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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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黎明編 #92 ラグナロク

 ロドロス王国ステマ・イクソスが解き放った「厄災」アバドンと人類最後の砦から飛び出してきたアダムとの攻防が始まった。


 アダムとアバドン。人類滅亡をかけた光と影の一戦。激しい拳の応酬が続いている。


 『我が得た神の力!とくと味わえ!』


 ギュルルルル!


 アバドンが至近距離から漆黒の竜巻をアダム目掛けて放った。


 『暗黒魔法か・・手段を択ばぬお前の考えそうな技だな。』


 すいっ。


 『なに!?』


 アダムはアバドンの魔法攻撃をまるで暖簾を払うかのように左手で打ち払い、虹色に輝くオーラを纏った拳でアバドンを圧倒する。


 ドン!


 『ふぐおっ!』


 アダムはまるでアバドンの弱点を知り尽くしているかのようであり、アダムの攻撃を受けたアバドンの肉体はひび割れ、抉られ、砕けていくのだった。


 『さあ、これで分かっただろう?いつまでも意地を張らずに私の影に戻ってこい。』


 『うぐぐ・・。誰が意地など張っておるか!畜生・・。』


 アバドンの肉体には明らかに濃厚なダメージが刻まれていく。


 「凄い・・。アダムがアバドンを圧倒している・・。」


 「さすが純正の規格品じゃな。バッタモンのコピー商品とは訳が違うわい。」


 「でも・・。負けちゃうんだよね?アダム・・。」


 「そうじゃな・・。歴史が変わりでもしない限りは・・。」


 アバドンが苦し紛れに反撃する。


 『ぐおおっ!』


 パシン!


 アバドンの渾身の攻撃を右掌で払い除け、強烈な正拳突きを放つアダム。


 ドゴオ!


 『ぐはあっ!』

 

 悶絶するアバドン。


 力任せに暴れ回る態のアバドンに比べ、アダムの動きは極めて洗練されている。


 『おのれアダム・・。光など、この闇の力で呑み込んでくれるわ!』


 『困った時の暗黒魔法・・か。つくづく進歩がないな・・。』


 アバドンはヘドロのように物質化した闇の光を放つ。

 ドロドロした闇はアダムの全身を巻きつくように呑み込んだ。


 「ああ!アダムがやられたわ!これが致命打になるのね!?」


 「いや、まて。闇がグツグツと煮えていくように蠢いているぞ。」


 ピカーッ!


 呑み込まれた闇を眩い光で打ち砕いたアダムがヘドロの山から力強い足取りで出てくる。その様子を見てアバドンは片目をひそめ、大きく舌打ちをする。


 『ちっ・・。化け物が・・。』


 『ははっ。まさか、お前からそう呼ばれるとは夢にも思わなかったぞ。』


 そして再びアダムの猛攻が始まる。と言うかアバドンは終始ボッコボコだ。とうとう両手で頭を覆い丸まってしまった。


 「えーっと、復活するのって「厄災」アバドンの方だよね?アダムじゃなくて。」

 

 皆が気にしていることをムーンが言葉にする。


 「んー。その筈なんだけど、おかしいよね・・?」


 「でも力の差は歴然だよ?アダムがこのまま「厄災」滅ぼしちゃうんじゃない?ねぇ?ケッツァコアトルちゃん?」


 「んー。それは、「無い」・・筈じゃが・・。」


 ボコボコにされ続けているアバドンを指さしてムーンが質問を投げかけるがティアもケッツァコアトルも両眉を上へ上へと上げるばかりで歯切れが悪い。

 

 アダムが強過ぎる。最強最悪のアバドンを相手に一分の隙も無い。その姿まさに戦神いくさがみ。皆そう思っていた。


 みすぼらしく亀のように丸まったアバドンを見下していたアダムが攻撃の手を止める。


 『さあ、名もなき影、アバドン。もういいだろ?私の元へ還ってこい・・。』


 『ククク・・。我はアバドン・・。全てを打ち滅ぼす者・・。』


 土下座姿勢で笑うアバドン。


 『クケケケケ・・。アダム・・。キサマ不完全変態したな?』


 『・・・。』


 アダムは押し黙る。


 『クケケ・・。キサマは「神の頂」に達してなどいない・・。ケケケケケ・・我の勝ちだ!研究で我がキサマの一歩前に出ていたのだ!』


 『・・・。』


 アダムはなお押し黙っている。


 『キサマの発見したMW塩基・・。我はそれとは別に「神の力」を宿す方を見つけたのだ!』


 『・・・。』


 『グゲッグゲッグゲゲゲゲ!言葉が出ぬか!それもそうだろう。もはやキサマの体は抜け殻も同然なのだからな。』


 『・・・。』


 『生贄の魂すら喰わなかったのは同情心からか?それとも、それがキサマの言う神の愛か?』


 『・・お前は何も分かっちゃいない・・。』


 『完全体の我が、不完全体のキサマに教えてやろう・・。』


 アバドンはゆっくりと立ち上がるとアダムの肩に手を乗せた。


 ボゴオ!


