表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋だもん  作者: 妖狐♂
39/169

#38 将軍バラダー

 夜間も「迷いの森」を進行する予定だったがピンクイービル急襲の影響で急遽中止することになった。ティアが決めた出発再開予定は3時間後。そのことに納得の行かないバラダーがティアに文句をつけている。


 「わしは大丈夫だと言っておるだろ!早く出発しやがれ!!」


 「ダメです。今動くのは重大な危険を伴う可能性が高いです。第一バラダー将軍あなた血だらけではありませんか。まずは治療と回復が最優先課題です。」

 「それじゃぁララ、回復魔法よろしく。」


 ララが頷きバラダーに歩み寄る。そんなララをバラダーが見下しながら睨みつける。


 「いいのか?このわしを回復させて。」


 「・・・どういう意味かしら?」


 バラダー眉間にしわを寄せつつニヤリと笑う。相手を不快にさせる嫌な笑顔だ。


 「わしは、貴様らを道案内として生かしておるだけだ。」

 「ハッキリ言わせてもらう。わしらはディスケイニ枢機卿を危険人物と敵視しておる。道案内の必要がなく、おぬしらがいなければ肢体を引き千切り、森に捨て置くところだ。」


 「・・・知ってるわ、そんなこと。それがどうしたの?」


 ララの眼光が鋭く光る。ティアは小さく悲鳴を上げ慌てて雄一の背に隠れる。

 しかし雄一のランドセルの上に乗っているシゲルが何とも邪魔だ。ティアはそれを嫌がり森の奥深くへスライムのシゲルを投げ飛ばした後、改めて雄一のランドセルにそっと手を当て身を縮めた。


 「この森でわしが力尽きる方が貴様らにとって好都合だと言うておるのだ。分かったか?ゴミムシ共。分かったら回復魔法なんぞせずに今すぐ出発だ!さぁ、この「すこーぷくん」とやらを持て!」


 険しい表情のバラダーが罵声を吐く。ララは鋭い表情のままだ。


 「言いたいことはそれだけ?」


 「なにぃ?」


 「ヒール。」


 ララの指から眩い光が放たれ、バラダーの巨体を優しく包み込む。バラダーの傷は瞬く間に塞がった。呆然としていたバラダーだったが次第にギリギリと歯を食いしばり始めた。


 「貴様!!どういうつもりだ!なぜわしに回復魔法を掛けた!!」


 怒鳴るようにララに迫るバラダー。一触即発の雰囲気にティアが慌てふためく。口が震える。


 「それはこっちの台詞よ。将軍バラダー。さっきから嘘ばかり並べてどういうつもり?」


 「なっ!?わしは嘘などついてはおらん。」


 「でも今のあなたの目にはピンクイービルに向けていたような殺気がない。真実と本音を都合と嘘で捻じ曲げている。」

 「その様子だとあなたは5年前の迷いの森平定計画で・・」


 ララの「5年前」と言う言葉でバラダーの顔が一変し、ララの言葉を遮るように喚き出した。


 「黙れ黙れ黙れ!!だーまーれーー!!貴様に何が分かる!」

 「いや!分かった!もうよい!もう十分だ!わしはもう寝る!!出発は3時間後だ!!これで満足か!?」


 青筋を立て、顔を真っ赤にしてララの言葉を遮りバラダーは踵を返して距離を取ると、巨木を背もたれにして一人休み始めた。

 バラダーの脅しが怖かったティアは目をうるうるさせてムーンに抱き寄せられ頭を撫でられている。


 3時間後、バラダーがララの元へ歩み寄ってきた。その気配に横になっていたララも起き上がりバラダーに顔を向ける。


 「もう体は大丈夫なの?」


 ララの問い掛けに応えずバラダーは手に持っていたカードをララの前に放り落とす。


 「わしのステータスカードだ。見ろ。」


 ララがバラダーのステータスカードを拾い上げ見る。見張りをしていたティアとムーンも気が付いてララの元へ集まる。


 バラダー・フルリオ(53)レッドカード

 天職:鉄人 LV92

 体力:100000000(1億)

 力:550000(55万)

 俊敏:380000(38万)

 魔力:74000

 魔法耐性:15000


 「なっ!?何これ!!1億?」


 バラダーの体力値1億に驚愕して思わずティアが声を上げる。


 「これでわしが「不死身の将軍」と言われている意味がわかっただろう。わしはどれ程ダメージを喰らっても関係ない。この森で仮に迷い、国へ帰還できなくなったとしても死ぬことは無い。餓死すらしない。必ず生き残るのだ・・。」

