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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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黎明編#81 人類の再興 

 AI戦争直後の西暦2113年3月。戦争前200以上あった国は全て無くなり、新たに6ヵ国が産声を上げた。生き残った世界の総人口は僅か10億人程となっていた。


 元ユーラシア大陸の東に位置する国アデス。元ユーラシア中央の国ファナレ。元ユーラシア極西の島国ロドロス。元アフリカ大陸の国リノケロス。元アメリカ大陸の国エレファダス。元オーストラリア大陸アモル。

 全て、戦後にどうにかこうにか集まった人々が興した国だった。


 人類はAIに関わる全権限と全権力を完全に「国際統一連合」と言う世界の代表者が集まる組織へ移譲した。

 「国際統一連合」略して「国連」は本部を持たず、6ヵ国が輪番で議長国を務める形を取った。


 戦後の混乱が続く中で、彼らは一つの町、一つの都市、一つの国、のその上に、「一つの星」と言う概念を作り、復讐と呪いの連鎖を断ち切ろうとしたのだ。逆に、それができなければ、本当に人類は滅亡してしまっていたわけだが、どうあれ人類の心は「一つの星」の元に心を一つにした。


 同年4月。AIの全権を掌握した国連はAIを「アダム」と名付けた。「マザー」を超える人類に恩恵を与えてくれる存在となって欲しいと言う願いを込めて。


 『アダム・・?』


 そのAIの名を聞いたララの表情が曇る。


 国連はAIアダムをフル活用して、まず工業・農業を復活させようとした。

大戦で多くの工作機械類を製造していた工場の多くが失われた中で、工場ラインを復帰させ、世界各地に導入した。

 しかし、余りに広大な範囲で荒廃し焦土と化した大地を開拓するには、限られた数の土木・農作業用ロボットの作業だけではどうにもならず、どうしても人力に頼らざるを得なかった。

 人々は再び、最低限の道具によって、その自らの手と足を使って大地を切り開く必要に迫られた。


 西暦2113年。9月。思うように復興が進まないことに焦る国連は、大戦前の規制を撤廃し、ゲノム編集を、人類を含む、ありとあらゆる生命体に適用する法案。「究極遺伝子操作活用法」を可決成立させる。


 アダムの遺伝子操作技術を家畜・農作物以外に、「人体」にも応用し、様々な分野に特化した人材を生み出したのだった。


 まずは農耕発展と住居充実の為、どんな過酷な環境下でも厳しい肉体労働にも耐えられる屈強な人間が、次いで、「マザー」以上の性能を目標に「アダム」の性能向上を図るための科学者・物理学者が造りだされた。

 更に、アダムの手足となる工作装置、工事用ロボット。その工業用ロボットを最低限の道具で製造できる技術者。衣食住が改善され始めると他にも復興に必要なスキルが遺伝子操作によって人体に付与され続けた。


 ありとあらゆるジャンルのスーパーマンが世界中を歩き回り、荒廃した世界を再びエデンへと造り上げていったのだ。


 この倫理観とモラルを一切無視し、手段を択ばない方法のお陰で、人類は急速に復興を遂げ、ひび割れた大地には農作物が育ち、荒野には町が生まれた。


 人類は「滅亡寸前」の状態から、戦後30年も経たずに、「人間らしい文化レベル」の生活を再び手にしたのだ。

 人類自身が高い能力を持つと言う「おまけ」付きで。


 「うーん。しかし、凄いわね、ご先祖の人類。たくましいと言うか、生物として図太いと言うか・・。」


 「ティアの言うように確かにたくましくて図太いように思うけど、何だか気味の悪い感じがしない?」


 ムーンが遺伝子操作によって登場した人間や動植物に対し少し顔を引き攣らせている。

 ケッツァコアトルもまた険しい表情で人類の営みを見ている。


 「なぜ、復興を焦るのじゃ。かつての栄華えいがを取り戻すのに必死になる気持ちは分かるが、これが突き進めば最早もはや人が人でなくなるぞ。いや、まさかそれで妾達の始祖が誕生するのか・・?」


 西暦2130年代後半。人類は一定程度発展しても尚、動植物に対して遺伝子操作を繰り返した。より、時代と環境に合わせた資源として、食用として、労働力として、ペット・観賞用として。


