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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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黎明編 #87 裏アダム

 世界征服を目論むララの父親ステマ王は世界各国が持っているアダムとは別のAIを所有していた。これは言わば「裏アダム」。

 表アダムからの情報と技術はネットワークを通して取得し、極秘裏にもう一つのAI、裏アダムへ学習させていた。


 それだけなら単なるコピーAIに過ぎず、随時世界中からの情報を網羅し続け、学習を続ける表アダムの劣化版なのだが、ステマは裏アダムを「情報操作」として利用活用していた。


 裏アダムはロドロス国民の扱うAIとだけ繋がっていた。そうして表アダムの発信する世界に向けての情報は、ロドロス国民には届くことなく、代わりに裏アダムによって書き換えられた情報が届けられた。


 世界の持つ課題を挙げて非難を繰り返し、武闘大会などの不参加など、他国と交流を断絶していたのも、王族にとって不都合な情報を国民に与えないためだった。

 ロドロス王国はこの、超情報社会においても、独裁政治と裏アダムにより情報をコントロールし、世界と国民を欺き続けることができたのだった。


 そして裏アダムにはもう一つ裏の顔があった。

 それは何でもありのゲノム・イン・ゴッドの「人体実験」である。

 裏アダムは表アダムが手を出さない失敗や生命の危険も顧みない人体実験をロドロスの国民を拉致しては行った。

 

 結果、もはや「ヒト」ではないモンスターを作り出しては処分するといったことを繰り返した。

 そう、ステマは全生物を対象に究極の生物兵器を生み出す為にゲノム・イン・ゴッドを繰り返し、そのデータを蓄積してきたのである。

 実験でおびただしい数のロドロス国民と生物が死んだが、その情報は即時隠蔽され誰にも知らされることは無かった。


 「おいっ!ティア聞いたか!?最悪じゃ!ララパパは史上最悪の極悪人じゃ!」


 「引くわーララパパ。クズの極みで人間の皮を被った悪魔だわー。ララパパ。」


 「・・ステマの本性を理解してもらえて良かったけど、「ララパパ」と呼ぶのやめてくれないかな?」


 そうして多くの動植物と人命を犠牲にして、表アダム以上のビッグデータを手にした裏アダムは、その技術を駆使して「ララ」を作り出したのだった。

 ララは驚異的な魔法能力と学習能力を見せつけ、国王ステマを大いに喜ばせた。


 「ララちゃんはこの時代から転移させられていたんだね。」


 「ええ・・。「西暦」とか「アダム」のキーワードで薄々感づいてはいたんだけどね・・。」


 ムーンの言葉にララが下唇を噛み締めながら答えている。そんな様子をティアは微妙な表情を浮かべて見ていた。


 『・・ララの素性は過去視で見ていたけど、全っ然気が付かなかった・・。でも、ばれると悔しいから取り敢えず、知ったか振ってみよう・・。』


 「と言うことは、ムウは蟲毒の儀において、異世界ではなく「過去」から600名の強者を選定していたと言う訳ね。ララしかり、タクフィーラ様しかり、雄一しかり・・。」


 ティアがはったりドヤ顔をキメて憶測で物を言う。


 「・・きっとそうねティアちゃん。みんなこの地球の住人だったんだね。」


 ララの同意を得てティアは心の中で小さくガッツポーズを決めた。しかし、


 「でも、ムウはどうやって過去に干渉したのかしら・・。」


 「うっ・・。」


 続けざま出されたララの疑問に喉を詰まらせるティア。「ふふ・・。50点ね。ティアちゃん?」と言われた気がした。


 ララは産まれてすぐに言葉を覚え、師範代プセフィティスから魔法の勉強を叩き込まれた。

 空中浮遊をはいはいの時期に覚え、実践的な訓練を積み上げ、1歳を待たずして全属性魔法のエキスパートとなった。


 「ララって空飛べるんだね・・。知らなかった。」


 「・・別に。こんな魔法誰だって使えるわ・・。」


 「使えねーわ!」


 どんな嫌味だよ!とティアは思ったが、ララの目の憂いは深刻だった。ムーンがその目を心配そうに見つめる。


 『へっへっへっ。本当にこんなおチビちゃんを殺るのか?幼女への暴力行為はさすがに俺のデオスでも禁じられていたぞ?』


 『この子は生まれながらにしてロドロス王国最強の兵器と聞く・・。油断するとこちらの命が無くなるぞ。』


 隔離された闘技場の中央。2歳のララの前に立つ巨漢と魔法使い。


 『デオスの勇猛な戦士たち、ギブアップをされる場合はお早めに宣告をお願いします。』


 『けっ!するか!そんなもん!』


 『ララ・・練習通りに闘いなさい。』


 『・・わかりまちた。プセフティスせんせ・・。』


 『では、始め!!』


 ララの魔法師範代プセフティスが闘技場内にアナウンスを流し、戦闘開始の合図が告げられた。その瞬間先手必勝と言わんばかりに魔法使いが自身の最大魔法を放つ。


 『メテオストリーム!』


 2歳のララの頭上に幾つもの焼け爛れた隕石が降り注ぐ。


 「うわっ!「幼女ララ」危ない!逃げて!!」


 ムーンが思わず叫ぶ。しかしララは一点集中落下してくる隕石を避ける素振りも見せずブラックホールのような穴を頭上に展開した。

 「ヒューヒュー」と落下音を鳴らしていた隕石は「すぽっすぽっ」っと言う音だけを残してブラックホールの穴へと消えた。


 『くっ!あんな魔法見たことがないぞ!!』


 驚きを隠せないデオスの魔法使いと巨漢戦士。その二人の目を凄まじい殺気を込めて睨みつけるララ。


 「なんと・・。「幼女ララ」2歳でこの眼力か。」


 と、デオスの巨漢戦士が雄叫びを上げながらララに突っ込む。


 『どおおりやぁぁ!俺様のメガトンハンマーを喰らえ!!』


 『・・コレ・・。返ちゅ・・。』


 『!!?』


 2歳のララがそう呟いた瞬間、ララの目の前に再びブラックホールが現れ、先程吸い込んだメテオストリームが一気に吐き出された。


 バシュバシュバシュバシュ!


