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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
44/169

#43 森のくまさん

 「♪ランルーランルーランランルーランララルー♪」


 「♪あなたのすべてはぼくのもの♪」


 可愛らしい歌声が徐々に近づいてくる。歌声の他に森の木が倒れる音や、爆発音が混じる。イエラキが皆にMKSミリタリー・キラー・ソルジャーが来たと言う合図を送る。彼らは少ない時間の中で作戦を立てていた。

その作戦会議でイエラキが伝えたMKSの特徴と注意点は以下の5点。


 一、1m50㎝程の小柄な体躯で、可愛らしい見た目をしているが容姿に騙されないようにすること。

 二、歌が大好きで常に歌っているが、歌わなくなった時の方が危険と噂されていること。

 三、魔術・体術共に化け物級だが、魔法に関しては、雷属性を持っていること。

 四、MKSはターゲットに対して必ず最短距離で向かってくること。よって障害物は避けるのではなく破壊して進む特徴を持つこと。

 五、アマダンタイト製で防御力が異常に高く、2000年の時を経て傷一つないことから物理攻撃は意味が無いと推測されていること。


 イエラキの持っている情報を基に立てた作戦は、最短距離で来ることから足を踏み入れる場所を特定し、持てる火炎系最大火力の魔法攻撃を投入し、MKSのボディそのものの金属溶解を狙う。

 その後、ムーンによる影分身でMKSを翻弄陽動し、再度火炎系最大火力の魔法攻撃を行うと言うものだった。


 ちなみにターゲットになっている雄一はまだ寝ている。起こそうとしたが熟睡しており、ムーンが鬼の形相で無理に起こすことに反対した。

 そこで、火炎系の魔法攻撃作戦が失敗と判断されたら即刻、叩き起こすと言う案でムーンが渋々妥協した。

 雄一を起こす、起こさないの悶着から数秒後MKSの歌声が聞こえだしたのだった。

 イエラキの合図に皆に緊張が走る。程なく茂みから1m50cm程の小さな影が現れた。

 

 「今だ!!」


 ドベギャギャギャズガガドォォン!!


イエラキの火炎砲弾。バラダーの炎魔法。ティアの火炎魔法。ララの煉獄魔法。各々が一斉に最大出力で放たれた。

 その地獄絵図とも思える獄炎旋風がMKSに炸裂する。

 激しい閃光と爆音と共に大爆発が起こり、MKS出没地点が消滅する。


 「♪その体から生える、その手も、足も、髪の毛一本まで全てがぼくのものー♪」


 いや、豪炎を纏いつつ、立ち上る硝煙の中から歌声と共にMKSが姿を現す。その瞬間をムーンが影分身で攻撃するはずだったがその姿を目にして発動が一拍遅れる。


 「なっ!?・・くまのお人形?」


挿絵(By みてみん)


 MKSの容姿はまるでくまのぬいぐるみ。

 ピンク色の金属光沢を放つ、なんともラブリーなくまのぬいぐるみ。ぽてぽてと不器用な感じで歩く姿がまたカワイイ。イエラキ以外全員が予想の更に上を行く姿(可愛さ)に一瞬戸惑う。


 「かっ、影分身!!」


 ムーンが一瞬遅く分身し、突撃するが一瞬の遅れが致命傷となり、攻撃が届かない。

 代わりにMKSが両手を広げ巨大電流を放った。

 竜巻の如き電流を至近距離で受けたムーンはおろかララとティアまでその電流波に巻き込まれぐるぐると回される。そしてムーンとティアは成す術なく沼地の方まで吹き飛ばされた。


 ララは同様に雷魔法で相殺させて受け身を取り、反転攻勢MKSに向かって突撃して魔力を込めたレイピアをMKSの頭部目掛けて叩き込む。


 ガキン!


 「うっ!??」


 しかし、MKSはララの攻撃を片腕で払い除けると続け様に胴体を一回転させララへ回転蹴りを見舞う。


 バリン!


