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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
27/169

#26 ステータスカード

 北方

 プロタゴニス皇国

 エフティフィアブノ王国

 オクトメディクス公国


 南方

 イリニペリアダ共和国

 マブロ・フイスイ王国

 アエトスホリオ共和国

 テンドロイエハラ公国

 オクトスロープ王国

 アンスロボスハシウド王国


 西方

 トゥートアリスモス連邦国

 ボルフォディーナ連邦国

 ガラクスィアス・ブリッジ


 東方

 アルヒネロミロス民主主義人民共和国


 メガロス王国に、世界各国から頭首、要人などが、集まった。

 広い講堂で、位階授与式が、予定通り進行している。


「コレ、即ち、世界全体のガバナンスを、メガロス王国が示すものであり……」


 今は、行政官局長が、誰も聞いていない挨拶をしている。


 各国要人の目は、世界を滅ぼしうる、厄災。それを打ち砕く、救世主の誕生に、注目している。

 その救世主が、華奢な少年。

 早速、始まった、雄一の値踏みで、会場は、ざわついていた。


「あんな、ちっぽけな少年が、六百人の戦士を打ち破り、生き残った、覇者だと言うのか」


「まるで、骨と皮のような体躯ではないか。これでは、騙されているとしか思えんぞ」


「見てみろ、両隣にいる従者も、ただの少女だ。へっ、六百の保育園児を打ち破った、の間違いではないのか」


「わはは、そいつぁいいや」


「まぁまぁ、まずは、ステータスカードを見てからの判断、で、よろしいではないですかな」


「うむ、誠そうじゃ。見た目で判断することは愚の骨頂」

「見てみろ、いつも、この国を、目の敵にして批判する、キュウキ王が、瞑目しておる」


「ああ、奴は昨日、救世主と、偶然、接触したらしいぞ」

「傲慢不遜なキュウキが、あの態度。きっと何か、あったに違いない。救世主に、誤った判断をすれば、場合によっては、国難となるぞ」


 そんな、キュウキは、誰とも言葉を交わさず、静かに目を閉じ、腕を組んで座っている。


『さて、小僧。貴様が只者で無いことは、よくよく分かった』

『言葉が稚拙でも、考えが幼稚でも、貴様は知っておるのだろ? 自分が、何者であるのかを』

『ふっ、小気味よい、子どもの皮を被った、バケモノめ』


 ようやくメガロス王国首脳陣の無駄話が終わり、いよいよステータスカードの置かれた台座が用意された。

 ステータス値は、会場の大スクリーンに映し出される。会場は、途端に静まり返った。


「これより、ステータスカードの付与を行う。左卿、ムーン・カオス。前へ」


 ムーンが前へ出て、台座に用意された針で指を刺す。

 ムーンは、ぷくりと出てきた血を、ステータスカードに付けた。その後、スクリーンに、能力の詳細数値が、映し出された。


 ムーン・カオス(16)

 グリーンカード

 天職:魔法武導家 LV36

 体力:25万

 力:37万

 俊敏:120万

 魔力:2万

 魔法耐性:3万


 皆が異口同音に騒ぐ。


「ほう、これは、なかなかの傑物のようだ」


「魔法武導家とは、珍しい」

「武道に長け、魔法の才覚も、兼ね備えていると言うことか」


 会場のざわめきが収まらない。


「ご静粛に願います。ムーン・カオス。ご苦労である、下がりなさい」

「次、右卿、ララ・イクソス。台座の前へ」


 ムーンは、飛び跳ねながら雄一の元へ駆け寄る。


「あお~ん、やりました、雄一様。私は、魔法の才能が眠っていたようです」


「すごいなぁ~、いいなぁ~。ぼくに、ちょうだい?」


「いいですけど、意味ないですよ?」


「そうなの?」


 ララが、台座の前に立つ。

 そして、ステータスカードに血を付けた瞬間、ララの指先が神々しく光を放つ。

 白いカードが、黄金色に輝き始め、カードを映し出すスクリーンが眩しく光った。


「出た! 金だ! あの少女は、ゴールドカードの逸材だぞ!」


「ムウ様、ありがとうございます。これで世界は救われる。メガロス王国万歳! ムウ様万歳!」


 メガロス王国側の要人たちが、発狂寸前だ。


 ララ・イクソス(14)

 ゴールドカード

 天職:魔導騎士  LV15

 体力:13万

 力:8万

 俊敏:6万

 魔力:132万

 魔法防御力:378万


「ちょっと待て、魔導騎士など、聞いたことがないぞ」


「LV15で、既に、このステータス値か。伸びしろを考えると、末恐ろしいわい」


「右卿で、ゴールドカード……」

「では、救世主となる、あの少年は、当然……」


 ララのステータス付与が終わり、雄一が呼ばれる。

 会場が静まり返る。

 台座の前に立った雄一が、手をぽんぽんと叩いている。


「魔法使い、で、お願いします」


 雄一は、針で指を刺し、出てきた血を、真っ白のステータスカードに、押し当てる。


 誰もが、虹色に輝くレインボーカードを想像し、天職名に、救世主の文字が刻まれる。そう信じていた。


 これまで瞑目していた、キュウキが、ゆっくりと、その目を開く。

 

「さて、小僧。俺を落胆させて、くれるなよ?」


 ピカッ!


