開眼編 #95 心眼と神眼
ハチマキで目隠しをした雄一とイダニコ国の裏ボス知将ラークの稽古と言う名の闘いが始まった。
「イダニコの英雄『知将ラーク』VS女王ケッツァコアトル王婿神谷雄一」のタイトルがスタジアムバックモニターに映し出された。
いよいよ稽古と言う名のバトルもクライマックス。5005人目、最後の相手を雄一が知将ラークに指名する格好で始まったこの闘いはスタジアムの観客を大いに興奮させた。
「なぁ、ガルニャ。お前は気づいていたのか?ラーク様の心眼能力に。」
「いや、雄一王婿から目醒めさせてもらってからだ。フッ、恥ずかしながらラーク様の「視力」についても・・。」
「そうか、お前もか・・。これまでラーク様の一番近くにいたにも関わらず、結局雄一殿に教えてもらうまで気が付かぬとは、全く情けない話だ・・。我らは愚鈍にも程があるな。」
「ふっ、確かにそうだなイエラキ殿。・・だが、しかし・・。」
「ああ、ガルニャ。分かっている・・。」
イエラキとガルニャは少し言葉を交わし雄一とラークの激闘を凝視する。
『師匠の編み出された心眼能力は我らが引き継ぎ、広める!!』
二人はそう決意して二人の一挙一刀束を目に焼き付ける。
舞台中央に対峙する二人。開始の合図は誰からもない。それでも、どちらからと言うこともない阿吽の呼吸で拳と拳を重ね合わせる。
コツン!
ガン!ガンガン!
拳と拳が幾度も激しく正面衝突する。ガンガンと、ひとたび鳴らされた打撃音はまるで会話を始めるようにテンポよく響く。
「いつから気付いておられましたかの?」
「えっ?何のこと?」
激しい拳の応酬の中で、ラークが我慢しきれない様子で声を掛ける。
「ふおふおふお。わしの目のことですじゃ。もう、この目が役に立っておらぬことに気付いておられたでしょう?」
「うん。」
ラークの目が不自由な事実は今日まで誰も気が付くことがなかった。
何故ならラークは盲目の素振りを何一つ見せないばかりか、その眼球も、自然な動きを見せ、遠くの物をも捉えているからだ。今だって、ラークの眼球は常に雄一を捉えている。
「いつからですかな?そう思われたのは。」
「最初に会った時からだよ。」
「ほう。では、挨拶に伺った際にお気づきになられたと・・」
「ううん。この闘技場に入ってきた時。」
ラークが目を細め、口角を上げる。とても嬉しそうな表情を見せる。
「最初、闘技場中央に上がられた際、気を散らされたように辺りを見回されていたのは、わしの「視線」を感じ取っておられたからですな?」
「えへへー。そうだよ?あんな強い「視線」を受けるのは初めてだったからすぐに気付いたよ。」
「目が見えないのに、すごい「目ぢから」のあるおじいちゃんがいるなぁって思った。」
「ふぉっふぉっ。わしの「視線」を感じて頂けた方は雄一王婿が初めてですぞ。」
「あははー。そうなんだ。でもね、ぼくね、その時思ったの。目をつむっても見ることってできるんだなって。」
ラークは雄一と出会ってすぐにラークの持つ「心眼能力」をもその時点で見抜いていたことを知り、更に嬉しそうな顔をする。
「雄一王婿はこの心眼能力をどうやって身に着けられましたかな?」
「あははー。なんでだろー。んー、分かんないや。なんとなくー・・できた。」
「ふおーっふおふおふお!そうですか。その答えを聞いてゾクゾク致しますじゃ。」
この技術。理屈は蝙蝠やイルカ、鯨と言った生物がソナー(音波)で対象を捉えることと似ている。ただ、質の違いとしてラークは雷系魔法で、雄一は脳筋スキル雷電により電磁波を利用した「レーダー技術」に近いと言うこと。
電磁波を使うレーダーは光の速さで対象を捉えることができるため、より時間的に正確な位置情報が得られる。
そしてこの心眼能力の有効範囲は360°の空間全て。電波の乱反射を利用し陰に隠れた相手も補足し、筋肉の動きから息遣いまでを補足することができる。
これは理屈の上での話で、この技術の詳細メカニズムをラーク自身は完全に理解している。
しかし、雄一はこのテクニックをトロルという名のモルモットを相手に「感覚」で身に着けていった。
それは丁度、オタマジャクシが尾を取り、足を生やし、エラ呼吸から肺呼吸に自然と移行するように。
「雷電」を身に着けた雄一がラークのお手本を切っ掛けにして、それが当然であるかのように身に着けた空間把握技術であった。
「雄一王婿にはどのような世界が広がっていますかな?」
「うん。とおってもキレイに見えるよ。目をつむって見る世界の方が美しいと感じるくらい。」
「ふおっふぉっふぉっ。やはりもうソコまで登ってこられていましたか。」
ラークは興奮した。雄一が自分と同じ世界を手に入れたことで「世界はこんなにも美しい」そんなウルトラハイビジョンを分かち合える共通の理解者が現れてくれたことに。
ガン!ガン!
