#27 裏切りの黒龍
神谷雄一は、救世主になれず。メガロス王国上層部は頭を抱えている。
果たして、ステータス値、最低以下の、極め脳筋に、宝珠、白玉を与えてよいものかと。
「アース王、拝聴ください。神谷雄一、彼は、紛れもなく本物です」
「確かにステータスカードは、予想外でしたが、それでも、彼が、選ばれし者であることは、間違いありません」
「ふうっ、ディスケイニ枢機卿。その、大した自信は、どこからくるのかね」
「うげ、ナダル司法長官……」
王である、アースを差し置いて、ナダルがティアに質問する。
「え~、あ~、それは~。んっん、私が、この目で、彼が、覇者となるのを、確認したからです」
「ふ~ん、見たのぉ~。その、過去すら見通す魔眼でねぇ。あの、ステータスが、いち、しかない少年が、覇者になるのを~、見たのぉ~」
「そ、そう。そうです。」
「一人のはずの覇者が、門から三人も出てきた時点でねぇ~、妖しいとは思ってたけどねぇ~」
「何かの間違いって、こたぁ~、ないかねぇ? 枢機卿?」
ナダルが、いかにも疑った様子で、ティアの顔を覗き込む。
「ううう、しょ、証拠もあります」
「ほう、証拠とな?」
「それは、初耳だ。お聞きになりましたか? アース王。枢機卿は、証拠を持ちながら、おやおや? 報告がありませんでしたな」
ティアの目が泳ぐ。肩は上がり、ガチガチだ。
「ま、まだ、翻訳と解読の整理がついておりません。正式な文書になるまでには、もう少し時間が……」
「ひっひっひっ。言い訳、結構」
「実は、ムウの預言書の解読に成功、致しました」
「何!?」
アース王の、目に力が入る。ナダルも、これには閉口する。
「お聞きください、アース王」
「うむ、話せ」
「はっ。解読した文章には、直接、神谷雄一の名が記されておりました」
「うむ」
「そこには、ハッキリと神谷雄一が、正真正銘の救世主であると……」
「うむ、そうか。大儀である」
アース王はそう言うと、目を細め、静かに頷いた。ティアも少し表情が緩む。
そんなアース王の反応を、無視するように、ナダルが興奮し始める。
「なんと! あの文章の解読に、成功していたのか! 何故それを早く言わん」
「え~っ、ですから、解読した原文、そのままは、お見せできるような文章ではなかったのです」
「え~っ、こちら側で、精査し、より分かり易く推敲した後、正式な形にして、報告しようと思っていた次第で……」
ティアが、必死の言い訳を続ける。
雄一が、読み上げたままの文書は、何度、読み返してみても、やはり、ムウの人格を疑うような言葉の羅列だった。
そのため、原文は封印し、「神格化されたムウのイメージ」に沿った文章を、改めて作ることとなった。
「恐れながら、申し上げます」
黒龍が、ティアの半歩前へ歩み出ると、懐から一冊のノートを取り出した。見覚えのあるノートに、ティアは、まさかと口を開ける。
『こ、こくりゅう~。キサマ、何故、それを?』
その、まさかだった。
「こちらが、解読文の原文です」
「なんだと!? これが、神が残された、最後の詔か!?」
ナダルが、アトラスに詰め寄る。
「はい。あの、未解読文章を読み解いたのは、神谷雄一」
「なんだと? あのゴミが解読しただと?」
「内容を、お改め下さい。アース王」
頭を垂れ両手で差し出すノートを、ナダルは手に取る。
『黒龍! キサマ! どういうつもりだ!!?』
『ぐおっ、紅様、首を絞めるのは、おやめください』
ノートを開こうとするナダルに、官房長官ガボグが声を掛ける。
「ナダル殿。さすがに、王の御前である以上は……」
「うっ、うむ。そうですな」
ナダルは、渋々、王へノートを手渡した。
ノアース王は、ゆっくりノートを開く。
逸る気持ちを抑えきれず、重鎮たちが、王の背後に群がり、ノートを覗き読む。
餌に群がる、鯉か鮒のようだ。
「こっ、これは……」
ティアは、額に手を当て、愕然と天を見上げる。
「いきなり、やっほ~、だと!?」
「この、おっちゃかめっちゃかとてまとぴー、とは、何のことだろう」
「分からん。分らんが、壊滅的な文章だ」
「こ、言葉が下品すぎる」
「なあ、ナダル殿この、おっちゃかめっちゃかとてまとぴーって何だと思う?」
「だから、知るかって」
「滅茶苦茶な文だが、確かに、あのゴミが救世主であると明記してある」
「待て、ガボグ殿。この文章、あのゴミが解読したと黒龍が申しておったな」
「自分に都合の良い言葉を並べただけではないのか?」
「うむ。ナダル殿の言う通りだ。これは、神谷雄一の妄言である可能性が最も高いな」
「なんじゃと。あろうことか、偉大なるムウ様への侮辱行為をするとは。神書の捏造は大罪じゃ」
「このバラダーが、断じて許さん」
ティアは原文を見せればこうなることが分かっていた。
『そりゃ、あの中身じゃ、誰も信じないよね。私だって、半信半疑だもの』
