開眼編#80 目隠し
観客席では前半の無双ぶりで雄一に惚れ込んだ者たちがファンクラブを立ち上げていた。
どこで用意したのか雄一と同様赤茶けた色のハチマキを締め、イダニコ文字で「雄一LOVE」と書かれたハッピを着ている。更には即席の横断幕まで用意されていた。イダニコの国民は仕事が早い。
1時5分前、休憩を終え、新しい魔導グローブを嵌めた雄一がスタジアムの舞台中央に現れるとファンクラブメンバー中心に発狂寸前の黄色い声援が飛び、大盛り上がりとなっている。
雄一を50人のトロルが取り囲む。
「これより後半戦を始める。雄一殿、準備はよろしいか?」
「はーい。」
「始めえっ!!」
トロルが雄一に一斉に飛び掛かった。しかし、ここで午前中までとは大きく展開が変わる。
ブン!ブン!ブン!・・。
「ぐがっ!?」
ビュン!ビュン!ビュン!・・。
「うぐぐ~っ。」
連携攻撃をしてくる50人のトロルに対し、雄一が一切手を出さない。
会場の生まれたばかりのファンクラブの声援に応えるためか、午前中の実戦訓練以上の動きを見せて、飛び掛かるトロルをひらりひらりと躱している。
ボカン! 「ぐほ!」
ボコッ! 「うげ!」
そして雄一に躱されたトロルの攻撃は別のトロルに被弾する。雄一の攻撃回避は紙一重であり、よけられた後の勢いを止めることができないのだ。
仲間から一方的にどつかれる者。仲間同士カウンター気味に相打ちになる者。一人無様に地面を転げる者。トロルの様相は様々だが、「雄一に触れられない」ことだけは変わらない。
トロルは全力で仲間のトロルを殴る。蹴る。ぶつかる。雄一はその小さな体を最大限活かすようにトロルたちに一切触れることなく縦横無尽に動き回る。
まるでトロル同士の喧騒の中にあり、まるで自分だけ部外者であるかのように立ち振る舞う。
「きゃーっ!雄一様ステキー!」
雄一のこの神業に観衆は大興奮。ファンクラブの一部からは感極まって気を失った者も現れ救急搬送されている。
「華麗だ・・。まるで人の手では掴めない幻の蝶を見ているようです。」
第三部隊隊長アナトラが呟くと第五部隊隊長アルデアが頷く。
「さすが守護神MKSを退けただけのことはありますね。そんな雄一王婿にとって我々森の番人など「遊び相手」としか思っていないのでしょう。」
アナトラとアルデアの呟きにラークが問い掛ける。
「そうじゃのぉ・・。確かに華麗じゃなぁ。じゃが、王婿は「遊んでいる」と言うのは間違いだと思うぞ。」
ラークの問い掛けにアナトラとアルデアが声を詰まらせる。代わりに第四部隊長ガルニャがラークに問い掛ける。
「知将ラーク様、教えてください。私には雄一王婿がただただ眩しく見えるだけで、何も分からないのです。」
ラークは左手で顎に蓄えた立派な白髭を一撫で二撫でするとゆっくりと話し始める。
「ふぉっふぉっ。ガルニャが一番雄一王婿の本質を見抜いていると見える・・。」
「それじゃぁちとヒントをやろう。最初から今までの、王婿がとられていた「行動」と「動き」を見ていればなかなか面白いことをされておると思って見ていたが・・どうじゃ?お前らこれを聞いて振り返ってみても分からんか?」
見当のつかない3人の隊長は首を横に振る。
「ふうむ。わしには王婿がこの実戦訓練で何かの「実験」をされているように見える。」
「一度に戦う相手を50人に増やされ、分も掛からず同胞を吹き飛ばした時、王婿は何かを呟いておられた。」
「ふおふおふお。わしが王婿の口元を読唇術で読み取ったものじゃが・・。王婿が何を呟かれたか・・。分かるか?」
3人は揃って雁首を並べて横に振る。ラークは目を細めて答える。
「『ちょっと掴めたかも』じゃ。」
「ふおふおふお。のお?面白いお方じゃろぉ?」
「さて、王婿は一体「何」を掴まれたんじゃろうのぉ?」
他の隊長に考える時間を与えるように、間をおいて呟くように、ゆっくりと話して聞かせる。しかし、隊長たちは振り返ろうにも、注視していた視点がラークと違い、見当を付けようもなかった。
「部下から、王婿はイエラキの口車に乗せられて組手をされておると聞き及んでいたが、そうではない。王婿は最初から編み出したい「技」をこの実戦で実験されておったのじゃ。」
「好奇心と向学心の塊の如き方だと聞いていたがここまでとは・・。ふおふおふお。わしも強烈な刺激を貰ったわい。」
随分嬉しそうに話すラークに第五部隊長アルデアが煮え切らない様子で問う。
