最祭日《さいさいじつ》
でも、その時が来てしまった。
そこまでは、私には、変える事もできなかった。
私は、借家でふにゃけて、とても、その儀式に賛同する事ができなくて、少し色が変色していた白いカーネーションを握っていた。
あのお母さんが息をひきとった時の絶望感と同じ感覚の悲哀に絡まれていました。
「もう時間が停ってほしい…永く保っててほしい…お願い…何で…何であの子が…こんなに辛い思いを…あのような事をさせたくない…過去に戻ってほしい…生きていてほしい。お母さん…お母さん…助けて…ねぇ…[きまり]は、[きまり]って言っていたよね。助けたい人を……」と私が泣いて花が萎んでしまう程、雫が花弁に流れてポツンッポツンッと零れていた。
「う…うぅ…私のワガママは、聞いてくれないの?」と絶望感に瀕していた。もう花は、完全に枯れてしまっていて、もう震えが止まらなかった。
すると、何か光りにまとった物が目の前に映し出されて、その眩しい光に思わず腕で目を隠していた。よくその光に眼を細めて見てみると、影が現われて、そこから亡くなった筈のお母さんが現われた。
私は、夢でも見ているのでしょうねと戸惑を見せずにいた。
するとお母さんは、私に話をしてくれた。そう…あの[きまり]の言葉だった。
「誰かに愛を届けなさい。あなたの振舞うように届けなさい。戸惑う時が来た時の最初の一歩、それが他の人の最後であろうともね。自分を信じなさい…愛。私の子ならできます。できない事なんて何もない筈よ…ね…そうでしょ?」と言って直ぐにお母さんの幻想は消えて、光もない元の借家に、只、私一人がいるだけとなった。
やっぱり、私は夢でも見ていたのね…さっきのお母さんの言葉は、微かに覚えている…私の大切な二十歳を迎えた時の特別な三つの言葉の一つだったのは、確かでした。
「私のふる…まうように…とどけ…なさい。それが…他の人の最後…であろう…とも」と私は、心でお母さんの言葉を確かめて…今の現実の事柄と比較した。私は、直ぐに、何かを閃いたように、先程まで向いたくはなかった儀式を行う所に急いで、駈け付けて立ち上って行った。
もうすぐに磔に一人が片付けられて、無残にも、血痕が飛び散っていました。
村人達は、目を覆っている人が大半で、村長は、拝んで、神鷲に犠牲となった人の骨の一部を捧げていた。
里美やひょろ、タタオ、出口さんがそこにはいましたが、その光景をとても、まともに見る事が出来ずにいた。背いていた里美が私が来た事に気が付いて、近寄った。
「愛…次が…メリッカの番なの…とても見ていられないのは、わかっているから、無理に、殺られる所を見る必要は、ないんだよ」と必至にとめてくれていたけども、私は、どうしても、メリッカに会わなければいけないと思っていたため、話を無視してまでも、磔台まで足を運んだ。私は、唯、メリッカを信じて…それだけのために…向った。タタオとひょろは、私に気付いていたけども気をつかって、何もいわずにいた。
メリッカがメリーネさんと一緒に磔台まで上って、メリッカは、一瞬だけ、足を止めていた、でも、お母さんの為に、一歩一歩と足を動かして、前へ進んでいく。
すると私のいるのに気が付いて、私の方を見ていた。
メリーネさんは、メリッカを引っ張っていたけれども、メリッカは、私を見ていた。
いつになく、淋しげな顔をしていた。メリーネさんも私のいる事に後で気付いて、足を止めた。メリッカは、私のいる方に、台上の端まで向った。重い口を開けて、喋り始めました。
「お姉ちゃん…本当にありがとう…私、お姉ちゃんに会えた事で、少しの間だけ、安心してこの日を迎える事ができ…ました。ありがとう…お姉ちゃん…我慢しなくていいんだよ…私は、この日が迎えた事、誇りに思っているから…お母さんの命が永く生きれる時が今、来たんだって…」とメリッカは、そう言うと、姿勢を正して、何かを歌い出しました。
その歌は、私の記憶にある歌でした。伴奏ではなく、歌声だけがその一郭に響き渡っていた。
「私がお母さんになっても、どんなに傷がついていても、たとえ、どんなに誇らしいけども、あなたのそばで眠る…この果てしない世界にいたとしても、あなたのそばで、いつまでも…。」それは…明らかに、私のお母さんが…好きで口遊んでいた音楽だった…そう…愛する人へ…私も好きな音楽…。
途中…その歌を村の人達が鼻唄でみんなが一つとなって『愛する人へ』の曲に合わせて唄っていた。
私も里美も出口さんもひょろもタタオも歌い…私は、時が流れる毎に目にたくさんの涙を溜め込んでウルウルとしていた。
「あなたのお母さんは、とても優しい方だったのよと知人の人は、涙を浮かべてそうつぶやいていた。あなたのお母さんは、偉大な人よ。そういってもらえるように、偉大なお母さんでいてね。愛する人へ、愛する人へ…。」メリッカは、『愛する人へ』を一生懸命に歌っていた。
もう未来は、メリッカには…私は悔やむけど…ないんだよ…そう思いながら、身体の力が抜けて、しゃがんで、女座りをしながら、とても見ていられなかった。
見ていられなかったから…顔に手で覆い、涙がもう涸れる程だった、私は居るのが幼気でたまらなかった。
でも、お母さんの言葉の通り、私にできない事はなくって、私はメリッカに最後の…親子ではなくても、愛を届けて、私が振る舞えば…犠牲になってまでも救いたいお母さんの為に想っているメリッカに癒して、愛を届ける事ができる。
例え、短い時間であったとしても、と私は、メリッカに、言った。それが…最後かそうではないかであっても…伝えたい事を…。
「メリッカ…あなたは、私に…教えてくれました。幼くて、小さな小さなあなたが…大人びた私に、数々のかけがえのない愛を与えてくれて……こんな苦境…立たされながらも…笑顔で…どっちが…幼いのか…分らない位、あなたは、必死で祭日まで…」どうして…こんなにも、胸が苦しいのだろう…どうして…必死でメリッカを…ここまでも私は、このような事は、生まれて初めてのような気がする。
淋しさが余るからなの?初めて会った時から以前に、出会ったような不思議な面持ち。小さな頃から…知っていたような女の子で、でも、そのような事は、今、この状況で振り返る事でもなく、愛を伝える事が、届けてあげたかった事。でも儀式が行われるのは、もうまじかまで来てしまっていた。
「愛お姉ちゃん…私を支えて…くれて…ありがとう。いつまでも、お姉ちゃんが…何十年と幸せでいられますように…」とメリッカは、本当に、幼くはなかった…立派な幼い大人の女の子の言葉でした。
そして、メリッカは、私の方から視線を磔の方に変え、真剣な顔で…近寄り、メリーネさんに何かを話していた。
私は、もう見ていられなかった…だから、背いて耳をおさえていた。
緊迫した中に、溶け込むなんて、到底、できなかった。里美は、私の方を見て、心配そうにしていた。




