#50 雄一の新スキル
半壊状態のMKSからムウのメッセージが発せられる。基本的に機械音で聞き取り辛いが、皆MKSの周りを囲むようにして座って聞く。
神と崇められるムウの言葉は天啓に等しい。信仰心の厚いバラダーは頭が地面に埋まるほど深々と土下座をして聞いている。
ハッキリ言って嫌な予感しかしない女子3人組は引き攣った半笑い状態で正座をして聞いている。
バゴクリスと雄一は三角座りをして聞いている。
イエラキにムウ信仰は無いが、敬意を払い大人しく座禅を組んで座っている。
「やったじゃん!雄一君!「MKS=(M)ミリタリー・(K)キラー・(S)ソルジャー。通称、森の・くま・さん」撃破おめでとう!ついでにその他の皆さんも生還おめでとう!」
「・・・ついでとか、その他って。」
ティアは、この場にいる全員を殺す勢いでMKSを放った張本人が述べる言葉ではないと思っていた。
「キャラメルで死にかけた時には肝を冷やしたが自力解決した上、新スキル「雷電」まで手に入れるんだから、実際大したもんだよ、君は。」
「ぷぷぷっ、それに引き換え、周りの者たちの慌てっぷりは実に滑稽で、見ていて随分腹を痛めたよ。」
「雄一の魔法「雷電」って言うのね。・・ねぇララ。随分ムウ様の口が悪いように感じるんだけど。多分、こっちがムウ様の本性なんだよね。」
ティアの小声の問い掛けにララは大きく頷く。
「ええ。間違いないわ。機械音とは言え、声に張りとリズムがあるもの。宗教上のムウの人格は残念ながら空想上の幻。現実はムウと言う名の変人・・」
「はい、ソコ!口を慎む!」
「ララは余計なことを吹き込まない!」
「うっ!こっちの発言に反応したわよ!?」
ムウはMKSを通してまるでみんなと会話をしているかのようだ。呟き程度の小声ですらムウには筒抜けの様であり、ティアは目を泳がせ冷や汗を掻いている。今からでも遅くはないと背筋を伸ばし姿勢を正す。
「私を誰だと思っているんだ?ああん?枢機卿のティア。雄一君の戦闘中では随分な口を利いてくれていたなぁ?おおん?誰の性格がどんな風に分かってきたって?」
「わわわっ!ごめんなさ・・」
「よし許す!!」
「早いっ!!許してくれるにしても早すぎるよ。」
慌てる様子のララを諫める様にララが落ち着いて言葉を掛ける。
「落ち着いてティアちゃん。きっと、あれだよ。2000年以上前の録音だから、タイミング取るの難しいんじゃないかなぁ?」
その後も暫く雑談が続く。雄一キャラメルを是非食べてみたかったとか、ララの装備がコスパ的にも一番決まっていたとか、それでいてティアのコスチュームが一番好きだとか、ムーンの雄一推しはいつも見ていて気持ちいいとか、アドバイスにもならないような感想メッセージが続く。
何時まで経ってもムウが一体何の為にMKSにメッセージを残したのか見当がつかない。ムウの会話形式のメッセージ。間違いなく姿を見られていることを意識し、無理な体勢で土下座し続けるバラダーがいよいよプルプルと震えだした。巨大な体躯でただ一人土下座を続ける哀愁が漂う姿に周囲は苦笑いをするしかなかった。
「えっと、ムウ・・さん?あなたは私たちに何か言いたくてメッセージを残したのではないですか?」
ララが聞いてみると、やはり会話の様にムウが返してきた。すると、MKSの首がカタリと下がり、ゆっくり左右に首を振る。
「はぁ、ララちゃん。もう少し言葉と言うものを選んで欲しいなぁ。もっと自然に本題を引き出すトークテクニックを磨かないと・・。」
「まぁ、メッセージを残せる容量も多くないから、そろそろ本題に入るとするか。」
『容量決まってるのかよ!だったらさっさと話せよ!!つぅか本題から話せよ!!だめ預言者!!』
流石のムウも心の中までは読めまいとティアは厳かな表情で頭を垂れつつ心の中で、より激しく辛辣に突っ込む。
「本題と言っても未来のことを言うつもりは毛頭ないよ。特に「厄災」についてはね。」
「前にも言ったようにちょっとした言葉で未来はすぐに変わってしまうデリケートなものだからね。ただまぁ、折角の機会だから今回の雄一君に起こったことを教えてあげようと思ってね。」
「ちょっとした言葉って「おっちゃかめっちゃか」とかを繰り返すつもりかしら。」
ララの諍う呟きに対しララは無言を保つ。余計な誤爆に巻き込まれないようにする為だ。
「ごほん。あー。テステス。んんっん!えーっ。今回の雄一の新スキルは雷系の魔法と同等以上の超強力な固有スキルです。ただ、魔法とは少し違います。雄一君のそれは人間が本来持っているスキルが活性・覚醒し表面化したと言う方が近いです。はい。ここまでの説明で分かりましたか?」
「はーい。意味が分かりませーん。」
ムーンのようやく始まった説明を、まるで理解できないムーンは微睡んだ目をして手を挙げ答える。
「はい。ムーンちゃん。実にいい反応です。ちゃんと聞いていることが伝わります。では逆に質問しましょう。脳細胞が臓器、筋肉、その他の細胞などに指令を出す方法をご存知ですか?」