 人類が豊かさを取り戻すに比例して遺伝子操作はエスカレートしていき、多種多様な人間にとって便利な生き物が生み出されていった。


 そして、AIアダムによるハイテク機器の普及に合わせて、西暦2150年を迎える頃になると再び人類は一切の労働から離れて自由に生活ができる暮らしを再びその手に納めたのだった。


 人口が減ったこともあり、多くの世帯が庭付きの一戸建ての家に住んでいた。オフィスも基本的に不要の為、高層ビルは無かった。代わりにアダムが使用する観測用の巨大な装置がまるで塔の様に世界中に立てられていた。

 人類は地球全体を「ネオエデン」と名付けた。


 「ほっ。まぁ、心配していたほどの変化はなかったわね。信仰や人種の違いがあっても尊重しあって共存しているし、遺伝子操作も、より個性の強い人が適材適所で活躍するって感じだし。ねぇ?ムーン。あなたどう思う?」


 「うーん。まぁまぁかな。及第点ってとこかしら。」


 ティアの問い掛けにムーンは直感的な不自然さからそう答えた。


 「あれ、随分辛口じゃない。よくこの短期間で戦争も起こさず発展させたものだと思うけど?これでもまだ、発展の途上だと思う?」


 尚も突っかかるティアにムーンは腕を組み不機嫌な様子を見せる。

 すると、ここで再び画面に大きな動きが起きた。


 西暦2162年10月。アダムにより新エネルギーが発見された。この発見で世界は歓喜となげきに包まれた。


 発見されたこの新エネルギー、世界中に建てられた観測用の塔から得られた情報を元にアダムが発見したのだが、世界の宗教観を変えてしまう程の大発見だったのだ。

 そんな世紀の大発見を果たしたアダム曰く、そのエネルギーとは生命エネルギーと霊エネルギー。二つで一対の陰陽いんようエネルギー。

 せいと死をつかさどる神秘のエネルギーなのだそうだ。


 「一体何いったいなんの話をしているんだ?人間の生活を支えているのが電気エネルギーだってことがようやく分かったばかりなんだけど。エネルギーはもう自然エネルギーで十分その豊かな生活をまかなえるんじゃないの?陰陽だかなんだか知らないけどエネルギーはエネルギーなんでしょ?何を今更いまさら有り余ったエネルギーに喜ぶ必要があるのよ。」


 自動車を動かすのに軽油かレギュラーかハイオクか、それとも電気かなどはどうでも良い。本来、車は走りさえすればエネルギーなんて何でもいいのだ。エネルギー問題解決済みの人類にとっては新エネルギーなど価値も魅力も皆無の存在。他のメンバーも揃ってティアの意見に頷いた。

 だが、新エネルギーの解説・説明が進行していく中で、まず聡明なララの表情が変わる。


 次いでケッツァコアトルの表情が変わる。


 そして説明が具体的な活用方法に差し掛かると遂に、その新エネルギーのもたらす恩恵の重大さに気付いたティアが愕然とした表情に変わった。


 そして説明が終わるころ最後に、モモカが驚きの表情を浮かべた。


 説明が終わっても、遂にムーンは「んんん?みんなどうしたの?」とキョトンとしていた。


 「ねぇ。結局、どう言うエネルギーだったの?ララちゃん。・・あれ?また顔色悪いけど大丈夫?だっこしたげようか?だっこ。」


 ララは説明が進む中、腕を組み顎に手を当て俯き加減で考え込んでいた。信号機の様に顔色を赤くしたり青くしたりしている。

 ムーンの声はララには届いていないようだった。仕方がないのでケッツァコアトルがララの代わりの説明を買って出る。


 「ふむ。そうじゃのぉ・・ララ殿風に簡単に言うとじゃなぁ・・。タンパク質等で構成されている動植物全ての体には生命に宿る霊エネルギーである魂の器があり、その器に生命エネルギーが満ちて生態活動が行われており、その魂からエネルギーが離れることが生命の実質的な死となることをAIは発見したのじゃが・・。」


 「おいおーい!それのどこが簡単なんだ!それじゃぁムウのナレーションよりも話がややこしくなってるぞ!!」


 ティアは、ケッツァコアトルの後頭部を「ぺしん」と平手で軽くはたく。すると意外な人物が言葉を発する。


 「だれもが・・じゆうに・・まほうを・・つかえるように・・なる・・。」


 ムウの難解なナレーションを一言で見事にまとめた声のぬしは生後2日目のモモカだった。


 「「「「なんだとーっ!!」」」」


 みな一斉にずるりとひっくり返った。


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