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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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#60 今生の再会

 厄災についての話を済ませたケッツァコアトルはメガロス王国、とりわけバラダー・フルリオ個人へプレゼントがあると、そう言った。

 バラダーはイダニコに入国して完全部外者だと自覚していただけに、驚きを隠せずにいる。ケッツァコアトルはそんな慌てたバラダーの様子を面白がるように見ながら執事に目でサインを送り小さく頷く。

 執事はまた別の部下へサインを送ると王室の奥から扉が開く音がした。すると二列になって幾人もの人間の兵士が現れた。バラダーはその兵士たちを見て驚愕の表情に変わり、顎をガクガクと震わせている。


 「ギャロロ!ジャルグーン!ペッテコルセッタ!シャニノベ!」

 「ディカルタ!アマル!デボトワール!ディスカーリカ!パスラル!」


 名前を呼びながら、まるで幽霊と出くわしたかのように顔を青くして椅子からガタリと崩れ落ちる。それでも、よたよたと起き上がり兵士たちに近づきながら名を呼んでいく。

 整然と行進し、二列に並んだ彼らは5年前に出兵した「迷いの森捜索隊」の兵士たちだった。

 バラダーはよく見知った彼らの足を見るが、ちゃんと二本ついている。どうやら幽霊の行進ではないようだ。

 凛々しく、引き締まった表情の中に微笑ほほえみを浮かべる兵士たち。そして、その兵士たちが作った2つの列の間をやや年老いた兵士が最後に歩いてバラダーへ近づく。


 「ク・・クルガ中将!!」


 バラダーの大きなギョロ目が更に大きくなり、大粒の涙をボロボロと落とし始める。


 「お久し振りです。バラダー・フルリオ将軍。お元気そうで何よりです。」


 クルガは折り曲げた右腕を胸に当て、敬礼する。彼の目にも涙が溢れている。

 バラダーは震える足でクルガの元へ歩み寄り、確かめるように両肩、両腕をぱしぱし叩く。バラダーは笑みを浮かべながら顔面をくしゃくしゃにゆがめ、クルガを強く強く抱きしめた。


 「ぐおおっ!クルガ!クルガ!よくぞ!よくぞ生きていてくれていた!クルガちゅうーじょおぉ・・。」


 バラダーの強烈なハグを受けたクルガの全身はギシギシときしむ。苦悶の表情を浮かべながらも、再会の嬉しさを噛み締めるようにやせ我慢をしている。

 他の兵士たちも二人を囲むように集まり抱擁に加わる。おしくらまんじゅうどころの騒ぎではない。


 「バ・・バラダー・・しょっ将・・んがっ・・げ・・限界・・。」


 「おっと、すまん。」


 限界に達したクルガが顔色を悪くして呟くと、ようやくバラダーはその熱い抱擁を解いた。そして、興奮が抑えきれない表情のままケッツァコアトルに向き直ると片膝を着いてこうべを垂れる。


 「ケッツァコアトル・・・様。これは、一体どういうことでございましょう。」


 丁寧にひざまづいて問うバラダーにケッツァコアトルは満足気な表情で小さな胸をフンと張っている。


 「知れたこと。森で迷った者たちの内、降伏した者に関しては我が国へ招いてやったのじゃ。その数2500程かな?」


 「なっ!!?では多くの兵士は無事で、このイダニコにて生活をしているのでありますか?」


 「そうじゃ。この国の西方を彼らの土地にしてやった。皆、勤勉でよう働いてくれる。イダニコの妖精たちも、優しく雄々しい人間を気に入ってのぉ。半数以上の兵士は様々な妖精と家族となり、子をもうけておる。」

 「お陰で我が国は随分賑やかになったぞ。くっくくっく。」


 バラダーは慌ててクルガ達兵士を見回す。


 「なにっ!?ちょっと待て、お前ら結婚しているのか?まさか妖精たちと?」


 その言葉に急に兵士たちは後頭部に手を当て、鼻の下を伸ばし、でれーっと照れ笑いをし始めた。バラダーはあんぐり口を開けたまま、再びケッツァコアトルに顔を向ける。


 「うむ。良い機会じゃと思うてのぉ。夫婦で城に招待した。」

 「バラダーに幸せで達者に暮らしている姿を一目見せたいと志願者が殺到したが、今回は特にお主にゆかりのある者だけに絞らせてもらった。割愛かつあいというやつじゃな。」


 ケッツァコアトルはそう言うと手をポンポンと二つ叩いた。すると奥から清楚なドレスを着飾った、見目麗しい妖精たちがお淑やかに次々と現れ、それぞれがパートナーの隣へと付いていく。

 バラダーは驚きのあまり、開いた口がさらに下がり、頬の筋肉は下がり、顎は下がり、鼻水も垂れ下がる。


 「何と・・うちゅくしい・・・。」


 そして、最後に現れた妖精、青い髪、青い瞳をした水の精霊がクルガ中将へ近づく。


 「ま、まさか・・?クルガ中将・・・?うそじゃろぉ・・?」


 取り分け美しい妖精がクルガ中将の隣で足を止め、クルガ中将の腕にそっと手を絡める。


 「紹介します。私の妻のウィンちゃんです。」


 「ういんちゃん?・・うぃんっ?・・うぃんうぃん・・・うーん・・・。」


 超絶美人妻ウィンディーネのウィンちゃんを紹介されたその瞬間、バラダーは白目をき、泡を吹いて倒れてしまった。

 その様子を見てケッツァコアトルは大喜び。声を上げて笑っている。

 ぶくぶくと泡を吹いているバラダーは王室の影に控えていたイエラキにかつがれ退席することとなった。元メガロス王国兵士とそのヨメーズもざわざわと一緒に王室から出ていった。


 ティアたちは顔を引き攣らせバラダーを見送った。


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