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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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#6 門前の試練

 聖地からダンジョンを進み始めて随分経つ。途中様々なモンスターに襲われたが、神殿内の頂点に立つラガラを制した雄一にとって取るに足らなかった。


 すると雄一は大きな門へ辿り着いた。しかし、その門はゴーレムと銀色狼が守っている。それは、ムウが用意した試練の門だった。

 壁にはちょっとした武具が並んでいる。どうやら装備を整えられる仕様のようだ。だが、雄一はその武具を特に手に取ることなく門前へ向かう。


「ぼくは、神谷雄一です。あなたはだあれ。」


『ココヲ・トオリタクバ・ワレノ・シレンヲ・ノリコエヨ。』


 雄一に向かって構えをとるゴーレムは、身長160㎝程で小柄だが逆三角形のガッチリボディ。腕と足は太く、白色の鎧兜を身に着けている。大きさを見ると明らかに対雄一専用のゴーレムと分かる。

 狼も大きさは170㎝程で色は銀色のシルバーウルフである。低い姿勢を保ちつつ唸り声を上げている。


「ガルルルゥ! ワンワン!」


 シルバーウルフが雄一に襲い掛かる。リザードマンを遥かに上回る速さで首元へと飛び掛かった。雄一は咄嗟に身を屈めたが右手に激痛が走る。


「いててっ、あれ。よけられたと思ったのに。」


 首へ飛び掛かったのはシルバーウルフによるフェイント。シルバーウルフは最初から手を狙っていた。まんまと雄一の自由を奪い、攻撃能力を封じた。


 雄一の腕からどくどくと血が流れる。


「ううー。わんちゃん、はなして、痛いから。」


『ククク・ドコヲ・ミテイル。』


 ドゴオ!


「うえっ!」


 間髪入れず白色ゴーレムが雄一の左脇腹にパンチを叩き込む。腰の回転を使ったライトフックで雄一の体がくの字に曲がる。苦悶の表情に変わる雄一。


「うええっ。げぇが出そう。」


『スキダラケノ・コゾウダ。ヨワイ・ヨワスギルゾ。』


 ドゴオ!


 更に顔面目掛けて右ストレートを放つ。雄一は慌てて左手でガードするが、右ストレートはフェイント。左フックで雄一の右側頭部を捉える。

 右手に食らいつくシルバーウルフを利用し、防御バランスの取り辛い雄一は白色ゴーレムにとっては揺れるサンドバッグよりも簡単に動きが読めた。

 相手は愚鈍なゴーレムではない。練度の高い格闘家の如き滑らかで洗練された攻撃。加えてシルバーウルフが5体ほどになる「影分身」を巧みに操り雄一を翻弄する。


「はあ、はあ。す、すごい。ぼくも、あんな風に、かっこ良くパンチが出せるかな。」


 雄一は苦し紛れに左手をぴっぴっと放ってみる。パンチは白色ゴーレムに届くことなく空を切る。


『ククク・ソンナコブシ・アタルモノカ。クラエ!』


 バキィ!


 ゴーレムはそのパンチを見て今度は蹴り技を織り交ぜ始めた。


「がぶう!」


「いたーっ。ちょっとわんちゃん?じゃましないで。」


「ガルルルル……。」


 雄一も抵抗を見せるが、やはりシルバーウルフに動きを封じられバランスを崩される。今度は足に食い付かれた。

 結果として雄一は更にゴーレムの猛攻を、カウンター気味に喰らい続けた。

 

 雄一は内臓を傷つけたのか口から血が滲み出す。避けた筈が避けられず、腹に来ると思ったら頭を蹴られる。それでも、両手に力を込めてパンチを繰り返し放つ。


「はぁ、はぁ。こ、こうかな?こうかなぁ・・?」


 白色ゴーレムのパンチを模倣し続ける雄一。しかし、お世辞にも其れは「技」とは程遠いものだった。 そもそもゴーレムの射程内にすら入っていない。


「はぁ、はぁ、ちがうなぁ。こうかなぁ、こうかなぁ。」


 トン


「!?」


 ゴーレムに違和感が走る。圧倒的に優位な状況にも関わらず、いつの間にか壁を背にしていたのだ。

 雄一の手数が多いだけのパンチは一度も当たらないまでも、その愚直なまでの前進で、ゴーレムを少しずつ後退させていたのだ。少し表情を曇らせる白色ゴーレム。


『シルバーウルフ・ウシロカラカミツキ・コゾウヲヒキハナセロ。』


「ガルルルゥ。」


 ガブリ!


