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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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開眼編 #89 幻術士と言術士

 森の番人を取り仕切る部隊長、第五部隊長アルデアと第四部隊長ガルニャを撃破した雄一。その雄一の前に序列第三位の第三部隊長アナトラが対峙した。


 「雄一王婿殿。吾輩は第三部隊長のアナトラ・アグリオバビャと申します。」


 「うん。アナトラさんぼく一生懸命がんばるので、よろしくお願いします。」


 雄一はそう答えるといつものように丁寧にお辞儀をした。アナトラも応えるように深々とお辞儀をする。


 「雄一王婿。私は、他の部隊長と少しタイプが違っておりましてな。幻術魔法を得意としております。目隠しをされているあなたに私の術が「お勉強」のお役に立てばよいのですが・・。」


 頭を下げながらジロリと雄一に目をやり、ニヤリと歯を見せて笑うアナトラ。雄一はアナトラの皮肉になど気付くはずもなくマイペースに答える。


 「えーっ!?それほんとー?すっごく楽しみー。・・ところでゲンジュツってなあに?」


 「ふっふっふっ。私にもそうやって話を誤魔化されますか。さしずめあなたは言葉で惑わす言術士げんじゅつしと言ったところですな。ですが、私には通用しませんよ?」


 「?・・。ふーん。そうなんですね。」


 幻術士アナトラは雄一を言術士と称し、構えを取ると、雄一もそれに合わせて構える。


 「どう言う方法で我々を捉えているかは知らぬが、勘や感覚ではなく、「見えている」ことは確かだ。ならば私の術の効果は抜群だろう。ふっふっふっ。」


 アナトラはそう呟くと、両手を胸の前で様々な形で印を組み始めた。

 雄一は、その神秘的な動きに目を奪われ(目隠し状態だが)ぽかーっと口を開けている。


 「真澄鏡まそかがみ!!」


 術名を発すると同時に、アナトラは大量の分身体を発生させた。その数20体に及ぶ。

 そして分身体はぐるぐると雄一の周りを取り囲んだ。合わせ鏡のような分身体に、どれが本物かまるで分からない。

 観衆も見事なアナトラの幻術を前に「おおーっ。」とどよめいている。


 『ふっふっふっ。さぁ、どうかな。雄一王婿殿?』


 声を出すと本物がばれてしまうので、無言のまま作りだしたファントムと共に、雄一の周りを歩き回るアナトラ。それに対し雄一は一切微動だにしていない。

 そして衝撃の言葉を発する。


 「ねー、ねー、アナトラさん。さっきから一人でウロウロしてるけど、ゲンジュツまだー?」


 「なにぃ!?」


 雄一の予想外の言葉に、つい声を出してしまったアナトラは慌てて口を押える。


 「それとも、ぼくの周りを歩くって言うのがゲンジュツって意味?」


 雄一は構えを解き、偽物20体には目もくれず本物のアナトラの前に歩み立った。


 『ぎょっ!?まさか術が見切られているのか!?』


 両手口を塞いだまま、まるで蛇に睨まれた蛙のように怯えるアナトラ。


 『うぐうっ!』


 見られているから口を塞いで気配を消す意味などないのにアナトラは息すら止めている。

 ガクガクと、顎の震えが止まらない。


 「それとも、ぼくが攻撃してみると出てくるのかな?・・その、ゲンジュツ・・。」


 早く誤解を解かないと雄一の勘違いがアナトラの寿命を盛大に縮める。しかし、無情にもアナトラの顎は激しくガクガク上下に動き、うんうんと頷いているようにしか見えない。

 その様子を見て雄一がトンと少しジャンプし、アナトラの胴体付近で右手拳みぎてこぶしを振り上げ、力を込める。


 「!!」


 その右手、第四部隊長のガルニャを葬った際にグローブを外したその時のままだった。

 そう素手による雄一の殺人パンチが誤ってアナトラへ放たれる。


 『ひい!』


 アナトラは半狂乱になりつつも、被弾する左脇腹に全神経を集中させ歯を食いしばる。


 ズッコオーン!