 隕石は狙い澄ましたように放たれ、二人の急所を貫いた。

 ララと対峙した二人の戦士はほぼ同時に、呻き声一つ上げることなく即死したのだった。


 「ちょっ・・「幼女ララ」強すぎないか?」


 「いや、あれは「幼女ララ」に仕掛けた魔法が強すぎた。魔法使いが「幼女ララ」に対して一気に勝負を決めようとして強力魔法を放ったのが、「幼女ララ」にそのまま返され自滅したパターンだな。・・まぁ、「幼女ララ」の出したブラックホールも大概強力な闇魔法ではあったが・・。」


 「ちょっとみんな。今度は「幼女ララ」って言うのやめてもらえないかな?」


 「ごめんララちゃん。「幼女ララ」の仕草が可愛くてつい。」


 「「幼女ララ」って言いたいだけだろムーン。」


 「あら、ティアだってそうでしょ?「ララパパ」とか「幼女ララ」とか不自然なほど被せて言ってたよ?」


 「ん?私が「ララパパ」とか「幼女ララ」って言ってたのはあなたたちに合わせてただけよ?協調性よ協調性。」


 「ふふふ・・ねえティアちゃん?・・さっきからわざと言ってるよね?」


 ララが薄ら笑いを浮かべながらこめかみに青筋が立つのを確認してからティアは「んんん?」と言って口に手を当てぷるぷると首を振った。


 ララとデオス出身の戦士二人の戦いは、「自然妊娠で誕生したロドロスのプリンセスVSゲノム・イン・ゴッドの申し子」と題され、全世界に公開された。


 『見よ!神に愛されし我が娘の力を!王女ララは神の寵愛を受けて生まれてきたのだ!アダムのゲノム・イン・ゴッドなど恐れるに足らぬ!ロドロスとデオスに栄光あれ!』


 『ステマ・イクソス万歳!ステマ・イクソス万歳!』


 2歳にして相手てきの能力を的確に分析し、最小限の魔法で最大限の戦果を挙げるララの姿と、ステマ王の演説を見て世界は少なからず衝撃を受け、ロドロス王国に一目置くようになった。


 その後も、ロドロス王国の闇アダムによる闇研究は繰り返され、極秘裏に様々な生物兵器が生み出されていったのだった。


 「ララパ・・。ララの父君は世界征服の為なら手段を選ばぬと言うことか?」


 「ふふ・・。そうね。」


 ララは、寂しそうに笑う。


 「父は、自分以外の人間をモノとしか扱わない血の通わない冷酷な人間だったの。もちろん私も・・妃である母ですら・・。」


 「ふーむ。しかし残念じゃのう・・。この狂った世界に現れたまともな人物だと思っていたのに。」

 「で?ララはいつからステマの悪事に気付いたのじゃ?」


 「・・3歳くらいの時よ。母マストスが私に父ステマの陰謀を教えて聞かせてくれた。そして私たち親子は世界征服実現のためなら悪魔にだって魂を売る父から、逃げるようにして母の手をとり王城から出たの。西暦2204年、4歳になったばかりの初春の頃に。」


 幼少の頃からずば抜けて高い知能を持っていたララは、母の協力を得ながら父ステマの所業と策略を調べあげていた。

 ステマ王の持つ兵器の一つとして利用されることを恐れたララはタイミングを見計らい王城を後にしたのだ。そしてロドロスの民に紛れながら母と二人で暮らし始めた。


 「この時既に身重だった母は、その年の夏に男の子を産んだ。私の大切な弟・・。立派な男の人に成長して欲しいと願って、アンドラスと私が名付けたわ。」

 「母はアンドラスを溺愛していた。きっと父親はステマではなかったのだろう。ステマとは似ても似つかない優しい顔立ちをしていた。母が私に力を貸して一緒に逃げたのも、ステマに腹の子のことを知られる訳にはいかなかったからだと思う。」


 「ふむ。なるほど、不貞からできた子となると、知られては、ただでは済まぬわなぁ。しかし、ロドロスに留まりよく無事に出産できたのぉ。」


 ララの顔が悔しさで歪む。


 「ロドロス辺境の地、ティフロの民たちが私たちを全力でかくまってくれた。住まいや食事、身の回りの世話までやいてくれた。」


 「危険を承知でか?」


 「うん。全てを聞いたうえで私たちを受け入れてくれた。」


 辛そうに歯を食いしばるララの表情で結末を悟ったケッツァコアトルは小さくため息をつく。


 「そうか、ステマは主らをかくまう民に手をかけたのじゃな?」


 ララは、キュッと目を瞑り小さく頷いた。


 「・・いいえ・・。手を下したのは私なの。私がティフロの皆を殺した・・。」


 「なに!?」


 ララが頭を垂れる。大きく見開いたその眼からは大粒の涙がぽたり、ぽたりと落ち続けた――。


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