 シルバーウルフは後ろから雄一の尻に噛みついた。しかし、雄一は虚ろな目をしたまま何の反応も示さない。

 無表情となった雄一は、パンチにキックを絡め、じりじりとゴーレムに近づく。遂に雄一が白色ゴーレムを捉える。


『ククク・オモシロイ・ナラバ・ウチアイトイコウカ。』


 ガツン!ガツン!ガツン!ガツン!ガツン!


 お互いの拳と足がぶつかり合う。

 雄一のパンチとキックの衝撃は強烈で白色ゴーレムの腕や足の武具が歪み始めている。


『ホウ・コイツハ・スバラシイ・チカラヲモッテイル。シカシ・コレハドウカナ?』


 しかし、白色ゴーレムは実に冷静だった。形勢を元に戻すべく白色ゴーレムが、雄一の攻撃を掻い潜り、体を入れ替えようと左へ体を流そうとしたのだ。

 再び雄一だけを射程圏外とするべく……。

 その瞬間、「ゾクリ。」と逃れようとした先から途轍とてつもない殺気が襲う。


『ナニィ! イマ・タシカニ・キョウレツナサッキガ・ワレヲオソッタ。マサカ! コンナショウネンガ。』


 このフェイントで雄一が完全に場を掌握した。逃走経路を失った白色ゴーレムはもはや戦意喪失。体を亀のように縮ませ、両腕を胸の前で揃えディフェンスに徹する。


『ウガガガガ……バカナ……ワガ・ソウコウガ……クダケテイク……。』


 最早これまで、そう判断した白色ゴーレムは、雄一に試練の合格を言い渡す決意を固める。最後まで高き誇りを持って、精一杯の威厳を保ちつつ伝えた。


『ウム・ショウネンヨ・ミゴトナリ・シレンハ・ココマデ・ゴウカクデアル。』


 しかし、俯き縮こまった状態の声は雄一の激しい打撃音に虚しく掻き消され、雄一の耳には届かなかった。


 ドスドスドスドス! ……ばきっ。


 小刻みなパンチが白色ゴーレムの両腕を穿つ。

 雄一は「こうかな?こうかな?」とぶつぶつ呟きながら様々な角度からパンチやキックを繰り出し続ける。

 止まる様子のない攻撃に焦るゴーレム。


 ボロ……ボロリ。


 いよいよ白色ゴーレムの装備がボロボロと壊れ始め、体は壁にめり込み、もはや身動きすら取れない状態と化す。


「きゃいん、きゃいん。」


 シルバーウルフはその無残なゴーレムの姿に気が付くと諤々と震えながらその場を離れる。


『チョッ! ゴーカク! ネーネーッキイテル?! ゴーカクダッテバ! ネーッテバ! ネーーッ!』


 もはや体裁など気にしていられず顎を上げ必死に訴える白色ゴーレム。


「え? 合格? もうやめていいの?」


『イマスグ! ヤメテー!!』


 雄一による激烈がようやく治まった。だが、だいぶん手遅れな感じだ。先程までプラチナのような輝きに満ちていた白色ゴーレムは見る影無く、実に無様な姿になっていた。

 それでも辛うじて五体を動かし、壁の中から這い出した。


「あのぅ。ちょっとやり過ぎました。ごめんなさい。」


『イ・イヤ・ソナタモ・キズダラケダ・ヨイテアイデアッタ。』


「うん。強くて、とても勝てないと思った。」


『ソウカ・ナラバ・ワレモ・オヤクメヲ・ハタセタ・トイウコトダ・ホコラシイゾ。』


 ガラクタの様になった体をカタカタと震わせ笑う白色ゴーレム。みすぼらしく何とも哀れで切ない。

 結果だけ見れば何の役に立ったのか分からない程フルボッコにされた訳だから。

 雄一も目に見えた成長は無く、見た目最後まで平凡以下のパンチやキックだった。それでも、雄一なりに何かを掴んだ表情である。


『キデンノ・ナヲ・オシエテ・モラエヌカ?』


「キデン?ぼくの名前は神谷雄一です」


『カミヤ・ユウイチ……ソノナ・シカト・ココロニ・キザンダ。』

『ユウイチ・ヒトツ・オネガイガ・アルノダガ。』


