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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
25/169

#24 昼食中

 最高級呉服店スクピドトポスより、歩くこと五分程。雄一たちは最高級レストランに到着した。

 世界中から集められる最高の食材でもてなされる国営レストラン。名はリストランテ・チェントロ。


 ティアが、支配人に、少し事情を伝えると顔色を変え厨房へ向かう。

 すると、間もなくテーブルは、豪華な食器に盛られた数々の料理で埋め尽くされた。


「救世主様。こちらは、シェラルダ鳥のフリカッセでございます。こちらは、チェルボ(若鹿)の香草……」


「いただきまーす」


 雄一は、シェフの話もそこそこに、ものすごい勢いで食べ始める。

 ララがシェフを気遣い、質問を始める。


「おいしーい。シェフこれは何ですか!?」


「あ、はい。これは、トゥルランエビのパイ包みでございます。七種ソースを……」


「これ、おかわり」


 雄一の、おかわりが割り込む。


「は、はい、救世主様。ムツカ三層ステーキ、ビガラードソース添えですね」


「これも、おかわり」


「えっ!? あ、はい。ガッビャーノ肉のスープですね」


「これ、あと三個おかわり」


「フンゴとベコラのムース添え、ですね」


「それから……」


 雄一の、おかわりラッシュが止まらない。慌てて厨房へ戻るシェフ。

 どの料理も、味はどれも雄一の舌を唸らせた。


「雄一。あんた、病み上がりには変わりないのだから、余り無理して食べないようにね」


「ふぁい。もぐもぐ」


「それから、ココの料理、高いんだから少しは遠慮してね」


「ふぁい。もぐもぐ」


 次々に運ばれる料理。次々に空になる皿。雄一の食いっぷりに目を細めるムーン。

 引き攣る紅と黒龍。平静な様子でティアとララは上品に食事を続ける。


 その様子を見ていた、別テーブルの男が席を立ち、雄一の方へ歩み寄ってきた。


 ぶちゅう。


 男は、ウロウロしていたシゲルを気付かず踏みつぶす。

 悪気はないようだがシゲルが足の下にいることに気付いてもらえない。と言うか誰も気付いていない。


 男の見た目は五十代と言ったところか。煌びやかな装飾のついた衣装に、分厚いマントをなびかせる。背丈は二m程。頭には牛の角を生やし、髪の毛一本一本は針のように尖っている。

 翼のように左右に広がる、威厳のある立派な髭を蓄えていた。


 その、気配に気づいた紅が、すっと立ち上がり、牛角と対峙する。


「失礼だがこれ以上は先に進むのはご遠慮願いたい」


 紅が、牛角に一言言うや否や、紅と男の更に間に、小さな黒い影が入り込む。


『うっ!? コイツ、いつの間に』


 全体がどす黒く、全身は細かい毛が覆い、目が8つある不気味な少年だ。

 