「うおっ?」


 次の瞬間、雄一の指先から、真っ白い閃光が放たれた。

 一切の影を許さない激しい光に、会場中の誰もが、目をくらませる。


「くおおっ、眩しいっ、目がつぶれそうだっ。こ、これが、レインボーカードの威光かっ」


「ありがたや、ありがたや。これぞ、救世主の光」


 ギュオオオ……。


「うおおっ、今度は何だ? 何事だ」


 放たれていた、激しい閃光が、今度は逆に、ステータスカードへと、吸い込まれる。

 閃光が、全て吸収された、その一瞬、会場は、まるで一切の光を、失ったようだった。

 

 何事も無かったかのような会場。いや、雄一のステータスカードが変わっていた。


「お、お、お、あれは、一体」


「なんと、不吉な……」


 雄一のステータスカードは黒色だった。それは、まるで反射光沢がない、漆黒の闇。

 

 皆の背筋を、ザワリと、悪寒がなぞる。


 唸り声に包まれる中、ステータスカードに、白い文字が浮かび上がる。


 神谷雄一(10)

 ブラックカード

 天職:極め脳筋 LV50

 体力:1

 力:1

 俊敏:1

 魔力:0

 魔法防御力:0


 絶句。


 ティアが、椅子ごと、ひっくり返った。

 雄一は、ワクテクの表情をしている。


「ねぇねぇ、なんて書いてあるの? 魔法使い? 魔法使い、だよね?」


 天職名に、極め脳筋と記されたことも知らず。


 ティアは、ひっくり返ったまま、頭を、わしわしと搔き毟っている。


「あわわっ、うそでしょ、雄一。極め脳筋、はマズい、1、もマズい」


 ララは、笑いを、何とか堪えようと、脇腹を自ら抓って、ふるふる震えている。


「あんなに、成りたがっているのに、魔法の才能、ゼロ。うっふふふ、笑っちゃいけないけど、おもしろいわ。雄一君」


 ムーンは、胸を張り、誇らしげに、コクコクと頷いている。


「さすがは、雄一様。有り、無し、がハッキリしていて、いいと思います。わんわん」


 皆、驚愕のあまり、声が出ない。


「なんじゃこりゃー!!」


 そんな中、慟哭を挙げたのは、メガロス王国の司法長官、ナダルだった。


「極め脳筋ってなんだっ、どんな仕事だ! どんな能力だ!」

「バカか、バカなのか、筋肉バカなのか。」

「そのくせ、いちっ、てなんだっ、赤ん坊以下ではないかっ」

「死ぬの? 死にかけてるの? ほんでもって、魔力、魔法防御力がゼロってなんだ、ゼロって」

「これでは、これでは、史上最低の、ゴミクズではないか!」


 憤慨するナダルが、椅子と机をひっくり返す。

 他国の要人たちは、ひそひそと、今後の、国、としての対応を、話し始めている。


 しかし、その時だ、雄一の様子が、おかしくなった。

 両手で顔を覆い、ゆらゆら上下に揺れている。

 彼に、何が起きたのか、会場の全員が、再び静まり、雄一に注目する。


「へ~っくしょん」


「くしゃみかよ!!」


 くしゃみエチケットは万全だったが、誰もが鋭いツッコミを入れる。

 すると、引き続き、妙な現象が発生した。


 ♪ジャージャージャージャン♪


 音は、雄一のステータスカードから発せられた。

 レベルアップを知らせるメロディが、鳴ったのだ。


「なんでだよ!!」


「どこでだよ!!」


「なんの経験値を得たんだよ。まさか、くしゃみ、じゃねぇだろうな」


「んなわけねーだろ!!」


 あちこちで、ツッコミが舞い踊る。

 しかし、レベルアップによる、ステータス値、向上に期待が持てる。

 皆は、気持ちを切り替え、スクリーン上の、ステータスカードを凝視した。


 ブルブル……


 一の位の、ゼロが震え、回転するように下がり消えた。そして、上から数字1が出てきた。

 

 これで雄一は、LV51。


「終わりかよ!」


「レベル、の、根底を無視すな!」


 この異常事態に、慌てふためく、メガロス首脳陣。

 今後の、メガロスとの関係を、見直し始める各国要人たち。

 

 いよいよ事態の収拾が不可能な、そんな混沌とした空気を、大きな笑い声が、切り裂いた。


「がーっはっはっはっはっは!!」


 キュウキだ。キュウキの、わざとらしい笑い声に、皆、静まる。

 キュウキは立ち上がり、雄一を見据えると、これまた大声を張り上げる。


「神谷雄一、俺は、お前の本質を、見抜いたぞ。その名の通り、全く面白いやつよ」

「俺は決めたぞ。オクトスロープ王国は、お主、個人との同盟を望む」


「なっ? ちょっ、お待ちください! 何をおしゃられておるのですか、キュウキ王」

「我が国との同盟を、あれほど拒みながら、こんなカスと、同盟とは」


 ナダルは、歯茎を剝き出し、ギリギリと歯ぎしりを立てる。そんなナダルを、キュウキは、侮蔑の目で見る。


「カス、だと? 表面上の数値に踊らさる愚者が」


「ぐっ愚者ですとっ? 法の番人である私を……」


「ぶはは、前言を撤回し、訂正しよう。

「かしこい、かしこ~い司法長官ナダルよ。彼を、ゴミクズと断ずるなら、彼を、直ちに切り捨てるがよい」


「な、なんと言う屈辱……」


 ナダルは、顔を真っ赤にして、不自然な髪形が更に乱れた。

 キュウキは、視線をナダルから、雄一に移す。


「神谷雄一。そなたの、前代未聞のステータス、大儀である」

「心底恐れ入ったわ」

「我が国、オクトスロープは、そなたと、今後、良い関係を築いていくことを望む」


 キュウキは、そう叫ぶと、白い歯を出して笑い、踵を返す。一際大きなマントがバサリとなびく。


「俺は、ここで失礼する」

「神谷、さなたの訪問、楽しみに待っているぞ!」


 制止を呼びかける、ナダルの言葉に耳を貸さず、キュウキはそのまま、会場を後にした。

 雄一は、キュウキの背中を、笑顔で見送った。


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