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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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開眼編#78 お昼休憩は1時まで 

 50人のトロルがこれまで培ってきた多種多様な作戦を駆使して雄一に「初めの第一歩」となる一撃を入れようと必死に試みる。

 しかし、ボコボコとトロルを護るボディーアーマーがヘコまされる音だけが大量に発生し、50のトロルの巨体が宙を舞う。


 「そ、それまでぇ!つっ、次ぃ!!」


 雄一への、その「第一歩」が果てしなく遠い。むしろ、雄一の動きが更に良くなり、近づくどころか遠のいているようにさえ見える。

 イエラキの号令を受けて、次に控えた50人のトロルが雄一の前へ出る。

 そして再び同じ光景が繰り返される。

 トロルも決して諦めることなく、次々と戦術を変え、雄一の動きや攻撃パターンに隙や攻め処を探って対応し続ける。しかし、遠距離攻撃、中距離攻撃、近距離攻撃、コンビネーション攻撃、連携攻撃、玉砕攻撃、果ては騙し討ちまでも繰り出すが、如何なる戦術も、何をどうやっても雄一には通用しない。


 いたちごっこにすらなっていない。いよいよ明確に力の差が開き出している。やはり回数を重ねる度に雄一の動きは徐々にキレを増していたようだった。最初50人に1分程度かかっていたが、現在30秒足らずで捌いている。


 こうしてお昼を前にして、3000人のトロルたちが雄一の猛攻の前に沈んだ。

 雄一の表情は明るいが、さすがに汗を掻き、息を切らせている。


 「ここで一旦休憩を取る!再開は午後1時からとする!」


 イエラキが実戦訓練を一時中断させる。時刻は11時30分を回った頃だった。

 その言葉を聞いて、雄一が大きく息を吐くと、魔導グローブを外す。魔導グローブは数年叩き続けたように、もはやボロボロになっていた。

 安全性を確保するために1000人の相手をするごとに新品に変える必要があるとイエラキは考えながら、雄一も気遣う。


 「雄一殿、とても良い実戦訓練でした。疲れてないですかな?」


 そう言って歩み寄るイエラキ。


 「はぁ、はぁ・・。うん。だいじょーぶだよー。でも、お腹空いたー。」


 笑顔で答える雄一を見て、イエラキは安堵の表情を浮かべる。貴重な1時間ほどの休憩時間を無駄にはできないと、すぐさま控室に案内する。


 「わぁーい。すごいご馳走だねぇ。ありがとうございます。イエラキさん。」


 控室には大量の食事が用意されていた。雄一は手を洗い、タオルで汗を拭くと「いただきます」をして大喜びで食事を次々と胃袋へ納めていく。


 「がはは・・。そこまで食欲があるのなら午後からのお勉強も大丈夫そうですな。ん?ほら、バゴクリス殿も遠慮せずに食べて下され?」


 「は・・はあ・・。いただきます・・。」


 狂気の5000人組手に強制参加させられ、責任感を感じているバゴクリスは顔色が優れない。小さなパンを小さく、とても小さく千切ってスープに浸しては口に運んでは、時々「うえっ」と嘔吐えずいている。


 「しかし雄一殿、暴飲暴食後の激しい運動は体に障りますので食事の量は程々に。」


 「もぐもぐ・・ふわーい。」


 イエラキの言葉を聞いているのかいないのか、雄一は手当たり次第と言った感じで料理を平らげていく。

 雄一が食事に夢中になっていると、控室に4人のトロルキングがノックをして入ってきた。


 「イエラキ・ワルド君。すまんがわしらのことを神谷雄一王婿かみやゆういちおうせいに紹介してもらえんかの。」


挿絵(By みてみん)


 そのトロルキングの内、獣のような目をギラリと光らせ、長い白髭を蓄えた年寄りトロルがそう言うと、イエラキが慌てて4人の元へ走る。

 4人ともイエラキ同様、ゴリラのような容姿にライオンのようなたてがみを持ち、煌びやかな装備を身に纏っている。その中にあって、白髪のたてがみと白髭を身に纏う年寄りトロルは異彩な神秘性を感じさせられる出で立ちだった。


 食事中の雄一の前に3mを超す巨漢がぞろぞろと現れる。食いしん坊の雄一もさすがに食事の手を止め、椅子からその場に立って体裁を整える。が、はたからはそれがまるで見えない。傍目からは5人の巨人がテーブルを前にずらりとたたずんでいるようにしか見えない。


 「雄一殿。彼らは各々1000の森の番人を率いる部隊長です。これから順に紹介の方をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 イエラキの言葉に頷きながらも雄一から4人に頭を下げ、挨拶を始めた。