 「ぐばあぁぁっ」


 アナトラの顔面が歪む。

 雄一は見事なライトフックをぶちかました後で、右手が素手であることに気が付いた。


 「あ、素手で殴っちゃった。ごめんなさい間違えました。」

 

 間違えて相手を傷つけたのだ。わざとじゃなくても謝意は必要だ。雄一は心を込めて丁寧な謝罪の言葉をアナトラに贈る。


 そうしてから続け様、グローブを嵌めた左拳を、本来打ち放つべきであった安全性の高いパンチを丁寧にアナトラの右脇腹に突き刺した。


 誰でも間違えることはある。大切なのはその後の行動だ。雄一は即時訂正・即時対応で失敗を取り戻した。


 ドッゴオーン!


 「ごばあぁぁっ!!」


 「ふう。これで、よしと。」


 左右共、あまり変わらない打撃音が響く。アナトラは不幸にも雄一のボディへのダブルフックを喰らってしまった。


 「・・お・・おええっ!」


 アナトラはその場でうずくまり、不覚にもお昼に摂った内容物の一部を吐き出してしまう。

 その後もアナトラは腹部を両腕で押さえ、悶絶している。

 

 雄一は人差し指を咥えてその様子を見ていた。


 「あの~。アナトラさん。「げぇ」が出ちゃったけど・・・ゲンジュツって「げろ」のこと?」


 「ち・・ちがゎい・・。」


 雄一の天然に悶えながらも否定の反応をするアナトラ。


 「・・王婿には、私の20に及ぶ分身体が見えなかったのですか?・・私の生き写しほど精巧にできたファントムが見えなかったと言うのですか?」


 自慢の幻術「真澄鏡まそかがみ」の解説をしなければならない悔しさと虚しさを感じながら雄一に頭を向けて話すアナトラ。


 「えっ?分身体?ふぁんとむ?ナニそれ。そんなもの出してたの?見たい!ねぇもう一回出して?」


 「・・いいえ、私、恥ずかしながら先程の二撃を頂戴し、まともに動けませぬ。どうかご容赦下さい。」


 アナトラは決して打たれ弱いと言う訳ではないのだが、幻術「真澄鏡まそかがみ」が通用しないショックのうえに強烈なダブルフックのお陰で心身ともに限界を迎えていた。


 自分の吐いた汚物に塗れたアナトラの頭の中は「はやくお家に帰って熱いお風呂に浸かりたい。」只々それでいっぱいだった。

 だがしかし、雄一はアナトラのそんな小さな願いを踏みにじる。


 「大丈夫だよアナトラさん。はい。これ食べて?」


 「こっ・・これは・・!」


 雄一がアナトラに差し出したのは・・、そう、完全回復剤「キャラメル」だった。

 しかし、このキャラメル、ガルニャ戦からずっと雄一の右手で握り締められていたモノ。

 

 差し出されたキャラメルは小さな掌の上で、手汗により半分崩れるようにトロリととろけた状態で乗っていた。


 『うそ・・。まさか・・冗談だろ?こんなニリニリの得体の知れない物を口にしろと言うのか?』


 雄一から「早く食べろ。」と言う無言のプレッシャーを感じるアナトラは必死の言い訳を考える。


 『はっ!そうだ!!』


 「・・恐れながら、私ごときにそれは余りに勿体ございません。それは、雄一王婿様がここぞと言う時に口にすべきものです。」


 アナトラはガルニャが雄一キャラメルを断った時の口上を述べる。


 「うん。そうだね・・。」


 ガルニャの時と同じ雄一の反応。アナトラは内心でガッツポーズを決めた。しかし、雄一はアナトラを絶望に突き落とす言葉を続けた。


 「そう・・今がその時だよ?アナトラさん。ぼく、どうしても「ふぁんとむ」が見たいんだ。ほら、遠慮しないで食べて。そしてゲンジュツをもう一度見せて。ねぇ?ほら。ねえ・・。」