「はーい。知りませーん。」
「うーん。ムーンちゃん!素晴らしい反応です。その返しを期待して問いかけました。」
「実は、脳細胞には発電能力があるのです。」
「脳は体中の臓器・筋肉・あらゆる細胞たちにエレキテル、即ち電気信号を利用して全身に指示を出しているのです。」
「全身脳筋細胞の雄一君は言わば全身発電機と言えます。少し誇張しますが電気エネルギーの塊とも言えるのです。ただ、微力な電力を溜めて集結させ表面化させるのは至難の業。言うは易く行うは難し。当然簡単ではありません。」
「雄一君はキャラメルを喉に詰まらせ、召喚後最大の危機に陥りました。正に瀕死状態。雄一君はあの時、本当に死にかけていたのです。」
「この危機的異常事態に脳筋細胞全てが一致団結し課題解決に取り組んだ結果、あの雷電現象が発生し、キャラメルを砕くことができたのです。」
「前述しましたが、これは厳密には魔法ではありません。雄一君の内から出てきている人間なら本来誰しも持っている能力です。だから魔力が0表示のままなのです。」
「はーい。急に説明が長くなり追いつけませーん。バカでも分かる様に説明してくださーい。」
ムウの説明に対し一向に理解の深まらないムーンは、徐々にいちびった態度で反応する。しかし、ムウは更に興奮した口調で続ける。
「エクセレンツ!エークセレンツ!あなたは理想的な生徒です!ムーンちゃん!」
「つまり、この雷電現象は雄一君の無意識下で偶然発生した超能力です。雄一君!今回はたまたま上手く能力覚醒に繋がりましたが危険ですのでもう二度とあんな真似はしないようにしてください!」
「その他の生徒の皆さんも喉詰まらせれば「雷電覚醒」できるなどと勘違いして真似しても死ぬだけなので絶対やめましょう。分かりましたか!?」
「はーい。わかりましたー。」
雄一が素直に手をしっかり伸ばして答える。
『誰があんなバカな真似ができるか!ていうかいつの間に私たちを生徒にしたんだ?』
ティアは心を決して悟られないように表情を崩さずに突っ込む。
「さぁ、響き合う授業が出来て先生は嬉しく思います。雄一君の雷電現象以外のことで他に質問がある人はいますか。」
ララが無表情に手を上げる。
「雄一君のステータスカードが1しか表示されないのはどうし・・・」
「ガガーッピー・・ガガーガガーギー・・」
ララの質問に被せるようにMKSが異常音を発する。
「えっ?ステータスがなんて?」
質問が届かなかったようで、ムウがララに聞き返す。
「いくら参考値とは言え、雄一君のステー・・・」
「ガーピーガーピーガガガガピー・・」
またもララの質問に異常音が重なる。
「えっ?なんて?森のくまさんも、雄一君からのダメージで不具合が起きているようだが・・?参考値がどうしたって?」
ララが呆れたように少し俯きながら首を振り、片手で「もういいです」と合図する。
するとムーンが手を上げた。いちびった態度は変わらない。
「はーい。雄一様のステータスカードで、脳KINGの意味が分かりませーん。」
「ムーンちゃんは生徒の鑑ですね。皆さんも見習いましょう。さて、脳KINGですが。私のちょっとした「いたずら心」と捉えていただいて結構です。」
『いたずらかよ!と言うかやっぱり主犯はお前かよ』
ティアはやはり声を上げない。が、どうしてもイラつく。心のイラつきが眉の皺として現れる。
先程のMKSの異常音も故意と分かったララに至っては完全に目を座らせている。
「脳KINGとは脳筋と言う言葉と王を意味するKINGと言う二つの言葉を一つに組み合わせた言語技術の一つであり、雄一君の故郷では「駄洒落」と呼ばれ、長く人々に親しまれ、流行している言葉遊びの一つです。」
『あーあ。下らないことを説明しちゃったよコノ人。その丁寧解説いるか?』
ティアの皺が更に深くなる。
「神谷雄一。彼は特別なのです。しかし、だからと言って、むやみやたらに干渉することがより良い未来に、彼の成長に繋がるとも限りません。」
「それでも何かしてあげたいと思うのは人情と言うもの。せめて、特別な存在であることを知らしめたい。そう。誰が見ても一目で分かる個性的かつ独創的な役職名こそが雄一には相応しい!それが「脳KING」です!!」
「てなわけで皆さん。脳KINGを今後ともどうぞよろしく!!」
目が座ったままのララが手を上げ、ムーン調で意見を出す。
「はーい。だったら誰もが特別と分かり、もっとオシャレでカッコいい名前があると思いまーす。あなたの言葉を借りるなら「蒼穹の翼」でも「蒼穹の剣」なんてのも素敵だと思い・・・」
「・・ああっと!残念。そろそろお時間の様です。ララちゃんの貴重な意見はまた次回以降に聞くことにしましょう。」
『こっ・・こいつ・・ダメだ』
散々無駄な時間を費やしているムウがララの質問を「時間」を理由にはぐらかし、話題を別の方向へ向ける。