 「先程の厚意。有難く受け取っておく。だが、今後わしに回復魔法は不要だ。自分たちの為だけに魔力を使っていればよい。」


 バラダーは紛れもなくメガロス王国最強の武人であった。過去幾度となく立ちはだかった如何なる苦境も、強敵も、この規格外の体力で捻じ伏せてきた。

 死なない相手は倒せない。その現実を数値が証明する。皆、それを目の当たりにし、何も言えなくなる。


 「・・・わかったわ。あなたのステータスを踏まえて臨機応変に行動をとりましょう。」


 ティアは頷くと、雄一とバゴクリスを起こし、深夜の森を進み始めた。

 その後、朝を迎えてもピンクイービルの襲撃は無く、薄暗くも明るくなった森を進んでいく。


 「でも、バラダー将軍の体力値にはびっくりしたわ。1億だって。雄一でも倒すのは難しいんじゃない?」


 「ティア。それは聞き捨てならないわ。でも、ちょっと異常よね。私も自信無くなったわ。」


 「あら、ムーンが自信を無くすだなんて珍しいわね。」


 珍しく弱気なムーンにティアが反応すると、少し口を尖らせた。やはり悔しいらしい。


 「でも、回復のお礼も言ってたし少し関係は良くなったとおもわない?それに体力1億の不死身の将軍が味方と考えれば心強いわ。」


 「んーそうかしら。元々敵な訳だし、過度の期待は禁物だと思う。・・・ねぇララちゃん?」


 「・・・」


 ムーンの問い掛けに反応しないララ。


 「ララ?どうかしたの?」


 「えっ!?ううん。何でもない。」


 「ララちゃん。さっきから少し元気がないみたいだけど大丈夫?」


 「大丈夫よ。ちょっと考え事をしていただけだから。」


 ティアの表情が曇る。


 「考え事?」


 「うん。森のこと、ピンクイービルのこと、バラダー将軍のことで色々ね。・・・少し、胸騒ぎがするの。私の想定には甘すぎたところがあるんじゃないかなぁって・・。」


 ララの言葉にティアとムーンも不安を覚える。ずっと順調に探索を進めていると思っていた中、予想していない悪いことが起こるのではないかと。

 

 夜も明け、殆ど休憩を取らずに歩み進め、昨夜バラダーが仕留めた猪肉オークを昼食にし、再び歩き出した昼下がりにララの嫌な予感が現実のものとなる。


 目の前に広大な沼地が広がったのだ。

 進めなくはないが底なし沼の様に地盤が緩い。足が沼に呑み込まれないようにするだけでも一苦労しそうだ。そしてまた悪いことに流動している。スコープ君を刺してもこれでは点を点として維持できない。


