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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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#62 ムウの功績

 イダニコ国頭首ケッツァコアトルとの謁見の時間が続く。ティアたち(特に雄一)と対等な立場で話がしたい(要は仲良しになりたい)ケッツァコアトルは、話題を「ムウ」に振ったがティアに話題拒否されてしまった。


 「いやいやいやいや。お主たちは勘違いをしてるって。マジで!確かにムウはお主らに下品な狂人、変人、変態、下衆、下郎であるかのようなメッセージを残しているが紛れもなく稀代の天才で偉人じゃ。」


 「いや、そこまで言った覚えはないけど・・・天才、偉人とも思えない。て言うか、そこまで言う程、あの人、この国で何か役に立ったことあるの?」


 ムウの言葉を聞いてぞんざいな言葉遣いになるティア。図らずもケッツァコアトルが望んだようにティアの態度が横柄になる。


 「ある!大いにある!聞いて驚くのじゃぞ!?例えばじゃ、この国、この城の中心に聳え立つ魔法塔。これはムウがドワーフたちを指揮して建てた物じゃ。」

 「魔法塔の恩恵で国を成り立たせておるメガロス王国なら分かると思うが、この塔は、これ一本でありとあらゆる属性を網羅した万能魔法塔なのじゃ。」


 「えっ!?万能魔法塔?なにそれ。」


 ティアが表情を変え興味を抱く。その反応の良さにケッツァコアトルは少し安堵の表情を浮かべて話を続ける。


 「永久的に全属性対応の魔力を供給する究極の魔法塔じゃ。イダニコの魔導装置は全てこの一本の魔法塔で賄われており、主に農機具、家庭用魔道具の運用に利用しておる。」

 「驚くべきは建設期間じゃ。お主らメガロス王国の先人たちが数百年かけて造り上げていった魔法塔をムウは僅か2年足らずで完成させたのじゃ。無論建設そのものは優秀なドワーフが手掛けたがムウの指揮あってのものじゃ。」

 「しかも、魔力供給有効範囲はこの国を遥か超えて、ムウ大陸全土に広がっておる。世界は未だムウの技術の足元にも及んでおらん。どうじゃ?これでも狂人、変人、変態と断ずるか?」


 「うーん。たしかに凄いわね。」


 「他にも、残した業績はあるのかしら。」


 「まぁ、関連しておるがMKSはあの万能魔法塔で駆動しておる。故にMKSは世界の相当広い範囲まで活動可能じゃ。雄一の雷撃で随分パワーダウンしたようじゃが、ムウはあの自律型魔導兵器を5日で完成させた。」


「いっ!5日ぁ!?」


 「ムウが言うには天才魔導工学博士エケンデリコの技術を参考にして造ったのだと言っていたが・・。」


 「えっ!?エケンデリコ?」


 ティアが身を乗り出す。エケンデリコの名を初耳なララがティアに問う。


 「ティアちゃん。知ってる人なの?」


 「エケンデリコ・チェダック・・・メガロス王国の魔導工学博士よ。相当な奇人変人で通ってる人。」


 「類は友を呼ぶと言うか、変人は変人を高く評価するのね。」


 「いいえ、天才には違いないわ。彼はメガロス王国の魔導兵器や魔道具の性能を飛躍的に高めたわ。魔導四輪自動車も彼が一から起草した発明。」

 「メガロス王国魔導科学研究所の所長を務めていた時は羨望の眼差しで見られていたらしいわ。」

 「でも、10年ほど前に突然国営の研究機関を辞めて、評価が180°変わって、変人扱いされるようになったらしい。孤立したエケンデリコ博士は「メロフ」と言う助手と一緒に魔導工学に関する研究を続けているって話よ。」