 「ぼくは神谷雄一です。よろしくお願いします。」


 「ふおふおふお。これは恐れ入いりました。まさか王婿おうせい様の方からご挨拶を頂戴するとは恐悦至極にございます。」


 「おうせいってなあに?それから、その髭いつから白くなったの?」


 年寄りトロルが鋭い眼光を雄一に合わせたまま小気味よく笑うと、雄一が得意の脱線ルートを切り開き始めた。イエラキはそれを慌てて止める。


 「あ、ちょっと雄一殿、勝手に話を別方向へ進められては困ります。私が紹介していきますので。」


 イエラキはそう言うと年寄りトロルから紹介を始めた。


 「んっん。こちら、森の番人第二部隊長ラーク・コリダロス様です。武力もさることながら知略に長けた往年の戦士であらせられます。」

 「極めて博識であることから「賢者」との呼び声も高くあらせられているお方なのですが、武人であることを誇りにしておられますので、「知将ラーク様」と呼ばせて頂いております。」

 「また、愚鈍な我を鍛えてくださいました偉大なる師匠でもあらせられます。」


 急にイエラキの態度と言葉が過剰なほど丁寧になった理由はこの「知将ラーク」を意識してのことだった。

 知将ラーク。その人はイエラキの師にしてイダニコ最強の武人。その実力は雄一の試練となったMKSにも引けを取らない。

 イエラキがイダニコ国で頭が上がらない数少ない大物人物の一人だった。その証拠にラーク以外の3人に対しては非情にぞんざいな紹介を始めた。明らかに面倒くさそうだ。


 「続きまして、彼は第三部隊長のアナトラ・アグリオバビャ。「幻術魔法を得意としています。」その隣が第四部隊長のガルニャ・コトブロ。「脳筋隊長」と呼ばれています。最後に残ったのが第五部隊長アルデア・ガルサ。まだ駆け出しの若造です。詳細は時間の都合上割愛しました。」


 イエラキは序列最高位である「第一部隊」隊長である。しかし、それは知将ラークが年齢を理由に最高位を退いたからに他ならない。ラークは一線を退き、若くて力のある弟子のイエラキに自分の立場を与えることで次世代のリーダー育成に尽力することにしたのだった。

 要するに「知将ラーク」がイダニコ国の「裏ボス」と言う訳だ。誰もがそのことを知っていたし、イエラキも十分理解していた。


 「ふぉふぉふぉ。イエラキ君。君はもう少し立場に合った言葉遣いを学んだ方が良いぞ。この場合、わしは身内ゆえ敬語を使う必要はない。君の言い方だと雄一王婿に対し失礼に当たるではないか。」


 「はっ!!まだまだ未熟者故、更に研鑽を積む所存でございますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。」


 そう言って頭を下げるイエラキ。実はイエラキは尊敬語、丁寧語の扱いを心得ている。しかし、それでもラークに対し、へりくだった言い方で紹介することが出来なかった。

 イエラキの性格をよく知るラークもまたそのことは承知していた。要するにこれは単なる雄一への形式的な気遣いだった。

 当の雄一は全く意に介していないが、その心遣いは伝わる。終始ご機嫌だ。


 「あははー。ラークおじいちゃん。その髭かっこいいね。触ってもいい?」


 「なっ!?おじいちゃんとかバカ!」

 「・・あっいや、失言でした。しかし雄一殿!冗談が過ぎますぞ!このお方は知力・武力共に優れたイダニコの宝なのです。」


 イエラキの言葉をラークはそっと手で遮ると、ゆっくり片膝を着く。


 「ふおふおふお。よいよいイエラキ君。それにしても噂通りのお方じゃの。爺のこんな髭でよければいくらでもお貸しいたしましょう。ほれ、どーぞお好きに。」


 「わーい!」


 「ふおふおふお。」


 そう言うと雄一はラークの白髭を、両手を広げ飛びつくと、全身を使って抱きしめる。ラークも両手を広げ迎え入れるように雄一を優しく抱きしめる。


 「うわー。うわー。気持ちいいね。いい香りがするー。」


 「ふおっふおっふおっ。こんなジジイの加齢臭を良い香りと言うてくださるか。」


 なんとも微笑ほほえましい光景だった。しかし「抱き合うおじいちゃんと孫」と言うより、「巨人の髭に絡まる小人こびと」のように映ったのが現実だった。


 雄一に向けるラークの眼光はギラギラと終始鋭く光っていた。雄一もまたそのことに気が付いていた。


 「ラークじいちゃん大好きー。」


 「ふおふおふお・・。」

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