 何だろうと雄一が頷くと、白色ゴーレムがシルバーウルフを呼んだ。


『コノ・オオカミヲ・ツレテイッテ・クレマイカ』

『コノコハ・ムーン・カオス・トイウ。ワレノデシデアル。コノコハ・ツヨサヲ・モトメテイル……シカシ・モハヤ・コノカラダデハ・ナニモ・オシエテヤレン』


 シルバーウルフも師の言葉に耳を傾けている。


『ワレノ・サイショニシテ・サイゴノデシ。ユウイチニナラ・アンシンシテ・マカセラレル。ドウカ・キキイレテ・モラエヌ・ダロウカ。」


「いいよ。ムーンさんがいいよって言うなら。」


 雄一の即答快諾にシルバーウルフのムーンは目を輝かせ、白色ゴーレムに一礼を向けた後、雄一に顔を向けると突然流暢に話し始める。


「何と!! 雄一様は先程の私の失礼を赦して下さるのですか! ありがとうございます。是非お願いいたします。」

「わたくしの名はムーン・カオスです。歳は16歳です。これからご指導よろしくお願いします。」


 片言の師匠に対し饒舌な弟子。雄一が「あ、しゃべれるんだ」と思った瞬間、


『ナッ!? オッ・オマエ! シャベレルノカ!!』


「済みません師匠。あまりに片言でしかお話になれない師匠に対し、生意気になるといけないと思い今まで黙っておりました。」


『ナ・ナンダト!!?』


 開いた口が塞がらない白色ゴーレム。更にムーンが礼と別れの口上を述べる。


「それから、もう一つ。わたくし人狼ですので。人にも姿を変えることができます。やたら人型ゴーレムであることに強い自尊心を持たれていたようですので黙っておりました。」

「この三年間、本当にお世話になりました。今より雄一様の下で研鑽を積んでまいりたいと思います。師匠もお達者でご自愛ください。それでは、ごきげんよう。さよーならー。ささっ、雄一様参りましょう。」


 早口! すっごい早口で別れの言葉を言い終える。

 これまで色々なことを弟子に気遣われ、秘密にされていたことに愕然としている師匠をよそに、しれっとムーンは人の姿に変わっている。


 スレンダーでとても美しい女性だった。大きな目はキリっと力強く、腰辺りまで髪は伸びている。胸元や腰、それに手首と膝下はモフモフした白い毛に覆われ色気がある。

 白色ゴーレムの開いた口が塞がらない。陸に上げられた魚のように口をパクパクさせている。

 どこかに隠れていたシゲルも戻ってきて雄一の肩に乗る。雄一も肉籠を背負い、白色ゴーレムに一礼し、扉に手を掛けた。


「あ、雄一様、少々お待ちください!」

 

 その時、ムーンが思い出したように雄一に待ったを掛ける。ゴーレムは(元)師匠である自分に、熱いお別れのベーゼがあるのだろうかと一瞬思う。


「雄一様、壁にある装備品はどれでも好きに持って行っていいのですよ?」


「え? そうなの? 勝手に触っちゃダメだと思ってた。」


 雄一はラガラに習い身の丈に合わないロングソードを一本腰にぶら下げた。ずるずるとロングソードを引き摺りながら今度こそ門を開け放つ。

 意気揚々雄一はシゲルを肩に乗せ、ムーンは雄一の半歩後ろに付き従い門をくぐっていった。


 もはや魂が抜けたような白色ゴーレムはまるで燃え尽きた灰のように見えた。


挿絵(By みてみん)

↑白色ゴーレム

オリハルコンとヒヒイロカネの合金で造られた戦闘ロボット。メイドイン ムウ

挿絵(By みてみん)

↑ムーン・カオスウルフバージョン

俊敏な狼で鋭い牙と爪を持つ。

挿絵(By みてみん)

↑ムーン・カオス(16)

力を求める少女。雄一の強さに魅了され忠誠を誓う。


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