 アナトラの頭の中で、両手を挙げたガッツポーズが音を立てて崩れ去る。


 雄一が笑みを浮かべながらアナトラの口元へニッリニリのキャラメルを近づける。


 『・・この子・・こわい・・。』


 アナトラは覚悟を決め、涙目を浮かべながらも「わかりました」と作り笑顔で頷いた。

 そして震える指で、その掌にある小さな茶色い物質をニチャリと掬い取ると、気合を入れて口へ放り込んだ。


 「ドン!」


 とアナトラに衝撃が走る。


 「おっ・・おおおっ!こっこれは一体・・。体の痛みが溶ける・・。気持ちいい・・。心が満たされる・・。あ、あれ?そこに居るのは死んだはずの、お・・おかぁちゃん?」


 キャラメルを食べたアナトラが恍惚の表情を浮かべている。そして見えるはずのない幻まで見えているようだった。

 雄一キャラメル・・殆ど麻薬に近い。


 「さぁ、アナトラさん。もう一度ゲンジュツ出してみて?」


 「えっ!?あれ?おかあちゃん?」


 「ほら、しっかりしてよもう。アナトラさんてばっ。」


 「あ・・。はい・・。」


 完全回復を果たし、我に返ったアナトラは雄一からのリクエストに応え、再び幻術「真澄鏡まそかがみ」を発動させる。雄一の前には先程と同様20のアナトラが現れた。


 「ど、どうですか?雄一王婿。」


 「うーん・・やっぱり見えないやぁ。ちょっとそのままにしててね。チャンネルを変えてみるから。」


 「ちゃ・・ちゃんねる?」


 アナトラは雄一の言っている意味が分からない。少なくともアナトラの出した20のファントムはやはり見えていないことは確かなようで、大きく溜息を着く。


 『人の心を惑わす言術士め・・。』


 アナトラがそう思っていると、雄一がぴょんぴょんと跳ねだした。


 「見えた!見えたよアナトラさん!」


 「ほっ、本当にございますか!?」


 ようやく自分の術が見てもらえてアナトラは喜びと安堵の表情を浮かべる。ついでに今は不要な自信も取り戻せたようだった。

 雄一は、ニセアナトラに対し、その実態を確認するように両手でパタパタとさせている。

 ニセアナトラはそんな雄一を茶化すような動きをみせ鬼ごっこのような遊びを始める。


 「すっごーい。こんなにたくさんのニセモノを作れるんだね。おもしろーい。」


 「そう!そのニセモノこそがファントムなのです。すごいですよね?ね!驚かれるのも無理はありません。私はこの術で対戦相手を翻弄させ、この地位を得たと言っても過言ではないのですから。」


 アナトラは分身体を自由に操りながら雄一を思いのままに翻弄する。暫し雄一はファントムと追いかけっこをして遊んだ。


 「ああ楽しかった。ありがとうございますアナトラさん。いい勉強になりました。もう消してもいいですよ。」


 「おや、もうよろしいのですか?ファントムが見える状態では私を捉えることができないからおやめになるのではないでしょうね・・。」


 雄一がファントムと鬼ごっこをしている時、思うままに翻弄できたことで調子に乗り、皮肉を言うアナトラ。


 「えっ?ずっとホンモノのアナトラさん見えてるよ。ホンモノの方が、影が薄いもん。」


 「なっ!?影が薄いですと!?ま、負け惜しみを!!」


 アナトラは雄一から影が薄いと言われ、存在感が薄い「小物」扱いされたと思い、雄一の言葉を挑発と捉えてしまう。そして無謀にも、雄一に対し攻撃を仕掛けたのだ。無意味だが一応は20のファントムを従えて。


 「うおーりあー!!」


 「えい!」


 ズッコオーン!


 「ぐばあぁぁっ。」


 「あ、ごめんなさい、また間違えました。」


 雄一は飛び掛かってきたアナトラにまたしても「素手」である右手でライトフックを見舞ってしまい間違いに気づき謝った。アナトラの顔面が苦痛で歪む。


 人は間違うもの。だからこそ、訂正して改めることが・・。


 ドッゴオーン!


 「ごばあぁぁっ!!」


 「ほっ。あぶないあぶない。これで、よし!」


 「うがあ・ぁ・ぁ・・げろげろげろ・・。」


 雄一のデジャブ攻撃を喰らったアナトラは、お昼の全てを吐き出した。

 清掃に5分ばかり要した。


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