『それを、まさか、黒龍アトラスに暴露されるとは……』
ティアは、力なく雄一の方に目をやる。
『スライムと遊んでやがる。コッチの絶望的な状況も知らないで、いい気なものね、あの脳筋』
雄一を非難する声が高まる。このままでは、懲罰コースまっしぐらだ。
『はは~ん。神様侮辱罪を適用し、三年間の強制労働を科す気ね』
『ナダルは、司法を牛耳ってる。神官の私じゃ、どうしようもないわ』
雄一への旗色が急激に悪くなる中、ティアは諦める他なかった。
『いや、待て。彼は、私の求めに対し、正直に読んだだけじゃないか』
『それを、私が見捨ててどうする』
『よし! こうなれば、自分の地位を引き換えにしてでも、雄一を守ってみせるわ!』
ティアは、覚悟を決めて、口を開こうとした。
しかし、その時、紅からのヘッドロックを外した黒龍が、ティアより先に口を出す。
「申し上げます。確かに、それは、彼が読んだ文章であることは間違いありません」
「しかし、彼が、大神殿の門を開けた、覇者であることもまた、間違いはありません」
「私を含め、目撃者は多数おります」
黒龍は、アース王に向かってそう述べた。
「うむ。予言の書では、救世主を蟲毒の儀で召喚し、その勇者に宝珠を授けよ、とある」
「仮に、この文章が、彼の戯言だとしても、神の試練を乗り越えた者を、裁くとあっては、矛盾してしまう」
「のう? 司法長官ナダル」
「うぐっ、ぐぐぐ。そうですな、アース、王」
アース王の、雄一、擁護と取れる発言に、ティアと紅の表情が緩む。
すると、再び、黒龍が口を開く。
「今、本当に問題となっているのは、彼が、救世主に相応しい、力が、あるのかと言う点ではないでしょうか」
誰も、この意見に反論する者がいないのを、黒龍は確認し、言葉を続ける。
「そこで、ご提案です」
「私、黒龍と戦う試練を、彼に与えてみては、どうでしょうか」
「やらせや、不正を疑われないためにも、お互いのステータス値を公表した戦いを」
黒龍の提案に、いち早く反応したのは、司法長官ナダルだった。
「ぐふふ、ふむ。それは道理である」
「予言書の解読文への真偽はともかく、問題はステータス値が、一か、ゼロと、言うところにある。アース王、黒龍副官の意見を取り入れるべきでしょう」
「しかし、所詮は内輪同士の戦い」
「いくら、ステータス値を見せながらの戦いでも、ショーとしか、見られないんじゃねえか?」
ナダルの発言に、超髭もじゃの、将軍バラダーが難色を示す。
「くくく。流石は我が国最強の武人。鋭い意見をお持ちだ」
「バラダー将軍のおっしゃる通り勝敗に関わらず、黒龍アトラスとの戦い、だけでは各国は納得されますまい。そこでです……」
ナダルはニヤリと不敵な笑みを浮かべひそひそと首脳陣たちに話し始めた。
「……とまあ、このように致してはいかがかな」
ナダルの提案に、八方が頷く。
「ほうほう、なるほど。さすが、ナダル長官だ」
「ふむ。私はナダル長官の提案された、試練を与えることが妥当であると判断する」
「私も異議なし」
「異議なし」
その様子を見ていたアース王も、渋々といった感じで、頷いた。
数分後会場に進行役の声が響いた。
「各国来賓の皆さま。大変お待たせいたしました」
「これより、位階授与の件に関しまして、官房長官ガボグから説明とご提案がございます」
議長席に座るガボグは、落ち着き払って威厳ある声で語り始めた。
「官房長官ガボグである。先程は大変見苦しい状況となり深くお詫び申し上げる」
「神谷雄一のステータスはあらゆる面で前例の無い表示ばかりで皆、心配しているものと思う」
「しかし、彼が蟲毒の儀の覇者であることも、紛れもない事実」
ガボクの言葉に、ララの目付きが鋭くなる。
「そこで、神谷雄一には、職務命令を受けてもらう提案をする」
「一、黒龍アトラスと決闘し、内外にその雄姿を示すこと」
「二、メガロス王国北方、迷いの森。そこに生息し迷い人を襲っては喰らうピンクイービルの討伐とその地の平定である」
「この重い任を成し遂げた暁に、改めて階位を授けるものしたい」
これを聞いたララが殺気を放ち始め、『どういうことだ?』と言わんばかりにティアの方を睨み見る。ティアは目をつぶり、胸の前で両手を組み祈るようにしている。
「どうかね神谷雄一。この「職命」を受けるか?」
ティアは雄一に官房長官が「この職名を受けるか」の問いに「謹んでお受けいたします」と答えるように伝えてある。
『職命と職名では、意味が違う。どうか雄一のバカが台詞を忘れていますように。雄一のバカが、私の期待を裏切るほどの、飛び切りのバカでありますように!』
しかし、雄一は期待を裏切る男ではなかった。
「あ、覚えてるよ」
「つつしんで、お受けいたします」
自信満々で雄一は答えた。
「どあほ! ゆういちいいっ」
ティアは項垂れ崩れ、ララは小さく舌打ちをした。




