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生命(いのち)の継れ  作者: せいちゃん
10/14

居た堪れない三日目

滞在してから、もう三日目の朝が来てしまいました。

観光スポットから帰って来たのに二日も掛かってしまったので、儀式まで残り三日程となってしまい。私は、メリッカと遺跡で語ったあの日から、どうもメリッカの事が気掛りとなってしまい、どうしてらいいのか思いつかずに、三日目を経過してしまった訳だった。それからメリッカの家に訪れては語り合っていました。私の子供の頃と健治の子供の頃を思う事で、子供が苦しかったり、悲しかったりする時には、放って置く訳には、いかない親心がつい、剥き出してしまうのでした。

私とメリッカが話す事は、大体が私の家庭や生きてきた思い出や日本の事でした。

「お姉ちゃん…の話をきかせて」と二日間の内に、メリッカは、日本語が少しずつでしたが喋られるようになり、その理由は、タタオに私が無理にでも頼んだからでした。

タタオは、何故だか私の言う事が直ぐに受け入れて相談にのってくれる優しい人になり、それに、私とタタオだけじゃなく、里美も出口さんもひょろも村の人に毎日、笑いの声が大空に駈け上がるように響き渡り続いていた。

みんな、それなりにメリーネさんが言っていた村の事情を知り、精一杯に、自ら出来る事を率先そっせんして励んでいた。

それに伴い、私も精一杯に幸せな思いを与えて暗かった村も、活気の溢れる村になったように知らず人と一つ一つの輪となって、変わりゆくのだった…その様に…儀式も無くなってくれればと私は願うのだった。それが、無理だとしても、そう願っていた。

「メリッカ…今日わね。私が住んでいる日本を教えるね」とまるで、お母さんが私に語っているのを聞いているよう、今度は、メリッカが私になって、私がお母さん…程、すごい人にはなれなかったけど母親のように話していた。順番が来たような感覚となって、メリッカに話していた。このように、支えてあげて、毎日を大切に思っていたと思うと、亡くなってしまったお母さんの事がいとおしくてたまらなく、悲痛感を感じてしまうのでした。

「私達が住む国はね。せかせかとする人やのんびりしている人等、いろいろな人が集まって常にね。時間に縛られて生きているかな…だから寝坊とかね…時間におくれてしまうと、乗りたかった決められた時間の交通機関…んーとバスって考えると分るかな。自然のある所とビルや家々が建ち並んでいる都市もあるかな…私達は、山奥だけどね」と笑顔を見せて話した。一つ一つ丁寧にメリッカにわかりやすく語った。

「ビル?」と疑問が浮上するたびに、私が直ぐに「ビルっていうのはね。ここの村の建物を積み重ねたような高い建物の事だよ」と解きほぐしてメリッカに話した。

「メリッカは、ここの村は、好き?」と私が傾げて聞いてみた。

「私…はね…この村が…すきだ…よ。で…も、ぎし…きが、すきじゃ…ない」とメリッカは、戸惑いを窺うところがあった。

「お母さんは、好き?」と私は直ぐに聞いてみた。するとメリッカも直ぐに「すき!」と余程、お母さんの事が今、離れて淋しい想いをしているんだねと心の中で思っていた。 「お父さんは?」と続けてきくと

「…おとう…さんは、おもいだし…たくない…けど……すき…」とメリッカは、相当、何かを気にしていたそのような素振そぶりをしていた。

「そう……私はね、お母さんの言葉がね…好きで、いつも毎日聞いていて、それが聞きたくて聞きたくてね…じっとしていられないくらい、きまりの時間があって、その時間よりも早く話してくれているように居間っという所に座っているくらいに好きだった…」と笑顔を見せて、私のお母さんについて話をした。

「ききたいききたい!」と興味があったらしく、とにかくワクワクとしていたメリッカだったけども、スッカリ夜になってしまった為に、私は、「もう夜おそいから、お姉ちゃんは、戻るね」と言った時にメリッカは、身体を横にダラダラと揺らしながら、「もう終わりなの?」と言っていた。しかし、メリーネさんが奥の方からやってきて「愛お姉さんは、明日も来てくれるから、我慢しなさいメリッカ」と血縁者ではないメリーネさんにメリッカはムスッとした顔で見ていた。私は立ち上って出ていこうとしていたけど

「お姉…ちゃん…話の続き…きかせてね」と私の顔を見て、困っている顔をしていた。 「大丈夫…面白い話を明日、するからね。楽しみにしててね」とただ…私は、感情を押しころして微笑んだ。メリッカは、笑顔になっていました。私は、里美達がいる家へ戻る際の一歩の足が、とても重くて。感情に押されてしまうように、気持ちの整理がなかなかできずにいた。