 「あ、ごめん。私も脱線トークしちゃったね。」


 ティアが「わたしKY?」と言った表情を見せるが皆笑顔で首を横に振る。


 「くくく。よいよい。」

 「脱線ついでに、ティア殿がエケンデリコ博士を知っているのなら一つ頼みがあるのじゃが。」


 「頼み?」


 「うむ。先程も少し触れたが、実は昨日の激闘でMKSの調子が頗る悪くなっているのじゃ。妾の見立てでは8割以上機能が低下しておる。」

 「元々はムウから「おもちゃ」と称して渡されたものだが、2000年も時を共にすると愛着も沸いておってな。」

 「任務を終え、帰ってきてから見せるエラー症状を見ておると哀れに思え辛い。」

 「エケンデリコ博士に頼んで直してやってもらえないだろうか。直せるとしたら世界中で彼しかおるまい。」


 ティアは少し考える。奇人変人のエケンデリコ博士と接点など無かったからだ。だが、断ると言う選択肢は微塵もなかった。


 「うん。分かったわ。ぷっ。まぁ壊しちゃったのは雄一君なんだから当たり前ちゃあ当たり前の話なんだけどね。コネは無いけど全力で博士に頼んでみるわ。任せておいて。」


 「恩に着る。くくく。MKSを雄一様にぶつけて、ただでは済まないことを知りつつ発動命令を出した妾も大概じゃがな。くくく。」


 ティアとケッツァコアトルが笑い合う。もはや、昨日の確執は解け切ったようだ。

 話しが脱線気味だが、ララが修正を兼ねて質問をぶつける。


 「ねぇ。ムウってどんな人だったの?」

 「ティアの「過去視」は5~6年以上遡って見ることは無理って言われて、それで私、ムウに関する文献を読み漁ったんだけど、ムウの素性に対する記述がどこにもないの。」

 「伝説や神話では出てくるけど、どれも神格化され過ぎて信憑性に欠けているし。ケッツァコアトルちゃんはムウと直接会ったんだよね。」


 ララの質問にケッツァコアトルが少し困った表情を見せる。


 「それが・・・。ハッキリ分からないのじゃ。」


 千里眼を持つケッツァコアトルの口から出るには余りに予想外な返答だった。


 「2000年も前のことで記憶がはっきりしない、とかではなくて?」


 時々訪れるララの「ばばあ」発言がちくりちくりとケッツァコアトルの胸を刺す。


 「うっ・・うむ。そういうことではない。」

 「ムウはメガロス王国のアース王と同じ能力を持っておって、妾ですら破れぬ強力な認識阻害魔法で自らを包んでいた。始終靄しゅうしかすみを全身に纏い、性別もまるで分からなかった。理由を聞くと「全ては未来の為にしていること」だと言っていた。」

 「ムウの残した足跡そくせきを妾の千里眼で調べたおおよその予想では60歳くらいでその生涯を閉じていることは分かっておるがの。」

 「「人の人生は何かを成し遂げるには余りに短い。ましてや未来を動かそうとするには分、秒すら無駄にできない。」これはムウの口癖だ。いつも分厚い本や紙にペンを走らせておった。」

 「イダニコに滞在していたのも僅か3年ほどじゃったが、ムウからすれば相当時間を割いた方なのじゃろう。イダニコでの仕事を終えると簡単な挨拶だけして、さっさと次の地を目指して旅立ってしまった。去る時は妾の方を振り返りもせずにの・・・。」

 「確かに雄一様が解読した予言書の内容や、MKSに吹き込んだ録音内容は稚拙でムウの人格は下衆にも思える。だが、その一面だけでムウを評価してはならぬ。」

 「ムウの尊厳を守る為にも言っておこう。ムウは未来の為だけに己の生涯全てを捧げた恭敬きょうけいに値する人物じゃ。」


 昔を懐かしむように、ムウの一番の理解者であるようにケッツァコアトルは話す。生き証人の証言を得てムウの人格に対する誤解が解けていく。

 ムウの話が一段落を見る。すると、ケッツァコアトルが意識的に雄一に視線を向ける。しかし、すぐに下を向く。


 「実は、もう一つ報告したいことがあるのじゃが・・・。」


 ケッツァコアトルが全身をくねくねと動かし、もじもじとしながら小さな声で呟く。チラチラと雄一の顔を見ては、その度に頬が紅潮していく。

 ティア、ララ、ムーンは昨日の「偽りのキス」のことだと感づいた。花びら越しとは知らず、頬を染めるケッツァコアトルの様子を見て若干「哀れ」と思いつつ、真実を知る優越感を感じざるを得ない。


 「雄一様・・・。昨日妾と交わした「契約の契り」を覚えてくれているじゃろうか・・・。」


 『『『そぅら来た!やっぱり!!』』』


 「うん。覚えてるよ。」


 3人は揃って沈黙を守る。「言わぬが花」だ。美しい思い出は美しいままにしておくのが優しさと言うもの。澄ました顔をしたまま生暖かい目でケッツァコアトルを見る。

 ケッツァコアトルは雄一の返答で更に頬を赤く染める。指と指を絡ませもじもじが止まらない。


 「う、嬉しいのじゃ・・・。あの契りは妾の最初にして最後の契約の儀。妾の胸はドキドキが止まりませぬ。とても、とっても幸せじゃ・・。ぽっ。」


 ララのことを「男を知らないおぼこ」とどの口が言えたのか。随分初心うぶなことを言うケッツァコアトル。若干イラっときてララの表情が引き攣るが「大人の対応」で微笑みを死守する。


 だが、次の瞬間ケッツァコアトルの放った言葉に3人は驚愕することになる。


 「じ、実は妾・・。雄一様の赤ちゃんを身籠ったようですじゃ・・・。うふっ♡」


 「「「なあぁぁぁにいぃぃぃぃぃ!!!!!???」」」


 王室内に今日一で大きな叫び声が響いた。


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