 黒龍アトラスもまた、慌てて紅の加勢にと、その小さな少年の前に立ちはだかる。

 テーブルを前に、四人がぎゅうぎゅう詰めだ。どう考えても、人、一人分(アトラス分)が余分だ。


「良い! 下がれシャドーアラフニ」


 牛角が、息苦しそうな表情で、そう言うと、不気味な少年は、まるで影か幽霊のように、すーっと後ろへ移動した。


「失礼したな。わしは、オクトスロープ王国、国王キュウキだ」

「明日の位階授与式に、わしも来賓として招待されておってな。先程到着し、こちらで昼食をとっておった」

「そのちらに見える、ご高名の、ティア・ディスケイニ卿に、一言、挨拶をと思うてな」


 キュウキの名を聞いて、ティアが、慌てて、場を取り持つ。


「こ、これは失礼いたしました、キュウキ陛下」

「無知な部下が、無礼な対応を取り、申し訳ございません。どうぞご容赦ください」


「うむ、互いに初対面のこと。気にする必要はない」

「それより、此度、世界の為に大義であったな。枢機卿」

「蟲毒の儀、覇者と言うのは、そちらの男の子かな?」


 メガロス王国とオクトスオープ王国は、遠くない過去において、幾度かの戦争状態を経験している。

 ティアは、デリケートな相手に、深々と頭を下げ、顔を歪める。


「同盟国でもない相手だと、答えが出ぬか。枢機卿」


「いいえ、そのようなことは」


「ぶはは。無理せんでもよい」

「まあ、些か不躾ではあるが、少し話をしても、よろしいかな? 全て、オフレコと言う形を、厳守する故」


「彼は、まだ、私たちの世界のことを知りません」

「何卒、お手柔らかに、お願いします」


 雄一との接触を、渋々了承するティア。

 キュウキは、ニヤリと笑みを零し、頷くと雄一の隣に立つ。

 食事に夢中だった雄一も、流石にキュウキの顔を見上げ、手を止める。


「ぶふっふっふ。良い良い食事は続けてくれ」

「しかし、まさか、世界を救う救世主が、こんな小さな少年とは予想だにせなんだな」


「ぼくは、神谷雄一です。あなたは、だあれ?」


「わしか? わしはキュウキだ。オクトスロープ王国の国王をしておる」

「このメガロス王国の、南に位置する国だ。隣接する国だが古来より戦争ばかりしておる」

「同盟も結んでおらん。今後も、結ぶつもりはない」

「状況次第では、いつでも侵略する用意がある。ぶあっはっはっ」


 キュウキの過激すぎる発言に、その場が一瞬に凍り付く。それでも、雄一は、顔色一つ変えない。


「あはは~、そうなんですね」


 雄一は、人ごとの様に、笑って答える。


「ん? 分からんか? 戦争は、お前次第で起こり得ると言うておるのだぞ?」

「技術提供? 貿易交流? 文化交流? そんなもの関係あるか!」

「お主の存在次第、出方次第、力次第が、決めると言うことだ」

「分からんか? その意味を、その自覚を聞いておるのだぞ? ぶはぶはは……」


 キュウキは静かに、それでも高圧的に見下ろしながら雄一に問う。

 雄一はキュウキの真意など理解することはできない。言われていることの殆どを理解などしていない。それでもキュウキの目をじっと見据えていた。


「ぼく、守りたいものの為に、戦うって、決めたから」


 雄一は、キュウキに目を合わせて、そう答えた。


『ふん! そうか、やはりコイツは、メガロスの道具、と言う訳だな』

『何が、世界の救世主だ。少しでも期待して、損したわ!』


 キュウキの目から、力が抜けた。急速に雄一に対する興味を失くしていくキュウキの目。

 未熟な少年の目を眺めながら、鼻で笑う。


「でも……」


「む? でも、なんだ。」


 キュウキは、蔑んだような目を雄一に向ける。


「ぼくが戦う時は、どうしても変わっていくぼくと、どうしても変わらないぼくの、本当に守りたいものを、守るために、戦うようにしたいと思う」

「ん? あれ? ぼく、変なこと言ってるね。ごめんなさい」


『なんだ? 一体、何を言ってる?』


 キョトンとする一同。

 キュウキもまた雄一が口から出した言葉の意味を理解できなかった。


「小僧、もう一度、わしの目を見ろ。もう一度……」


 キュウキは、ごくりと生唾を飲む。

 雄一と目を合わした途端、キュウキの脳裏に、強い光が差し込む。


『ぶおおっ! こっこれは、黒い大木の密林!? いや、此処は……』

『ぶはは、そうか。これが、天に愛された者の器か……』


 ニヤリと笑みを零すと、キュウキは瞑目し、突如笑い出した。


「ぶはは、よくは、わからんが、よぉくわかった」

「明日の位階授与式が楽しみになった」

「期待を裏切るなよ? 雄一君?」


「あはは~、その髭、ホンモノ?」


「さて、わしはそろそろ店を出るとしよう。おっと、また、我が国オクトスロープに立ち寄ることがあれば遠慮せずに会いに来てくれ」


「はーい。ありがとうございます。おすとすおーぷの王様」


 ようやく、周囲の空気が緩んだ。

 雄一の国名を間違えて言っていることなど問題に感じない程に。


 握手を求められた雄一は、キュウキの右手を握り返す。

 握手と言っても、雄一の手がすっぽりと覆われるような感じだが、両者和やかな雰囲気で握手を交わした。

 その刹那、キュウキの目がギラリと光る。キュウキは右手に力を込めた。雄一の右手を、握り潰す勢いで。


「……」


「あはは~」


「……くっ」


「あはは~」


 キュウキの額に汗が滲む。

 しかし、いくら力を込めても、雄一の表情は何一つ変わらない。全力で力を込めるが、首を傾けニコニコしているだけだ。


『ば、ばかな。もはや限界だぞ! 一体、どうなっているんだ、このガキ』

『いや、やはり、コレが此奴の持つ力か……』

『猫の皮を被った、バ、バケモノめ……』


 なかなか、手を放そうとしないキュウキに、周囲も変に思った頃だった。

 雄一も、その長さと力強さに違和感を覚えていた。そして、ついに気が付いた。

 これは、キュウキが「力比べをしよう」と、言っているのだと。


「あーそっかぁ、わかったー!」


 雄一は、その小さな指で、キュウキの掌をザワリとまさぐった。

 その瞬間、キュウキは途轍もない殺気に襲われた。


『ひいいっ!』


 背筋に氷柱が刺さるような感覚。キュウキは、本能的な反射で雄一から手を離した。


「はぁ、はぁ、んっん。あ、明日の位階授与、楽しみにしておるぞ」


 精一杯、冷静を装うキュウキは、そう言うと踵を返し、足早に店を出た。


『潰される……危うく、潰されるところだった』


「またね、きゅーきの王様」


静かにスープを飲んでいたララが、ナプキンで口を拭く。


「うふふ、なかなか面白い勝負だったわね」


「えっ? 何のこと? ララ」


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