。ひょろは、真面目な面持ちで村人の話を丸で、分るように聞いて、縦に頷いていた。
出口さんは、冷静な面持ちをして、右手で胃の辺を抑えていた。とても我慢している事が直に分かった。里美は、私の顔を見ていて、首を傾げていた。私も里美に首を傾げてみた。全くの状態が把握し難く、どうして鷲の神様?のために、そこまで、自らの身体を捧げる事をしているのか里美と私には、理解不能だった。
するとタタオが先程、一人の男の人が話をしていた事を翻訳して言った。
「この村の儀式は、今月に行われるそうだ。主に、親の死や子の死を労り、大人も子供も、その親族に辺る血縁者が生贄となって、一人が犠牲に、他の血縁者が処理、要するに、短剣、槍等の鋭く尖った物で心臓の辺を貫かなければいけなく、後に、その者の骨を一つ捧げるとその親族は、百年以上も永く生きられるという…残酷な儀式だそうだ。…それが、一週間後の朝に行われるという。陽がさすと同時に」とタタオは、胃を抑えながらも話してくれた。
私は、とんでもない所に来てしまったと後悔の念があった。さっきの興味があった心境が、スッカリと心変わりしてしまったように失った気持ちでいた。寧ろ、この村は、そのような恐ろしい儀式を仕方なくやってしまうのか、さっきの笑顔で譲ってくれた子供にも行わせると思うと、心が痛かった。タタオと出口さんと同じように胃の辺りがムカムカと胃酸の物質が悪巧みしている様に気持ちが悪くなってしまった。里美は、それに驚いて、その場で立って私を外へ連れていってくれた。私は、歩きだそうとしても突然、動きが鈍くなった様に、思うように動かなかった。里美に引きづられて
「どうしたの?」と窺っていたが、私は、返答をしたくとも返す余裕に余す事がなくて、辛かった。
里美に村の端の断崖の景色まで連れて来てもらった。私は、里美に申し訳がなかった。
私は、暫くして景色と絶大な山岳を見て、風に当っていると、いつのまにか気持ち悪さも軽減して、里美に話せる位に良くはなった。里美の方を見てみると空を見上げて村に囲う柵に手の平を置いて体を支え、斜め向き加減にしていた。
「里美…」と私は、柵に手を付いて言った。里美は、不思議そうな顔でこちらを向いて見せていた。
「この村の儀式を想い描いてみた時に…とても気持ちが悪くなっちゃったの…でも、里美がここに連れ出してくれたお蔭で、気持ち悪さがとんだけどね…。…怖い…そんな恐ろしい村だったなんて…私、思わなかった。」と不安気になってしまった私の表情を里美は、理解して、空を見上げた。
「そうだね…この村の事…私も正直言って…ビックリしちゃった。でもね…私は、為来りと考えていたから、私達は、それをどう足掻いても…変えられない事だと思っちゃって…でも、苦しいよ…愛と同じようにこの村の人達の事を考えてしまうと悲痛感でいっぱいになっちゃう。でも私は、あえて、この村の人達の為来りを想って、村の人達を支えて笑顔を与えたいと思ったの。愛も、そうは思わない?」と里美は、私の顔をまた向いて、笑みを浮べて言った。
「里美がそう言うと確かに…それも間違いはないかもしれないけど…あの子が、そうなると…怖くて身体がガクガクと震えてしまうの」と私は身体を摩ってしまっていた。
「あの子?…譲ってくれた女の子の事?」と里美が疑問そうに言った。私は、摩りながら縦に首を振った。
「それならこそじゃないの?…心配に想うからこそ、実行をするんじゃないの?居た堪れないからこそ…笑顔で接するのよ」と私に里美は、両手で振って訴えていた。表情が真面目顔だった。
「うん…里美、ごめんね」と私は、私でなくなりそうだった。でも里美がそれを止めて私であるように、元に戻してくれた事に、それと心配して慰め合って私の立場を想ってくれた事に感謝した。
「いいんだよ…愛が元気になって、微笑みをみせてくれないと私、心配だから。それに愛の言った事は分るってさっき言ったじゃない」と里美は笑顔で私を見て言った。何だか、里美の笑顔をみると怖いのがなくなって、元気になりそうになる。だから、里美を親しみ、友達としていつまでもいられるんだと、今、改めて思えた。