祭日前の空で
でも、私には、既にメリッカが犠牲者の一人であった事は、勘付いていた。
しかし、その里美の言葉に、余りにも驚きを隠していられず。ショックのあまり、口数を無くしてしまったのでした。
いよいよ、儀式の行う前日となってしまい、私は、いつもの通りにメリッカの家の方へ行く事がありませんでした。
寧ろ、とても顔を合わす事ができなかった、そのような恐怖に絡られていたからだった。
出口さんが話をかけてくれた。私が他の人に見せられない体勢で横になり、私は身体が丸くなっていました。
近くに寄ってきて、出口さんは、腰を下ろし、足を伸ばして私に背いていた。暫くは沈黙が何分か続いて、少し眠たくなっていた時に、出口さんは「あなたは、今日は、あの子のところには、いかないのかしら」と聞いていたが、私は言う気力もなかった。
「あなたが私と友達になる前のあなたが言った事をお忘れになられたのです?」と出口さんが、そう言うと、私は、えっ?と思って丸まっていた身体をつい、正しく伸してしまった。
「『固定観念に縛られては、先に進めない。前を進むには、友達を作らないと、だから、私が一番目の友達』、そう言って、他の生徒から男女ともに冷たい視線を浴びせられていた私を押してくれたのは、どなただったかしら?私を…自信つけてくれたのは、いったい、どこのどなただったかしらね」といって、直ぐに立ち上ってどこかへ行ってしまったようだった。
そうだった…常にいじめられていた出口さんを見て見ない振りをしてはいられなかったから、敢えて、冷然と後から視線を感じていたが、私は、出口さんよりも二つ前の席に座っていたため、出口さんの所まで歩み寄って初めて喋ったのが、先程、出口さんが言った…その時からだった。
周りからは、裕福家系の財産家の執事がいる、あの夢のような豪邸の一人のお嬢様でしたので、あまり良い目で見られていなかった。
けども、私は、敢えて出口さんを信じて、座っていた出口さんに近寄って私は、話したのだった。
「あっあなたは…出口さんっていうのね」とガチガチになって話していた私に対して、出口さんは、「そうよ…それが、どうしたのかしら?私は、他の人に話したくはありませんのよ」と言って全然私の顔を見ずに教室の窓を見ていた。
「初めての自己紹介でみなさまにお話ししたかと…その時にお名前を覚えてもらいました筈だと思ってましたが…そうではなかったのですね」と冷たく、顔面固陋な印象を受け止めていた私だったが、負けずに、つい私の想いを貫き通してしまった。その言葉が、まさか出口さんの考えが変わる切っ掛けだったとは、思わなかったのでした。
「わかりました…あなたが、固定観念に縛られているのなら、私が改めます。固定観念に縛られては、先に進めない。前を進むには、友達を作らないと、だから、私が一番目の友達になってあげます」と腰に手をあてて、強引にも私が言った。
出口さんは、確かに、私の言葉でその時は、何も反論しないで恥かしそうな顔で頷いていたのは、記憶に強く残っていた。
借家で、私は何だか、そわそわしだして、出口さんを追うように、外に出ていこうと身体が自然に動き歩こうとした。しかし、出口さんは、外には、いませんでいた。でも、そこから出口さんと話すようになったのは、事実だった。
ぼーっとして、山岳の景色を見ていようと端の柵の方へ歩み寄った。暫く、ぼーっとしていた。何も考えず、自然の音そのものを聴いていた。こんなに心地好い所だったなんて、来て以来にしては、初めて感じていた。
優しく髪を撫でるように通り抜ける風が私を包み込むように、度々の風通りで、思い詰めていた重苦しい気持ちが解消されていくように感じた。
風に当っている所に誰かが、こちらに向ってくるのを感じてゆっくりと私は振り向くと、里美が相変らず、俯いて立っていた。
「里美…」と私は、気をつかいながらも言った。
すると里美は、私のとなりに来て、柵を握りしめて、「私って、この旅行…、よかったのかな…タタオにつれて来られたけど…愛に何だか、苦しい想いを…」と里美がどうすればいいのか、わからない思いを詰めていた顔をしていたので、私は直ぐに「何を言っているの?私は、決して…この旅行に後悔はしたりとかしていないわ。それどころか、教えてもらったって言った方がプラスになるかな…私は、唯、心でもがいていただけで、村の人達の事を考えず、全然、お母さんの言葉の[きまり]に反していた…全然、わかってなかった。信じていなかったのは、私だって…そう思えてならなかった。だから、無理に笑顔を与えても、私達は、返って悲しませてしまう結果に私は、気付かなかったの」と私は、今までに村の人達に与えてきた微笑みが返って儀式を行う事が出来にくく、それはそれでもいいけども、恒例の伝統行事を止めてしまうと先の先まで考えてしまっていた。
