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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
41/169

#40 バラダーVSトロルキング

 巨大イービルの体長は3m以上。雄一は巨大イービルの膝位しかない圧倒的体格差。

 巨大イービルは雄一を睨みつけながら首をゆっくり回しゴキゴキと鳴らす。


 「少数とは言え、なかなか強力なイービル共のようだな。」

 「5年ぶりに受けた我があるじケッツァコアトル・ディオウサ様の命により、このトロルキング、イエラキ・ワルド様が直々に相手になろう。」


 「あれ?とろるきんぐ?ピンクイービルじゃなくて?」


 「ピンクイービル?何を寝ぼけたことを・・。イービルとは貴様らのことだ。イービルとは「悪」と言う意味だ。分かったか愚かで下等な人間共め。」


 巨大イービル改めトロルキングはそう言って雄一に向かい歩を進める。雄一は首を傾げている。

 他のトロルたちはトロルキングの狙いを察して四方に散らばる。雄一をスルーしてムーン、ララ、ティア、バゴクリスに向かって距離を詰めていく。

 と、その時、再び落とし穴から将軍バラダーが這い上がってきた。落とし穴は雄一とトロルキングの丁度間に位置していた。


 「なぁにがトロルキングだ!イービル(悪)はテメエらだろうが畜生共・・。小僧!手出し無用だぞ!コイツは俺様の獲物だ!」


 バラダーはトロルキングであるイエラキ・ワルドの前に、立ちはだかる様にその巨体を持ち上げる。

 どうやら落とし穴で今度こそ針に刺さったらしく、体中が血にまみれている。


 「髭さん大丈夫?血だらけだよ?向こうでララ姉ちゃんに手当してもらったほうが・・。」


 「ううーむ。とうとうわしの名を「髭さん」に略しおって!もういいからお前はディスケイニたちを手助けしてやれ。でかいイービルは一体でも骨が折れる相手だ。」


 「うん!分かった!髭さん、がんばってね。」


 雄一をティアたちの元へ送るバラダーはトロルキングのイエラキを殺気を纏った目で睨む。


 「我はメガロス王国軍将軍バラダー・フルリオと申す。イエラキとやら。貴様が先程口にした5年前と言うのは何の話だ。」


 「・・まぁ、よかろう、話してやる。5年前、数千のイービル(人間)がこの森へ侵入してきた。我はあるじの命を受け我が配下にある「森の番人」の精鋭たちと共に、森へ侵入してきたイービル(人間)共を鎮圧した。」


 イエラキの言葉を聞きバラダーが目を光らせる。遂に仇の総大将が目の前に現れたのだと確信したのだ。

 バラダーの頭に急速に血がのぼる。だが、バラダーは意識的に平静を装う。クルガに直接手を下した相手がイエラキであるかの確証を得る為に。そして自分の男としてのケジメの為に湧き上がる激情を抑え込む。


 「そうか。その討伐された者たちはわしの命令で森の平定に向かった、わしの部下達だ。」

 「メガロス王国最強の戦士であるわしを倒してみろ。さすれば二度と森を平定しようする人間は現れまい。」


 「ぐはは。なかなか面白い人間だ。貴様は己以上の生贄いけにえはいないと言うか。ならばその心意気を察してやろう。」

 「貴様の首をね、あそこにいる貴様の部下共に首を持たせ森の外へ送り返してやる。ぐはははは。」


 イエラキが高笑いをする。バラダーは少しだけ安堵あんどの目を見せ、口をニヤリと上へ上げると、ゆっくりとブロードソードを抜刀ばっとうした。


 『元よりとむらいい合戦が我が本懐ほんかい。結果がどうであれ、これであ奴らは国に帰れる。』


 イエラキとバラダーが睨み合う。両者とも巨体同士ではあるがバラダーよりも50cm近く大きなイエラキのプレッシャー(重圧)は相当なものである。

 やや緊張気味のバラダーの様子を見てイエラキが鼻で笑うと、人差し指を上へ向け「攻撃してみろ」と言わんばかりに上げた指をちょいちょい前後に動かす。


 『・・・壱の型』


 ぽつり呟くバラダーが中断の構えからイエラキの胴目掛け横薙ぎに剣を払う。しかし、イエラキはその巨体をくの字に捻ってバラダーの横振りの剣を躱す。そして強烈な反撃の一手を打つ。