家の中に戻ると里美は、俯いていていた。タタオとひょろは、話し合いをしていて、借り家だけは…常に重い空気で一杯になっていた。それ程に、みんなの精一杯な想いがあって、身体が疲れてしまう程の苦しさをどうにかしたいという想いが溢れていた。

出口さんが私の前に来て「お疲れ様ですわね。私も先程、戻って来たばかりですわよ」ともう口調は気にしなくなって、

「出口さん…おつかれ…さま。みんな、疲れているみたいだね」と他のみんなを見回して、出口さんを見て言った。

「私もこの村の事を見て来ましてね。私が言うの何ですが、むごさにえていける民族もいまして、その惨さを他の民族が支配下となさった事には、どうも…卑下ひげしすぎてしまいますわ。ウェルス人の人達、みなさまを尊敬そんけいとしてしまいますわ。私も見習っていくべき点なのかもしれませんわね」と端の方に歩きながら私の顔を見ていた。出口さんの弱気な事を言うのを聞いたのは、これが初めてだった。本当にそのとおりだと私は思った。只単に日常生活の中で、私達が普段持っている未来という事を考えず、その反面に、愛や人と人との絆が深く刻まれていて、見習うべき点なのかもしれない。この村から習うべき事を、心にしめていた。

里美の方へ向って、隣に座った。すると、里美は口を開けて「上手くいかないもんだね。本当に…私の思っていた以上に心が強くて、その定められた行いに対してらそうとすると、近づく度にその話になっちゃて…でも何かの…誰かの助けにでもなればって思っていたけど…日が近づくと…」と里美もすっかり弱気となってしまった。今日一日が里美にとって、重要で貴重な一日だと考えていた。私は、とても信頼できた。

「里美…私は、里美が一生懸命にこの村を助ける気持ちがあるだけでも、意外と、相手(村人)には、伝わるものなのよ。いくら、顔や思いが悪くなっていたとしても、里美からのありがたみを受け止めていると思うよ。私も分らないけどね。何をすればいいのか分からなくて心が痛くなってしまうの。でも、そこで退いてしまった時には、ただ…見守るだけにしかできないのかと思えちゃう…だからね。私達が支えないといけないのよ。ここの村の人でも…あーっ私、本当に何をすればいいのか分らなくなっちゃった」と説得をしようかと想っていたけど、私の方が頭がぐちゃぐちゃになってしまったのです。

里美は、私の手を取って握りしめて

「ありがとう…愛の伝えたい気持ち…私、わかった。ついつい、信じられなくなってしまっていたのかもしれない…退いちゃったら、元も子もないよね」と感傷かんしょうな思いをしながらも、私の顔を見ず…私の手を見て、涙のしずくが私の手にポツンッポツンッとあたって、鼻をすすっていた。

四日目の日もメリッカの家で、話の続きをしました。

「お母さんは、いつも話してくれました。」と私の過去の情景が思い巡らされてきた。それは、私がまだ小学生の頃の情景が映し出された。お母さんがいつもの様に居間で話をしてくれた。

「それじゃあ、今日も私から愛に話をするわね。ちゃんと[きまり]を守れるかな?」と私の眼を見ながら温容おんような面持ちで聞いていた。

「もう、わたし、小学二年だよ。お母さんの話はきくって」と意地を張って私は、大丈夫だよってお母さんに伝えたかったのだろう。 「それじゃあ、いいます。『相手を信じなさい。自分も信じなさい。肝胆相照かんたんあいてらすでいなさい』」とお母さんが言葉を言う。

「かん…たん…あいてらす?どんな言葉なの?」と私がお母さんに率直そっちょくで聞いていた。

「肝胆相照っというのはね…お母さんと愛が心の底まで隠さずに親しく話し合う…つまりは、すごく信頼しなさいってことね」とお母さんは、詳しく、小学二年の私にもわかりやすく意味を話してくれた。

「はいっ今日は、ここまでね…はいっもう寝なさい明日も学校がありますから」とあっさりと言葉の意味を話し終えた時にゆっくり立ち上がって私に、そう言って台所の方へ行ってしまいました。私は、いつも物足りなさそうに思っていた。けれども、毎日、いつもの時間に話してくれるお母さんを信じて…肝胆相照のように、直ぐに寝る事を毎日のようにおくっていました。