「知将ラーク様。して、その「技」とはどのような・・?」
「ふおふおふお。ヒントはやった。答えは自分で考えよ。・・まぁ、わしから聞かずとも、おのず分かるじゃろうがのぉ、まだもう少し時間はある。」
「それに、わしの勘だと、王婿はもう一つ課題をご自身に課されるじゃろう。それで答えが出る筈じゃ。ふおふおふお。」
「さぁ。いつまでボサッとしておる。生涯で二度と見ることのできぬ教科書は目の前にある。わしばかりに集中しとらんと王婿様から学べるだけ学ぶがよい。」
「「「はっ!」」」
第三から第五部隊隊長はラークの言葉に小気味よい返事をして雄一の動きに目を向ける。
『もし、わしの期待を超えてくれるなら、或いは更に別の課題をも課されるか・・のぉ?雄一君?』
お昼一発目の50人との組手。開始15分を経過したが、雄一は相変わらずトロルたちの中をまるで風の様に通り抜けている。観客は見とれているが、イエラキは違う。
「待て!」
トロルたちは魔導防具に守られダメージを受けずいるため、誰も倒れる者がいない。イエラキはこのままでは埒が明かないと思いストップを掛けた。
ちょっとした小休止、50人のトロルは「ぜーぜー」と両手を膝に当て肩で息をしている。
「雄一殿・・素晴らしい動きですが、これでは時間がいくらあっても足りません。そろそろ攻撃の方をお願いできませんか?」
「あははー。そうだね、ごめんなさい。じゃぁ、ちょっとだけ待っててくれる?」
雄一はイエラキにそう言うと、ハチマキを緩め、目を瞑ると、自分の目元に位置を合わせると再びきゅっと締めた。そして首をキョロキョロと回し、両手をふらふらとさせている。
雄一の言っていることとやっていることが一致していない。その様子をみてイエラキがイライラした表情で雄一を問い詰める。
「時間が足りないっつってるのに目隠しをしてどうする。話をちゃんと聞いていたのか!?」
言動と行動が伴わない雄一にイエラキがツッコミを入れる。しかし、雄一はそんなイエラキの言葉などまるで無視するかのようにハチマキの締まり具合を気にしていた。
「うん!よし!はぁーい。イエラキさん。お待たせしました。始めて下さーい。」
「うん!よし!じゃぬわぁーい!!さっさとハチマキをあげろ!このドアホ!!」
目が見えないから、腰を引き、よちよち動き回り、両手を前に突き出しふらふらさせている雄一に語気を荒げて叱責するイエラキ。
この様子を見ていたラークがイエラキに声を掛ける。
「イエラキ君!雄一王婿の決められたことじゃ。構わないから訓練を再開したまえ!」
ラークの言葉にイエラキは顔を引き攣らせる。
「知将ラーク様。しかしこれではさすがに、ふざけているとしか思えません。危険を伴う実戦訓練である以上、まじめに取り組んでもらうべきです。」
「えー。ぼく、まじめなのにぃ、びっくりだよ。」
「黙ってろ!この脳KING!!」
雄一が大袈裟に両手を広げて驚いた感じで叫ぶ。
「ふおふおふお。雄一王婿はいたって真面目じゃ。心配はいらんから。再開したまえ。」
「そしてイエラキ君も刮目したまえ。雄一王婿先生のチカラを!!」
『はぁ、ラーク様まで・・。戯れが過ぎるぞ・・。』イエラキは大きなため息を一つと頭をわしわし二掻きすると再開の合図を出した。
「えーい!くそっ!始めぇ!!」
やけくそイエラキの再開の合図と同時に目隠しをした状態の雄一は自ら50人のトロルに突っ込んだ。
ドドドドドド「ずるっ」ドドドドドド「ずるっ」・・。
「「「ほぎゃあぁぁぁぁ。」」」
雄一はトロルを次々に吹き飛ばし始めた。
「なにぃ!?」
イエラキが驚愕の雄叫びを上げる。雄一はこの間、二度、三度こけるが、トロルの攻撃を受けることなく瞬く間に50人のトロルを片付けてしまった。
スタジアム全体も何が起きたのか理解できず一瞬静まり返り、その直後津波のような歓声がスタジアムを呑み込む。
反応ができずに暫く立ち竦むイエラキ。
「はい。イエラキさん。つーぎ。」
「お・・。おうっ・・。」
雄一の声に我に返ったイエラキは「次」のグループを呼ぶ。
3人の部隊長が驚愕で顎を外している中、ラークは一人ふぉふぉと高笑いをしている。
「ふぉ~っふおふおふおふお・・。さぁーて雄一王婿は何処まで登って来られるかのぉ?」
「・・何処まで?・・」
第四隊長ガルニャは雄一へ羨望の眼差しを向けながら、ラークの言葉に違和感を覚えていた。




