表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋だもん  作者: 妖狐♂
32/169

#31 日光月光 

 大聖堂の庭にある茂みの中。地面からひそひそ声が聞こえる。


「秘密の地下トンネルも完成し~ぃっ、親衛隊黒龍アトラスは瀕死状た~いっ。今宵以上の好機はな~いっ。これよりディスケイニ枢機卿~のぉっ、暗殺を決行する~ぅっ」


「イエッサ~ァッ! ニッコウ兄さ~んんっ」


「いくぞ~ぉっ。ゲッコ~オッ」


 もこもこもっこり……。


 土中から二人の忍者が現れた。


「目論見どお~りでさ~ね~ぇっ! ニッコウ兄さ~んっ」


「ぃよ~し。ターゲッツの部屋は、コッチだぜぇ~ぇっ」


 闇夜を背負って移動を開始する忍者、ニッコウ・ゲッコウ兄弟。彼らは、ナダルから雇われた刺客であった。

 彼らは大聖堂へ、時には清掃員として、時には庭師として潜入を繰り返し、ティア暗殺計画を練っていた。


「うっ、マズい~よっ? 勝手口の扉に鍵が掛けられてる~ょっ?」


「あせるなぁ~あっ。今、こんな鍵、俺のキーピックで~えっ……」


 カチャカチャこちょこちょ……がちゃり。


「今夜は月が出てないね。羽化するには丁度いいね……」


「ぎっく~ぅっ」


 開錠と共に、突如聞こえた子供の声に、二人は開けられるだけ目を大きく開き、周囲の闇に注意を向ける。


「ニッコウ兄さ~んっ。今の声は~ぁっ……」


『しっ、テレパシーで話せゲッコウ~ォッ。ガキだ~ぁっ……闇に紛れてガキがい~るっ』


『ガ~キッ? 一体どこに~ぃっ……』


『寅の方角うぅっ……俺たちの出てきた茂みの近く~でぇっ、しゃがみ込んで~るっ……』


『い~たぁっ。こんな夜中に~ぃ……草むらで、しょうべん~か?』


 目撃者は速やかに排除しなければならない。二人は毒針を逆手に携え、闇をマントに少年に忍び寄る。

 ところで少年は一体何をしているのか。少年の視線の先に目を凝らすと、そこには蛹の殻にぶら下がる、一匹のモンシロチョウがいた。


「羽を揃えた蝶は、芋虫だった頃の自分を、覚えてるものかなぁ……」


『死ねーっ!!』


 二人同時に毒針を振り下ろす。

 その直後、突然に深い闇が幾重にも覆い、その全てを呑み込んだ。まるでこの夜、何事も起きてなかったかのように。

 そんな静寂の中、蝶だけが、真新しい鱗粉を散らして夜空へと消えた――。


◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆


「おはよーございます。ぼく、おなかがすきました。」


「わんわんわおん。只今朝食をお持ちします、雄一様」


 ぴゅ~っ。


「おはよ、雄一君。起きてても、大丈夫なの?」


「うん。すっかり良くなったよ。あれ、ティア様はまだなんだね」


「ティアちゃん、昨夜いろいろあったの。とても怖がるから、私とムーンちゃんで挟んで寝たんだけど、寝付けたのは明け方だったみたい」


「ふ~ん、そうなんだ~」


 あら、あれは泥かしら。雄一君の袖口に汚れが付いている。うふふ、まさか、病み上がりから外ででも遊んでたのかしら……?


 バーン!


「お待たせいたしました雄一様! た~んと召し上がれ」


「わーい。いただきま~す」


「あおあおん。ダメです、勝手に食べちゃ。私がふーふーして、食べさせるのです」


「えっ? そうなの?」


「そうです。それが勝者の特権です。ふ~っふ~っ……はい、あ~ん」


「あ~ん、ぱく。おいし~い」


「きゃんっきゃんきゃん! これが、勝者のみが与えられる、美酒の味ね」


 勝者? うふふ、ムーンちゃんったら、こんな、あたしなんかと張り合ってるのね。かわいい。

 ……でも、一方的に敗者にされるのは癪ね……よ~し、少し意地悪。しちゃおうかな……。


「もぐもぐ、おかわりー」


「わんわん。はいっ、ただいま~」


 よし、行ったわね。戻ってくるまで約一分。


「雄一君、ちょっとコッチ来て?」


「えっ? でもおかわりが……」


「い、い、か、ら。うふふ」


 私は雄一君の手を引っ張って、外に連れ出す。

 ちょっと強引すぎるかな? ううん、ムーンちゃんから引き剥がすには、これくらいで丁度いいわ。


「うわあ~空を飛ぶの初めて! まるで鳥になった気分だよ」


「うふふ、そうね。私も気持ちいい」


 背中が温かい……。雄一君をおぶって空を飛ぶと、死んだ弟を思い出す。

 目頭が熱くなるのは、きっと朝日が眩しすぎるからよね――。


「さて、町に着いたわ。折角だし買い物をしてから帰りましょ?」


「でも、お金ないよ?」


「大丈夫。メガロスから百万メタラ振り込まれてある筈だから」


 ステータスカードを使って銀行からお金を下ろす。これで冒険に必要な装備品を揃えよう。

 雄一君は嬉しそうに、下ろした全額をポケットに突っ込んでいた。まるでオモチャのお金を扱ってる気分なのかな。


「ビギナーからマスタークラスまで、高級武具店ウエポンアルマ……。ここにしましょうか」


「は~い」


「気に入った武具や、買いたいものがあったら相談に乗るから教えてね?」


「は~い」


 子ども用の装備品なんて、数が知れてるから、すぐに決まるでしょう。さて、私も選ばないと……。

 大事なことは、守備力や攻撃力よりも……そして動きやすさや機能性よりも……やっぱり見た目よね。

 ラインが綺麗に見える装備じゃないと。……でも、下品なのもイヤ。清楚さも感じられるフォーマル要素も大切。

 うん。これがいいわ。黒のインナーに、ハートをデフォルメしたデザインの桜色のショルダーと胸当て。ライトなマントに、ロングブーツとショートスカートを合わせて……よし、決まり。


「ゆ~いちく~ん。みてみて~。これ、私に似合うかな~……あら?」


 あれ……雄一君がいない。子ども服売り場も、紳士服売り場も……。と言うかお店にいる気配がない……。

 弟を見る私に、よく母が言っていた。


『子どもから目を離しちゃいけませんよ? ララ』


「その通りだわ、お母様」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