「『相手を信じなさい。それが遠き人でも近き人でも悪用されなければ、信じ通しなさい。裏切る人もいるかもしれないけれども、信じ、愛を持ちなさい』私は、信頼して、優しく愛を伝える事で、あなたに愛を名前につけたのよ」とお母さんが話してくれた言葉もあって、「『親と子はね、切っても切れない程の関係にあるのだから、若い頃が花、それらは徐々《じょじょ》に、つぼんでいくから、子は、親を見て育つ、親が台とならなくっちゃ、子は、生きゆくすべがなくなってうとくなってしまうから、子を手放してはいけない。立派な成人になるまでは、私達、母親は、子供の事を一生懸命になって育てて、見守っているのよ』」とお母さんの私に対しての母親の温かみを感じた言葉もあった。また誕生日が来た時には、特別に言葉を三つおまけして話してくれたりと、私にとって本当にお母さんの話す言葉が毎日の行事というか杁山家恒例いりやまけこうれいでもありました。因みに、杁山いりやまとは、私が婚姻こんいんする前の旧姓で、私は杁山 愛という名前でした。お母さんが誕生日の日に三つの言葉を話してくれた事が現われた。『好きな人の近くにいれば、いつまでも幸せになれるわ。でも条件が必要なのよね。相手かあなた、又、双方そうほうが間違った考え方を持っているとしたなら、幸せにはなれないのよ。いかに相手を好きであるか、いかに、わかち合えるかが重要点』『喜怒哀楽の怒は、いらない。生きていく上で不必要なもの。喜哀楽きあいらくで充分。は相手を幸せにする表情、あいは相手と理解して悲しく、笑顔につながる、らくは、互いに楽しく微笑む事ができる。けども、人間、は、いつか訪れて入ってしまう。その時は、喜哀楽で補えばいい。それで、幸せ一杯の人生でいられます』『恥は、人間にはなくてはならない事で、一見、出したくはなく、表したくはない恥という印象を受けるけど、恥は、私達の心に教えてくださる表情の一つ。恥をえて受ける事で、心の成長が正され、人生の岐路きろに当っても正道せいどうへ導かれるから』の三つの言葉だった。それから何年か何千ものの言葉を教えてくれたお母さんでした。その言葉、一つ一つが私をここまで成長させてくれた事であって、支えてくれた[きまり]だった。そのような、お母さんが六○歳の若さで亡くなるなんて…思ってもみなかったのです。肝胆相照、愛を待ちなさい。親子共の絆、好きな人の近くにいる事、喜哀楽、恥を受け止めるの数々の言葉が蘇ってきた。なつかしさが、溢れ出てきたと同時に、私の回想にふけていた事から、ウェルス村のメリッカの家に話している事に気が付いて、ハッとなってしまって、メリッカは、その反応に驚いていた。

「ごめんごめん、つい昔の頃を思いふけっちゃった」と笑顔をメリッカに見せながら、頭に手をあてて、その姿を見て、メリッカは、 「お姉ちゃん…おどかさないでよ」といってお互いに笑った。それが…これが本当に…笑い合える時間ときの物語でいう最終章に近い事でした。それも、私には、既に勘づいていた事でした。だから、私は、悲惨ひさんと想えてならなかったのに…何もどうする事も手立てが思案できなかった心にやりどころがありませんでした。だから、だら私は、この子に私の幼い頃の話や日本の事など…彼女の空白を埋める事をできるだけの力でしか…与える事が私には、幼気いたいけでならないのです。

「これで、今日は、おしまい…また明日ね」と言って私は、メリッカの顔をそむいて、えて、そうした…でなきゃ…悲しいもの。苦しいもの。どうして情けのない心で私に頼ってくれないの?どうして心の感情を感じるままに、ありのままに我慢しないでいられるのか私には、とてもメリッカやこの村の人に対して信じられない疑問をいだいていた。

メリッカは、今日の最後を只、見届けているように無言でした。きっと悲しいのね。悲しくてたまらなく、感情を抑え過ぎて出せなくなって、言いたくはなかったのね。私は、そう思いながら、メリッカの家を後にした。

それから、直ぐに振り返って、怺えて、無言のまま、みんなのいる借家にトボトボと私ではない元気のない顔をして、スッカリと魂が抜かれたような歩き方をして、帰っていくのでした。

ただ思うのは、ここにいる後悔とメリッカと出会ってしまった悲しい思いがある。それは、決して、メリッカが嫌いと言っているのではなく、皮肉や恨みを抱いている訳でもなくって、幼気いたいけな気持ちにかられてメリッカに同情してしまう程…上手くいえないけれど、悲痛だった。

家に戻ると、やはり空気は、昨日のとおり、重苦しい空気につつまれていた。里美もうつむいて、涙を流していた。タタオとひょろは、話し合い、出口いづぐちさんは、もう寝ていた。そのように何だか、微笑みが出せない程の悲哀ひあいでみちていました。里美が私に気が付いて、とても見ていられない顔をして近寄って私に抱きつき、「愛、辛いね。イヤだよね…もう儀式を行う犠牲者名が話題とされていて、私…ビックリして、とても話を聞いていられなかった…」といい、もしかしてと聞くと、

「メリッカの名前があげられていたの…」と声が聞き取りにくい程の泣き声でした。私は驚いて口に出せない思いだった。

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