#46 芽生え
目下MKSと交戦中の雄一と気絶しているバゴクリス以外のメンバーは輪になって朝食を摂っている。
雄一の話で皆一頻泣いた後、顔を腫らしつつも共感し合えた皆は妙な一体感に包まれた。
しかし、泣けば誰でも腹が減る。これは自然の摂理だ。なので、和気藹々とした雰囲気の中で朝食を摂りはじめた。食料は底を尽きたので非常用の缶詰を開けた。それと雄一キャラメルがデザートに一人一粒配られた。
缶詰の中身は肉と野菜がたっぷりのスープで、火炎魔法で温めて食べる。バラダーが目を腫らしているのをムーンがからかい、皆が笑う。バラダーはMKSに殴られたからだと言い訳しているが、皆が首から上を攻撃されていないことを知っていた。
イエラキも輪の中に溶け込んで、楽しそうに話しながら缶詰のスープを口に運んでいる。
「ティア殿は雄一殿のことが好きなのですな。」
「えっ!?わっわっ私?わたわた・・私は・・。」
イエラキの言葉にティアは焦る。顔を染めて狼狽えているとララが微笑みながら答える。
「うふふっ。雄一君のことを嫌いになる人なんているのかしら。」
「ふむ。確かに我も知らぬ間に彼のことが好きになっておるな。まるで我が息子のように感じさえする。」
ララの言葉に納得するイエラキ。
「ねっ。ふふふ。」
そう言うとララはティアに一瞬、軽くウインクした。ティアは自分の気持ちを見透かされたような気がして恥ずかしくて顔を赤くする。
「わしもそうだ。名前は覚えん、掴みどころは無い、生意気な小僧だと思っていたが、心の底では妙に憎めない奴だった。」
「雄一君を庇ってMKSの攻撃の盾になったくらいですものね。あの雄姿、とても胸が熱くなったわ。」
「うっ!ララ殿にまで見られていたのか。思わず柄にもないことをして照れ臭くていかん。」
「でも、私が一番雄一様のことを想っていることをお忘れなく。まぁ、みんなが雄一様のことを好意的に思ってもらえるのはやぶさかではないわ。」
話しが盛り上がっていく中ティアだけが「好き」の解釈の勘違いで最後まで赤ら顔のままわちゃわちゃとしていた。
朝食も終わり、雄一キャラメルで全回復を果たしたメンバーが勢いよく一斉に立ち上がる。
「さて、雄一と交代するか。」
「そうだね。」
皆が作った輪の中心には雄一の分の朝食が用意されていた。
そして皆で作る輪から大地が震えるほどの殺気が溢れ出す。戦闘準備完了だ。
「私、この戦いの中で魔法を覚えたの。ふっふっふっ。生まれて初めての魔法。さっきの借りもあるし最初だけ単騎掛けしてもいいかしら?」
「・・・無理しないでね。あなたは貴重な近接戦力なんだから。」
「ありがとう。ティア。多分1対1だと30秒程しかもたないと思うからその後、援護を頼むわ。」
ムーンは指をぱきぱき鳴らすと両腰にぶら下げたジャマダハルを両拳に装備し、雄一とMKSの方へ向かって歩き出す。
皆はムーンを守る様に背後から援護体制を取りつつムーンに歩調を合わせる。
「雄一様。朝食の用意ができております。そいつの相手は私共にお任せ頂き、ゆっくりとお食事をお楽しみ下さい。」
「ドカドカ」と雄一の繰り出す打撃音が響く中、雄一に声を掛けるとムーンは魔法を発動させた。
それは防御魔法だった。全身を覆うほど大きくはない両拳のジャマダハルと両足のつま先からスネ辺りまでが覆われているだけの小さなシールド魔法。しかし、色が変わっている。一見透明色。だが、光を乱反射してプリズム光沢を放っている。
その様子を一瞥した雄一が答える。
「わかったー。じゃぁ、交代おねがーい。」
「アダマンシールド×影分身!!」
雄一がMKSから離れた瞬間8体に分かれたムーンが怒涛の攻撃を仕掛ける。四方八方からシールド魔法を纏った拳と足で攻撃を喰らわす。
両手足の防御魔法がMKSの体を穿つ。MKSの反撃も雄一同様手足で払い除ける。ムーンは防御魔法を攻防一体魔法に転用したのだ。