ラークが強打を放てば雄一が強打で返す。
トン、トン。
雄一が軽いジャブを放てばラークもジャブで返した。
ラークと雄一。両者同等の力を込めて拳をぶつけ合わせている。
両者意図的に。
筋肉の動き、相手の呼吸などから、どの程度の力を返せば同じに合わせられるか、二人ともが知っているのだ。
・・ガン!ガン!・・トン、トン・・ガン!ガン!・・トン、トン・・。
『雄一王婿の拳から、その意思が手に取るようにわかる。ふおっふぉっ。最高じゃ!わしは今、至高の会話をしておる!』
ラークの顔が愉悦に浸る。
「ラークじいちゃん。みんなにもコレ教えてあげたらいいのに。」
「ん?そうですのぉ。しかし、言葉で覚えられる技術でもありませんしのぉ・・。」
「あははー。そんなことないよ?みんなに聞いたら「できるよ」って言ってたもん。」
「・・??」
雄一の言葉が少し理解できないラーク。でもゆっくりと笑顔を見せる。
「なるほど・・。やはりそうか・・。雄一王婿は「心眼」だけでなく神の目、「神眼」を併せてお持ちのようですな・・。」
「神の眼?」
「ふぉっ。まさか自覚がおありにないとは・・。よもや神眼だけでなく、更に別の眼までお持ちではないでしょうな。ふおふおふお。」
「変なラークじいちゃん。ぼく、おめめは二つしかないよ?」
「ふふふ・・。恐ろしい程に自分の能力に無自覚・・。しかし、それでいて誰よりも全ての「真理」を、「知」を、「空」を知っておられる。」
「あははー。よくわかんない。」
「分かりませぬか・・。では、一つ一つ自覚してもらうしかありませんのお・・。」
ラークの光無き目がギラリと光る。
『この子は強大な力をその身に宿しているがまだ蛹にもなっておらぬ幼虫だ。無自覚な力は、暴走すればその身を滅ぼしかねない。だからこそ、このわしの持つ心眼の「究極の型」を伝えねばならぬ。強大な力を良い方向へ導くための道しるべにならねばならぬ。』
ラークは強い眼光を内に秘めるように瞼を閉じる。
「さて、雄一王婿。わしは、この能力の更にその上を知っておりまする。」
「うん。知ってる。だからラークじいちゃんに教えてもらいたいの。お勉強だね?」
その言葉を待っていたかのように雄一は息を弾ませ答える。
「ふふふ・・。ならば、お遊びはココまでと言うことですな・・。」
スッ!
ラークは一旦攻撃を止め雄一と距離を取る。
「あははー。遊びとお勉強はよく似てるよねぇ?」
スッ!
雄一もラークと息を合わせて同じだけ距離をとる。
「すぅ~・・・・・。」
ラークはゆっくりと首と両肩を回し、呼吸を整えている。
「ふぅ~・・・・・・・。」
ラークが心眼究極奥義を発動する。
「超現実隠密技術・・。」