 「うああっ!」


 その攻撃を読んでいたララは防御魔法「シールド」を張るがMKSの予想以上の攻撃力を前に、シールドはガラスの様に無残に砕け散ってしまった。


 驚愕し、目を見開いたララが更なる防御行動を取る暇など与えないMKS。まるで時を止めたかのようにMKSがララに両腕でラッシュを掛ける。


 ドドドドド!!


 「きゃあああ!」


 ララは一瞬で十数発の打撃を無防備な状態で打ち込まれ吹き飛ばされた。


 「ちぃっ!!このガラクタがぁ!!」


 その不死身の巨体でMKSの雷電を耐えたバラダーがMKSに風神剣を繰り出す。それに加勢するようにイエラキが両爪ベアハッグでMKSを引き裂こうとする。


 ブオオン!!


 バラダーとイエラキの同時攻撃。


 ガキン!


 しかし、これも届かない。MKSの体が一瞬金色に輝くとMKSの半径3m程の黄金に輝くシールドが張られる。


 「ぐおおっ!まさか!これほどとは・・。」


 空気が重い。シールドに捉えられる二人。


 「バラダー・・。このままではマズイ・・。」


 MKSは両腕を同時に繰り出しバラダーとイエラキを殴りつける。


 ドゴ!バキン!

 

 「ぐほおっ!」

 

 バラダーは咄嗟に剣を防御に使ったが剣は真っ二つに折れ、吹き飛ばされる。


 ベアハッグの大きな動きで防御態勢が間に合わなかったイエラキに至ってはMKSの拳をまともに受けてしまった。両者の巨体が吹き飛ばされる。


 邪魔者がいなくなったMKSがゆっくりと態勢を整え、雄一に向かって足を延ばす。


 「やあー!!」


 バギィ。


 ここで背後に回っていたバゴクリスが飛び蹴りを繰り出した。

 しかし、MKSは背後などまるで関係ないかのように360°ぐるりと腕を振るいバゴクリスを弾き飛ばす。


 ベギイ!!


 「うあああ・・。」

 

 カウンター気味にMKSの振り抜いた拳を喰らったバゴクリスは一本のドリルの様に凄まじい回転を加えられたまま森の奥へと消えていった。


 MKSが雄一の前へ悠然と歩み寄る。


 「♪あなたが吐く吐息さえも~、ぜんぶーぜんぶーぼくのものー♪」


 まるで感情がある様に気持ち良さそうに歌を歌うMKS。


 「ううう・・。」


 雄一を膝の上で寝かせているトロルが庇うように震えた体を身代わりになるように雄一の上へ覆いかぶせた。


 「うーっ神よ!!」


 MKSは涙目で雄一を庇うトロルのことなどまるで気にも留めず両手をトロルの前へ突き出すとバレーボール大の黄金のエネルギー弾を作り出し、トロルの下で眠る雄一目掛けて放った。


 バシュッ!


 金色こんじきのエネルギー弾が放たれたその瞬間、雄一の前にバラダーが立ちはだかる。


 バキバキバキバキバキ・・!


 エネルギー弾をバラダーは鳩尾みぞおちで受け止めたのだが、バキバキと音をたてバラダーの鎧が粉々に砕け散り、後方へ吹き飛んだ。


 分厚い鎧を、まるで紙吹雪の様に木っ端みじんに吹き飛ばしたが、そんなもの初めからありもしないと思えるほど勢い衰えずバラダーの腹部を抉るエネルギー弾。


挿絵(By みてみん)


 「ぐぎぃっ・・この子ぉにぃはぁぁぁ・・ゆびいっぽん・・ふれさ・・せんん・・」


 バラダーは血走らせた目を剝き出してエネルギー弾を全て受けきった。不死身の肉体は伊達ではない。


 「ぶはああ・・。今度はこっちの番だ、ガラクタ野郎!!」


 バラダーは血走ったまなこを大きく見開いて突き出されたMKSの両腕を掴むと勢いよく頭突きをかます。


 ガツン!ガツン!!ガツン!!!