 イエラキは左手から豪炎波動を放った。波動は大振りを空ぶって流れたバラダーの脇腹に命中し爆ぜる。

 バラダーは苦悶の表情を浮かべながらも体制を整え上段に構える。


 「ほうっ。なかなか頑丈な人間だ。少しは楽しませてくれそうだな。ぐはははは。」


 『・・・弐の型』


 バラダーはイエラキに向かってジャンプすると、その巨体を一回転させて斬りつける。美しいほど上段から真っ直ぐ振り下ろされた剣先を、イエラキは巨体を反らしてまたも躱した。完全に動きを見切られている。

 そしてイエラキは横薙ぎにバラダーを豪炎が込められた爪で切り裂く。バラダーの巨体は数メートル吹き飛び、胴から四本の血の溝が浮かび上がる。両足を擦りながらも体制を整えるバラダーだがダメージは深刻に見える。

 ここで、今まで活き活きしていたイエラキの表情が素に戻る。


 「やはり詰まらんな・・。その剣術、思い出した・・。まさか5年前の人間と同じことをしてくるとは。」

 「人間如き考え出した剣術など幼稚で程度が知れている。まるで進歩と言うものを知らぬ。ああ、くだらぬ、くだらぬ。」


 バラダーの眉がピクリと動く。そして深く腰を落とし、下段に剣を構えるとピタリと動きを止めた。呼吸すら止めているかのように微動だにしていない。ただ半眼の目の奥には獣が如き殺気が宿っていた。


 「我ら一族に比べれば貴様らなど紙細工・・いや紙屑同然。思い上がった下等生物よ。せいぜいあの世で種族の差を恨み、身の程知らずを後悔するがよい。」


 イエラキはそう言うと凄まじい闘気を纏い雄叫びを上げると両爪が真っ赤に燃え上がる。両腕を大きく広げ、体を仰け反らせ、ベアハッグをバラダーに向け放つ。

 バラダーの目から殺気が消えている。


 『参の型』


 「!!」


 イエラキのベアハッグは空を切る。驚愕の表情を浮かべるイエラキ。その3mの巨体の懐に2m半の巨漢が入り込んでいる。凄まじいまでの踏み込みでベアハッグを掻い潜りったのだ。そして限界まで下段に構えられた剣が、一匹の龍の様に天へと昇る。

 イエラキの胴に一筋のわだちが刻まれたかと思うと、秒後轍から一気に血が噴き出した。


 「ぐぅおっ!?」


 「ふんっ!貴様の言う下等な人間の剣術、十分に通用するではないか。畜生共は手加減してやればすぐ図に乗りおる。」

 「聞けぃ!わしにこの剣術を教えたは貴様が5年前に蹂躙した戦士の内の一人だ。彼の技をそのデカいだけの体に刻み込んで死んで行け。」


 「・・・笑止。かすり傷一つ付けただけでいい気になるな。」


 「ふっ!当然だ!このド畜生が!「騎士道」を貫くはここまでだ。ここよりはわしも「畜生道」に堕ちて貴様を10回殺してやる。」


 バラダーの目に再び殺気が蘇る。剣を鞘に納めると、地面へ落とし、首とこぶしをゴキゴキと鳴らしながら、イエラキの間合いへと入っていく。

 イエラキは望むところと言わんばかりに目を輝かせだす。


 「ぐはは。面白い。このイエラキ様を相手に素手で立ち向かおうとする紙屑(人間)は初めてだぞ。鼻紙の如く、くしゃくしゃに丸め潰してくれる。」


 「よく鳴き喚く畜生め!家畜は家畜らしく人間様の糧となれ!」


 ゴツンと言う拳と拳をぶつけ合う音で第2ラウンドが始まった。両者、拳だけでなく頭突き、膝蹴り何でもありの肉弾戦が始まった。その距離は相手の息遣いすらお互い聞こえてくる超インファイト、超接近戦。「喧嘩上等!」と言わんばかりお互い被弾は気にも留めず一撃一撃に殺気を纏わせ攻撃を与える。


