#49 進化した雄一のステータスカード
雄一の電流を纏った一撃を受けたMKSは仰向けに倒れたまま完全に沈黙している。シュウシュウと言う音を立て黒い煙が立ち上っている。苛烈なムウの試練であったが、雄一は見事にその課題をクリアしたのだった。
しかし、結局雄一にとって最大の試練だったのはMKSとキャラメルのどちらであったのかは誰にも分からなかった。ただ言えることは今回のムウの試練で雄一が死線を越えた結果、新たな魔法能力らしき力を手に入れたと言うことだ。
「もーっバカ!死ぬかと思ったじゃない!雄一!何でさっさとキャラメルを吐き出さないのよ!」
「分かってるの?雄一!あんた本当に死にかけたのよ!?回復剤で死にかけるってなんの冗談よ!!てか、なんであんなでかいもんを丸ごと食ってんのよ!」
「ううう。朝ごはん少なくて、みんなには悪いとは思ったけど、最後のキャラメル開けちゃったの。そしたら、さっきまで余裕だったムーンが森のくまさん相手に辛そうだったから慌てて全部口に入れちゃったんだよ。」
雄一はしょんぼりした表情で項垂れている。しかし、レンガ大のキャラメルを食べただけあって体中の傷は消え去り、完全回復している様子だった。いや、完全回復を重複したのか肌は艶々(つやつや)だ。
「あのキャラメルは元より雄一様の物。気に留めることなど何一つありませんわ。」
「それよりティア。ここにいる全員を救った雄一様を責めるのはお門違いよ。これはそもそも朝食の量と時間を十分に雄一様に提供できなかった私たち皆の責任よ。」
ムーンの言葉にバラダーとイエラキも申し訳なさそうに続く。
「うむ。なんだかよく分からんが、わしも油断して気が付いたらやられてたしなぁ。・・ティア枢機卿、そう怒らずに、今回はわしの顔に免じて許してやってくれんか?」
「我も不甲斐なかった。バラダー殿と一緒につい調子に乗ってしまった。」
「雄一殿にはできればあのまま休んでいてもらおうと思っていたのに不甲斐ない体裁を晒してしまった。」
バラダーとイエラキがティアに頭を下げるとララが笑顔で間に入る。
「ふふふ。みんな、ティアは雄一君を心配しているだけだよ。本気で怒っている訳じゃないわ。ね?ティア!」
「ちょっ!ララ!余計なことを言わなくていいから。」
慌てふためきララに向けて両手をばたつかせるティア。その様子にみんなが声を上げて笑う。途端にティアの顔が赤くなる。今度はティアが何か喉に詰まらせてしまったようだ。
「ところで、MKSを葬った一撃を雄一殿が放った際、まるで雷系の魔法を放っていたようにお見受けしましたが、あれは?」
イエラキの言葉にバラダーが即座に反応する。
「わしも気が付いていきなりあれが目に飛び込んできたもんだから驚いた。小僧、お前魔力が0だったよなぁ。ステータスカードちょっと見せてみろ。」
「いいよ。そう言えばお知らせの音がちょくちょく鳴ってたよ。」
「はい。」
そう言うと雄一はカバンの中から漆黒のカードを取り出し、バラダーに手渡す。
カードを見たバラダーの目が飛び出そうになるほど見開いた。何か大きな変化がブラックカードに記されているに違いないと皆がカードを覗き見る。
神谷雄一(10) ブラックカード
天職:脳KING LV65
体力:1
力:1
俊敏:1
魔力:0
魔法防御力:0
「「「「「なっにぃー!!!!」」」」」
「なになにー?やっぱり魔力がいっぱいに増えたのー?」
皆が驚愕の声を揃えて驚いている様子を見て、雄一はわくわくしながらバラダーのガタガタと震える掌にある自分のステータスカードを見る。
「えーっと・・脳KINGだって。」
雄一はそう呟くと、腕を組み首を傾げる。そして、震えながら、もう少しで零れ落ちそうなほど目を剥き出しているバラダーに尋ねる。
「ねえねえ。バラダーさん。脳KINGって何?どんなお仕事?」
「知るか!!こっちが聞きたいわ!」
「こりゃあ驚いた。レベル以外、変わるべきところは一切変わらず、変わる筈の無いところが変わっておるぞ。」
「しかも変化を期待した魔力は0のままだ。確か位階授与式の時のレベル50だったから、15も上がっている。レベルは驚異的な成長速度だが数値に変動なし。異例だらけで訳が分からん。」
バラダーは立ち眩みを起こしたようで額に手を当て、震える手で何とかステータスカードを雄一に返す。雄一はしげしげと手渡されたカードを見ている。
「雄一様。何も気を落とされることは無いのですよ。魔法が使えなくとも雄一様は十分に強いのですから。」
「あははー。ありがとうムーン。」
ムーンの慰めの言葉に雄一は笑って答える。相変わらずと言った感じで、残念がる表情など微塵も出ていない。
「だとしたら、あの雷は何だったのかしら。これまでの暴風魔法「くしゃみ」とは明らかに出所が異質に思えたけど・・。」
ララは雄一の起こした雷現象について考えを巡らせているが、流石に僅かな糸口すら掴めないでいた。
ティアも頭を抱えて何やらぶつぶつ呟いている。誰よりも深刻にステータスカードの変化を分析しようとしているが、混乱して考えがどうにも支離滅裂だった。
「一生変わらない筈の天職名が変わるなんて・・・。極め脳筋も大概意味不明な天職名だったけど、脳KINGって、どう言う王様なのよ。」
「ひょっとして私の知らないどこかに「脳」の国があるのかしら。聞いたことはないけど・・・。それとも雄一の世界にあるとか?・・もしかして雄一は元々「脳」の国の王子様って可能性は・・いや、どう見てもあれは一般家庭だったわ・・・。」
皆々それぞれが、それぞれに好き勝手に想像を巡らせる中、MKSが突然ガタガタと震えだす。その音に一気に緊張感が高まる。
「まさか!死んでなかったのか!?」
バラダーが皆を庇うように構えを取る。
「ダメージガ・バトルモードノ・ジョウゲンヲ・オオハバニ・コエマシタ・ジドウシュウフクモードニ・イコウシマシタ」
「!!」
「なにぃ!!自動修復だと!?」
「みんな!迎撃態勢をとって!」
まさかのMKSから発せられた音声に皆がバラダーに続き構えを取る。が、ララが一歩前へ出て、手で皆を制止する。
「みんな、待って。様子が何だかおかしいから。」
「ジドウシュウフク・カンリョウ・・・スベテノジョウケンヲ・ミタシテイマス・コレヨリ・メッセージモードヘ・イコウシマス」
「メッセージモード?ってまさか、ひょっとして。」
「ムウから雄一様への・・・?」
ティアとムーンの顔が少し引き攣る。ララは覚悟を決めたように頷いている。
MKSはゆっくりと体を起こし、長座した姿勢で雄一たちの方に頭を向ける。
「やっほー!!みんなー。おっつかれさーん!!予言書ぶりーっ!」
「やっぱりかっ!ムウ!」
ティアの嘆きのような叫びが響く。