「だりゃりゃりゃりゃぁぁ。」
ムーンは雄一の見つけた解析パターンをお手本として、雄一とMKSの攻撃パターンの両方の動きを洞察していた。両者の動きを自分の得意な形へ応用し対応している。手数の足りない分は影分身で、足りない攻撃力はシールドにより硬度を強化し補っている。
雄一は振り返りもせず走っていく。
「いただきまーす。」
手を合わせてお辞儀を済ませた後、雄一が朝食を摂り始めた。温かいスープを味わいながら、ゆっくり躰に流していく。
ムーンはMKSをサンドバッグのように扱い圧倒している。だが、影分身と防御魔法の同時発動は予想以上に負担が大きかった。無呼吸で全力疾走を続ける感覚に近い。急速に体中の酸素が失われていく。最大のパフォーマンスを続けられる時間は残り僅かだ。ムーンの表情が見る見る歪み始める。
とその時ララが叫ぶ。
「30秒!!」
「お願い!!インターバル2分頂戴!!」
ムーンが離脱すると同時にバラダーとイエラキがMKSに対峙する。MKSはすぐさま両手を突き出し、魔法を繰り出そうとするが魔法が発生しない。MKSは機械らしからず首をかしげている。
「オーシャンパーム。空気中の水蒸気を思いのままに操る水性魔法よ。」
「MKS。あなたの属性は風なんでしょ?最初の火炎魔法は火に油を注ぐ愚策だったわけね。随分強力みたいだけど、私には通用しないわ。悪いけどこのまま、体の表面は水の膜で封じさせてもらうわね。」
ララはMKSの魔法特性を風と読んだ。風と火は非常に相性が良い。最初の爆風魔法はMKSの魔力に上乗せされた形で放たれたものだったのではないかと考える。
またララは黄金色のエネルギー弾は、強力な風魔法を操り摩擦により雷を発生させたものと推測していた。
それらの推測を基に風属性の相性の悪い水属性魔法「オーシャンパーム」によりMKSに触れる大気の動きを打ち消し合わせ阻害することで風の発生そのものを封じたのだ。
風が水を動かすことも可能であるが容易ではない。魔法勝負において強力な魔力を誇り風に優位な水魔法を操るララに軍配が上がる。
「「どおりゃあー」」
MKSの魔法が発動しない隙を突いてバラダーとイエラキの同時攻撃が初めてヒットする。ゴオォォォォンと鐘の鳴る音が響く。
MKSはお返しとばかりに掌底をバラダーとイエラキに放つ。
「「に・く・かべぇ!!」」
掌底を腹で受け止める脳筋コンビ。吹き飛ばされることもなくMKSの一撃を耐えきると再び拳を上げる。
「「よぉーいしょーい!!」」
ゴオォォォンと再び森へ響く鐘の音。MKSを二人はパワーで圧倒する。
バラダーとイエラキが突然強くなったわけではない。MKSの物理攻撃には風魔法が纏っていた。攻撃力俊敏性共にその効果を風魔法が増幅させていたのだ。明らかにグレードダウンした物理攻撃を二人はインパクトの瞬間受け身で吸収しつつ受け止めていたのだ。加えて二人の体力は全回復を果たし、更には徹夜明けの「ナチュラルハイ」の状態で痛みを余り感じていない「おまけ」付きだ。
脳筋二人組はMKSの攻撃を全て受けつつも怯むことなく阿吽のごとくリンクして圧倒する。
「「甘い!!」」
ゴオォォォォン
「ヒール」
大幅にダメージカットが出来たとはいえ大きく削られる二人の体力をティアが回復魔法で支援する。
これでチェックメイトだ。MKSに成す術が無くなる形となった。まさに、勝利の方程式が出揃った必勝パターン。
戦闘メンバーの誰もが勝利の二文字を確信した。・・ララ以外は。
『何?この感覚・・・急に湿度が上がったような・・。みんなの熱気?』
ララが違和感を感じていると森に機械の発生音が響く。
「ダメージガ・ノーマルモードノジョウゲンヲ・コエタタメ・バトルモードヘ・イコウシマシタ」
「!!?」
「危ない!逃げてぇっ!!」
ララが叫んだ。