 体格差で一撃の重さはイエラキに軍配が上がるようで被弾する度バラダーの体幹がズレる。

 超インファイトで互いの攻撃回転が速いため、そのズレを修正しきる前にバラダーは一撃を放たざるを得ない。

 インファイトがイエラキに有利なポジションであることは明白だった。

 バラダーにとっては、ここはいったん距離を取り、体勢を整え魔法と体術を組み合わせて闘うことが得策である。バラダーもそのことに気付いている。

 しかし、バラダーはそれを完全に拒否し更に一歩前へ出る。イエラキは少し眉を顰める。

 

 「・・?貴様。何のつもりだ。クズはクズらしく距離を取って貴様の得意な風魔法でも使うべきなんじゃないのか?」


 「魔法?そんなモノは使い方を忘れたなぁ。今のわしには、てめぇの一番得意な距離で撃ち合い、そしてその上で、その醜い顔を地面に沈めてやることしか頭にねぇよ。」


 バラダーの虚勢がイエラキの脳筋心をくすぐる。そして悪魔の様に大きく口を開け笑う。


 「ぐはは。いいぞ。いいぞ。こんなバカは久しぶりだ。益々気に入ったぞ。だが、その気概きがいいつまで続けられるかな。」


 「がははははっ。そんなの決まってるだろ?てめぇが汚ねえ肉団子になるまでだ。」


 「ぐはは。大バカ者もここまで来ると爽快だな。貴様が人で無ければと心底思うほどに。」


 車で例えるならダンプカー同士の正面衝突の繰り返し。体重400kg超級スーパーヘビー級の戦い。浮き上がる血管。ほとばしる血と汗。肉を穿うがち骨にみる。

 しかし、ここに来て、急所を狙うような邪道な攻撃がお互いから消えていく。が、決して二人がスポーツマンシップに目覚めたわけではない。お互いを自分と匹敵する強者つわものと認めたが故、「勝ち方」にこだわり始めたのだ。

 二人共が「圧倒的な力の差で相手を捻じ伏せる。」とだけ考えていた。


 大迫力と緊迫した闘いに掛け声が飛ぶ。


 「いいぞー!いいぞー!バラダー将軍!あんた、なかなかやるじゃない!ちょっと押されてるけどー。」


 「ウルトラヘビー級の二人がぶつかり合うと、凄い迫力ね。二人ともーカッコいいわよー!!」


 「まだまだぁ!甘い甘いっ!髭ぇー!もっと下からえぐるように拳を出しなさーい!」


 「髭さーん。がんばれー。イエラキさーん。がんばれー。」


 一体どういうことかとイエラキとバラダーは互いに手を止め声のする方を見る。

 そこには雄一たちは呑気に座って二人の激闘を観戦している姿があった。

 イエラキが驚愕の目を見開き辺りを見回すと、10体のデカトロル(デカイービル)たちは全て草むらで倒れている。


 「うぐぐ。まさかこんな短時間で我が精鋭部隊がやられたと言うのか・・。しかもこのような小さき者共に・・。」


 基本的にララとティアの連携でデカイービルたちを圧倒した。

 デカイービルたちは苦し紛れにティアとバゴクリスを攻撃しようとしたが、そこへ雄一が加勢に現れたのが決定的だった。

 デカイービルの渾身の攻撃は雄一には一切通らなかった。逆に、みんな雄一から一人一回ずつの少し厳し目の折檻せっかんを受け、あえなく沈んでいった。

 戦闘開始5分後、雄一参戦の1分後のできごとだった。


 その後はみんなバラダーの邪魔にならないよう大人しく、体育座りをして観戦していたのだが、徐々にエキサイトしていき、興奮度が限界点を超え、声に出して応援を始めたのだった。

 しかもどうやらバラダーとイエラキの両方を応援している。

 と、突如、闘う漢二人は明るい円形の光に包まれた。

 ララだ。ララが高い木の上から強烈な光魔法スポットライトで二人を照らし始めたのだ。

 暗闇の森にまるで円形状の臨場感溢れる闘技場の舞台が現れたようだ。


 「ばぁか共が。お祭りの様にしおって一体何を考えておるんだ?」

 「・・だがしかし、これで後ろの憂いは無くなったと言うわけだ。イエラキぃ覚悟しろ?ここからが本番だ!」


 「それはこちらの台詞だ!バラダーぁ。早々に貴様を片付け、あのチビ共を粉微塵にしてくれる。」


 雄一たちの歓声が森に響く中、第3ラウンドが始まった。


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