 「うわーい。にゅるにゅるだね。田んぼみたいー。あはは。ほら、バゴクリスさん。とてもいい匂いがするね。気持ちいいー!」


 「そうでございますか?」


 雄一は素足になって一人沼地に足を踏み入れ遊んでいる。


 「おい。ディスケイニ。この場合はどうする?」


 「え。いや、あのー・・。」

 「どうしたらいいかな?ねえ?ララ。」


 ティアの言葉にララが拳を固め、悔しそうに歯を食いしばりながら呻くように答える。


 「ごめんなさい。・・・不覚を取ったわ。スコープ君が使えない以上、打開策が思いつかない。探索はここまでにして撤退することを勧めるわ。」


 ララの言葉にバラダーが焦る様子で叫ぶ。


 「なに!?撤退だと?何も収穫などないまま撤退するのか!?」


 バラダーの言葉に珍しくララが怒るように噛みつく。


 「収穫など些細な問題よ。それより今、撤退しなければスコープ君で帰る方法を永久に失うわ。」


 ララはスコープ君の構造上・方法上、沼地に対応できないことを誰よりも知っている。

 だからこそ、次はここにいる全員が無事、安全に帰国することが重要だと考えた。ララは敗北感を感じながらも、冷静で現実的な判断をしているのだ。

 しかし、バラダーは引き下がらない。不死身の彼は我を通す。


 「ぬかせ!先に進む何か良い方法がある筈だ!逆に言えばこんなことくらいで挫折する方法などで、帰りが無事だと言うは笑止千万。」


 「そうね。あなたの言うことは正しい。でも、帰るには、今はこの「道しるべ」だけが頼りよ。」


 バラダーの眉毛が右は上へ左は下へと離れ、顔が引き攣る。目は徐々に見開き顔がどんどん赤くなり鼻の穴を大きく広げていく。

 ララも引き下がらない。策が破綻していることを誰よりも理解している彼女は皆の身に危険が及ぶことを何よりも恐れている。


 「この部隊の総大将として、ララの提案を採用します。森の探索はここまで。速やかに撤退行動に移ります。」


 「なんだと!?わしは断固拒否する。貴様らだけ尻尾を巻いて逃げ帰るがいい。」


 ティアの言葉もバラダーは受け入れない。顔を赤くして興奮気味に単独行動も辞さない構えを見せる。そんなバラダーの様子を見てムーンがバラダーを煽る発言をする。


 「はぁっ。ここにもとんでもない脳筋がいたのね。もっとも雄一様のそれとは別物の「バカ」って意味だけど。」


 「わしをバカ呼ばわりするのか?主人に尻尾を振るだけの犬畜生が。この将軍様を愚弄するか!」


 案の定、挑発に乗ってきたバラダーを更にいさかうムーン。


 「はいはい。さすがっす脳筋不死身の将軍さま。この先はどーぞ「お独りぼっちさま」でお進みください。」

 「さ、バカは放っておいて帰りましょ。」


 ブチン


 バラダーの血管が切れる音がした。白目を向け、肩がぶるぶると震えている。


 「ムーーン!ぎざま゛ぁ゛・・」


 「癇癪は起こさ・・・」


 軽い挫折感と苛立ちを味わっていたララがやや投げやりに掛けた言葉をバラダーは遮り叫んだ。


 「誰がおこすかぁー!!」


 「!!」


 ララが諫めようとしたが間に合わなかった。怒髪天のバラダーは大声を張り上げ喚きながら、ダブルラリアットを繰り出す。

 ララはティアを抱えてその場を離れ、ムーンも屈んでコレを躱すが、あろうことか3本並んでいたスコープ君を薙ぎ払ってしまった。


 「おみゃぁらぁ!わっしゃあが下手したてに出とれゃあ好き勝手いうてぇ!わっしゃあメガロス王国最強の男!おみゃあらはわしん言うーことー聞いとりゃぁーええんでゃー!!」


 「髭のおじちゃん!どうしたの?急になまって。」


 「っさい!わっしゃーぁ髭のおじさんじゃない!」


 暴れだすバラダーに雄一が慌てた様子で止めに入るが火に油を注いだかのように怒りを露わにする。

 荒れ狂うバラダーが、燃え盛るような目を雄一に向け、振り下ろすように雄一目掛けて拳を振るう。


 「捻り潰すど、クソガキがぁ!!わっしゃあ将軍バラダーだぁー!!」


 ドッコーン!!


 森に地響きと共に鈍い音が木霊する。バラダーの一直線に振り下ろした拳をかいくぐった雄一。

 と同時に雄一の綺麗なリバーブローがバラダーにカウンター気味に炸裂した。


 「あが、あが、あが・・。」


 奇妙な呻き声を呟いた後、バラダーは白目を向いてその場に沈んだ。


 「もうっ。落ち着いて。髭のおじちゃん。」


 「おいおい。1億を一撃って・・まじですか。」


 引き攣りながらティアが呟く。


 「やっぱり!さすが雄一様ですわ。」


  胸を張りドヤ顔を決めるムーン。


 「ふー。さて、どうしたものかしら。」


 嫌な予感が現実になり、更に状況は最悪となり、大きく溜息を着くララ。


 バラダー御乱心は鼻の頭に泥を付けた雄一による強力なたしなめで強制的に落ち着いた。しかし、撤退するにしてもバラダーがスコープ君を薙ぎ払ったため、正確な方角が分からなくなってしまった。おおよその見当で行動をとるのは極めて危険だ。


 ティアは青い顔をして絶望的な表情をしている。

 ムーンはバラダーのステータスが雄一の一撃を受けて、どのように変化したのかを気にして、バラダーの懐をまさぐっている。

 ララは顎に手を置き難しい顔をしている。雄一とバゴクリスは二人で沼を眺めている。

 ララに焦りの表情が浮かぶ中、沼を眺めている雄一とバゴクリスの話し声が聞こえてくる。


 「どうでしょうか。わたくしの目にはそう見えるのですが」


 「うん。本当だね。確かにそんな風に見えるよ。すごいねバゴクリスさん」


 煮詰まっていたララは二人の話に興味を示し声を掛ける。


 「なあに?雄一君。何か見つけたの?」


 「うん。足跡だよ。ゆらゆら揺れて分かりにくいけど。バゴクリスさんにはハッキリ見えるみたい。」


 「えっ!?足跡!?」


 ララが雄一の言葉に目を凝らして沼を凝視するが何も見えない。


 「私には何も見えないけど・・」


 「余程の視力と観察力がないと無理なようですな。わたくしにはよく見えます。これは、言うなれば「けもの道」のようですな。」


 「「けもの道」・・まさか。先に進む道標になりえるの?」


 「沼が動いていますので徐々に消えつつありますが、今ならまだ足跡を追うことはできるかと。」


 射撃訓練による日頃の鍛錬だけではない。バゴクリスの観察眼は飛びぬけて優れていた。

 聞けば沼にたどり着くまでの道程にも「けもの道」は何本も通っていたらしい。ただ、それらの道が何処へ繋がっているかも分からず黙っていたのだと言う。


 「ねぇ、ララ姉ちゃん。行ってみようよ。「けもの道」のその先へ。」


 雄一は目を輝かせて沼の先を指差した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