里美は、私の顔を見て、「愛のいうとおりだね。お節介をかえってやいちゃったね。…ダメだね私」と空を見上げていた。
「里美だけじゃないよ。私も出口さんもひょろもタタオもその事には、気が付かなかっただけ…だから、里美だけが間違えた訳じゃないよ」と里美に、笑顔で、慰めて言った。決して間違った事でもない。絆ができたのは、確かだと、私は、ウェルス村の人達を信じていた。けれどまだまだお母さんには、敵いそうではありません。
その後、里美と共に家に戻っていきました。中には、出口さんが、考え事をしていた。とても言っていた事の返事をする状況ではなかったので、私は、別の端の方で里美と話し合っていました。
すると、夕方になる頃、ひょろが帰ってきて、私達の近くまで寄ってきて、立って言った。
「花村…おれ、メリッカって女の子に、強く言ってしまった。どうして、絶えられるんだよ!…泣きたければ泣けば、スッキリするのによ…とつい…カッとなっちまった。すまない…スッカリ落ち込ませてしまった」と、ひょろは、謙遜な面持ちで私を見ていた。里美は、変な顔をして、ひょろを見ていた。私は、当然に立ち上ってムスッとさせて、ひょろを睨んで「何て酷い事を言ったの?ひょろは、愛も欠片もないの?」と言って、外に走って行こうとした。私は、メリッカが感情を抑えているのは、お母さんが関係していて、メリーネさんとの血縁ではない事から、いつも気をつかっていたのに…それを軽々と悲痛に思わせる事をひょろが言ったのがとても、許せられなかった。そんな思い詰めている私は柵の所で夕陽を直視ではなくて、眺めているようにしていた。
すると、藁の上を歩いてこちらの方へ来るのが、私には、わかった。それは、また、里美が来たのかなと思い込んでいて、振り返ると、そこには、メリッカが何かを手に持ちながら、近くへ恐る恐る寄って来ていたのでした。手に持っていたのは、この村にも咲いていると以前にメリッカから耳にしていた天然の白いカーネーションだった。一束の花をそっと持ちながらいた。私は、あの前日と同じく、背いて、夕陽を眺めていた。健治のように一切、包んで、解きほぐす事ができなかったやるせない気持ちが浮上してきて、苦しくてならなかった。
すると、メリッカは、私を見て覗くようにして「お姉ちゃん…」と少し落ち込んだ声で言った。思わず、メリッカの顔を見てしまった。私には、何の力もないのに、唯、無言でいた。
「これ…お姉ちゃんにあげる」と無理に笑顔を作っていた。
「どうしたの?この白いカーネーション…」と私は、苦笑いの顔をして、白いカーネーションを受け取った。
「山に咲いていたこの村で、有名な花。私もその花の名前から…付けてくれたの」とメリッカは、花の咲く所と自分自身の名前の意味を教えて、私に言った。
「そう…メリッカは、白いカーネーションという意味でお母さんとお父さんから名付けてくれた大切な名前だったのね」とメリッカに笑みを浮べて言った。
私のお母さんが入院していて亡くなるまでの期間に持って来ていた白いカーネーションとたくさんの花束をお母さんの棺桶に添えた事を走馬灯のように巡らしていた。
私は、メリッカの手をつかみ握って泣きそうになるのをおさえて「お母さんは、もしかして伝染病にかかって、今は、掛り付け医が診て、入院しているの?」と私がお母さんの事を聞いた。
「そう…だよ。だから…やるよ。私は、お母さんを永く生きてもらいたい為に…捧げたい」とメリッカは、必死に自らの身を神鷲に捧げてまでも、お母さんの事が好きで大切にしたいと想っている気持ちが私に伝わって来て、何だか私の幼い頃のように、愛を持っていた。
私とは比べようがない程の強い愛を持っていた。
私は笑顔で返して「メリッカは、優しくてとても私は、適わない…お母さんは、大変、あなたを大切に育ててくださったのね。愛しくてたまらなくなりそうだと想うだろうね。他愛もなくあなたを愛し続けると思うわ。私の立場なら、そうするわ」とメリッカを安心させようと、支えてあげようと私は、想いました。
何故なら、そのメリッカの必死さに、愛しさが現われたからでした。でも、時間は、いたずらにも、刻一刻と迫るばかりでした。
私は、メリッカを抱いた。犠牲とさせたくない、唯、その一心でギュッと抱いた。
もう白いカーネーションが萎れてしまいそうになる程、その花と共に、抱いた。何て罪のないこの子に、神さまは、何も救いの手を差し延べてくれないのだろう。
この日が最後だと私は、思っていましたから、何時間でも安心させてあげたかった。
けど、辛みにしかならなかった。