 『うぐぅ!』


 そしてアダムの鳩尾に強烈なパンチを叩き込んだ。アダムの顔が歪む。


 『ふははっ!ざまあみろ!さあ教えてやる!キサマが今日から裏アダムだ!私の影だ!!』

   

 『・・愚か者め・・。「済んだ命」のことはもういいから、早く私の「影」として戻ってこい。』


 アバドンは腰を落としアダムの鳩尾に肘鉄を真横に繰り出した。


 ベゴオ!


 『ぐふぅ!』


 続けざま、くの字に曲がるアダムの髪の毛を乱暴に掴み、持ち上げるアバドン。


 『なんの冗談を言っているのかな?幾多の「生贄」を使ってこの世に誕生したアダムくん?我の与えた死と君が与えた死と何が違うって言うんだい?』


 『・・汝・・自身を知れ・・。お前は空すら破壊してしまう・・。』


 アバドンの目が燃え盛るルビーのように赤く染まる。


 『グゲゲゲ・・。キサマは我の影にすら相応しくないわ!!死ねぇ!!』


 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ・・。


 今までの鬱憤を晴らすかのようなアバドンのラッシュがアダムの肉体に被弾する。


 『グハッグハッグハハハハ!』


 邪悪な笑みを零しながら怒涛の攻撃をしてくるアバドンに対しアダムは受け身を一切取らずにそのまま膝から崩れ落ちてしまった。


 『おっと!誰が寝ていいと言った?』


 ギュルギュルギュル!


 イエローオーカーの光でアダムの両腕を縛り上げ十字架に張り付けたように宙へ浮かせる。アダムのボロボロに傷ついた身体からは生気が感じられない。


 「なんでなんで?あんなに有利だったのに、どうして簡単に逆転されちゃったの?」


 「う~ん。戦う技能はアバドンの遥か上を超えておったが、アダムのやつ、まるでエネルギーが枯渇した様子じゃなぁ。」


 ギリギリと光のロープがアダムの腕を縛り上げる。すると「ぶちい」と鈍い音が響いた。


 「うあぁっ!アダムが右腕を引き千切られたわ!なんて酷い・・。もう決着は着いているわ!もうやめて!!アバドン!!」

 

 そして引き千切ったアダムの腕を地面へ落とし、ぐしゃりと踏み潰した。


 そう決着は誰の目にも明らかに着いていた。しかしアバドンはアダムを一方的になぶり続ける。


 『ははっ!わははは・・!偉そうな口を効いていた割には随分情けない姿じゃないかアダム!』


 『・・。情けない姿を晒しているのはどっちだか・・。さぁ、戻れなくなる前に私の「影」に戻れ。』


 ズシン!


 片腕となったアダムも地面に叩きつける。


 『ほう!消えかけているくせに、まだそんな生意気な口を効けるのか・・。』


 グシャ!


 起き上がろうとしたアダムの顎を蹴り上げるアバドン。


 『よく聞けアダム!キサマも嫌と言うほど知っておろう。人類の歴史を!「勝者」こそ称えられ、崇められる正義なのだ!キサマのような「敗者」が語ってよい正義など無いのだ!!』


 グシャ!


 仰向けに倒れたアダムの左足を踏み潰すアバドン。


 アダムは力なく虚ろになったその目をアバドンに向ける。


 『あはは・・。そうだな・・。お前の話はもっともだ。・・ところで、私はいつ「敗者」になったのだ?』


 『ふっ・・。ふははっ。肢体を潰され、天を眺めるだけになっても負けを認めぬか。ククク!キサマも紛れもなく究極生物だが、負け惜しみも究極だな・・。』


 グシャ!


 アダムの右足を潰すアバドン。


 アダムの目の中の光が途切れ途切れになる。


 『どうだ!アダム!これでも自分を敗者と認めぬか!?』


 『・・どうやらお前はどうしても私を「敗者」にしたいらしい・・。では、私が「敗者」なのだとしたらお前は何者なのだ?』


 『死ねえええ!』


 グシャ!


 アバドンはアダムの口を封じるかのようにその顔面を踏み潰した。


 『我はアバドン!!アダム・・キサマを裏アダムと名付け、永久的に敗者だと言うことを「決める」者だ!!』


 頭を潰されたアダムが完全に沈黙し辺りを静寂が包む。


 『ヴオオオオオオオオ・・・!!』

 

 耳が痛むほどの静寂を切り裂くようにアバドンが吼える。

 そうして、アダムの亡骸をそのままに人類最後の砦へと向かった。


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