 

 一回、二回、三回と連続で頭突きをしながらMKSを一歩、二歩、三歩と後退させていった。しかし、バラダーの額は割れ、鮮血が飛び散る。それでもバラダーは止まらない。遂には顔面が自分の流れ出る血で赤く染まる。


 後退をさせることはできたが、アマダンタイト製のMKS頭にダメージは一切残らず、バラダーのひたいの血だけが残っただけだった。


 「ぐぉっ。この、石頭がぁ・・。」

 「おいっ!そこのトロル!なぁにをしている!全力で雄一を!逃がせぇ!!」


 尚も頭突きをしてくるバラダーに対し、MKSは腕を掴まれたままバラダーの自慢の髭を両手で掴む。

そしてジャイアントスイングのように体を回転させる。するとバラダーの巨体は軽々と持ち上げられ、ブンブンと音を立てる。


 「♪だってーだって、ずっとーまってたんだものー♪」


 「ぐおおおおおおお・・・」


 もはやコマか竜巻にしか見えない程の回転速度。以前、雄一がオークキング相手に回転した速度がスローモーションに思えるほどの速さだ。

 MKSを掴んでいたバラダーの両手はその強烈な遠心力でとっくに外れている。それでもMKSはその両手を髭から離さない。ぶちぶちと言う音が周囲に響き始める。尋常ならざる回転力に髭の毛根が負けていく。

 そして幾千もの髭たちの限界点が訪れた。


 ぶちい!


 髭が毛根から引き千切られる音と共にバラダーが猛烈な勢いで吹き飛ばされる。

 顎からの激しい流血が真紅の直線の軌道を描く。

 バラダーは気を失ったかのように筋肉はだらりと弛緩しきり、力が入っていない。このまま受け身も取れず森の木か岩か地に叩きつけられるであろうと思われたその時。


 どん!


 吹き飛ばされたバラダーが受け止められた。


 「バラダー・フルリオさん!だいじょうぶ?血だらけだよ?」


 バラダーを受け止めたのは雄一だった。


 「が・・。こぞう・・。お・・おまえ・・わしの名を・・?」


 トロルに叩き起こされ、漸く朝のお目覚めを果たした雄一は、凄まじい勢いで吹っ飛ぶバラダーをきちんと衝撃を殺しながら受け止めた。


 『ああ・・温かい・・。こんな小さな子に支えられているのに心の底からホッとする・・。』


 ほんのちっぽけな体に包まれた巨漢バラダーは果てしなく大きな安堵に包まれるのを感じた。


 バラダーの額は割れた上に潰れている。顎の皮は引き裂かれ出血が続いていた。顔面血塗れの容姿は酷く変貌し原型など留めてはいなかった。


 それでも雄一は彼の名を呼んだ。フルネームでハッキリ、バラダー・フルリオと。


 『もし、わしに子がいたら・・こんな子に育ってくれるだろうか・・。』


 バラダーの胸に熱い何かが込み上げる。そしてそれは涙となり左目から流れた。一筋の溢れ出た涙は血で汚れきった彼の頬に一本の綺麗な道を作った。


 「ゆーいっちくーーーーん!」


 雄一を呼ぶMKSの咆哮に我に返るバラダー。


 「ゆ・・ゆういち・・。にげ・・ろ・・」


 バラダーの言葉を聞きつつ雄一は眠気眼の目をこすりながら辺りを見回す。まるで信じられない光景だ。

 MKSが現れて僅か3分も経っていなかった。が、パーティは既に散り散りになっていた。

 特にバラダーとララとバゴクリスは深刻なダメージを受けている。だが、それ以上に絶望的かつ致命的なダメージを受けた「者」を雄一の目は捉えた。


 雄一の目が見開く。ふるふると体が震える。


 ラブリーな容姿をしたピンクのくまさん。その手にはバラダーの髭がだらりとぶら下がり、ぼたぼたと血が滴っている。


 「そ・・そんな・・。まさか・・こんなことって・・。」

 

 ぶるぶると震え、愕然とした様子の雄一はその場で両手両膝を地面に着き、MKSが持つ血塗れの髭に向かって右手を伸ばし、悲鳴を上げるように叫ぶ!


 「髭さーーーーーーん!!」


 「っておい!そりゃ、どう言うことだぁ?小僧!!」


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